StudyMed医師国家試験

破水30分後の60/分―分娩中の「戻らない徐脈」が告げる急変

第111回医師国家試験 I問題 第80問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第80問

36歳の初産婦。妊娠38週3日に陣痛発来のため入院した。これまでの妊娠経過で異常を認めていなかった。血圧128/68mmHg。児は頭位。内診所見で子宮口は4cm開大。胎児心拍数陣痛図で5分周期の子宮収縮を認め,胎児心拍数波形に異常を認めない。入院4時間後,陣痛は2分間隔となった。内診で子宮口は9cm開大,内診時に自然破水した。胎児心拍数陣痛図で胎児心拍数基線は155/分で正常な基線細変動を認め,一過性徐脈を認めない。さらに30分後に強い子宮収縮があり,胎児心拍数が60/分の徐脈となって回復しない。  胎児徐脈の原因として考えられるのはどれか。3つ選べ。

  1. a.臍帯脱出
  2. b.子宮破裂
  3. c.羊水塞栓症
  4. d.絨毛膜羊膜炎
  5. e.HELLP症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、分娩経過中に突然起きた胎児徐脈の原因を考える問題だ。大事なのは「直前まで胎児は元気だった」という事実と、「何をきっかけに、どんな徐脈が起きたか」。この2点から、どんな種類の原因を考えるべきかを絞り込もう。
医学生医学生
破水の時点では心拍数基線も細変動も正常で、一過性徐脈もないので、胎児の状態は良好だったということですね。
ドクタードクター
その通り。いわゆるwell-beingが保たれていた。そこから強い子宮収縮をきっかけに60/分まで下がって戻らない。これは遷延する高度徐脈で、胎児への酸素供給が急に途絶える事態を考える。胎児自身の心疾患などではなく、臍帯、子宮・胎盤、母体循環のどこかで急変が起きた、という発想だ。
医学生医学生
産婦人科の講義で、CTGの正常基線は110〜160/分と習いました。60/分はかなり低いですよね。
ドクタードクター
かなり危険な数字だ。一過性徐脈の分類も復習しておこう。子宮収縮と同時に始まる早発一過性徐脈は児頭圧迫による迷走神経反射でほぼ心配ない。遅れて始まる遅発一過性徐脈は子宮胎盤機能不全、急に下がって急に戻る変動一過性徐脈は臍帯圧迫が主な原因。2分以上10分未満続けば遷延一過性徐脈、10分以上なら基線そのものが徐脈になったとみなす。
医学生医学生
今回は破水の直後なので、まず臍帯脱出が浮かびました。
ドクタードクター
いい推論だ。臍帯脱出は破水したときに臍帯が児頭より先に頸管や腟内へ出てしまう状態で、児頭と骨盤の間に挟まれると血流が途絶して急に高度徐脈になる。子宮口全開大前の破水、つまり早期破水で、羊水が流れ出る勢いで臍帯が下りてくることがある。危険因子は骨盤位などの胎位異常、児頭が骨盤に入っていないこと、羊水過多、多胎、人工破膜などだ。
医学生医学生
対応は、内診の指で児頭を押し上げるんでしたか。
ドクタードクター
そう。先進部を押し上げて臍帯への圧迫を減らし、骨盤高位や膝胸位をとらせて、ただちに帝王切開を準備する。子宮口が全開大ですぐに経腟分娩できる状況なら、鉗子・吸引分娩を選ぶこともある。次に子宮破裂はどうかな。
医学生医学生
子宮破裂は帝王切開の既往がある人に起きるイメージなので、初産婦では考えにくいと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。最大の危険因子は確かに帝王切開や筋腫核出術などの子宮手術歴だけど、児頭骨盤不均衡や過強陣痛、子宮収縮薬の使用などがあれば手術歴のない子宮でも起こりうる。そして子宮破裂の最も多い初発所見が突然の胎児徐脈なんだ。強い子宮収縮を契機にしている今回の経過とは矛盾しないから、必ず鑑別に挙げる。
医学生医学生
母体側ではどんな所見が出るのですか。
ドクタードクター
突然の激しい腹痛のあとに陣痛が急に止まる、ショック、腹壁のすぐ下に胎児を触れる、先進部が上へ戻る、といった所見だ。前兆として、過強陣痛やBandl収縮輪の上昇などの切迫子宮破裂の徴候がみられることもある。では羊水塞栓症は?
医学生医学生
羊水が母体の血中に入って、呼吸困難やショック、DICを起こす病気ですよね。母体の病気なのに胎児徐脈の原因になるのでしょうか。
ドクタードクター
なるんだ。母体が低酸素やショックになれば子宮胎盤血流が急に減るから、胎児は突然徐脈になる。母体の症状より先に胎児徐脈で気づかれることもある。破水後や強い子宮収縮のときに起こりやすく、今回はまさにそのタイミングだ。近年はアナフィラキシー様反応や補体活性化の病態として捉えられていて、母体死亡の主要な原因の一つでもある。
医学生医学生
絨毛膜羊膜炎も破水と関係があるので迷いました。
ドクタードクター
破水が誘因になるのは確かだけど、上行性感染はある程度の時間をかけて進む病態だ。診断には母体の38℃以上の発熱に加えて、母体頻脈、子宮圧痛、羊水の悪臭、白血球増多などを用いる。胎児の所見としては、高度の徐脈ではなくまず胎児頻脈を示すことが多い。破水から30分で、感染を示す所見もない今回とは合わないね。
医学生医学生
HELLP症候群は、血圧が正常なので否定的ですね。
ドクタードクター
そうだね。HELLP症候群は溶血、肝酵素上昇、血小板減少の3つを柱とし、多くは妊娠高血圧症候群に伴って、心窩部・右季肋部痛や悪心で始まる。常位胎盤早期剥離を合併すれば胎児は危険になるけれど、それ自体が分娩中の突然の徐脈の直接原因になることは少ない。血圧も正常で、上腹部痛などの所見もない。
医学生医学生
直前まで正常だった胎児が急に悪くなったら、破水や強い収縮という「きっかけ」に結びつく急性イベントを考え、時間をかけて進む病態は外す、という考え方ですね。
ドクタードクター
その通り。今回の選択肢にはないけれど、常位胎盤早期剥離、仰臥位低血圧症候群、硬膜外麻酔による低血圧、子宮収縮薬の過量による過強陣痛も、同じ「突然の徐脈」の鑑別に入るので一緒に覚えておこう。
医学生医学生
実際の現場では、原因を突き止める前に何をすればいいのでしょうか。
ドクタードクター
原因検索と並行して、母体の体位変換、酸素投与、輸液、子宮収縮薬を使っていれば中止、といった胎内蘇生を行う。内診で臍帯脱出の有無を確認し、母体のバイタルや腹痛もすぐ評価する。それでも回復しなければ、帝王切開や鉗子・吸引分娩による急速遂娩をためらわない。分娩室では分単位の判断が求められる、と心に留めておいてほしい。

