手のX線は語る「からだの時計」―骨年齢を遅らせるホルモン、進めるホルモン
第111回医師国家試験 E問題 第33問
国試問題にチャレンジ
骨年齢が遅延するのはどれか。
- a.単純性肥満
- b.性早熟症〈思春期早発症〉
- c.中枢性尿崩症
- d.甲状腺機能低下症
- e.先天性副腎皮質過形成
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
骨年齢は、手のエックス線写真で骨化中心の出現や骨端線の閉鎖をみて骨の成熟度を評価する指標で、主に甲状腺ホルモンと性ステロイドによって進みます。そのため、甲状腺ホルモンが不足する甲状腺機能低下症では骨年齢が遅延し、成長率低下や低身長をきたしますが、補充療法によりキャッチアップ成長が期待できます。一方、思春期早発症や21-水酸化酵素欠損症などの先天性副腎皮質過形成では性ステロイド過剰により骨年齢が促進し、骨端線の早期閉鎖で最終身長は低くなります。単純性肥満では骨年齢は軽度促進し、中枢性尿崩症はADH欠乏のみでは骨年齢に影響しません。成長曲線と骨年齢を組み合わせて評価する考え方は、低身長の鑑別や内分泌疾患の早期発見に欠かせない臨床の基本です。
解答・解説
正解はdです
本問は、小児の成長評価に用いる骨年齢が、どの疾患で遅延・促進するかを問う問題である。 骨年齢とは、骨の成熟度を暦年齢に換算したもので、日本では通常、左手(手根骨・中手骨・指節骨と橈骨・尺骨遠位端)のエックス線写真を用いて、骨化中心(骨核)の出現・形態や骨端線の閉鎖の程度から判定する(TW2法の日本人標準などが用いられる)。骨の成熟を進める主なホルモンは甲状腺ホルモンと性ステロイド(エストロゲン、アンドロゲン)であり、成長ホルモン(GH)・IGF-1も成熟に関与する。したがって、 ・甲状腺ホルモン、性ステロイド、GHが不足する状態では骨年齢は遅延する ・性ステロイドや甲状腺ホルモンが過剰な状態では骨年齢は促進する と整理できる。 選択肢のうち、性ステロイド(あるいは副腎アンドロゲン)が過剰となる思春期早発症と多くの先天性副腎皮質過形成、およびIGF-1作用が相対的に高まる単純性肥満では骨年齢は促進する。中枢性尿崩症は抗利尿ホルモン(ADH)の欠乏であり、それ単独では骨成熟に影響しない。甲状腺ホルモンが不足する甲状腺機能低下症が、骨年齢の遅延をきたす疾患である。
選択肢考察
- ×a. 単純性肥満
単純性肥満(基礎疾患のない肥満)の小児では、身長の伸びがむしろ良好で、骨年齢は軽度促進し、思春期の開始も早まる傾向がある。肥満ではGH分泌自体は低下するが、GH結合蛋白の増加やインスリン高値などによりIGF-1の作用は保たれるかやや高まり、さらに脂肪組織でアンドロゲンからエストロゲンへの変換(アロマターゼ)が増えることが、成長・成熟促進に関わると考えられている。これに対し、内分泌疾患による症候性肥満(甲状腺機能低下症、Cushing症候群、GH分泌不全など)では身長の伸びが悪く骨年齢が遅れることが多く、「肥満+低身長・成長率低下」は症候性肥満を疑う手がかりになる。
- ×b. 性早熟症〈思春期早発症〉
思春期早発症では、年齢不相応に早期から性ステロイド(エストロゲンやアンドロゲン)が増加するため、骨成熟が加速し骨年齢は促進する。一時的に身長の伸びが加速して同年齢の子より背が高くなるが、骨端線(成長軟骨板)が早期に閉鎖するため、最終身長はかえって低くなる。中枢性思春期早発症ではGnRHアナログ製剤により性腺系を抑制して骨成熟の進行を抑え、最終身長の低下を防ぐ治療が行われる。
- ×c. 中枢性尿崩症
