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焼くべき「回路」はどこにある?―洞性頻脈にアブレーションが効かない理由

第112回医師国家試験 C問題 第13問

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第112回 C問題 第13問

疾患と用いられる治療との組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.洞性頻脈 ―― カテーテルアブレーション
  2. b.急性冠症候群 ―― 経皮的冠動脈インターベンション
  3. c.頸動脈狭窄症 ―― ステント留置術
  4. d.腹部大動脈瘤 ―― ステントグラフト留置術
  5. e.閉塞性動脈硬化症 ―― ステント留置術

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、循環器疾患とカテーテルを使った低侵襲治療の組合せを問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式だから、それぞれの治療が「何を標的にしているのか」を考えると見通しがよくなる。血管が狭いのか、膨らんでいるのか、電気の異常回路があるのか、という視点で整理してみよう。
医学生医学生
並んでいる治療はどれも臨床実習で見たことがある気がして、全部正しく見えてしまいます。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だよ。まず血管の治療から確認しよう。急性冠症候群と経皮的冠動脈インターベンションの組合せはどうかな。
医学生医学生
循環器内科の実習で、STEMIの患者さんが運ばれてきてすぐにカテ室に入ったのを見ました。これは正しいと思います。
ドクタードクター
その通り。急性冠症候群はプラークの破綻部に血栓ができて冠動脈が急に詰まる病態で、再開通が早いほど救える心筋が増える。だから血栓吸引やバルーン拡張、ステント留置による再灌流が治療の中心で、STEMIでは病院到着から90分以内を目標にprimary PCIを行うんだ。
医学生医学生
頸動脈狭窄症のステント留置も、脳梗塞予防のための治療でしたよね。
ドクタードクター
そう。頸動脈狭窄症では、狭窄部のプラークや血栓が飛んで脳梗塞やTIAを起こす。高度狭窄や症候性の例では、外科的にプラークを取る頸動脈内膜剝離術か、カテーテルによる頸動脈ステント留置術を検討する。心疾患の合併や頸部の放射線治療後など、手術リスクが高い人ではステントが選ばれやすいね。
医学生医学生
腹部大動脈瘤は狭いのではなく膨らんでいる病気なので、ステントグラフトで内側から蓋をするイメージでしょうか。
ドクタードクター
いい表現だ。大腿動脈から入れたステントグラフトを瘤の内側に置いて、瘤への血流を遮断するのがEVARだ。開腹しなくて済む一方、瘤の形によって適応が限られるし、術後に瘤内へ血流が残るエンドリークがないか画像で追い続ける必要がある。治療を考える目安は一般に最大短径5〜5.5cm以上や急速な拡大だよ。
医学生医学生
閉塞性動脈硬化症も、間欠性跛行の患者さんに下肢の血管内治療をしているのを見学しました。
ドクタードクター
正しい組合せだね。禁煙・運動療法・抗血小板薬が基本で、症状が強い例や重症下肢虚血では血行再建を行う。腸骨動脈のような太くて短い病変は血管内治療の成績がよく、病変の部位や長さ、患者背景によってバイパス術と使い分ける。
医学生医学生
そうすると残るのは洞性頻脈とアブレーションですね。でも、頻脈ならアブレーションで治せそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこが落とし穴だ。アブレーションは、WPW症候群の副伝導路や房室結節リエントリーの回路、心房細動での肺静脈など、異常な興奮の発生源や回路を焼き切る治療だ。ところが洞性頻脈は、正常なペースメーカーである洞結節が、体からの要求に応えて速く打っているだけ。焼くべき異常な標的がそもそも存在しないんだ。だからこの組合せが誤りで、これが正解になる。
医学生医学生
生理学の講義で、交感神経刺激で洞結節の自動能が上がると習いました。洞性頻脈は体の反応の結果ということですね。
ドクタードクター
その理解で合っている。原因は発熱・感染症、貧血、脱水や出血、低酸素、疼痛や不安、甲状腺機能亢進症、心不全、褐色細胞腫、カフェインや薬剤などさまざまだ。心電図では、II誘導で陽性の正常なP波が各QRSの前にあって、心拍数だけが速い。治療の基本は原因を探して取り除くことだよ。
医学生医学生
原因が分からないまま、とりあえずβ遮断薬で脈を下げるのはまずいですか。
ドクタードクター
大事な疑問だね。出血性ショックの頻脈のように、心拍数を上げて心拍出量を保っている代償反応のこともある。原因を考えずに脈だけ下げると、その代償を奪って状態を悪化させかねない。救急外来で「頻脈=下げる」と短絡しないことが臨床ではとても大切なんだ。
医学生医学生
治療を覚えるときは、病態として何が起きているのか、どこを治すのかまで考えるのが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。器具の進歩でカテーテル治療の適応は広がっているけれど、すべてが外科手術に置き換わるわけではない。病変の形や患者背景、長期成績をふまえて外科治療と血管内治療を選び分ける、という視点も持っておこう。