まとめ

分娩中、直前まで正常だった胎児心拍数が急に高度徐脈となり回復しない場合は、胎児への酸素供給が急に途絶える急性イベントを考えます。破水直後であれば臍帯脱出、強い子宮収縮を契機とすれば子宮破裂(手術歴のない子宮でも起こりうる)、破水後や強い収縮時には母体の低酸素・ショックを介して羊水塞栓症が原因となり、常位胎盤早期剥離や母体低血圧も鑑別に挙がります。一方、絨毛膜羊膜炎は時間をかけて進行し、胎児にはまず頻脈を示すことが多く、HELLP症候群は妊娠高血圧症候群に伴う病態で、いずれも突然の高度徐脈の典型的な原因ではありません。対応は体位変換・酸素投与などの胎内蘇生と原因検索を並行し、臍帯脱出では先進部を押し上げて骨盤高位とし、回復しなければ速やかに急速遂娩を行います。CTGの正常像と異常パターンを理解し、徐脈の「きっかけ」と経過から原因を絞る考え方は、分娩管理の現場で母児を守るための基本です。

解答・解説

正解はa, b, cです

経過の整理

・36歳の初産婦。妊娠経過に異常はなく、血圧も正常、頭位で、38週3日に自然に陣痛が始まった。 ・入院時は子宮口4cm開大、陣痛は5分周期で、胎児心拍数波形は正常である。 ・4時間後には陣痛が2分間隔、子宮口9cm開大まで進み、内診時に自然破水した。子宮口全開大(10cm)より前の破水であり、早期破水にあたる。この時点の胎児心拍数陣痛図(CTG)は、基線155/分(正常範囲110~160/分)、基線細変動は正常、一過性徐脈はなく、胎児の状態は良好(well-being)と判断できる。 ・ところがその30分後、強い子宮収縮をきっかけに胎児心拍数が60/分まで下がり、回復しない。

