StudyMed医師国家試験

「医師しかできない」は思い込み―災害医療の体制とトリアージの本当の担い手

第111回医師国家試験 E問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第111回 E問題 第7問

災害医療について正しいのはどれか。

  1. a.災害拠点病院は市区町村が指定する。
  2. b.災害現場では医師は救急救命士の指揮下に入る。
  3. c.防災体制を整備する地域的単位を二次医療圏と呼ぶ。
  4. d.トリアージは医師以外の医療職も行うことができる。
  5. e.災害医療とは災害派遣医療チーム〈DMAT〉の医療活動のことである。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は災害医療の基本、特に「誰が何を決め、誰が何を担うのか」という体制の問題だ。選択肢はどれも短い文だけど、指定する主体、指揮系統、用語の定義をきちんと押さえていないと引っかかりやすい。まず大前提として、災害医療は平時の医療と何が違うと思う?
医学生医学生
患者さんの数が多すぎて、全員に普段通りの医療ができないことでしょうか。
ドクタードクター
その通り。医療の需要が、人員・物資・病床・搬送手段といった地域の資源を大きく上回ってしまう。だから「一人に最善を尽くす」から「限られた資源で最大多数を救う」へ発想を切り替える必要がある。そのための活動原則がCSCATTTだ。
医学生医学生
救急医学の講義で聞きました。指揮・統制、安全、情報伝達、評価、それからトリアージ、治療、搬送ですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。前半のCSCAで体制をつくってはじめて、後半のTTTという医療支援が機能する。ではトリアージについて聞こう。医師以外が行ってもいいと思う?
医学生医学生
傷病者の生死に関わる判断なので、医師がやるべきもののように思っていました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、実際はそうではない。トリアージは医師だけの行為ではなく、看護師、歯科医師、救急救命士などの医療職や救急隊員も行えるし、訓練を受けていれば一般の人でも実施できる。だから「医師以外の医療職も行うことができる」が正しい選択肢になる。
医学生医学生
多数の傷病者を短時間でさばくには、医師だけでは手が足りないですもんね。
ドクタードクター
まさにそこ。だからSTART法のように、歩けるか、呼吸はあるか、呼吸数、橈骨動脈が触れるか、あるいは毛細血管再充満時間、簡単な指示に従えるか、という単純な項目だけで判定できる仕組みになっている。結果は黒・赤・黄・緑の4区分のトリアージタッグで示す。
医学生医学生
救急科の臨床実習で多数傷病者訓練に参加したとき、看護師さんがタッグをつけていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。では他の選択肢も見ていこう。災害拠点病院を指定するのは誰だと思う?
医学生医学生
地域の病院なので市区町村かと思ったんですが……。
ドクタードクター
そこが引っかけで、指定するのは都道府県だ。災害時に重症者を24時間体制で受け入れ、地域の医療機関を支える病院で、都道府県の中心となる基幹災害拠点病院と、原則として二次医療圏ごとに置かれる地域災害拠点病院がある。耐震構造や自家発電、備蓄、ヘリ搬送への対応、DMATの保有などが指定の要件になっている。
医学生医学生
二次医療圏という言葉が出ましたが、それは防災体制の単位ではないんですか。
ドクタードクター
違うんだ。二次医療圏は医療法に基づく医療計画の中で都道府県が決める、主に一般的な入院医療を確保するための地域単位。防災体制は災害対策基本法に基づき、国の防災基本計画や都道府県・市町村の地域防災計画などで整備される。災害拠点病院の配置の目安に使われるから混同しやすいけれど、定義としては別物だよ。
医学生医学生
現場の指揮系統はどうでしょう。消防が仕切っているイメージがあって、医師も救急救命士に従うのかと。
ドクタードクター
そこも誤解しやすい。災害現場では消防、警察、行政、医療がそれぞれ自分たちの指揮系統を持ち、そのうえで互いに連携・調整して動く。医師が救急救命士の指揮下に入るという関係ではない。ただし現場の安全管理や活動区域の設定は消防などの指示に従う必要があるから、協調が欠かせないのは確かだ。
医学生医学生
最後の、災害医療イコールDMATの活動というのも、言い過ぎな気がします。
ドクタードクター
その感覚で正しい。DMATは専門訓練を受けた機動性のある自己完結型チームで、主に発災直後の急性期に救命医療を担う。でも災害医療は、急性期から復旧・復興期までの医療全体を指す。避難所での慢性疾患の管理、感染症対策、心のケア、公衆衛生活動も含まれていて、急性期以降はJMATやDPATなどが引き継いで補っていくんだ。
医学生医学生
災害医療は時間の流れに沿って担い手が変わっていく、ということですね。
ドクタードクター
そう。最後に臨床での注意点を一つ。トリアージは一度つけたら終わりではなく、時間の経過や場所の移動に合わせて繰り返し再評価する。緑だった人が状態悪化で赤になることもあるからね。一次トリアージのあとに、より詳しく評価する二次トリアージとしてPAT法が使われることもある。それと、CSCATTTの安全は自分、現場、生存者の順に確保する。救助者が二次被害にあっては元も子もないからね。
医学生医学生
安全の順番は意外でした。まず自分を守ることが、結果的に多くの人を救うことにつながるんですね。