まとめ

カテーテルを用いたインターベンション治療は、治療の標的となる構造的・電気的な異常があってはじめて成り立ちます。急性冠症候群にはPCI、頸動脈狭窄症にはステント留置術(または内膜剝離術)、腹部大動脈瘤にはステントグラフト内挿術(または人工血管置換術)、閉塞性動脈硬化症にはステント留置などの血管内治療(またはバイパス術)が用いられます。一方、洞性頻脈は発熱・貧血・脱水・甲状腺機能亢進症などに対する洞結節の生理的反応であり、焼灼すべき異常回路がないためカテーテルアブレーションの標準的な適応ではなく、原因の検索と是正が治療の基本です。アブレーションの対象はWPW症候群や房室結節リエントリー性頻拍、心房粗動・心房細動など異常な回路や発生源をもつ不整脈であると押さえましょう。「何を標的に治療するのか」という視点は、治療法の適応を理解し、頻脈を安易に抑えない臨床判断にもつながります。

解答・解説

正解はaです

本問は、循環器・血管領域の疾患と、カテーテルを用いた低侵襲治療(インターベンション治療、IVR:interventional radiology を含む)との対応を問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、標準的に行われない治療を組み合わせた選択肢を一つ選ぶ。

考え方

カテーテル治療が成り立つには、治療の標的となる「構造的な異常」が存在する必要がある。 ・血管の狭窄・閉塞(冠動脈、頸動脈、下肢動脈など)→ バルーンで拡げ、ステントで内腔を保つ。 ・血管の拡張(大動脈瘤)→ ステントグラフトを内側から当てて瘤内への血流を遮断する。 ・不整脈の発生源や異常な電気回路(副伝導路、リエントリー回路など)→ カテーテルアブレーション(高周波などで心筋を焼灼する治療)で断ち切る。 これに対し洞性頻脈は、正常なペースメーカーである洞結節が、発熱・貧血・脱水・疼痛・甲状腺機能亢進症などの刺激に反応して生理的に速く興奮している状態である。洞結節自体や刺激伝導系に異常回路があるわけではないため、焼灼すべき標的がなく、治療の主体は原因の検索と是正となる。したがって a の組合せが誤りである。

選択肢考察

  1. ○a.  洞性頻脈 ―― カテーテルアブレーション

    誤った組合せであり、これが正解である。洞性頻脈(洞調律のまま心拍数が100/分を超える状態)は、多くの場合、心臓外の要因に対する生理的・代償的な反応である。代表的な原因として発熱・感染症、貧血、脱水・出血による循環血液量減少、疼痛や不安、甲状腺機能亢進症、心不全、カフェインや交感神経刺激薬などの薬剤がある。治療はこれらの原因を見つけて取り除くことであり、心拍数そのものを抑える目的で不整脈に対する治療を行う必要は通常ない。カテーテルアブレーションは、WPW症候群の副伝導路、房室結節リエントリー性頻拍、心房粗動、心房細動(肺静脈隔離術)など、異常な興奮発生部位や回路が存在する頻脈性不整脈に対して行う治療であり、洞性頻脈の標準治療ではない。

  2. ×b.  急性冠症候群 ―― 経皮的冠動脈インターベンション

    正しい組合せである。急性冠症候群(ACS:急性心筋梗塞・不安定狭心症の総称)は、冠動脈のプラーク(粥腫)が破綻・びらんを起こし、その上に血栓が形成されて冠動脈が急速に高度狭窄・閉塞する病態である。閉塞した血管を早期に再開通させるほど救える心筋が多くなるため、経皮的冠動脈インターベンション(PCI:カテーテルを用いて血栓吸引、バルーン拡張、ステント留置などを行う治療)による再灌流療法が治療の中心となる。特にST上昇型心筋梗塞では、病院到着からできるだけ短時間(目標90分以内)でのprimary PCIが推奨される。

