肝腫瘤のMRIでも見るべきは肝臓ではない―ガドリニウム造影前の「腎」と「喘息」
第111回医師国家試験 E問題 第34問
国試問題にチャレンジ
腹部超音波検査で肝腫瘤を指摘された患者に対して,腹部ガドリニウム造影MRIを行うこととなった。 検査前に確認すべきなのはどれか。2つ選べ。
- a.腹水
- b.腎機能
- c.肝機能
- d.抗血小板薬の内服
- e.気管支喘息の既往
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ガドリニウム造影MRIの前に確認すべきなのは、撮影部位にかかわらず「腎機能」と「気管支喘息・アレルギー歴」です。ガドリニウム造影剤は主に腎から排泄されるため、eGFR 30未満の高度腎機能障害や透析、急性腎障害の患者では腎性全身性線維症(NSF)の危険があり、原則として使用を避けます。気管支喘息や造影剤副作用歴、アレルギー疾患の既往は気管支痙攣やアナフィラキシーなど重篤な過敏反応の危険因子であり、問診で必ず確認します。一方、肝機能(肝特異性造影剤では画質に影響しうるものの安全性とは別の問題)、腹水、抗血小板薬は造影MRIの安全な施行を左右しません。「その検査で何が危険なのか」から確認項目を導く考え方は、造影CTを含むあらゆる検査オーダーの基本になります。
解答・解説
正解はb, eです
本問は、ガドリニウム造影剤を用いるMRI検査の前に、安全性の観点から何を確認すべきかを問う問題である。肝腫瘤の精査という設定だが、問われているのは造影剤の副作用リスクの評価である。 ガドリニウム造影剤の投与前に確認すべき事項は大きく二つに整理できる。 第一は腎機能である。ガドリニウム造影剤はほぼ全量が腎から排泄されるため、腎機能が高度に低下していると体内に長くとどまり、腎性全身性線維症(NSF)という重篤な合併症の危険が高まる。そのため、投与前に血清クレアチニン値から推算糸球体濾過量(eGFR)を求めておく。 第二はアレルギー様反応(過敏反応)の危険因子である。ガドリニウム造影剤による急性副作用の頻度はヨード造影剤より低いが、蕁麻疹から気管支痙攣、アナフィラキシーショックまで起こりうる。造影剤に対する過去の副作用歴、気管支喘息、アレルギー疾患の既往は危険因子であり、問診で必ず確認する。 これに対し、腹水の有無、肝機能、抗血小板薬の内服は、ガドリニウム造影MRIの安全な施行を左右する事項ではない。造影CTやヨード造影剤の注意事項とも共通する「腎機能」と「喘息・アレルギー歴」を押さえておけば正解できる。
選択肢考察
- ×a. 腹水
腹水は造影剤の副作用リスクを高める因子ではなく、造影MRIの施行可否にも関係しない。腹水があっても肝腫瘤の造影評価は可能であり、検査前に確認しておく必要はない。腹水が問題となるのは、むしろ腹腔穿刺や肝生検などの侵襲的手技を行う場合である。
- ○b. 腎機能
ガドリニウム造影剤は主に腎から排泄されるため、腎機能が低下すると排泄が遅れ、体内に残ったガドリニウムが遊離して組織に沈着し、腎性全身性線維症(NSF:nephrogenic systemic fibrosis)を引き起こすことがある。NSFは皮膚の硬化・肥厚や関節拘縮で始まり、筋・心・肺などの内臓にも線維化が及びうる、治療法の確立していない重篤な疾患である。危険が高いのはeGFR 30 mL/分/1.73m²未満の高度腎機能障害患者、透析患者、急性腎障害の患者であり、これらでは原則としてガドリニウム造影剤の使用を避け、どうしても必要な場合は他の検査法を十分検討したうえで、NSFの危険の低い製剤(環状型など)を最小量用いる。また、腎機能低下患者では排泄遅延により腎機能がさらに悪化するおそれもある。したがって、検査前に血清クレアチニン値とeGFRを確認しておく必要がある。
