トリアージは誰のもの?―役割分担で読み解く日本の災害医療体制
第117回医師国家試験 C問題 第4問
国試問題にチャレンジ
災害医療について正しいのはどれか。
- a.災害拠点病院は市区町村が指定する。
- b.災害現場では医師は救急救命士の指揮下に入る。
- c.防災体制を整備する地域的単位を二次医療圏と呼ぶ。
- d.トリアージは医師以外の医療職も行うことができる。
- e.災害医療とは災害時健康危機管理支援チーム〈DHEAT〉の医療活動のことである。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
日本の災害医療体制は都道府県が医療計画の中で整備し、災害拠点病院も都道府県が指定します。救急救命士は医師の指示の下で救急救命処置を行う職種であり、医師が救急救命士の指揮下に入るという関係にはなりません。トリアージは緊急度・重症度で優先順位を決める行為で、看護師・救急救命士・救急隊員など医師以外も行い、START法とトリアージタッグを用いて状態変化に応じて繰り返し実施します。二次医療圏は入院医療を完結させる医療提供体制の区域であって防災の単位ではなく、DHEATは診療ではなく保健医療行政の指揮調整を支援するチームで、災害医療はDMATやJMAT、DPATなど多主体による活動全体を指します。CSCATTTの原則とあわせて「誰が何を担うか」を理解しておくことは、将来災害現場に立つ医師にとって欠かせない基盤になります。
解答・解説
正解はdです
日本の災害医療体制の基本を問う問題である。押さえるべきなのは、誰が何を担うかという役割分担である。
体制の枠組み
災害時の医療提供体制は、都道府県が医療法に基づいて作る医療計画の中で整備される。災害医療は、いわゆる5疾病・5事業(6事業)のうちの一つの事業に位置づけられている。災害時に医療の中心となる災害拠点病院を指定するのも都道府県である。
現場での役割
救急救命士は医師の指示の下で救急救命処置を行う職種であり、医師との関係は「医師が指示する側」である。災害現場の指揮命令は消防・警察などの関係機関や本部が担い、医療チームはその調整の下で活動する。医師が救急救命士の指揮下に入るという関係にはならない。
トリアージ
トリアージは、限られた医療資源で最大多数の傷病者を救うために、緊急度・重症度で治療や搬送の優先順位を決める行為である。医師に限った行為ではなく、看護師・救急救命士・救急隊員なども行う。実際には、最初に現場に着いた救急隊や、医療救護所の看護師などが担当することも多い。 以上から、各選択肢を「指定主体は誰か」「指示・指揮の向きはどうか」「誰が実施できるか」「用語の定義は何か」という観点で見ていけば正解にたどりつける。
選択肢考察
- ×a. 災害拠点病院は市区町村が指定する。
誤り。災害拠点病院は都道府県が指定する。都道府県の医療計画で災害医療体制を整備する中での指定である。災害拠点病院は、24時間の救急対応、被災地からの重症患者の受け入れ、DMAT(災害派遣医療チーム)の保有と派遣、ヘリポートの確保、耐震構造、自家発電設備や水・食料の備蓄などを要件とする。各都道府県に原則1か所以上の基幹災害拠点病院を置き、地域災害拠点病院は原則として二次医療圏ごとに1か所以上置かれる。
- ×b. 災害現場では医師は救急救命士の指揮下に入る。
誤り。関係が逆である。救急救命士法では、救急救命士は医師の指示の下で救急救命処置を行うと定められている。心肺機能停止患者への器具を用いた気道確保、静脈路確保と輸液、アドレナリン投与などの特定行為は、医師の具体的な指示がなければ行えない。災害時もこの関係は変わらない。医師は救急救命士に指示や助言を与える立場であり、救急救命士の指揮下で活動するわけではない。
- ×c. 防災体制を整備する地域的単位を二次医療圏と呼ぶ。
誤り。二次医療圏は、都道府県が医療計画で設定する区域である。救急医療を含めた一般的な入院医療を、おおむね完結して提供することを目標とする。複数の市町村をまとめて設定されることが多い。一次医療圏はおおむね市町村単位で日常的な外来診療を、三次医療圏は原則として都道府県単位で高度・特殊な医療を担う。二次医療圏はあくまで医療提供体制の区分であり、防災体制を整える単位を指す言葉ではない。防災計画は、災害対策基本法に基づいて国・都道府県・市町村がそれぞれ作成する。なお、地域災害拠点病院の配置などでは二次医療圏が目安として使われるが、それによって二次医療圏が防災の単位として定義されるわけではない。
