「捕まえる」のか「ふさぐ」のか―目的で読み解くIVRの組合せ
第107回医師国家試験 E問題 第26問
国試問題にチャレンジ
疾患と適応となるインターベンショナルラジオロジー〈IVR〉の組合せで誤っているのはどれか。
- a.上顎癌 ―― 動注化学療法
- b.大動脈瘤 ―― ステントグラフト内挿術
- c.肺動静脈瘻 ―― フィルター留置術
- d.肝細胞癌 ―― 動脈化学塞栓療法
- e.腎血管性高血圧症 ―― 経皮血管形成術〈PTA〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
IVRは画像ガイド下にカテーテルや針で行う低侵襲治療で、血管系の手技は「注入(動注化学療法)」「塞栓(TACEや止血・短絡閉鎖)」「拡張(PTA)」「遮断(ステントグラフト)」「捕捉(下大静脈フィルター)」と目的別に整理できます。上顎癌への動注化学療法、大動脈瘤へのステントグラフト内挿術、肝細胞癌への動脈化学塞栓療法、腎血管性高血圧症へのPTAはいずれも病態と目的が一致した正しい組合せです。一方、肺動静脈瘻は肺動脈と肺静脈の異常短絡であり、治療はコイルやバスキュラープラグによる経カテーテル塞栓術で、深部静脈血栓症からの肺塞栓予防に用いる下大静脈フィルターは適応になりません。肺動静脈瘻は遺伝性出血性毛細血管拡張症に多く合併し、奇異性塞栓による脳梗塞や脳膿瘍の原因となる点も臨床上重要です。手技の名称ではなく「病態と手技の目的の対応」で理解することが、IVRの問題を確実に解き、実際の治療選択を理解する近道になります。
解答・解説
正解はcです
インターベンショナルラジオロジー(interventional radiology:IVR)とは、X線透視・CT・超音波などの画像で体内を見ながら、カテーテルや穿刺針を用いて行う低侵襲の治療手技の総称である。外科手術に比べて切開が小さく、身体への負担が少ないのが特長である。 IVRは大きく血管系と非血管系に分けられる。血管系IVRの代表的な手技は次のとおりである。 ・動注化学療法:腫瘍の栄養動脈に抗癌薬を直接注入する。 ・塞栓術:血管をコイル・ゼラチンスポンジ・塞栓物質などで詰める(動脈化学塞栓療法、止血目的の塞栓、動静脈瘻の塞栓など)。 ・血管形成術(PTA):狭窄した血管をバルーンで拡張し、必要に応じてステントを留置する。 ・ステントグラフト内挿術:人工血管付きステントで瘤を血流から遮断する。 ・下大静脈フィルター留置術:下肢や骨盤の静脈から流れてくる血栓を捕捉する。 本問は、各疾患の病態(何を治したいのか)と手技の目的が一致しているかを考える。肺動静脈瘻の治療目的は異常な短絡路をふさぐことであり、そのための手技は塞栓術である。血栓を捕捉するフィルターは目的が合わない。
選択肢考察
- ×a. 上顎癌 ―― 動注化学療法
正しい組合せである。上顎癌(上顎洞癌)では、浅側頭動脈や大腿動脈からカテーテルを挿入し、顎動脈など腫瘍の栄養動脈に抗癌薬(シスプラチンなど)を選択的に注入する動注化学療法が行われる。腫瘍局所に高濃度の薬剤を到達させられるのが利点である。放射線療法・手術と組み合わせた三者併用療法が伝統的に行われてきたほか、超選択的動注化学療法と放射線療法の併用により、顔面の形態や機能を温存しながら根治を目指す治療も行われている。
- ×b. 大動脈瘤 ―― ステントグラフト内挿術
正しい組合せである。ステントグラフトは、金属製のステント骨格に人工血管の布を被せた器具である。大腿動脈などから挿入して瘤の部分に留置すると、血流がグラフトの中を通り、瘤の壁に圧がかからなくなる。これにより瘤の拡大と破裂を予防する。腹部大動脈瘤に対するものはEVAR(endovascular aneurysm repair)、胸部大動脈瘤に対するものはTEVARとよばれる。開胸・開腹を要しないため、高齢者や手術リスクの高い患者で特に有用である。術後にエンドリーク(瘤内への血流の残存)がないか、画像で経過をみる必要がある。
- ○c. 肺動静脈瘻 ―― フィルター留置術
