CD4が200を切ったら―ST合剤が守るもの、守れないもの
第111回医師国家試験 I問題 第18問
国試問題にチャレンジ
HIVに感染した患者において,ST合剤の内服で予防できるのはどれか。
- a.Kaposi肉腫
- b.ニューモシスチス肺炎
- c.クリプトコックス髄膜炎
- d.サイトメガロウイルス網膜炎
- e.Mycobacterium avium/intracellulare complex感染症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
HIV感染症ではCD4陽性T細胞の減少に伴い、CD4数に応じて特定の日和見疾患が出現しやすくなるため、閾値に合わせた一次予防が重要です。ST合剤は葉酸合成を2段階で阻害する薬で、CD4数200/μL未満でのニューモシスチス肺炎予防の第一選択であり、抗体陽性かつCD4数100/μL未満ではトキソプラズマ脳症の予防も兼ねます。一方、クリプトコックス髄膜炎(真菌)、CMV網膜炎(ウイルス)、Kaposi肉腫(HHV-8関連腫瘍)、播種性MAC症(抗酸菌)にはST合剤は無効で、MACの予防にはマクロライドを用います。HIV感染者ではST合剤の過敏反応が多く、代替としてペンタミジン吸入やアトバコンがあります。病原体の種類と薬剤のスペクトラム、そしてCD4数ごとのリスクを結びつけて理解することが、HIV診療における予防戦略の基本となります。
解答・解説
正解はbです
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)はCD4陽性Tリンパ球(ヘルパーT細胞)に感染してこれを減少させ、主に細胞性免疫の低下をもたらす。CD4数が低下するにつれて、健常者ではまず問題にならない病原体による日和見感染症や、ウイルス関連腫瘍が次々に現れるようになる。どの日和見疾患がどの程度のCD4数で起こりやすいかはおおむね決まっており、一部の疾患ではCD4数を目安に薬剤の予防投与(一次予防)が行われる。 本問はST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤)の予防効果が及ぶ疾患を問うている。ST合剤は葉酸合成を2段階で阻害する抗菌薬で、ニューモシスチス・イロベチイ(真菌に分類される)やトキソプラズマ原虫に有効である。一方で、ウイルス、一般的な真菌(クリプトコックスなど)、抗酸菌、腫瘍には効果がない。したがって、各選択肢の病因(ウイルス・真菌・抗酸菌・腫瘍)を確認し、ST合剤のスペクトラムに入るものを選べばよい。HIV診療でST合剤の予防内服といえば、CD4数200/μL未満でのニューモシスチス肺炎予防が代表である。
選択肢考察
- ×a. Kaposi肉腫
Kaposi肉腫はヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8、別名KSHV:Kaposi肉腫関連ヘルペスウイルス)の感染を背景に生じる血管系の腫瘍であり、AIDS指標疾患の一つである。皮膚や口腔粘膜の暗紫色の斑・結節として現れ、消化管や肺にも病変をつくる。病因はウイルスと腫瘍化であるため、抗菌薬であるST合剤で発症を防ぐことはできない。抗HIV療法(ART)による免疫回復が治療・予防の基本で、進行例では化学療法を加える。
- ○b. ニューモシスチス肺炎
ニューモシスチス肺炎(PCP)はPneumocystis jiroveciiによる肺炎で、HIV感染者ではCD4数が200/μLを下回ると発症リスクが大きく上昇する。ST合剤はこの病原体の葉酸合成を阻害して増殖を抑えるため、予防・治療の両方で第一選択薬である。CD4数200/μL未満(または口腔カンジダ症の既往など)で一次予防として連日あるいは週3回程度の内服を開始し、ARTによってCD4数が200/μL以上に3か月以上回復すれば中止を検討できる。ST合剤が副作用(発疹、骨髄抑制、肝障害、高カリウム血症など)で使えない場合は、ペンタミジン吸入やアトバコンが代替となる。
- ×c. クリプトコックス髄膜炎
クリプトコックス髄膜炎は真菌Cryptococcus neoformansによる亜急性の髄膜炎で、HIV感染者では主にCD4数100/μL未満で発症する。ニューモシスチスとは異なり、クリプトコックスにはST合剤は無効である。治療はアムホテリシンB(リポソーム製剤)とフルシトシンによる導入療法の後、フルコナゾールで地固め・維持療法を行う。通常、一次予防としての抗真菌薬投与はルーチンには推奨されていない。
- ×d. サイトメガロウイルス網膜炎
サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎はヘルペスウイルス科のCMVの再活性化によって起こり、CD4数50/μL未満の高度免疫不全で生じやすい。網膜の出血を伴う白色滲出斑が特徴で、放置すると失明に至る。ウイルス感染症であるため抗菌薬のST合剤は効果がなく、治療にはガンシクロビル(内服ではバルガンシクロビル)やホスカルネットなどの抗ウイルス薬を用いる。薬剤による一次予防は一般に行われず、定期的な眼底検査による早期発見とARTによる免疫回復が重視される。
- ×e. Mycobacterium avium/intracellulare complex感染症
MAC(Mycobacterium avium complex)は非結核性抗酸菌の代表で、HIV感染者ではCD4数50/μL未満で発熱・体重減少・肝脾腫・貧血などを伴う播種性感染症を起こす。抗酸菌にST合剤は無効であり、予防にはマクロライド系のアジスロマイシン(週1回1,200mg)またはクラリスロマイシンを用いる。治療はクラリスロマイシンとエタンブトールを軸とする多剤併用療法である。なお近年は、ARTを速やかに開始できる場合にはMACの一次予防は不要とする考え方が主流になっている。
HIV感染症におけるCD4数と主な日和見疾患
・CD4数 500/μL前後〜:帯状疱疹、口腔カンジダ症、結核(CD4数にかかわらず起こりうる) ・200/μL未満:ニューモシスチス肺炎、食道カンジダ症 ・100/μL未満:トキソプラズマ脳症、クリプトコックス髄膜炎 ・50/μL未満:サイトメガロウイルス感染症(網膜炎・腸炎)、播種性MAC症、進行性多巣性白質脳症(PML)や中枢神経原発悪性リンパ腫も高度免疫不全で増える
代表的な一次予防
・ニューモシスチス肺炎:CD4数200/μL未満でST合剤。代替はペンタミジン吸入、アトバコン ・トキソプラズマ脳症:トキソプラズマIgG抗体陽性かつCD4数100/μL未満でST合剤(PCP予防の用量で兼ねられる) ・播種性MAC症:CD4数50/μL未満でアジスロマイシン週1回(ARTを速やかに開始する場合は省略可とされる)
ST合剤の作用機序
スルファメトキサゾールはジヒドロプテロイン酸合成酵素を、トリメトプリムはジヒドロ葉酸還元酵素を阻害し、細菌・原虫・ニューモシスチスの葉酸合成を連続した2段階で遮断する。ヒトは葉酸を食事から取り込むため影響を受けにくいが、高用量では骨髄抑制などが起こりうる。HIV感染者では発疹・発熱などの過敏反応の頻度が高いことも知られている。
POINT
・HIV感染者でCD4数200/μL未満になったら、ST合剤でニューモシスチス肺炎を予防する。 ・ST合剤はトキソプラズマ脳症の予防にもなる(抗体陽性かつCD4数100/μL未満)。 ・播種性MAC症の予防はST合剤ではなくマクロライド(アジスロマイシン)。 ・Kaposi肉腫(HHV-8関連腫瘍)、CMV網膜炎(ウイルス)、クリプトコックス髄膜炎(真菌)にはST合剤は無効。
