StudyMed医師国家試験

「家に帰ってから」が勝負―誤嚥性肺炎の再発を防ぐ退院支援は台所から始まる

第112回医師国家試験 B問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第112回 B問題 第26問

86歳の男性。誤嚥性肺炎〉のために1週間入院し,経過は順調である。入院前から高血圧症で薬物療法を受けているが,それ以外の基礎疾患はない。認知機能は問題ない。日常生活動作は介助を必要としないが,筋力低下によって歩行が不安定で屋外は見守りが必要である。入院中はきざみ食にとろみをつけて提供し,嚥下訓練を施している。要介護度は要支援2である。82歳の妻と2人暮らしだが,息子夫婦が隣接する市に住んでおり入院前から週に2,3回は様子を見に通っていた。  自宅への退院にあたり必要なのはどれか。

  1. a.胃瘻の造設
  2. b.家族への調理指導
  3. c.家族への排泄介助の指導
  4. d.訪問入浴介護サービスの手配
  5. e.訪問診療による末梢静脈栄養療法

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、誤嚥性肺炎で入院した高齢者を自宅に帰すときに何を準備すべきか、という退院支援の問題だ。ポイントは「入院中に続けていたケアのうち、家でも続けなければならないものは何か」と「本人が自分でできることは何か」の2つを見極めること。まずは患者さんの状態を整理してみよう。
医学生医学生
86歳と高齢で、歩行も不安定なので、退院後はかなり手厚い介護が必要な印象です。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だね。でも、もう一度よく読むと、認知機能は保たれていて、日常生活動作は介助なしでできている。歩行の不安定さで屋外に見守りが要るだけで、食事も排泄も入浴も自分でできる人なんだ。要支援2という区分も、要介護ではなく「介護予防」の段階だよ。
医学生医学生
確かに、思ったより自立度は高いですね。では、一番の課題はどこにあるんでしょうか。
ドクタードクター
入院の原因を思い出してほしい。誤嚥性肺炎だったね。入院中はきざみ食にとろみを付けて提供し、嚥下訓練も続けている。つまり嚥下機能の低下が残っていて、食形態の工夫がないと安全に食べられない状態なんだ。
医学生医学生
誤嚥性肺炎は再発しやすいと呼吸器内科の実習で聞きました。家で普通の食事に戻ったら、また誤嚥してしまいそうです。
ドクタードクター
まさにそこが核心。病院では栄養科がとろみの濃さや食材の軟らかさを調整してくれていたけれど、家では誰かがそれを再現しなければならない。だから、調理を担う家族への調理指導が正解になる。高齢の妻や、通ってくる息子夫婦に、管理栄養士や言語聴覚士と連携して具体的なやり方を伝えるんだ。
医学生医学生
具体的には、どんなことを教えるんですか。
ドクタードクター
食材の切り方や軟らかさ、とろみ調整食品の使い方と濃度、むせやすい食品の避け方などだね。水分や、パサつくもの、口の中でばらけるものは誤嚥しやすい。実はきざみ食はそれだけだと口の中でばらけやすいから、とろみやあんでまとめる工夫が大切なんだ。あわせて、食事のときの姿勢や一口量、食後の口腔ケアも伝えておきたい。
医学生医学生
きざめば安全、と思い込んでいました。では、思い切って胃瘻を造ったほうが確実ではないですか。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、この人は食形態を工夫すれば口から食べられていて、肺炎の経過も順調だ。胃瘻は長期にわたって経口で必要な栄養を確保できない場合に検討するもので、今回は適応がない。それに胃瘻にしても唾液や逆流した胃内容物の誤嚥は起こりうるから、誤嚥性肺炎を完全に防げるわけではないんだ。
医学生医学生
訪問診療で末梢静脈栄養を行う、というのも同じ理由で不要ですね。
ドクタードクター
その通り。栄養療法の原則は「腸が使えるなら腸を使う」。静脈栄養は経口や経腸での栄養が不可能か不十分なときに限られるし、末梢静脈栄養は投与できるエネルギー量が少なくて長期管理には向かない。食事量が足りないという情報もないね。
医学生医学生
排泄介助の指導や訪問入浴介護も、日常生活動作が自立しているので要らないということでしょうか。
ドクタードクター
そうだね。訪問入浴介護は浴槽を自宅に持ち込んで入浴を介助するサービスで、寝たきりなど重度の要介護者が主な対象だ。ここで大事なのは、必要以上の介助はむしろ本人の残存機能を奪ってしまうという点。できることまで手伝うと、廃用が進んでかえって自立度が下がるんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習った「自立支援」の考え方ですね。手厚ければよいというわけではないと。
ドクタードクター
いいつながりだね。では、歩行の不安定さにはどう対応したらいいと思う?
医学生医学生
転倒が心配なので、リハビリで筋力を保つことや、家の中に手すりを付けることでしょうか。
ドクタードクター
その通り。要支援2なら介護予防の通所リハビリや訪問リハビリで筋力・歩行訓練を続けたり、住宅改修で手すりを付けたり、歩行補助具を使ったりできる。ケアプランは地域包括支援センターが作る。嚥下訓練も、言語聴覚士の訪問リハなどで継続できるといいね。
医学生医学生
ほかに誤嚥性肺炎の再発予防で押さえておくことはありますか。
ドクタードクター
口腔ケアは特に重要で、口の中の細菌を減らすことで肺炎のリスクが下がる。歯科による専門的な口腔ケアも有効だ。それから、鎮静作用のある薬など嚥下機能を落とす薬剤を見直すこと、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの接種も忘れずに。退院支援は、病院の中のケアを生活の場へ「翻訳」する作業だと考えるといいよ。

