その咳、何週間?―原因ごとに「効く薬」が違う慢性咳嗽の鑑別
第111回医師国家試験 G問題 第22問
国試問題にチャレンジ
慢性咳嗽について正しいのはどれか。
- a.慢性咳嗽とは4週間以上継続する咳である。
- b.アトピー咳嗽には気管支拡張薬が有効である。
- c.降圧薬ではカルシウム拮抗薬が主な原因である。
- d.咳喘息にはプロトンポンプ阻害薬が有効である。
- e.副鼻腔気管支症候群にはマクロライド系抗菌薬が有効である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
咳嗽は持続期間で分類され、3週間未満が急性、3週間以上8週間未満が遷延性、8週間以上が慢性咳嗽です。慢性咳嗽では胸部X線で器質的疾患を除外したうえで、咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症、ACE阻害薬による薬剤性などを考えます。咳喘息には気管支拡張薬が有効で、アトピー咳嗽には無効でH1受容体拮抗薬やステロイドを用い、GERDにはPPI、副鼻腔気管支症候群には14員環マクロライドの少量長期投与が有効です。降圧薬による咳の代表はブラジキニン蓄積を起こすACE阻害薬で、カルシウム拮抗薬ではありません。湿性か乾性か、治療に反応するかという視点で原因を絞り込む考え方は、外来で頻繁に出会う長引く咳の診療にそのまま役立ちます。
解答・解説
正解はeです
慢性咳嗽の定義と、その代表的な原因疾患ごとの治療薬の対応を問う問題である。
咳嗽の持続期間による分類
日本呼吸器学会の咳嗽・喀痰の診療ガイドラインでは、持続期間によって咳嗽を次のように分ける。 ・急性咳嗽: 3週間未満(多くはかぜ症候群などの気道感染症) ・遷延性咳嗽: 3週間以上8週間未満(感染後咳嗽が多い) ・慢性咳嗽: 8週間以上(感染症以外の原因が多い)
慢性咳嗽の主な原因と考え方
慢性咳嗽では、まず胸部X線写真で肺癌や結核などの器質的疾患を除外したうえで、頻度の高い原因を考える。日本では咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症(GERD)、感染後咳嗽が代表的であり、そのほかACE阻害薬などによる薬剤性咳嗽も重要である。 原因ごとに有効な薬剤が異なるため、特異的な治療への反応を確認することが診断の裏付けにもなる(治療的診断)。たとえば、気管支拡張薬が効けば咳喘息、効かずにH1受容体拮抗薬が効けばアトピー咳嗽が示唆される。 本問では、各疾患と治療薬の組み合わせを正しく押さえているかどうかが問われている。
選択肢考察
- ×a. 慢性咳嗽とは4週間以上継続する咳である。
誤り。慢性咳嗽は8週間以上持続する咳嗽と定義される。3週間以上8週間未満は遷延性咳嗽、3週間未満は急性咳嗽である。急性・遷延性の段階では感染症(感染後咳嗽を含む)が原因であることが多いが、8週間を超えると感染症の割合は低下し、咳喘息やアトピー咳嗽などの非感染性疾患が主な原因となる。
- ×b. アトピー咳嗽には気管支拡張薬が有効である。
誤り。アトピー咳嗽はアトピー素因をもつ人に起こる、喉のイガイガ感を伴う乾性咳嗽で、病変の主座は中枢気道の咳受容体の感受性亢進であり、気道過敏性の亢進や気流制限はない。このため気管支拡張薬(β2刺激薬など)は無効であり、ヒスタミンH1受容体拮抗薬や吸入ステロイドなどの副腎皮質ステロイドが有効である。気管支拡張薬が効くかどうかは、咳喘息との鑑別点になる。
- ×c. 降圧薬ではカルシウム拮抗薬が主な原因である。
誤り。慢性咳嗽を起こす降圧薬の代表はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬である。ACEはブラジキニンを分解する酵素(キニナーゼⅡ)でもあるため、阻害されると気道にブラジキニンやサブスタンスPが蓄積し、乾性咳嗽が生じる。中止すれば通常数週間以内に改善する。ブラジキニンの分解に影響しないアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)では咳嗽は少ない。カルシウム拮抗薬の主な副作用は下腿浮腫、顔面紅潮、頭痛、動悸、歯肉増殖などであり、咳嗽の主因ではない。
- ×d. 咳喘息にはプロトンポンプ阻害薬が有効である。
誤り。咳喘息は喘鳴や呼吸困難を伴わず、咳嗽だけを症状とする喘息の亜型であり、軽度の気道過敏性亢進がみられる。気管支拡張薬(β2刺激薬)が有効であることが診断上の特徴であり、長期管理には吸入ステロイドを中心に用いる。放置すると一部は典型的な喘息に移行する。プロトンポンプ阻害薬(PPI)が有効なのは、胃酸の逆流が咳を誘発する胃食道逆流症(GERD)による咳嗽である。
- ○e. 副鼻腔気管支症候群にはマクロライド系抗菌薬が有効である。
正しい。副鼻腔気管支症候群(SBS: sinobronchial syndrome)は、慢性副鼻腔炎に慢性気管支炎、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎などの下気道の慢性炎症を合併した病態で、膿性痰を伴う湿性咳嗽が特徴である。治療の第一選択は、エリスロマイシン、クラリスロマイシンなどの14員環マクロライド系抗菌薬の少量長期投与である。この治療は抗菌作用よりも、好中球の気道への集積の抑制や粘液分泌の抑制といった抗炎症・免疫調節作用によるものと考えられており、びまん性汎細気管支炎の予後を大きく改善したことで有効性が確立した。
慢性咳嗽の主な原因疾患と特徴
・咳喘息: 乾性咳嗽で、夜間〜早朝に悪化しやすい。気道過敏性の亢進がある。気管支拡張薬が有効であり、長期管理は吸入ステロイドで行う。約30%が典型的喘息に移行するとされる。 ・アトピー咳嗽: 乾性咳嗽で、喉のイガイガ感を伴う。咳受容体感受性が亢進しているが、気道過敏性の亢進はない。気管支拡張薬は無効であり、H1受容体拮抗薬やステロイドが有効である。喘息への移行はまれである。 ・副鼻腔気管支症候群: 湿性咳嗽で、後鼻漏や膿性痰を伴う。14員環マクロライド少量長期投与が有効である。 ・胃食道逆流症(GERD): 胸やけや呑酸を伴うことが多いが、咳だけのこともある。PPIなどの酸分泌抑制薬が有効である。 ・薬剤性: ACE阻害薬が代表的である。中止により改善する。 ・感染後咳嗽: 気道感染後に遷延する咳であり、自然に軽快することが多い。百日咳、マイコプラズマ、クラミジア(クラミドフィラ)感染症などに注意する。
湿性咳嗽と乾性咳嗽
痰を伴う湿性咳嗽では副鼻腔気管支症候群を、痰を伴わない乾性咳嗽では咳喘息、アトピー咳嗽、GERD、ACE阻害薬などを考えるのが鑑別の出発点となる。
POINT
・咳嗽の分類: 急性は3週間未満、遷延性は3〜8週間、慢性は8週間以上である。 ・咳喘息には気管支拡張薬(β2刺激薬)が有効であり、長期管理は吸入ステロイドで行う。 ・アトピー咳嗽には気管支拡張薬は無効であり、H1受容体拮抗薬やステロイドで治療する。 ・副鼻腔気管支症候群には14員環マクロライド少量長期投与が有効である。 ・GERDによる咳嗽にはPPIが有効である。 ・降圧薬による咳嗽の代表はACE阻害薬である(ブラジキニンの蓄積による)。