考え方

直前まで正常だった胎児心拍数が急に高度の徐脈になり、そのまま戻らない(遷延性徐脈・高度徐脈)。このような急変は、胎児自身の問題(心疾患や奇形)よりも、胎児への酸素供給が急に途絶える事態を考える。原因は、母体の循環の急変、子宮・胎盤の異常、臍帯の血流途絶のいずれかであり、代表的なものは臍帯脱出・臍帯圧迫、子宮破裂、常位胎盤早期剥離、羊水塞栓症、母体の低血圧などである。 本例では、破水の直後であること(臍帯脱出・羊水塞栓症の誘因)、強い子宮収縮と同時に起きたこと(子宮破裂・羊水塞栓症・臍帯圧迫と矛盾しない)がポイントである。一方、感染や妊娠高血圧に関連した疾患は、時間をかけて進行する病態であり、それを示す所見もない。したがって、突然の胎児徐脈の原因として考えるべきなのは臍帯脱出、子宮破裂、羊水塞栓症である。 胎児心拍数60/分が回復しない状態は、胎児の低酸素が急速に進む緊急事態である。母体の体位変換や酸素投与などを行いながら原因を探し、回復しなければ急速遂娩(帝王切開や鉗子・吸引分娩)を行う。

選択肢考察

  1. ○a.  臍帯脱出

    考えられる。臍帯脱出は、破水した後に臍帯が胎児の先進部(本例では児頭)より先に子宮頸管や腟内へ出てしまう状態である。脱出した臍帯が児頭と骨盤・産道の間に挟まれて圧迫されると、臍帯血流が途絶し、急に高度の徐脈になる。本例は子宮口がまだ全開大前の段階で破水しており、羊水が勢いよく流れ出るときに臍帯が下りてくる可能性がある。危険因子には、骨盤位や横位などの胎位異常、児頭が骨盤に入っていないこと、羊水過多、多胎、人工破膜などがある。対応としては、内診指で先進部を押し上げて臍帯への圧迫を減らし、骨盤高位や膝胸位をとらせて、ただちに帝王切開を行う(子宮口全開大で速やかに経腟分娩できる場合は鉗子・吸引分娩も選択される)。

  2. ○b.  子宮破裂

    考えられる。子宮破裂では子宮壁が裂けて胎盤の血流が障害され、胎児が腹腔内へ出てしまうこともあり、突然の胎児徐脈が最も多い初発所見である。母体には突然の激しい腹痛、陣痛が急に止まる(強い収縮の直後に陣痛が消失する)、ショック、腹壁から胎児の部分を直接触れる、先進部が上へ戻る、といった所見がみられる。破裂の前兆として、収縮輪(Bandl収縮輪)の上昇などの切迫子宮破裂の徴候がみられることがある。最大の危険因子は帝王切開や子宮筋腫核出術などの子宮手術の既往である。本例は初産婦でそうした既往はないが、児頭骨盤不均衡や過強陣痛、子宮収縮薬の使用などがあれば手術歴のない子宮でも破裂は起こりうる。強い子宮収縮を契機に起きた急な徐脈なので、鑑別に必ず挙げるべきである。

  3. ○c.  羊水塞栓症

    考えられる。羊水塞栓症は、羊水や胎児の成分が母体の血中に入り、強いアナフィラキシー様反応(補体の活性化などを伴う)を起こす病態である。母体に急な呼吸困難、低酸素血症、血圧低下・ショック、心停止、播種性血管内凝固(DIC)による大量出血を起こす。破水後や強い子宮収縮のときに起こりやすい。母体が低酸素・ショックになれば子宮胎盤の血流も急に減るため、突然の胎児徐脈がみられ、母体症状より先に胎児徐脈で気づかれることもある。本例は破水から間もなく、強い子宮収縮とともに起きているので、時期として合致する。母体死亡の主要な原因の一つであり、早期の認識と集学的な治療が必要である。