まとめ

災害医療では医療需要が地域の資源を大きく上回るため、限られた資源で最大多数を救うことが目標となり、CSCATTT(指揮・安全・情報伝達・評価→トリアージ・治療・搬送)の原則に沿って活動します。トリアージは医師だけでなく看護師や救急救命士、救急隊員なども行うことができ、START法などの簡便な手順で黒・赤・黄・緑の4区分に振り分け、繰り返し再評価します。災害拠点病院は都道府県が指定し、二次医療圏は入院医療の提供体制の単位であって防災体制の単位ではありません。現場では各機関が独自の指揮系統を持って連携し、災害医療はDMATの急性期活動に限らず復興期までの医療全体を指します。こうした体制の全体像を理解しておくことは、将来どの診療科に進んでも災害時に自分の役割を果たすための土台になります。

解答・解説

正解はdです

テーマ

災害医療の体制(災害拠点病院、医療圏、現場指揮)と、災害時の基本的な医療活動(トリアージ、DMATの位置づけ)に関する基礎知識を問う問題である。

考え方

災害時には、医療の需要(傷病者の数と重症度)が、その地域の医療資源(人員・物資・病床・搬送手段)を大きく上回る。平時のように一人ひとりに最善を尽くすことはできない。限られた資源で最大多数の傷病者を救うことが目標になる。 そのために災害医療では、現場の活動原則として「CSCATTT」が重視される。前半のCSCAは体制づくり(Command and Control:指揮・統制、Safety:安全、Communication:情報伝達、Assessment:評価)、後半のTTTは医療支援(Triage:トリアージ、Treatment:治療、Transport:搬送)を指す。 トリアージは、傷病者を緊急度・重症度で振り分け、治療と搬送の優先順位を決める作業である。多数の傷病者を短時間で評価する必要がある。そのため、START法のように簡便な手順で、医師に限らず訓練を受けた者が実施できる仕組みになっている。 各選択肢では、指定の主体(都道府県か市区町村か)、指揮系統の関係、用語の定義を正確に押さえておく必要がある。

選択肢考察

  1. ×a.  災害拠点病院は市区町村が指定する。

    誤り。災害拠点病院は都道府県が指定する。これは、災害時に重症傷病者を24時間体制で受け入れて治療し、地域の医療機関を支援する役割を担う病院である。都道府県の中心となる基幹災害拠点病院と、原則として二次医療圏ごとに置かれる地域災害拠点病院がある。指定要件には、耐震構造、自家発電設備、水・食料・医薬品の備蓄、ヘリコプターでの搬送に対応できる体制、DMATの保有などが含まれる。

  2. ×b.  災害現場では医師は救急救命士の指揮下に入る。

    誤り。災害現場では、消防(現場指揮本部長)、警察、行政の災害対策本部、医療(現場の統括医師やDMATの指揮者)などが、それぞれの組織の指揮系統を持つ。そのうえで各組織が連携・調整して活動する。医療チームの医師が救急救命士の指揮下に入るという関係にはない。ただし現場の安全管理や活動区域の設定は消防などの指示に従う必要があり、関係機関との協調は不可欠である。

