飲みすぎた夜の鮮血―Mallory-Weiss症候群は「縦に浅く裂けて、自然に治る」
第112回医師国家試験 A問題 第5問
国試問題にチャレンジ
Mallory-Weiss症候群について正しいのはどれか。
- a.自然治癒する。
- b.裂創は横走する。
- c.病変は壁全層に及ぶ。
- d.胃大彎側に好発する。
- e.十二指腸にも病変が存在する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Mallory-Weiss症候群は、飲酒後などの激しい嘔吐によって腹圧・胃内圧が急上昇し、食道胃接合部から胃噴門部(特に小彎側)の粘膜に縦走する線状裂創が生じて吐血をきたす疾患です。裂創は粘膜〜粘膜下層までの浅いものであるため、多くは自然に止血・治癒し、治療は絶食・輸液・酸分泌抑制薬による保存的治療が基本で、活動性出血にはクリップ法などの内視鏡的止血を行います。一方、同じく嘔吐を契機としながら食道壁全層が破裂するのが特発性食道破裂(Boerhaave症候群)で、下部食道左側壁に好発し、胸痛・縦隔気腫・胸水を伴い緊急手術を要します。病変の部位・向き・深さを病態から理解しておくと、両者の鑑別や吐血患者の初期対応を筋道立てて考えられるようになります。
解答・解説
正解はaです
問われていること
Mallory-Weiss症候群の病態・好発部位・病変の深さ・経過についての基本知識を問う問題である。
病態の要点
Mallory-Weiss症候群は、激しい嘔吐やむかつき(嘔吐反射)を繰り返したときに、食道胃接合部付近の粘膜が裂けて出血する疾患である。典型例は、飲酒後に何度も嘔吐し、はじめは胃内容物だけだったのが、その後に鮮血を吐く、という経過をとる。飲酒のほか、つわり(妊娠悪阻)、乗り物酔い、抗癌薬の副作用、上部消化管内視鏡検査中の嘔吐反射なども誘因となる。 機序としては、嘔吐の際に腹圧と胃内圧が急に上がり、胃の噴門部が食道側へ押し上げられるようにして、食道胃接合部の粘膜が縦方向に強く引き伸ばされる。その結果、 ・部位:食道胃接合部から胃噴門部、特に小彎側 ・形:長軸方向(縦)に走る線状の裂創 ・深さ:粘膜〜粘膜下層までの浅い裂創(全層には及ばない) という特徴をもつ病変ができる。
経過と治療
裂創は浅いため、多くの例(おおむね8〜9割)は自然に止血し、数日〜1週間程度で治癒する。治療は絶食・輸液と酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬など)による保存的治療が基本で、内視鏡で活動性の出血や露出血管を認める場合には、クリップ法などの内視鏡的止血術を行う。 これらを踏まえると、正しいのは「自然治癒する」である。
選択肢考察
- ○a. 自然治癒する。
正しい。裂創が粘膜〜粘膜下層までの浅いものであるため、大部分は保存的治療のみで自然に止血し、数日から1週間程度で上皮が再生して治癒する。出血が持続する場合や内視鏡で噴出性出血・露出血管がみられる場合はクリップによる止血を行うが、外科手術が必要になることはまれである。
- ×b. 裂創は横走する。
誤り。嘔吐時の急激な内圧上昇で食道胃接合部が長軸方向に引き伸ばされるため、裂創は消化管の長軸に沿って縦に走る線状の形をとる(縦走裂創)。1本のことが多いが、複数本みられることもある。
- ×c. 病変は壁全層に及ぶ。
誤り。Mallory-Weiss症候群の裂創は粘膜から粘膜下層までにとどまる浅い損傷である。食道壁の全層が裂けて縦隔や胸腔に穿孔するのは特発性食道破裂(Boerhaave症候群)であり、両者の最大の違いが病変の深さである。全層性の破裂では縦隔気腫・胸水・縦隔炎を起こし、緊急手術が必要な重篤な病態となる。
- ×d. 胃大彎側に好発する。
誤り。好発部位は食道胃接合部から胃噴門部にかけてで、特に小彎側に多い。胃の大彎側(胃体部の外側のカーブ)は嘔吐時の伸展による裂創の好発部位ではない。
- ×e. 十二指腸にも病変が存在する。
誤り。病変は嘔吐時に強い伸展力がかかる食道胃接合部付近に限られ、十二指腸に裂創を生じる疾患ではない。吐血をきたす十二指腸病変としては十二指腸潰瘍が代表的であり、吐血の原因検索ではこれらを内視鏡で鑑別する。
Mallory-Weiss症候群と特発性食道破裂(Boerhaave症候群)の比較
・共通点:いずれも激しい嘔吐(飲酒後が多い)を契機に起こる ・損傷の深さ:Mallory-Weiss症候群は粘膜〜粘膜下層の裂創、Boerhaave症候群は食道壁全層の破裂 ・好発部位:Mallory-Weiss症候群は食道胃接合部〜胃噴門部小彎側、Boerhaave症候群は下部食道の左側壁(左後壁) ・主症状:Mallory-Weiss症候群は吐血(鮮血)、Boerhaave症候群は激しい胸痛・背部痛、呼吸困難、ショック、皮下気腫 ・画像:Boerhaave症候群では縦隔気腫・左胸水・気胸を認め、水溶性造影剤による食道造影やCTで漏出を確認する(内視鏡は送気で悪化させるおそれがあり慎重に) ・治療:Mallory-Weiss症候群は保存的治療(必要時に内視鏡的止血)、Boerhaave症候群は原則として緊急手術
上部消化管出血への初期対応
吐血・下血の患者では、まずバイタルサインを確認し、静脈路を確保して輸液・必要に応じ輸血で循環を安定させてから、緊急上部消化管内視鏡検査で出血源の診断と止血処置を行う。上部消化管出血の原因としては消化性潰瘍が最も多く、そのほか食道・胃静脈瘤、Mallory-Weiss症候群、急性胃粘膜病変、胃癌などがある。
POINT
・Mallory-Weiss症候群:激しい嘔吐(特に飲酒後)→ 食道胃接合部〜胃噴門部(小彎側)に縦走する浅い裂創 → 鮮血の吐血 ・裂創は粘膜〜粘膜下層まで。多くは自然止血・自然治癒し、保存的治療が基本、活動性出血には内視鏡的止血(クリップ法) ・全層性の破裂は特発性食道破裂(Boerhaave症候群):下部食道左側壁、胸痛・縦隔気腫・胸水、緊急手術
