StudyMed医師国家試験

「復唱」は記憶の入り口―高齢者総合機能評価で評価項目と領域を結びつける

第111回医師国家試験 E問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第111回 E問題 第23問

高齢者総合機能評価〈CGA〉の構成要素とその評価項目との組合せで正しいのはどれか。

  1. a.認知機能 ―― 復唱
  2. b.運動機能 ―― 言語流暢性
  3. c.気分・意欲 ―― 遅延再生
  4. d.基本的日常生活動作〈ADL〉 ―― 食事の準備
  5. e.手段的日常生活動作〈IADL〉 ―― 階段の昇降

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者総合機能評価、いわゆるCGAの構成要素と評価項目の対応を問う問題だ。ポイントは、それぞれの評価項目が「もともとどの検査尺度から来ていて、何をみているのか」を考えること。まずCGAとは何か、説明できるかな。
医学生医学生
高齢者を病気だけでなく、生活機能や認知機能まで含めて評価する方法、ですよね。老年医学の講義で聞きました。
ドクタードクター
そうだね。疾患の診断だけでは、その人が家で暮らせるか、どんな支援が必要かはわからない。そこでADL、IADL、認知機能、気分・意欲、そして家族や経済状況、住環境といった社会的背景まで多面的に評価し、治療やケア、介護資源の調整につなげるのがCGAなんだ。日本では外来で数分でできる簡易版のCGA7がよく使われている。
医学生医学生
CGA7は、いろいろな尺度から1〜2問ずつ抜き出したもの、と聞いた気がします。
ドクタードクター
その理解で合っている。たとえば意欲は「自分から挨拶をするか」でVitality Indexから、認知機能は「3単語の復唱」と「遅延再生」で改訂長谷川式から、IADLは「交通機関を使って外出できるか」でLawtonの尺度から、ADLは入浴と排泄でBarthel Indexから、気分は「自分が無力だと思うか」で老年期うつ病評価尺度から取られている。これを踏まえて選択肢を見てみよう。
医学生医学生
復唱は、OSCEの練習で長谷川式をやったときの「桜・猫・電車」ですよね。認知機能の評価なので、この組合せは正しいと思います。
ドクタードクター
正解。3単語を聞かせてすぐ繰り返してもらう復唱は、注意力や即時記憶をみる課題で、MMSEにも含まれる。CGA7では、復唱ができなければ次の遅延再生は省略する決まりになっている。そもそも覚えられていなければ、思い出すこともできないからね。
医学生医学生
遅延再生は、少し時間をおいてからさっきの3単語を思い出してもらう課題ですね。でも、意欲がないと答えようとしないので、気分・意欲の評価にも使えそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そう迷う気持ちはわかる。確かに意欲や抑うつは検査の成績に影響しうるけれど、遅延再生そのものが評価しているのは近時記憶、つまり認知機能なんだ。アルツハイマー型認知症では早い段階から障害されやすい重要な項目だよ。気分・意欲は、「自分が無力だと思うか」「自分から挨拶をするか」といった質問で評価する。
医学生医学生
言語流暢性も長谷川式にありましたよね。野菜の名前をできるだけ挙げるもの。口を動かすから運動機能、というのは違いますか。
ドクタードクター
そこがひっかけだね。言語流暢性は、言葉を思い出す力や、効率よく探索する遂行機能など、前頭葉機能を中心とした認知機能をみる検査だ。発語の運動能力をみているわけではない。それにCGAの標準的な構成要素には「運動機能」という独立した領域はなく、CGA7にも運動機能の項目はない。二重の意味で誤りだ。
医学生医学生
残りはADLとIADLの区別ですね。食事の準備は、食事だからADLかなと思ったんですが…。
ドクタードクター
そこは多くの人がつまずく。基本的ADLは食事をとる、整容、更衣、入浴、排泄、移乗、歩行、階段昇降など、毎日欠かせない身の回りの動作。一方IADLは、献立を考えて調理するような、道具や判断が必要な応用的な活動だ。「食べる」はADL、「食事を準備する」はIADL。Lawtonの尺度でも食事の準備はIADLの項目に入っている。
医学生医学生
逆に、階段の昇降はBarthel Indexに入っていたので、IADLではなくADLですね。
ドクタードクター
その通り。Barthel Indexは食事、移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行、階段昇降、更衣、排便・排尿コントロールの10項目で100点満点。IADLは電話、買い物、食事の準備、家事、洗濯、交通機関の利用、服薬管理、金銭管理の8項目で整理しておこう。
医学生医学生
ADLは体を使う動作、IADLは頭と道具も使う生活の段取り、とイメージすると覚えやすそうです。
ドクタードクター
いい整理だね。臨床的に大事なのは、高齢者の機能低下はたいていIADLから先に現れて、進行するとADLに及ぶということ。だから「最近、薬の飲み忘れが増えた」「買い物で同じものばかり買ってくる」といったIADLの変化は、認知症やフレイルの早期のサインとして見逃してはいけない。
医学生医学生
総合診療科の実習で、家族から「お金の管理ができなくなった」と相談された患者さんがいて、そこから認知症の評価につながっていました。
ドクタードクター
まさにその流れだ。CGA7はあくまでスクリーニングなので、問題がみつかった領域は、長谷川式やBarthel Index、老年期うつ病評価尺度など元の尺度で詳しく評価する。そのうえで介護保険の利用や家族の介護負担まで含めて支援を組み立てていくんだ。