まとめ

誤嚥性肺炎で入院した高齢者の退院支援では、入院中のケアのうち自宅でも続けるべきものを見極め、それを担う家族や在宅サービスに引き継ぐことが基本です。本例では嚥下機能の低下が残っているため、きざみ食にとろみを付けるなど嚥下しやすい食形態を自宅でも再現できるよう、調理を担う家族への調理指導が最も必要です。経口摂取ができていれば胃瘻造設や静脈栄養の適応はなく(「腸が使えるなら腸を使う」)、日常生活動作が自立していれば排泄介助の指導や訪問入浴介護も不要で、過剰な介助は残存機能の低下を招きます。歩行の不安定さには介護予防のリハビリや住宅改修で対応し、口腔ケア、薬剤の見直し、ワクチン接種も再発予防に役立ちます。本人の能力に見合った支援を組み立てる視点は、高齢者医療や地域包括ケアを学ぶうえでの土台となります。

解答・解説

正解はbです

患者の状態の整理

・86歳男性、誤嚥性肺炎で1週間入院し経過は順調:退院を検討する段階にある。 ・基礎疾患は高血圧症のみ、認知機能は保たれている:服薬管理や食事上の注意を本人も理解できる。 ・日常生活動作〈ADL〉は自立:食事・排泄・更衣・整容・入浴など身の回りのことは自分でできる。 ・筋力低下で歩行が不安定、屋外は見守りが必要:転倒予防や筋力維持の対策(リハビリテーション)が今後の課題となる。 ・入院中はきざみ食にとろみを付けて提供し、嚥下訓練を実施:嚥下機能の低下が残っており、退院後も食形態の工夫と嚥下訓練の継続が必要である。 ・要支援2、82歳の妻と2人暮らし、息子夫婦が週2〜3回通っている:家族の支援はあるが、妻も高齢である。

退院支援の考え方

退院時には、入院中に行っていた医療・ケアのうち、自宅でも続けるべきものは何か、そのために誰が何を担うのかを整理し、本人と家族に引き継ぐ。本例でいちばん大きな問題は嚥下機能の低下であり、誤嚥性肺炎は退院後に再発しやすい。入院中と同じように、飲み込みやすい形態(きざんだうえでとろみを付けてまとまりやすくした食事など)の食事を自宅でも用意できるよう、調理を担う家族に具体的な調理方法を指導することが必要である。 一方、ADLは自立し、経口摂取もできているので、排泄や入浴の介助、経管栄養・静脈栄養は現時点では必要ない。必要以上の介助やサービスは、かえって本人の残存機能を低下させることにもつながる。