- ×c. 肝機能
ガドリニウム造影剤は肝障害をほとんど起こさず、肝機能低下によって副作用の危険が高まることもないため、安全性の確認項目としては不要である。なお、肝腫瘤の精査ではガドキセト酸ナトリウム(Gd-EOB-DTPA)という肝細胞に取り込まれて胆汁中にも排泄される肝特異性造影剤がよく用いられ、肝機能が高度に低下していると肝細胞相での造影効果が弱まって画像の評価が難しくなることがある。しかしこれは画質・診断能の問題であり、検査を安全に行えるかどうかを判断するために確認すべき事項ではない。
- ×d. 抗血小板薬の内服
造影MRIで必要な侵襲は、末梢静脈に留置針を刺して造影剤を静注することだけである。この程度の手技は抗血小板薬や抗凝固薬の内服中でも安全に行え、休薬の必要はない。抗血栓薬の内服確認が重要になるのは、内視鏡的切除、生検、穿刺、血管造影など出血の危険を伴う手技を行う場合である。
- ○e. 気管支喘息の既往
気管支喘息の患者では、ガドリニウム造影剤による気管支痙攣やアナフィラキシー様反応などの重篤な過敏反応が起こりやすいことが知られている。添付文書でも、気管支喘息の患者には他の検査法の検討を含めて必要性を慎重に判断し、投与する場合は副作用に対応できる体制を整えて慎重に投与するよう注意が促されている。かつての添付文書ではヨード造影剤と同様に「原則禁忌」とされていた。また、ガドリニウム造影剤に対する過敏症の既往は禁忌であり、アレルギー疾患の既往やヨード造影剤での副作用歴も危険因子となる。いずれも事前の問診で確認すべき事項である。
ガドリニウム造影剤の概要
ガドリニウム(Gd)は常磁性体であり、周囲の水素原子核のT1緩和時間を短縮させるため、造影されるとT1強調像で高信号となる。遊離したGdイオンは毒性が強いので、キレート剤と結合させた製剤として用いる。キレートの構造により線状型と環状型(マクロ環型)があり、環状型のほうが安定でGdが遊離しにくい。
主な副作用と注意点
・急性副作用:悪心・嘔吐、蕁麻疹、まれに気管支痙攣やアナフィラキシーショック。頻度はヨード造影剤より低いが、喘息・アレルギー歴・造影剤副作用歴がある患者ではリスクが高い。 ・腎性全身性線維症(NSF):高度腎機能障害(eGFR 30未満)、透析患者、急性腎障害で問題となる。2000年代半ばに報告され、腎機能に応じた使用制限が定められて以降、新規発生は大きく減少した。 ・脳などへのGd沈着:繰り返し投与により淡蒼球や歯状核などにGdが沈着することが報告されており(特に線状型)、臨床的意義は明らかでないが、必要性を考えて投与することが求められる。 ・妊婦への投与は必要性が高い場合に限る。
肝特異性造影剤(Gd-EOB-DTPA)
静注後早期には通常の細胞外液性造影剤と同様にダイナミック撮影で血流評価ができ、約20分後の肝細胞相では正常肝細胞に取り込まれて肝実質が高信号となる。肝細胞機能をもたない病変(転移性肝癌、多くの肝細胞癌など)は相対的に低信号となり、小病変の検出に優れる。
ヨード造影剤(造影CT)との比較
ヨード造影剤でも投与前に腎機能(造影剤腎症の予防)と喘息・アレルギー歴を確認する点は共通である。加えて、ヨード造影剤ではビグアナイド系糖尿病薬内服による乳酸アシドーシスや、甲状腺疾患への影響にも注意する。
POINT
・ガドリニウム造影剤投与前に確認すべきは「腎機能(eGFR)」と「喘息・アレルギー歴・造影剤副作用歴」。 ・高度腎機能障害(eGFR 30未満)、透析、急性腎障害では腎性全身性線維症(NSF)の危険があり、原則使用を避ける。 ・気管支喘息の既往は重篤な過敏反応の危険因子。 ・肝機能、腹水、抗血小板薬は造影MRIの安全性には関係しない。