まとめ

高齢者総合機能評価(CGA)は、ADL・IADL・認知機能・気分・意欲・社会的背景を多面的に評価し、治療やケア、介護資源の調整につなげる手法で、日常診療では簡易版のCGA7が用いられます。復唱と遅延再生はいずれも改訂長谷川式由来の認知機能の評価項目であり、言語流暢性も前頭葉機能を中心とした認知機能の検査で、運動機能の評価ではありません。食事の準備・交通機関の利用・服薬管理などはIADL、入浴・排泄・階段昇降・食事の摂取などは基本的ADL(Barthel Index)に分類されます。高齢者の機能低下はIADLから現れることが多く、その変化は認知症やフレイルの早期徴候となるため、評価項目と領域を正しく対応させて理解しておくことが、高齢者診療での適切な支援につながります。

解答・解説

正解はaです

高齢者総合機能評価〈comprehensive geriatric assessment:CGA〉は、高齢者を疾患の有無だけでなく、生活機能・精神心理機能・社会的状況まで含めて多面的に評価し、治療やケアの方針、介護資源の調整に結び付けるための手法である。代表的な評価領域は、基本的日常生活動作〈ADL〉、手段的日常生活動作〈IADL〉、認知機能、気分・意欲(抑うつや活動意欲)、社会的背景(家族・介護者・経済状況・住環境)である。 わが国では日常診療で短時間に実施できるスクリーニングとして、7項目からなる簡易版CGA7が広く用いられている。各項目は既存の評価尺度から1〜2問ずつ抜き出したものであり、どの尺度に由来し、どの領域を評価しているかを対応させて覚えることが本問を解く鍵となる。 ・意欲:自分から挨拶をするか(Vitality Index) ・認知機能:3単語の復唱(改訂長谷川式簡易知能評価スケール〈HDS-R〉) ・IADL:交通機関を利用して外出できるか(Lawton & BrodyのIADL尺度) ・認知機能:3単語の遅延再生(HDS-R) ・ADL:入浴(Barthel Index) ・ADL:排泄(Barthel Index) ・気分(情緒):自分が無力だと思うか(老年期うつ病評価尺度〈GDS〉) 各選択肢の評価項目が、本来どの領域を評価するためのものかを考えれば、正しい組合せは「認知機能―復唱」だけであると判断できる。

選択肢考察

  1. ○a.  認知機能 ―― 復唱

    「桜・猫・電車」のような3つの単語を言わせて繰り返させる復唱は、HDS-Rや簡易精神状態検査〈MMSE〉にも含まれる課題で、注意力や即時記憶(直前に聞いた情報を保持する力)をみる認知機能の評価項目である。CGA7でも認知機能を評価する項目として採用されており、この組合せは正しい。なお、CGA7では復唱ができなければ、続く遅延再生の質問は省略する。