誤った組合せであり、これが正解である。肺動静脈瘻は、肺動脈と肺静脈が毛細血管を介さずに直接つながる異常な短絡路である。治療の目的はこの短絡をふさぐことであり、カテーテルを流入動脈(肺動脈側)まで進め、金属コイルやバスキュラープラグで塞栓する経カテーテル塞栓術が第一選択である。一方、フィルター留置術(下大静脈フィルター)は、深部静脈血栓症(DVT)の患者で、抗凝固療法が行えない場合や抗凝固療法中に肺血栓塞栓症を生じた場合などに、下肢から流れてくる血栓を捕捉して肺血栓塞栓症を防ぐためのものである。肺動静脈瘻の短絡自体を治療する手技ではない。
- ×d. 肝細胞癌 ―― 動脈化学塞栓療法
正しい組合せである。肝臓は肝動脈と門脈の二重の血流支配を受けるが、肝細胞癌(特に古典的な多血性の腫瘍)は主に肝動脈から栄養を受ける。この性質を利用し、腫瘍の栄養動脈に抗癌薬とリピオドール(油性造影剤)の混合液を注入したのち、ゼラチンスポンジなどで塞栓するのが肝動脈化学塞栓療法(TACE)である。腫瘍は血流を断たれて壊死に陥る一方、正常肝は門脈血流で保たれる。主な適応は、切除やラジオ波焼灼療法の適応とならない多発性肝細胞癌で、肝予備能が比較的保たれている(Child-Pugh分類A〜B)症例である。門脈本幹に腫瘍栓がある場合は、肝不全を招くおそれがあるため原則として適応外である。
- ×e. 腎血管性高血圧症 ―― 経皮血管形成術〈PTA〉
正しい組合せである。腎血管性高血圧症は、腎動脈の狭窄によって腎血流が減少し、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化されて生じる二次性高血圧である。バルーンカテーテルで狭窄部を拡張する経皮的腎動脈形成術(PTRA)は代表的な治療の一つである。線維筋性異形成(若年女性に多い)による狭窄ではバルーン拡張の効果が高く、治療の第一選択とされる。粥状動脈硬化による狭窄(中高年に多い)ではステント留置を併用することが多いが、降圧薬などの薬物療法との比較で明らかな上乗せ効果が示されなかった臨床試験もあり、血圧管理が困難な場合、腎機能が悪化していく場合、反復する心不全・肺水腫を伴う場合などに適応が検討される。
肺動静脈瘻
・肺動脈と肺静脈が毛細血管を介さずに直接交通する。約半数以上に遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler-Weber-Rendu病)を合併する。 ・右→左シャントとなるため、低酸素血症、チアノーゼ、ばち指、多血症をきたしうる。 ・静脈系の血栓や細菌が肺の毛細血管で濾過されずに体循環へ入るため、奇異性塞栓による脳梗塞や脳膿瘍を起こしうる。 ・瘻の破裂により喀血や血胸を起こすことがある。 ・治療は経カテーテル塞栓術(コイル、バスキュラープラグ)が第一選択で、流入動脈径がおおむね3mm以上のものが治療対象の目安とされてきた。塞栓術が困難な場合は肺切除を考慮する。
下大静脈フィルターの適応
・DVTがあり、抗凝固療法が禁忌または出血などで継続できない場合。 ・十分な抗凝固療法中にもかかわらず肺血栓塞栓症が再発した場合。 近年は、必要な期間を過ぎたら抜去できる回収可能型フィルターが多く用いられる。長期留置では、フィルター部の血栓閉塞や下肢DVTの増加が問題となる。
主な血管系IVRと代表的な対象疾患
・動注化学療法:頭頸部癌(上顎癌など)、肝細胞癌、膀胱癌など ・TACE:肝細胞癌 ・塞栓術(止血・短絡閉鎖):喀血(気管支動脈塞栓術)、消化管出血、外傷性出血、産科出血、肺動静脈瘻、脳動脈瘤(コイル塞栓術) ・PTA/ステント:腎動脈狭窄、閉塞性動脈硬化症、透析シャント狭窄 ・ステントグラフト:胸部・腹部大動脈瘤、大動脈解離 ・下大静脈フィルター:DVTに伴う肺血栓塞栓症の予防 ・経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)、バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO):門脈圧亢進症(難治性腹水、胃静脈瘤)
POINT
・肺動静脈瘻の治療はコイルなどによる経カテーテル塞栓術である。 ・下大静脈フィルターはDVTからの肺血栓塞栓症を予防するための手技である。 ・肝細胞癌にはTACE、大動脈瘤にはステントグラフト内挿術(EVAR/TEVAR)、腎血管性高血圧症にはPTA、上顎癌には動注化学療法が行われる。 ・IVRでは「疾患の病態」と「手技の目的(注入・塞栓・拡張・遮断・捕捉)」を対応させて理解する。