  4. ×d.  絨毛膜羊膜炎

    考えにくい。絨毛膜羊膜炎(CAM)は、腟や頸管から上がってきた細菌が卵膜や羊水に感染して起こる。臨床的には、母体の38.0℃以上の発熱に加えて、母体頻脈(100/分以上)、子宮の圧痛、腟分泌物・羊水の悪臭、白血球増多(15,000/μL以上)などで診断される(Lencki基準)。胎児の所見としては、高度の徐脈ではなく、まず胎児頻脈(基線>160/分)を示すことが多い。本例は破水からわずか30分で、これらの所見もなく、急性の高度徐脈を説明できない。

  5. ×e.  HELLP症候群

    考えにくい。HELLP症候群は、溶血(Hemolysis)、肝酵素の上昇(Elevated Liver enzymes)、血小板の減少(Low Platelets)を3つの柱とする病態である。妊娠高血圧症候群に伴って起こることが多く、上腹部痛(心窩部・右季肋部痛)や悪心・嘔吐で始まる。常位胎盤早期剥離を合併すると胎児が危険な状態になるが、HELLP症候群そのものが分娩中の突然の胎児徐脈の直接の原因となることは少ない。本例は血圧128/68mmHgと正常で、上腹部痛などHELLP症候群を示す所見もない。

胎児心拍数陣痛図(CTG)の基本

・胎児心拍数基線:正常は110~160/分。110/分未満を徐脈、160/分を超えるものを頻脈とする。 ・基線細変動:正常は振幅6~25/分。細変動の減少・消失は胎児のアシドーシスを示唆する。 ・一過性徐脈の種類  早発一過性徐脈:子宮収縮とほぼ同時に始まり、ゆるやかに下がって戻る。児頭の圧迫による迷走神経反射で、通常は問題ない。  遅発一過性徐脈:子宮収縮より遅れて始まり、ゆるやかに下がって戻る。子宮胎盤の機能不全による胎児の低酸素を示す。  変動一過性徐脈:急に下がって急に戻り、形や深さが一定しない。臍帯圧迫が主な原因である。  遷延一過性徐脈:心拍数の低下が2分以上10分未満続くもの。10分以上続くものは基線の変化(徐脈)とみなす。 ・日本産科婦人科学会の分類では、波形をレベル1(正常波形)からレベル5(異常波形・高度)までの5段階に分けて対応を決める。

破水の時期による分類

・前期破水:陣痛が始まる前の破水。 ・早期破水:陣痛が始まった後、子宮口が全開大する前の破水(本例)。 ・適時破水:子宮口全開大の時期の破水。 ・遅滞破水:子宮口全開大後もしばらく破水しないもの。

分娩中に突然の胎児徐脈をきたす主な原因

・臍帯因子:臍帯脱出、臍帯圧迫、臍帯の過短・巻絡 ・胎盤・子宮因子:常位胎盤早期剥離、子宮破裂、過強陣痛(子宮収縮薬の過量など)、前置血管の破綻 ・母体因子:仰臥位低血圧症候群、硬膜外麻酔による低血圧、羊水塞栓症、子癇発作、母体の心肺停止

子宮破裂の徴候

・切迫子宮破裂:過強陣痛、収縮輪(Bandl収縮輪)の上昇、子宮下部の過伸展と圧痛、円靱帯の緊張。 ・子宮破裂後:激しい腹痛のあと陣痛が消える、ショック、胎児心拍の異常・消失、先進部の上昇、腹壁直下に胎児を触れる。

POINT

・直前まで正常だったCTGが急に高度徐脈になり回復しない → 臍帯脱出、子宮破裂、羊水塞栓症、常位胎盤早期剥離などの急性イベントを考える。 ・臍帯脱出は破水直後に起こる。先進部を押し上げ、骨盤高位にしてただちに急速遂娩を行う。 ・子宮破裂の最も多い初発所見は胎児徐脈。陣痛の急な消失やショックにも注意する。 ・羊水塞栓症は破水後や強い子宮収縮のときに起こり、母体の呼吸困難・ショック・DIC、胎児徐脈をきたす。 ・絨毛膜羊膜炎ではまず胎児頻脈を示す。HELLP症候群は妊娠高血圧症候群に伴う。いずれも急な高度徐脈の典型的な原因ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。