  2. ×b.  運動機能 ―― 言語流暢性

    言語流暢性(例:1分間に野菜の名前をできるだけ多く挙げる)は、HDS-Rの1項目にもなっている課題で、語の想起や遂行機能など前頭葉機能を中心とした認知機能をみる検査である。運動機能を評価するものではない。また、CGAの標準的な構成要素(ADL・IADL・認知・気分・意欲・社会的背景)として「運動機能」という独立した領域は設けられておらず、CGA7にも運動機能の項目はない。いずれの点からも誤りである。

  3. ×c.  気分・意欲 ―― 遅延再生

    遅延再生は、先に覚えてもらった単語を、別の課題を挟んで一定時間経った後に思い出してもらう課題で、近時記憶をみる認知機能の評価項目である。アルツハイマー型認知症では早期から障害されやすい。気分・意欲は、CGA7ではGDS由来の「自分が無力だと思うか」(気分)や、Vitality Index由来の「自分から挨拶をするか」(意欲)で評価する。したがって誤りである。

  4. ×d.  基本的日常生活動作〈ADL〉 ―― 食事の準備

    食事の準備(献立を考え、調理し、配膳すること)は、Lawton & BrodyのIADL尺度に含まれる項目であり、手段的日常生活動作〈IADL〉に分類される。基本的ADLは食事(摂食動作そのもの)、整容、更衣、入浴、排泄、移乗、歩行などの身の回り動作であり、CGA7では入浴と排泄で評価する。「食事をとる」はADLだが「食事を準備する」はIADLである点を区別する必要がある。

  5. ×e.  手段的日常生活動作〈IADL〉 ―― 階段の昇降

    階段の昇降は、Barthel Indexの評価項目の一つであり、基本的日常生活動作〈ADL〉に分類される。IADLは、電話の使用、買い物、食事の準備、家事、洗濯、交通機関の利用、服薬管理、金銭管理など、地域で自立して暮らすために必要なより複雑な活動を指し、CGA7では交通機関の利用で評価する。したがって誤りである。

ADLとIADLの違い

基本的ADL(basic ADL)は、日常生活を送るうえで毎日欠かせない身の回りの動作である。代表的な評価尺度はBarthel Index(食事、移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行、階段昇降、更衣、排便コントロール、排尿コントロールの10項目、満点100点)やKatz Indexである。 手段的ADL(instrumental ADL:IADL)は、道具や判断を必要とし、社会の中で自立して生活するための応用的な動作である。Lawton & Brodyの尺度では、電話の使用、買い物、食事の準備、家事、洗濯、移動・外出(交通機関の利用)、服薬管理、金銭管理の8項目を評価する。 一般に高齢者の機能低下はIADLから先に現れ、進行するとADLの低下に及ぶ。そのためIADLの低下は、認知症やフレイルの早期徴候として重要である。

CGAで用いられる主な評価尺度

・認知機能:HDS-R(30点満点、20点以下で認知症を疑う)、MMSE(30点満点、23点以下で認知症を疑う) ・気分(抑うつ):老年期うつ病評価尺度〈GDS〉(短縮版の15項目版がよく用いられる) ・意欲:Vitality Index(起床、意思疎通、食事、排泄、リハビリ・活動の5項目) ・ADL:Barthel Index、Katz Index ・IADL:Lawton & Brodyの尺度 ・社会的背景:家族構成、主介護者、介護負担、経済状況、住環境、介護保険の利用状況など

CGA7の位置付け

CGA7は、外来や病棟、訪問診療の場で数分程度で実施できるスクリーニング用の簡易評価である。いずれかの項目で問題がみられた場合には、その領域について元の尺度(Barthel Index、HDS-R、GDSなど)を用いた詳しい評価へと進む。

POINT

・CGAの主な構成要素は、ADL、IADL、認知機能、気分・意欲、社会的背景である。 ・復唱と遅延再生は、いずれもHDS-R由来の認知機能の評価項目である。 ・言語流暢性も認知機能(前頭葉機能)の評価であり、運動機能の評価ではない。 ・食事の準備・交通機関の利用・買い物・服薬管理・金銭管理などはIADLである。 ・入浴・排泄・階段昇降・食事(摂食)・更衣などは基本的ADLである(Barthel Index)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。