アンモニアの行き先はどこ?―尿素サイクルで見抜く先天代謝異常症
第112回医師国家試験 A問題 第1問
国試問題にチャレンジ
高アンモニア血症をきたす疾患はどれか。
- a.Gaucher病
- b.von Gierke病
- c.Hurler症候群
- d.メープルシロップ尿症
- e.オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
アンモニアはアミノ酸の分解で生じ、肝臓の尿素サイクルで尿素に変えられて排泄されるため、この経路の酵素欠損である尿素サイクル異常症が高アンモニア血症の代表的な原因となります。なかでもオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症は最も頻度が高く、唯一のX連鎖遺伝で、尿中オロト酸の増加と血中シトルリン低値が特徴です。Gaucher病とHurler症候群はライソゾーム病、von Gierke病は低血糖・高乳酸・高尿酸・脂質異常を示す糖原病、メープルシロップ尿症は分岐鎖アミノ酸の上昇が本質であり、いずれも高アンモニア血症を特徴とはしません。疾患名・欠損酵素・蓄積物質・検査異常をセットで覚えることが、先天代謝異常症を整理する近道です。臨床では、原因のはっきりしない新生児や成人の意識障害で血中アンモニアを測る習慣が、見逃しを防ぐ鍵になります。
解答・解説
正解はeです
テーマ
先天代謝異常症の代表的な疾患について、どの酵素が欠けていて、何がたまり、どんな検査異常が出るかを結びつけて覚えているかを問う問題である。
アンモニアの処理
アミノ酸を分解するとアミノ基からアンモニアが生じる。アンモニアは中枢神経に強い毒性をもつため、肝臓の尿素サイクル(オルニチン回路)で無毒な尿素に変えられ、腎臓から尿中に排泄される。尿素サイクルの反応は以下のとおりである。 ①ミトコンドリア内でアンモニアと重炭酸からカルバモイルリン酸ができる(カルバモイルリン酸合成酵素Ⅰ:CPSⅠ、活性化にN-アセチルグルタミン酸が必要)。 ②カルバモイルリン酸とオルニチンからシトルリンができる(オルニチントランスカルバミラーゼ:OTC)。 ③細胞質でシトルリンとアスパラギン酸からアルギニノコハク酸ができる(アルギニノコハク酸合成酵素)。 ④アルギニノコハク酸がアルギニンとフマル酸に分かれる(アルギニノコハク酸分解酵素)。 ⑤アルギニンが尿素とオルニチンに分かれる(アルギナーゼ)。 この経路の酵素が先天的に欠けた病気を尿素サイクル異常症といい、アンモニアを処理できないため高アンモニア血症を起こす。
正解を導く考え方
アンモニアは蛋白質(アミノ酸)代謝で生じる物質なので、まず糖や脂質の代謝異常(ライソゾーム病や糖原病)は候補から外れる。アミノ酸代謝異常のうち、アンモニアを尿素に変える経路そのものの異常が尿素サイクル異常症であり、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症はその代表である。
選択肢考察
- ×a. Gaucher病
高アンモニア血症はきたさない。Gaucher病は、ライソゾームの酵素であるグルコセレブロシダーゼ(酸性β-グルコシダーゼ)が欠けているため、糖脂質であるグルコセレブロシド(グルコシルセラミド)がマクロファージの中にたまる病気である。ライソゾーム病の中のスフィンゴリピドーシスに分類され、常染色体劣性遺伝である。脂質を取り込んで膨らんだマクロファージ(Gaucher細胞)が肝臓・脾臓・骨髄に集まるため、著明な肝脾腫、汎血球減少、骨痛・骨病変がみられる。神経症状を伴う病型もある。酵素補充療法や基質合成抑制療法がある。
- ×b. von Gierke病
高アンモニア血症はきたさない。von Gierke病は糖原病Ⅰ型(Ⅰa型)で、グルコース-6-ホスファターゼが欠けている。肝臓でグルコース-6-リン酸をグルコースに変えられないため、グリコーゲンの分解でも糖新生でも血糖を保てず、空腹時に強い低血糖を起こす。行き場を失ったグルコース-6-リン酸は解糖系やペントースリン酸経路へ流れ込み、乳酸の増加(高乳酸血症・代謝性アシドーシス)、プリン合成の亢進による高尿酸血症、中性脂肪の合成亢進による脂質異常症を生じる。肝臓と腎臓にグリコーゲンがたまり、肝腫大や人形様顔貌、低身長もみられる。「尿酸」の名前から窒素の代謝異常を連想しないよう注意する。
- ×c. Hurler症候群
高アンモニア血症はきたさない。Hurler症候群はムコ多糖症Ⅰ型(重症型)で、ライソゾームの酵素α-L-イズロニダーゼが欠けているため、ムコ多糖(グリコサミノグリカン)のデルマタン硫酸とヘパラン硫酸を分解できず、全身の組織にたまって尿中にも多く出る。常染色体劣性遺伝である。粗い顔貌(ガーゴイル様顔貌)、角膜混濁、肝脾腫、骨変形(多発性異骨症)、関節拘縮、心臓弁膜症、精神運動発達遅滞などを示す。なお、ムコ多糖症Ⅱ型のHunter症候群はX連鎖劣性遺伝で、角膜混濁がないのが特徴である。
- ×d. メープルシロップ尿症