  3. ×c.  防災体制を整備する地域的単位を二次医療圏と呼ぶ。

    誤り。二次医療圏は、医療法に基づく医療計画の中で都道府県が設定する地域単位である。主に一般的な入院医療を提供する体制(病床の整備など)を確保する範囲として定められる。防災体制を整える単位を指す言葉ではない。防災体制は災害対策基本法に基づき、国の防災基本計画、指定行政機関などの防災業務計画、都道府県・市町村の地域防災計画によって定められる。なお災害拠点病院の配置は二次医療圏を目安にしており、二次医療圏が災害医療とまったく無関係というわけではない。

  4. ○d.  トリアージは医師以外の医療職も行うことができる。

    正しい。トリアージは医師だけが行える行為ではない。看護師、歯科医師、救急救命士などの医療職、消防・救急隊員も実施できる。訓練を受けていれば一般の人でも行える。START法(Simple Triage And Rapid Treatment)は、歩けるか、呼吸、呼吸数、橈骨動脈の触知や毛細血管再充満時間、簡単な指示に従えるか、という項目で短時間に判定する方法で、職種を問わず使える。判定結果はトリアージタッグで、黒(死亡または救命困難)、赤(最優先治療)、黄(待機的治療)、緑(軽症・保留)の4区分に分けて示す。

  5. ×e.  災害医療とは災害派遣医療チーム〈DMAT〉の医療活動のことである。

    誤り。災害医療は、災害の発生直後から復旧・復興期まで、被災地で提供される医療全体を指す。救命医療だけでなく、避難所での慢性疾患の管理、感染症対策、心のケア、公衆衛生活動なども含む。DMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)は、専門の訓練を受け、機動性を持つ自己完結型のチームである。主に発災直後の急性期に被災地へ駆けつけて救命医療を行い、災害医療の中心的な担い手の一つではあるが、災害医療と同じ意味ではない。急性期以降は、日本医師会災害医療チーム(JMAT)、災害派遣精神医療チーム(DPAT)、保健医療の支援チームなどが活動を引き継ぎ、補完する。

災害医療の原則 CSCATTT

C:Command and Control(指揮・統制)、S:Safety(安全。自分、現場、生存者の順に確保する)、C:Communication(情報伝達)、A:Assessment(評価)、T:Triage(トリアージ)、T:Treatment(治療)、T:Transport(搬送)。体制づくりのCSCAを先に確立することが、医療支援のTTTを有効にする前提となる。

トリアージ区分

黒(0):死亡、または現状の資源では救命が難しいもの。 赤(I):生命に関わる状態で、直ちに治療が必要なもの。 黄(II):すぐには生命に関わらず、多少待てるもの。 緑(III):歩行可能な軽症者。 トリアージは一度で終わりではなく、時間の経過や場所の移動に応じて繰り返し再評価する。一次トリアージ(START法など)のあと、生理学的・解剖学的評価を詳しく行う二次トリアージ(PAT法など)が行われることもある。

災害医療体制の主な要素

・災害拠点病院:都道府県が指定する。基幹災害拠点病院と地域災害拠点病院からなる。 ・DMAT:医師、看護師、業務調整員(ロジスティクス担当)で構成する急性期の災害派遣医療チーム。 ・広域災害救急医療情報システム(EMIS):被災地の医療機関の状況などを共有するための情報システム。 ・広域医療搬送:被災地内で対応できない重症患者を、航空機などで被災地外へ搬送する仕組み。 ・二次医療圏:医療計画上の入院医療の基本単位。一次医療圏は市町村単位の日常的な医療、三次医療圏は原則として都道府県単位の高度・特殊な医療に対応する。

POINT

・トリアージは医師に限らず、看護師、救急救命士、救急隊員なども実施できる。 ・災害拠点病院を指定するのは都道府県である。 ・現場では各機関がそれぞれの指揮系統を持ち、連携して活動する。医師が救急救命士の指揮下に入るわけではない。 ・二次医療圏は入院医療提供体制の単位であり、防災体制の単位ではない。 ・災害医療はDMATの活動に限らず、急性期から復興期までの医療全体を指す。 ・原則CSCATTTとトリアージ4区分(黒・赤・黄・緑)を覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。