血管の内側から治す―動脈塞栓術が効くのは「多血性腫瘍」と「動脈性出血」
第108回医師国家試験 G問題 第38問
国試問題にチャレンジ
動脈塞栓術の適応となるのはどれか。2つ選べ。
- a.肝両葉に散在する多発肝細胞癌
- b.切除困難な膵嚢胞腺癌
- c.穿孔を伴う小腸損傷
- d.内視鏡的止血困難な下部消化管出血
- e.腹膜播種を伴う卵巣癌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
動脈塞栓術はカテーテルで標的の動脈を塞栓する低侵襲治療で、主な適応は「多血性腫瘍」と「動脈性出血」です。肝細胞癌は肝動脈から主に栄養され正常肝は門脈血流で保たれるため、多発例ではTACEが標準治療の一つとなり、内視鏡で止血できない下部消化管出血も血管造影下の超選択的塞栓の良い適応です。一方、腸管穿孔は手術が必要で、乏血性の膵嚢胞腺癌や特定の栄養血管をもたない腹膜播種は塞栓の対象になりません。外傷性の実質臓器損傷や骨盤骨折、喀血、産後出血、子宮筋腫など適応は幅広い反面、塞栓後症候群や誤塞栓、門脈腫瘍栓例での肝梗塞などの合併症にも注意が必要です。「血流を止めることで何が解決するか」という視点で病態を考えることが、IVRの適応判断と多職種での治療選択の土台になります。
解答・解説
正解はa, dです
動脈塞栓術とは
動脈塞栓術(TAE:transcatheter arterial embolization)は、大腿動脈などから挿入したカテーテルを血管造影で確認しながら目的の動脈まで進め、ゼラチンスポンジ、金属コイル、液体塞栓物質(NBCAなど)、球状塞栓物質などで血流を遮断する治療である。画像誘導下に行う低侵襲治療(IVR:interventional radiology)の代表で、開腹を要さずに治療できる。
適応の考え方
動脈塞栓術が有効なのは、大きく分けて次の2つの状況である。 (1)腫瘍の治療:腫瘍が動脈から豊富な血流を受けており(多血性)、その栄養動脈を選択的に塞栓することで腫瘍を壊死させられる場合。代表は肝細胞癌である。 (2)出血の止血:出血源となる動脈を造影で同定し、その血管を塞栓して止血できる場合。消化管出血、外傷性の肝・脾・腎損傷や骨盤骨折の出血、喀血などが対象となる。 逆に、腫瘍が乏血性である場合、病変が腹腔内に広く散らばり栄養血管を特定できない場合、あるいは穿孔のように血流遮断では解決しない病態は適応にならない。この観点で各選択肢を検討すると、多発肝細胞癌と内視鏡で止血できない下部消化管出血が適応となる。
選択肢考察
- ○a. 肝両葉に散在する多発肝細胞癌
正常肝組織は門脈から約70〜80%の血流を受けるのに対し、進行した肝細胞癌はほぼ肝動脈のみから栄養される多血性腫瘍である。そのため肝動脈を塞栓すると、正常肝は門脈血流で保たれつつ腫瘍を選択的に壊死させられる。両葉に多発する肝細胞癌は切除やラジオ波焼灼では対応しきれないことが多く、肝機能が比較的保たれている(Child-Pugh分類AまたはB)症例では、抗癌剤とリピオドール(油性造影剤)を混ぜて注入したのちに塞栓する肝動脈化学塞栓療法(TACE)が標準治療の一つである。なお腫瘍数が多く肝内に広範に進展した例などでは、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬による薬物療法も選択肢となる。
- ×b. 切除困難な膵嚢胞腺癌
膵の嚢胞性腫瘍が悪性化した嚢胞腺癌(粘液性嚢胞腺癌など)は、通常の膵癌と同様に基本的に乏血性であり、塞栓で腫瘍を壊死させる効果は期待できない。また膵は複数の動脈(胃十二指腸動脈、上下膵十二指腸動脈、脾動脈の分枝など)から血流を受けるため、腫瘍の栄養血管を選択的に閉塞することも難しい。切除困難例では全身化学療法などが検討される。
- ×c. 穿孔を伴う小腸損傷
腸管穿孔では消化管内容物が腹腔内に漏れて腹膜炎を起こすため、開腹(あるいは腹腔鏡)による穿孔部の縫合や腸管切除、腹腔内洗浄が必要である。動脈を塞栓しても穿孔は閉じず、むしろ腸管の虚血を悪化させる危険がある。腹部外傷でも、肝・脾・腎などの実質臓器からの出血は塞栓術の良い適応となるが、管腔臓器の損傷は手術適応である。
- ○d. 内視鏡的止血困難な下部消化管出血
下部消化管出血(大腸憩室出血など)では、まず内視鏡での止血を試みるが、出血部位が同定できない場合や止血できない場合には、造影CTで出血部位を確認したうえで血管造影を行い、造影剤の血管外漏出を認める動脈を超選択的に塞栓して止血する。手術(腸切除)に比べ低侵襲であり、全身状態の悪い患者にも行いやすい。ただし腸管は側副血行が乏しい部位があるため、塞栓後の腸管虚血に注意が必要で、できるだけ末梢で塞栓する。
- ×e. 腹膜播種を伴う卵巣癌
腹膜播種は腫瘍細胞が腹膜全体に散らばって無数の小病変を形成した状態であり、特定の栄養動脈が存在しないため塞栓術で治療することはできない。進行卵巣癌では、可能な限り腫瘍を取り除く腫瘍減量手術と、白金製剤とタキサン系薬剤を中心とした化学療法の組合せが治療の基本である。
動脈塞栓術の主な適応
・腫瘍:肝細胞癌(TACE)、腎細胞癌の術前塞栓、子宮筋腫(子宮動脈塞栓術)、腎血管筋脂肪腫、多血性の骨転移の術前塞栓など。 ・出血:消化管出血(内視鏡止血困難例)、外傷性の肝・脾・腎損傷、骨盤骨折に伴う出血、喀血(気管支動脈塞栓術)、産後出血、動脈瘤・仮性動脈瘤など。 ・その他:脳動静脈奇形や肺動静脈瘻、脾機能亢進症に対する部分的脾動脈塞栓術など。
肝細胞癌治療の選択(概略)
肝機能(Child-Pugh分類)、腫瘍数、腫瘍径、脈管侵襲、肝外転移の有無で決定する。肝機能が保たれ腫瘍数が少なければ切除やラジオ波焼灼が、腫瘍数が多い場合はTACEが、脈管侵襲や肝外転移があれば薬物療法が主に選択される。高度の肝機能障害例では肝移植や緩和ケアが検討される。門脈本幹の腫瘍栓がある場合は、TACEで肝梗塞を起こすおそれがあり原則として慎重に判断する。
塞栓術の主な合併症
塞栓後症候群(発熱・疼痛・悪心)、標的外の臓器への塞栓(誤塞栓)による虚血、造影剤アレルギーや造影剤腎症、穿刺部の血腫などがある。
POINT
・動脈塞栓術の適応は「多血性腫瘍」と「動脈性出血」。 ・肝細胞癌は肝動脈から栄養されるためTACEが有効で、多発例の標準治療の一つ。 ・内視鏡で止血できない消化管出血は、血管造影下の塞栓術の適応。 ・穿孔は手術、腹膜播種や乏血性腫瘍は塞栓の対象にならない。