中枢性尿崩症は視床下部・下垂体後葉からのバソプレシン(ADH)の分泌低下により、多尿・口渇・多飲をきたす疾患である。ADHは骨成熟に関与しないため、尿崩症単独では骨年齢は変化しない。ただし、胚細胞腫やLangerhans細胞組織球症などの器質的病変が原因の場合、下垂体前葉機能低下(GH分泌不全やゴナドトロピン分泌不全)を合併することがあり、その場合には前葉機能低下の影響で成長障害や骨年齢遅延が生じうる。小児の中枢性尿崩症では原因検索と前葉機能の評価が重要である。
- ○d. 甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンは軟骨内骨化と骨端核の成熟に不可欠であり、またGH分泌やIGF-1作用にも関与する。そのため甲状腺機能低下症では骨成熟が著しく遅れ、骨年齢は遅延し、成長率低下・低身長をきたす。先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)では、新生児の膝のエックス線写真で大腿骨遠位端の骨核が欠如または小さいことが、胎児期からの甲状腺ホルモン不足を示す所見とされる。後天性の場合も、骨年齢の遅れの程度は発症時期を推定する手がかりになり、骨年齢は暦年齢よりむしろ身長年齢に近いことが多い。逆に甲状腺中毒症(Basedow病など)では骨年齢は促進する。治療(レボチロキシン補充)によりキャッチアップ成長がみられる。
- ×e. 先天性副腎皮質過形成
先天性副腎皮質過形成(CAH)は、副腎のステロイド合成酵素の先天的欠損により、コルチゾールが不足し、ACTH過剰分泌で副腎が過形成となる常染色体潜性(劣性)遺伝疾患群である。最も多い21-水酸化酵素欠損症(約9割)や11β-水酸化酵素欠損症では、合成経路が副腎アンドロゲン側へ偏ってアンドロゲンが過剰となり、骨年齢は促進する。小児期に背が高くても骨端線が早期閉鎖して最終身長は低くなる。リポイド副腎過形成や17α-水酸化酵素欠損症など性ステロイド合成が障害される病型では骨年齢促進はみられないが、これらはまれであり、疾患全体としては骨年齢促進の代表疾患と考えてよい。
骨年齢に影響する主な病態
遅延:甲状腺機能低下症、成長ホルモン分泌不全性低身長症、性腺機能低下症(思春期遅発症)、体質性思春期遅発症、Cushing症候群・ステロイド長期投与、慢性疾患(慢性腎臓病、炎症性腸疾患など)、低栄養、愛情遮断症候群 促進:思春期早発症、先天性副腎皮質過形成(21-水酸化酵素欠損症など)、副腎・性腺のアンドロゲン/エストロゲン産生腫瘍、甲状腺機能亢進症、単純性肥満 変化しにくい:家族性低身長、Turner症候群(小児期はほぼ年齢相当で、思春期年齢以降は性腺機能不全により遅延)など
低身長の鑑別における骨年齢
家族性低身長では骨年齢は暦年齢とほぼ一致し、最終身長も親の身長から予測される範囲内に収まる。体質性思春期遅発症では骨年齢は遅れるが、思春期が遅れて始まるため最終的には正常身長に達することが多い。内分泌疾患による低身長(甲状腺機能低下症、GH分泌不全)では骨年齢の遅れが目立つ。
性ステロイド過剰と最終身長
性ステロイドは成長スパートを起こすと同時に骨端線の閉鎖を促す。過剰な状態が早期から続くと、小児期には高身長でも成長期間が短縮し、最終身長は低くなる。
POINT
・骨年齢は主に甲状腺ホルモンと性ステロイドで進み、これらの不足で遅延、過剰で促進する。 ・甲状腺機能低下症は骨年齢遅延の代表(先天性では大腿骨遠位端骨核の欠如・小ささ)。甲状腺中毒症では逆に促進。 ・思春期早発症、21-水酸化酵素欠損症などのCAH、単純性肥満では骨年齢は促進し、性ステロイド過剰では最終身長が低くなる。 ・中枢性尿崩症(ADH欠乏)単独では骨年齢は変化しない。