  3. ×c.  頸動脈狭窄症 ―― ステント留置術

    正しい組合せである。頸動脈狭窄症は主に動脈硬化によって内頸動脈起始部付近が狭くなる疾患で、狭窄部のプラークや血栓が剝がれて脳へ飛ぶことで脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)の原因となる。高度狭窄例や症候性狭窄例では、抗血小板薬などの内科治療に加えて血行再建術を検討する。血行再建術には、外科的に頸動脈を切開してプラークを取り除く頸動脈内膜剝離術(CEA)と、カテーテルを用いた頸動脈ステント留置術(CAS)がある。CASは、全身麻酔や頸部切開のリスクが高い症例(心疾患合併、頸部への放射線治療後、再狭窄例など)で特に選択されやすい。

  4. ×d.  腹部大動脈瘤 ―― ステントグラフト留置術

    正しい組合せである。腹部大動脈瘤は破裂すると致死率が非常に高いため、一般に最大短径が5〜5.5cm以上、または急速に拡大する瘤では侵襲的治療が考慮される。治療法には、開腹して瘤を人工血管で置き換える人工血管置換術と、大腿動脈などから挿入したステントグラフトを瘤の内側に留置して瘤内への血流を遮断するステントグラフト内挿術(EVAR:endovascular aneurysm repair)がある。EVARは開腹不要で低侵襲だが、瘤の形態(中枢側のネック長や角度など)により適応が限られ、術後にエンドリーク(瘤内への血流の残存)の有無を画像で定期的に確認する必要がある。

  5. ×e.  閉塞性動脈硬化症 ―― ステント留置術

    正しい組合せである。閉塞性動脈硬化症(ASO、近年は末梢動脈疾患〈PAD〉と呼ばれることが多い)は、主に下肢の動脈が動脈硬化で狭窄・閉塞し、間欠性跛行や安静時疼痛、潰瘍・壊疽を生じる疾患である。治療は禁煙・運動療法・抗血小板薬などが基本で、症状が強い例や重症下肢虚血では血行再建を行う。血行再建には、バルーンによる血管拡張術やステント留置術などの血管内治療(EVT)と、バイパス術や血栓内膜摘除術などの外科手術がある。腸骨動脈など比較的太く短い病変では血管内治療が良い成績を示し、病変の部位・長さ・患者背景によって両者を使い分ける。

主なインターベンション治療と対象疾患

・経皮的冠動脈インターベンション(PCI):急性冠症候群、安定狭心症などの冠動脈狭窄・閉塞 ・頸動脈ステント留置術(CAS):頸動脈狭窄症(外科的治療は頸動脈内膜剝離術〈CEA〉) ・ステントグラフト内挿術:腹部大動脈瘤(EVAR)、胸部大動脈瘤・一部の大動脈解離(TEVAR) ・血管内治療(EVT:バルーン拡張、ステント留置):閉塞性動脈硬化症などの末梢動脈疾患、腎動脈狭窄など ・カテーテルアブレーション:WPW症候群、房室結節リエントリー性頻拍、心房粗動、心房細動、一部の心室頻拍など ・その他のIVR:肝細胞癌に対する肝動脈化学塞栓療法(TACE)、外傷性出血・消化管出血に対する動脈塞栓術、脳動脈瘤に対するコイル塞栓術など

洞性頻脈の主な原因

発熱・感染症、貧血、脱水・出血、低酸素血症、疼痛・不安、甲状腺機能亢進症、心不全、褐色細胞腫、カフェイン・アルコール、β刺激薬やアトロピンなどの薬剤。 心電図では、各QRS波の前にⅠ・Ⅱ・aVFで陽性、aVRで陰性の正常なP波を認め、心拍数のみが増加している。治療は原因の是正であり、原因が明らかでないまま心拍数だけを下げると、代償機構を損ない病態を悪化させるおそれがある(例:出血性ショックでの頻脈)。

インターベンション治療の位置づけ

器具や技術の進歩によってカテーテル治療の適応は広がっているが、すべての症例で外科手術に置き換えられるわけではない。病変の部位・形態、患者の年齢や合併症、長期成績などを踏まえて、症例ごとに外科治療と血管内治療を選択する。

POINT

・洞性頻脈は二次的・生理的な反応であり、原因(発熱、貧血、脱水、甲状腺機能亢進症など)の治療が基本。カテーテルアブレーションの適応ではない。 ・アブレーションの対象は、副伝導路やリエントリー回路などの「異常な電気的標的」をもつ頻脈性不整脈。 ・急性冠症候群→PCI、頸動脈狭窄症→CAS(またはCEA)、腹部大動脈瘤→EVAR(または人工血管置換術)、閉塞性動脈硬化症→EVT(またはバイパス術)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。