選択肢考察

  1. ×a.  胃瘻の造設

    誤り。胃瘻は、長期にわたり経口摂取では必要な栄養を確保できない場合に検討される経腸栄養の手段である。本例は食形態の工夫で経口摂取ができており、肺炎の経過も順調であるため、胃瘻造設の適応はない。なお、胃瘻にしても唾液や逆流した胃内容物の誤嚥は起こりうるため、胃瘻が誤嚥性肺炎を完全に防ぐわけではない。適応は本人の意思や生活の質も含めて慎重に判断する。

  2. ○b.  家族への調理指導

    本例は嚥下機能が低下しており、入院中もきざみ食にとろみを付けた食事で経口摂取を続けてきた。自宅でも同様の食形態を保たなければ、誤嚥性肺炎を再発する危険が高い。そこで、調理を担う妻や支援に来る息子夫婦に対し、食材の切り方や軟らかさ、とろみ調整食品の使い方と濃度、むせやすい食品(水分、パサつくもの、口の中でばらけるもの)の避け方などを、管理栄養士や言語聴覚士と連携して具体的に指導する必要がある。食事時の姿勢や一口量、食後の口腔ケアなどもあわせて伝えるとよい。

  3. ×c.  家族への排泄介助の指導

    誤り。ADLは介助を必要としないとあり、排泄は自立していると考えられる。排泄介助の指導は現時点では不要である。不要な介助は本人の自立度を下げることにもつながる。

  4. ×d.  訪問入浴介護サービスの手配

    誤り。訪問入浴介護は、自宅の浴槽での入浴が困難な人のもとへ浴槽を持ち込んで入浴を介助するサービスであり、寝たきりなど重度の要介護者が主な対象となる。本例は入浴を含めADLが自立しており、このサービスは必要ない。歩行の不安定さに対しては、浴室の手すり設置など住環境の整備や、筋力維持のためのリハビリテーションのほうが役立つ。

  5. ×e.  訪問診療による末梢静脈栄養療法

    誤り。消化管が使え、経口摂取で栄養を確保できている患者には、静脈栄養の適応はない。栄養療法では「腸が使えるなら腸を使う」のが原則であり、静脈栄養は経口・経腸栄養が不可能または不十分な場合に限られる。さらに末梢静脈栄養は投与できるエネルギー量が少なく、長期の栄養管理には向かない。本例で食事摂取量が不足しているという情報もない。

誤嚥性肺炎の再発予防

・食形態の調整:嚥下機能に合わせた嚥下調整食(日本摂食嚥下リハビリテーション学会の嚥下調整食分類などを参考に段階を決める)。水分はとろみを付けて誤嚥を防ぐ。きざみ食は口の中でばらけやすく、それだけではかえって誤嚥しやすいため、とろみやあんを加えてまとまりやすくする工夫が必要である。 ・食事時の姿勢と介助:座位を保ち、やや顎を引いた姿勢で、一口量を少なく、ゆっくり食べる。 ・口腔ケア:口腔内の細菌を減らすことで誤嚥性肺炎の発症リスクが下がる。歯科による専門的口腔ケアも有効である。 ・嚥下訓練の継続:言語聴覚士による訪問リハビリテーションや通所リハビリテーションを活用する。 ・薬剤の見直し:鎮静作用のある薬剤など嚥下機能を低下させる薬剤を避ける。 ・ワクチン:肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチンの接種。

本例で検討すべき介護保険サービス

要支援2は、介護予防サービスの対象である。本例では、歩行の不安定さに対して介護予防通所リハビリテーションや介護予防訪問リハビリテーションによる筋力・歩行訓練、手すりの設置などの住宅改修、歩行補助具の利用などが考えられる。ケアプランの作成は地域包括支援センターが担う。

退院支援の原則

入院中に行っていた医療・ケアのうち自宅で継続が必要なものを見極め、それを担う家族や在宅サービスに引き継ぐ。一方で、本人ができることまで介助するとADLの低下を招くため、本人の能力に見合った支援にとどめる。

POINT

・誤嚥性肺炎後の高齢者の退院では、自宅でも嚥下しやすい食形態を維持できるよう、調理を担う家族への調理指導が重要である。 ・経口摂取ができていれば胃瘻造設や静脈栄養の適応はない(「腸が使えるなら腸を使う」)。 ・ADLが自立していれば排泄介助指導や訪問入浴介護は不要であり、過剰な介助は残存機能を低下させる。 ・歩行の不安定さには、リハビリテーションや住環境整備で対応する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。