「虫が見える」は意識からのサイン―幻視と幻聴で病態を見分ける
第111回医師国家試験 H問題 第17問
国試問題にチャレンジ
幻視が多いのはどれか。
- a.躁病
- b.うつ病
- c.せん妄
- d.統合失調症
- e.心的外傷後ストレス障害
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
幻覚の種類は背景の病態とよく対応しており、意識清明下で生じる幻覚は幻聴が中心で統合失調症が代表、意識障害や器質性・中毒性の病態では幻視が目立ちます。せん妄は身体疾患や薬物、アルコール離脱、手術などを背景に急性に起こる意識障害で、注意障害や見当識障害、夜間の増悪を特徴とし、虫や小動物が見える幻視が典型です。躁病やうつ病の精神病症状は妄想や気分に一致した幻聴が主体で、PTSDのフラッシュバックは外傷記憶の再体験であり幻視とは区別されます。幻視が多い病態としては、Lewy小体型認知症、ドパミン作動薬使用中のParkinson病、薬物中毒、Charles Bonnet症候群も重要です。幻覚の種類と意識状態に注目する視点は、病棟でのせん妄の早期発見や、精神症状の背後に潜む身体疾患を見抜く臨床力につながります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
幻覚とは、対象が実在しないのに知覚として体験されるものであり、どの感覚に生じるかによって幻聴・幻視・幻触・幻嗅・幻味などに分けられる。どの種類の幻覚が出やすいかは基礎にある病態とよく対応しており、鑑別の手がかりになる。
考え方
大まかな原則として、 ・意識が清明なまま生じる幻覚は幻聴が中心であり、その代表が統合失調症である。 ・意識障害(特に意識混濁に精神運動興奮や錯覚・幻覚が加わった意識変容)や、脳の器質的・中毒性の障害に伴う幻覚では幻視が目立つ。 と押さえるとよい。 せん妄は、身体疾患・薬物・手術・環境変化などを背景に急性に生じる軽度〜中等度の意識障害に、注意障害・見当識障害・錯覚・幻覚・興奮などが加わる状態であり、虫や小動物、人影などが見える幻視が典型的である。したがって、選択肢のうち幻視が多いのはせん妄である。
選択肢考察
- ×a. 躁病
躁病の中心症状は、気分高揚・易怒性、観念奔逸、多弁、睡眠欲求の減少、誇大性、行為心迫などである。重症例では誇大妄想などの精神病症状を伴うことはあるが、意識は清明であり、幻視は一般的な症状ではない。
- ×b. うつ病
うつ病の中心症状は、抑うつ気分、興味・喜びの喪失、意欲低下、思考制止、不眠、食欲低下、自責感・希死念慮などである。重症例では罪業妄想・貧困妄想・心気妄想(微小妄想)などの気分に一致した精神病症状を伴うことがあり、その際の幻覚も自分を責める声などの幻聴が主体である。幻視は通常みられない。
- ○c. せん妄
せん妄は、身体疾患(感染症、脱水、電解質異常、低酸素など)、薬物(ベンゾジアゼピン系薬、抗コリン薬、オピオイドなど)、アルコール離脱、手術・ICU 入室などを背景に急性に発症する意識障害であり、注意の障害、見当識障害、睡眠覚醒リズムの乱れ、症状の日内変動(夕方〜夜間に悪化)を特徴とする。意識が曇った状態では外界の知覚が誤って解釈されやすく、錯視や幻視が多くみられる。虫や小動物が見える(小動物幻視)、壁の模様が人の顔に見えるといった訴えが典型で、アルコール離脱せん妄(振戦せん妄)でも小動物幻視が有名である。
- ×d. 統合失調症
統合失調症では意識は清明であり、幻覚の大部分は幻聴である。自分の行動に口を出す声、複数の声が自分のことを話し合う声、考えが声になって聞こえる思考化声などが特徴的で、Schneider の一級症状にも含まれる。体感幻覚がみられることもあるが、幻視は幻聴に比べると頻度が低い。慢性期に幻視が前景に出る場合は、むしろ器質性・中毒性の病態やせん妄の合併を考える。
- ×e. 心的外傷後ストレス障害
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、生命を脅かすような出来事の体験後に、侵入症状(フラッシュバック、悪夢)、回避、認知と気分の陰性変化、過覚醒が持続する疾患である。フラッシュバックではトラウマ場面を目の前で再体験しているように感じるが、これは外傷記憶の侵入的な想起であり、実在しない対象を知覚する幻視とは区別される。一般に幻視が多い疾患とはいえない。
幻視をきたしやすい病態
・意識障害:せん妄(アルコール離脱せん妄では小動物幻視が典型) ・神経変性疾患:Lewy 小体型認知症(人や小動物が見えるありありとした幻視が中核的特徴の一つ)、Parkinson 病(特にドパミン作動薬使用中) ・中毒:幻覚剤(LSD など)、覚醒剤(幻聴・体感幻覚も多い)、抗コリン薬中毒 ・視覚障害:Charles Bonnet 症候群(視力低下のある高齢者に、意識清明で病識のある幻視が生じる) ・てんかん:後頭葉てんかんの発作症状
幻聴をきたしやすい病態
・統合失調症(意識清明下の言語性幻聴) ・アルコール幻覚症(意識清明下の幻聴) ・精神病症状を伴う重症気分障害(気分に一致した内容の幻聴)
せん妄の要点
・急性発症で、症状は一日の中で変動し、夜間に悪化しやすい。 ・活動過剰型(興奮・幻覚)、活動減少型(無気力・傾眠で見逃されやすい)、混合型がある。 ・治療の基本は原因(身体疾患・薬剤)の検索と除去、環境調整(照明、時計・カレンダー、家族の面会、昼夜リズムの確保)である。ベンゾジアゼピン系薬は原則としてせん妄を悪化させうる(アルコール離脱せん妄は例外)。
POINT
・幻視が多い:せん妄(意識障害)、Lewy 小体型認知症、薬物・アルコール関連の病態。 ・幻聴が多い:統合失調症(意識清明下)。 ・躁病・うつ病で精神病症状を伴っても幻聴や妄想が中心で、幻視はまれ。 ・PTSD のフラッシュバックは外傷記憶の再体験であり幻視とは区別する。
