O157と診断したらどう動く?―三類感染症と第三種学校感染症で整理する法的対応
第112回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
腸管出血性大腸菌感染症と診断された場合に正しいのはどれか。
- a.入院勧告の対象となる。
- b.届出は一週間以内に行う。
- c.届出先は市町村長である。
- d.医療費は全額公費負担となる。
- e.児童の場合は出席停止となる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腸管出血性大腸菌感染症は感染症法の三類感染症で、診断した医師は患者・無症状病原体保有者ともに直ちに、最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出ます。三類では飲食物を扱う業務などへの就業制限が行われますが、入院勧告や公費負担の対象ではなく、入院勧告は一類・二類・新型インフルエンザ等感染症など、医療費の全額公費負担は新感染症に限られます。学校保健安全法では第三種学校感染症に指定され、医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止となります。臨床的には潜伏期3〜8日の血便を伴う腸炎で、小児・高齢者ではHUSの合併に注意し、止痢薬は避けます。感染症法と学校保健安全法という2つの軸で整理しておくと、他の感染症の届出や登校判断にも応用できます。
解答・解説
正解はeです
問われていること
腸管出血性大腸菌(EHEC:enterohemorrhagic Escherichia coli、O157など)感染症と診断したとき、医師や行政がとる対応のうち、法律上正しいものを選ぶ問題である。関係する法律は2つある。 ・感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律):届出、入院勧告、就業制限、医療費の公費負担などを定める ・学校保健安全法:学校での出席停止などを定める
感染症法での位置づけ
EHEC感染症は感染症法の「三類感染症」である。三類感染症(コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス)は、感染力や重篤度は一類・二類ほど高くないが、飲食物を介して集団発生を起こしうる腸管感染症であり、特定の職業(調理従事者など)への就業によって流行が広がるおそれがあるものとして指定されている。 三類感染症で行われる主な対応は次のとおりである。 ・届出:診断した医師は直ちに、最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出る(患者だけでなく無症状病原体保有者も対象) ・就業制限:飲食物に直接触れる業務などへの就業が、菌が出なくなるまで制限される ・消毒などの対物措置 一方、入院勧告・措置入院や、それに伴う医療費の公費負担は三類感染症には適用されない。
学校保健安全法での位置づけ
EHEC感染症は学校感染症の「第三種」に分類され、学校医その他の医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止となる。 以上から、正しいのは「児童の場合は出席停止となる」である。
選択肢考察
- ×a. 入院勧告の対象となる。
誤り。感染症法で都道府県知事が入院を勧告できるのは、一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症、新感染症(および政令で準用が定められた指定感染症)である。EHEC感染症は三類感染症であり、入院勧告の対象ではない。三類感染症で人に対して行われる強制的な措置は就業制限であり、隔離を目的とした入院ではない。もちろん溶血性尿毒症症候群(HUS)などの合併症があれば、医学的な理由で入院治療を行うことはある。
- ×b. 届出は一週間以内に行う。
誤り。一類〜四類感染症、新型インフルエンザ等感染症は、診断後「直ちに」届け出なければならない。三類感染症であるEHEC感染症も直ちに届出が必要である。「7日以内」の届出が求められるのは、五類感染症の全数把握対象疾患の多く(梅毒、後天性免疫不全症候群など)である。なお五類でも麻疹・風疹・侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに届け出る。
- ×c. 届出先は市町村長である。
誤り。感染症法に基づく届出は、最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に対して行う(保健所を設置する市・特別区では、その市長・区長が知事に代わる)。一般の市町村長が届出先となるわけではない。実務上、医師は保健所に届出票を提出すればよい。
- ×d. 医療費は全額公費負担となる。
誤り。感染症法による入院医療費の公費負担は、入院勧告・措置の対象となる疾患について行われる。一類・二類感染症、新型インフルエンザ等感染症では医療保険が優先して適用され、残りの自己負担分を公費で負担する(所得に応じた自己負担がありうる)。全額を公費で負担するのは、医療保険を適用しない新感染症である。三類感染症のEHEC感染症にはこうした公費負担制度は適用されず、通常の医療保険による診療となる。
- ○e. 児童の場合は出席停止となる。
正しい。学校保健安全法施行規則で、EHEC感染症は第三種の学校感染症に指定されている。第三種には、コレラ、細菌性赤痢、腸チフス、パラチフス、流行性角結膜炎、急性出血性結膜炎などが含まれ、出席停止期間は「病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで」とされる。出席停止は校長が命じる。EHECは100個程度の少ない菌数でも感染が成立し、家族内や保育施設・学校で二次感染を起こしやすいため、このような措置がとられる。
腸管出血性大腸菌感染症の概要
ベロ毒素(志賀毒素)を産生する大腸菌による感染症で、O157:H7が代表的な血清型である(O26、O111なども)。生や加熱不十分の牛肉、汚染された野菜などを介して感染し、潜伏期は3〜8日程度。水様性下痢に続いて強い腹痛と血便(出血性大腸炎)をきたすが、発熱は軽度のことが多い。発症者の一部(数%〜10%程度)は、下痢の出現から1〜2週以内に溶血性尿毒症症候群(HUS:溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害の三徴)を合併し、小児や高齢者に多い。脳症を伴うこともある。止痢薬(腸管運動抑制薬)は毒素の排出を遅らせるため使用を避ける。
感染症法の類型と主な措置(要点)
・一類(エボラ出血熱、ペスト、ラッサ熱など):直ちに届出、入院勧告、就業制限、公費負担(保険優先) ・二類(結核、SARS、MERS、ジフテリア、鳥インフルエンザH5N1・H7N9、急性灰白髄炎):直ちに届出、入院勧告、就業制限、公費負担(保険優先) ・三類(コレラ、細菌性赤痢、EHEC感染症、腸チフス、パラチフス):直ちに届出、就業制限あり、入院勧告なし ・四類(A型・E型肝炎、マラリア、狂犬病、日本脳炎など):直ちに届出、就業制限・入院勧告なし ・五類:全数把握(原則7日以内、麻疹・風疹・侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに)と定点把握がある ・新型インフルエンザ等感染症:直ちに届出、入院勧告、就業制限 ・新感染症:入院医療費は全額公費
学校感染症の分類(要点)
・第一種:感染症法の一類・二類(結核を除く)など。治癒するまで出席停止 ・第二種:インフルエンザ、百日咳、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、水痘、咽頭結膜熱、結核、髄膜炎菌性髄膜炎、新型コロナウイルス感染症など。疾患ごとに出席停止期間の基準がある ・第三種:コレラ、細菌性赤痢、EHEC感染症、腸チフス、パラチフス、流行性角結膜炎、急性出血性結膜炎、その他の感染症。医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止
POINT
・EHEC感染症=感染症法の三類感染症:診断後直ちに、保健所長経由で都道府県知事へ届出(無症状病原体保有者も) ・三類は就業制限(飲食物を扱う業務など)の対象だが、入院勧告・公費負担の対象ではない ・入院勧告は一類・二類・新型インフルエンザ等感染症・新感染症、全額公費は新感染症 ・学校保健安全法では第三種学校感染症:医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止
