ミルクのように白い血清―濁りが教えるカイロミクロンの増加
第111回医師国家試験 E問題 第17問
国試問題にチャレンジ
遠心分離した血液検体を別に示す。 この検体が示唆するのはどれか。

- a.HDLの増加
- b.LDLの増加
- c.リン脂質の増加
- d.遊離脂肪酸の増加
- e.カイロミクロンの増加
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
遠心分離した血清が乳白色に混濁する乳び血清は、光を散乱させる大きなリポ蛋白、すなわちTGに富むカイロミクロンやVLDLの増加を示し、上層にクリーム層をつくる外観はカイロミクロンの増加を強く示唆します。LDLやHDLは粒子が小さく、増加しても血清は透明であり、リン脂質や遊離脂肪酸の増加も白濁の原因にはなりません。カイロミクロンは食事由来の脂質を運ぶ最大・最軽のリポ蛋白で、食後にも増えるため脂質検査は空腹時採血が原則です。病的にはLPL欠損症などによるI型やV型の脂質異常症でみられ、血清静置試験で上層のクリーム層と下層の混濁を見分けることで表現型の推定に役立ちます。著しい高TG血症は急性膵炎のリスクとなるため、採血管の外観から病態を想起できることは臨床で大きな意味を持ちます。
解答・解説
正解はeです
画像の読み取り
血液を遠心分離すると、重い血球成分(赤血球など)が管の底に沈み、上澄みに血清が分離する。左の対照では、血清は黄色で透明であり、向こう側が透けて見える。これに対し右の検体では、血清部分全体が牛乳のように白く濁っており、上部ほどクリーム状の色調が強い。このように脂質のために血清が乳白色に混濁した状態を「乳び(乳び血清)」と呼ぶ。
血清が白く濁る理由
脂質は水に溶けないため、血中ではアポ蛋白・リン脂質に包まれたリポ蛋白という粒子として運ばれる。光を散乱させて血清を濁らせるのは、径の大きいリポ蛋白、すなわちトリグリセリド(中性脂肪、TG)を多く含む粒子である。 ・カイロミクロン:最も大きく(径およそ100〜1,000 nm)、比重が最も軽い。成分の大部分(約85〜90%)がTG。 ・VLDL(超低比重リポ蛋白):カイロミクロンより小さいが、やはりTGが主体。 ・LDL・HDL:粒子が小さく光をほとんど散乱しないため、増えても血清は透明のままである。 したがって、血清の白濁はTGに富むリポ蛋白の増加を意味し、強い乳びとクリーム状の外観はカイロミクロンの増加を最もよく示す。
カイロミクロンの増加をきたす状況
健常者でも脂肪の多い食事の後には一過性にカイロミクロンが増加し、血清が混濁しうる。病的なものとしては、リポ蛋白リパーゼ(LPL)欠損症などによる高カイロミクロン血症(WHO分類I型)や、カイロミクロンとVLDLがともに増加するV型の脂質異常症がある。このため脂質検査は原則として10時間以上の絶食後(空腹時)に採血する。 以上から、この検体が示唆するのはカイロミクロンの増加である。
選択肢考察
- ×a. HDLの増加
HDL(高比重リポ蛋白)はリポ蛋白の中で最も小さく比重が重い粒子で、末梢組織や血管壁の余分なコレステロールを肝臓へ戻す働き(コレステロール逆転送)を担う。粒子が小さくTGもわずかしか含まないため、増加しても血清は透明のままであり、白濁の原因にならない。
- ×b. LDLの増加
LDL(低比重リポ蛋白)はコレステロールを最も多く含む(重量の約40〜50%)リポ蛋白で、肝臓から末梢組織へコレステロールを運ぶ。粒子が小さいため、LDLが著しく増加する家族性高コレステロール血症(IIa型)などでも血清は透明である。血清の白濁はLDLの増加を示す所見ではない。
- ×c. リン脂質の増加
リン脂質は細胞膜の主要な構成成分であり、血中ではリポ蛋白の表面の膜を形づくっている。リン脂質単独の増加が血清を乳白色に混濁させることはなく、本検体の所見を説明するものではない。
- ×d. 遊離脂肪酸の増加
遊離脂肪酸は脂肪組織のTGが分解されて放出されるもので、血中では主にアルブミンと結合して運ばれ、筋などのエネルギー源として利用される。リポ蛋白粒子を形成しないため、増加しても血清の混濁は生じない。
- ○e. カイロミクロンの増加
カイロミクロンは小腸で吸収された食事由来(外因性)の脂質を運ぶリポ蛋白で、成分の大部分がTGであり、リポ蛋白の中で最も大きく最も軽い。大きな粒子が光を強く散乱するため、増加すると血清は乳白色に混濁し、静置すると比重の軽さから上層に浮いてクリーム層をつくる。本検体の乳白色でクリーム状の血清はカイロミクロンの増加を示唆する。
リポ蛋白の種類と特徴(大きい順=比重の軽い順)
・カイロミクロン:小腸で合成。食事由来のTGを末梢へ運ぶ。主成分はTG。 ・VLDL:肝臓で合成。肝臓で作られた内因性TGを末梢へ運ぶ。主成分はTG。 ・IDL(中間比重リポ蛋白):VLDLからTGが除かれて生じる中間体。 ・LDL:IDLからさらに生じる。主成分はコレステロールで、末梢へコレステロールを供給する。 ・HDL:肝臓・小腸で合成。末梢のコレステロールを肝臓へ回収する。 カイロミクロンとVLDLのTGは、毛細血管内皮にあるLPLによって分解される。
WHO(Fredrickson)分類と血清の外観
・I型:カイロミクロン増加。冷蔵庫で一晩静置すると上層にクリーム層、下層は透明。 ・IIa型:LDL増加。血清は透明。 ・IIb型:LDLとVLDLの増加。軽度に混濁しうる。 ・III型:IDL(レムナント)増加。混濁。 ・IV型:VLDL増加。全体が混濁し、クリーム層はできない。 ・V型:カイロミクロンとVLDLの増加。上層にクリーム層、下層も混濁。 このように、血清を低温で静置したときに上層のクリーム層があればカイロミクロン、下層の混濁があればVLDLの増加を考える(血清静置試験)。
高カイロミクロン血症の臨床
TGが著しく高い(目安として1,000 mg/dLを超えるような)状態では急性膵炎のリスクが高まり、発疹性黄色腫や網膜脂血症(眼底の血管が白っぽく見える)がみられることがある。I型の原因としてLPL欠損症やアポC-II欠損症が知られる。
検査上の注意
乳びは食後の採血でも生じるため、脂質検査は空腹時採血が原則である。乳びの強い検体では、光学的な測定法を用いる検査項目に誤差が生じることがある。
POINT
・血清の乳白色混濁(乳び)=TGに富む大きなリポ蛋白(カイロミクロン、VLDL)の増加 ・静置して上層にクリーム層→カイロミクロン、下層の混濁→VLDL ・LDL・HDLは粒子が小さく、増えても血清は透明 ・カイロミクロンは食事由来TGを運ぶ最大・最軽のリポ蛋白で、食後にも増える→脂質検査は空腹時採血 ・著しい高TG血症は急性膵炎のリスク