- ○d. トリアージは医師以外の医療職も行うことができる。
正しい。トリアージは医師だけに認められた行為ではない。看護師、救急救命士、救急隊員などもトリアージを行う。多数の傷病者が出た現場では、先に到着した救急隊が一次トリアージを始めることが多い。その際には、START法(Simple Triage And Rapid Treatment)のように、歩行の可否、呼吸、循環(橈骨動脈の触知や毛細血管再充満時間)、意識(簡単な指示に従えるか)で短時間に判定する方法が使われる。判定結果はトリアージタッグで赤(最優先治療群)、黄(待機的治療群)、緑(保留群)、黒(死亡または救命困難群)に区分する。トリアージは一度で終わりではなく、状態の変化に合わせて繰り返し行う。
- ×e. 災害医療とは災害時健康危機管理支援チーム〈DHEAT〉の医療活動のことである。
誤り。災害医療とは、災害時に地域の医療ニーズに応えるための医療活動全体を指す。特定のチームの活動に限った概念ではない。DMAT、災害拠点病院、医師会のJMAT(日本医師会災害医療チーム)、DPAT(災害派遣精神医療チーム)、保健師チーム、地元の医療機関など、多くの主体が関わる。さらにDHEAT(Disaster Health Emergency Assistance Team)は、患者の診療を主な任務とするチームではない。DHEATは、都道府県や指定都市の職員のうち専門研修を受けた者で編成される。公衆衛生医師、保健師、薬剤師、獣医師、管理栄養士、業務調整員などが加わる。被災した都道府県の保健医療福祉調整本部や保健所に応援に入り、情報収集・分析、支援資源の配分調整など、保健医療行政の指揮調整機能を補佐する。活動期間はおおむね1週間から数か月程度である。
災害医療に関わる主なチーム
・DMAT(Disaster Medical Assistance Team、災害派遣医療チーム): 急性期(おおむね48時間以内)から活動できる機動性をもつ。専門研修を受けた医師、看護師、業務調整員(ロジスティクス担当)で構成される。現場活動、病院支援、広域医療搬送などを行う。 ・DPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team、災害派遣精神医療チーム): 被災地の精神科医療と精神保健活動を支援する。 ・JMAT(Japan Medical Association Team、日本医師会災害医療チーム): 主に急性期以降の避難所や救護所の医療、地域医療の支援を担う。 ・DHEAT(災害時健康危機管理支援チーム): 保健医療行政の指揮調整機能を応援する。直接の診療が主な役割ではない。
災害拠点病院
・都道府県が指定する。基幹災害拠点病院は原則として都道府県ごとに1か所以上、地域災害拠点病院は原則として二次医療圏ごとに1か所以上置かれる。 ・主な要件: 24時間の救急対応、重症傷病者の受け入れと搬送、DMATの保有、ヘリポート、耐震構造、自家発電、水・食料・医薬品の備蓄、EMIS(広域災害救急医療情報システム)への参加など。
医療圏
・一次医療圏: 市町村単位。日常的な外来医療。 ・二次医療圏: 複数の市町村を単位とする。一般的な入院医療(救急を含む)をおおむね完結させる区域。 ・三次医療圏: 原則として都道府県単位。高度・特殊な医療。
災害医療の基本原則 CSCATTT
Command & Control(指揮・統制)、Safety(安全)、Communication(情報伝達)、Assessment(評価)が体制づくりにあたる。Triage(トリアージ)、Treatment(治療)、Transport(搬送)が医療支援にあたる。
POINT
・災害拠点病院を指定するのは都道府県である(市区町村ではない)。 ・救急救命士は医師の指示の下で救急救命処置を行う。医師が救急救命士の指揮下に入ることはない。 ・二次医療圏は一般的な入院医療を完結させるための区域であり、防災の単位ではない。 ・トリアージは医師以外(看護師、救急救命士、救急隊員など)も行う。 ・DHEATは保健医療行政の指揮調整を支援するチームである。災害医療はDMATなど多くの主体による医療活動全体を指す。