高アンモニア血症を特徴とする疾患ではない。メープルシロップ尿症は、分岐鎖アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン)から生じる分岐鎖α-ケト酸を分解する酵素(分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素複合体)が欠けた常染色体劣性遺伝のアミノ酸代謝異常症である。血中・尿中に分岐鎖アミノ酸とそのケト酸が増え、尿や汗がメープルシロップ(カラメル)のような甘い臭いを放つ。新生児期に哺乳不良、嘔吐、意識障害、けいれん、ケトアシドーシスで発症し、特に血中ロイシンの高値が脳症の主な原因となる。新生児マススクリーニングの対象疾患である。アミノ酸代謝異常だが、尿素サイクルそのものの障害ではなく、診断の手がかりとなるのはアンモニアの上昇ではなく分岐鎖アミノ酸の上昇である。
- ○e. オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症
高アンモニア血症をきたす。オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)は、尿素サイクルの中でカルバモイルリン酸とオルニチンからシトルリンを作る酵素である。これが欠けるとアンモニアを尿素に変えられず、高アンモニア血症になる。尿素サイクル異常症の中で最も頻度が高く、尿素サイクル異常症の中で唯一のX連鎖遺伝である。男児では新生児期に哺乳不良、嘔吐、多呼吸(呼吸性アルカローシス)、意識障害、けいれんで重症に発症することが多い。ヘテロ接合体の女性も、X染色体の不活化の偏りによって、幼児期以降や成人になってから、感染や蛋白質の多い食事、出産などを契機に発症することがある。使われずにたまったカルバモイルリン酸がピリミジン合成に流れるため、尿中のオロト酸が増える。血中シトルリンは低い。この2つが、CPSⅠ欠損症(オロト酸は増えない)との鑑別点である。治療は蛋白制限、アルギニン・シトルリンの補充、安息香酸ナトリウムやフェニル酪酸ナトリウムなどのアンモニア排泄を促す薬で、重症の急性期には血液透析を行う。根治には肝移植が選択されることもある。
高アンモニア血症の主な原因
・先天性:尿素サイクル異常症(CPSⅠ欠損症、OTC欠損症、シトルリン血症Ⅰ型、アルギニノコハク酸尿症、アルギニン血症、N-アセチルグルタミン酸合成酵素欠損症)、有機酸代謝異常症(プロピオン酸血症、メチルマロン酸血症など。蓄積した代謝物がN-アセチルグルタミン酸の合成を妨げ、二次的に尿素サイクルが働かなくなる)、高オルニチン血症・高アンモニア血症・ホモシトルリン尿症(HHH症候群)、リジン尿性蛋白不耐症、シトリン欠損症など。 ・後天性:肝硬変・劇症肝炎などの肝不全(肝性脳症)、門脈体循環シャント、バルプロ酸の服用、Reye症候群、尿路感染症(ウレアーゼを産生する細菌)など。
尿素サイクル異常症の鑑別のポイント
・オロト酸が増える:OTC欠損症(シトルリン低値)。シトルリン血症などでもオロト酸が増えることがある。 ・オロト酸が増えない:CPSⅠ欠損症、N-アセチルグルタミン酸合成酵素欠損症(シトルリン低値)。 ・シトルリン著増:シトルリン血症Ⅰ型(アルギニノコハク酸合成酵素欠損)。 ・アルギニノコハク酸が増える:アルギニノコハク酸尿症(毛髪の異常=結節性裂毛を伴うことがある)。 ・アルギニン高値:アルギニン血症(高アンモニア血症は軽く、痙性対麻痺が目立つ)。 ・遺伝形式:OTC欠損症のみX連鎖遺伝で、ほかは常染色体劣性遺伝。
選択肢の疾患の整理
・Gaucher病:グルコセレブロシダーゼ欠損、グルコセレブロシドの蓄積(スフィンゴリピドーシス)。 ・von Gierke病(糖原病Ⅰa型):グルコース-6-ホスファターゼ欠損、低血糖・高乳酸血症・高尿酸血症・脂質異常症。 ・Hurler症候群(ムコ多糖症Ⅰ型):α-L-イズロニダーゼ欠損、デルマタン硫酸・ヘパラン硫酸の蓄積。 ・メープルシロップ尿症:分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素欠損、ロイシン・イソロイシン・バリンの上昇。 ・OTC欠損症:尿素サイクルの障害、高アンモニア血症、尿中オロト酸の増加。
新生児の高アンモニア血症の症状
生まれたときは正常で、哺乳を始めて数日のうちに哺乳不良、嘔吐、不機嫌、多呼吸、筋緊張の低下、意識障害、けいれんが現れる。敗血症と間違えられやすく、原因のわからない新生児の意識障害では血中アンモニアを測ることが大切である。
POINT
・高アンモニア血症をきたす先天代謝異常の代表は尿素サイクル異常症で、最も多いのはOTC欠損症(X連鎖遺伝、尿中オロト酸増加、血中シトルリン低値)。 ・von Gierke病:低血糖・高乳酸血症・高尿酸血症・脂質異常症(アンモニアではない)。 ・Gaucher病とHurler症候群はライソゾーム病(それぞれ糖脂質、ムコ多糖の蓄積)。 ・メープルシロップ尿症:分岐鎖アミノ酸(ロイシン・イソロイシン・バリン)の上昇と、尿の甘い臭い。 ・疾患名、欠けている酵素、たまる物質・特徴的な検査値をセットで覚える。
