StudyMed医師国家試験

「とろみ」は時間を稼ぐ―高齢者の誤嚥を防ぐ姿勢・食形態・反射の基本

第111回医師国家試験 E問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第111回 E問題 第1問

高齢者の誤嚥予防に有効なのはどれか。

  1. a.顎を上げて食べる。
  2. b.鎮咳薬を投与する。
  3. c.仰臥位で食べる。
  4. d.食べ物にとろみをつける。
  5. e.固形物と水分を一緒に嚥下する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の誤嚥をどう防ぐかという、病棟でも在宅でも毎日のように出会うテーマだ。考える軸は4つ。姿勢、食べ物の性状、食べ方、そして誤嚥したときに外へ出す咳の反射。これを頭に置いて選択肢を見てみよう。まず、なぜ高齢者は誤嚥しやすいのかな。
医学生医学生
加齢で飲み込む力が落ちるから、でしょうか。
ドクタードクター
それも一つ。咀嚼力や舌・咽頭の筋力が落ち、喉頭の位置も下がる。加えて大事なのが嚥下反射と咳反射の低下だ。脳血管障害、とくに大脳基底核の病変があるとドパミンやサブスタンスPが減り、反射が鈍くなる。さらに認知症やパーキンソン病、睡眠薬や抗精神病薬の影響も重なる。
医学生医学生
生理学の講義で、嚥下のときは喉頭が挙上して喉頭蓋が気道にふたをすると習いました。
ドクタードクター
その仕組みが一瞬で起こるのがポイントなんだ。反射が遅れがちな高齢者では、食べ物が咽頭を通過するスピードと、気道が閉じるタイミングがずれやすい。だから「食べ物の流れをゆっくりにする」ことが効いてくる。ここまで来ると答えが見えてくるね。
医学生医学生
食べ物にとろみをつけるのが正解ですね。水やお茶だとさらさら流れて、反射が間に合わないうちに気管に入ってしまう。
ドクタードクター
その通り。とろみをつけると食べ物がまとまった塊になり、咽頭をゆっくり均一に通るので、喉頭の閉鎖が間に合う。とろみ調整食品を飲み物や汁物に加えるのが一般的だ。ただし、濃すぎるとべたついて咽頭に残りやすいから、嚥下機能に応じて濃さを調整する。
医学生医学生
内科の病棟実習で、看護師さんがお茶に粉を溶かしてとろみをつけていました。濃さにも段階があるんですね。
ドクタードクター
そう、個別に決めるものなんだ。では他の選択肢を見ていこう。顎を上げて食べるのはどうだろう。
医学生医学生
顎を上げると喉が開いて、飲み込みやすそうな気もしますが……。
ドクタードクター
そこが誤解しやすいところ。OSCEの一次救命処置でやった頭部後屈あご先挙上を思い出してほしい。あれは気道を確保する、つまり空気の通り道をまっすぐ開く手技だ。食事中に同じ姿勢をとれば、食べ物も気管に入りやすくなる。誤嚥予防では逆に、顎を軽く引いた頸部前屈位で飲み込むよう指導するんだ。
医学生医学生
なるほど、気道確保の姿勢は誤嚥しやすい姿勢でもあるんですね。仰臥位で食べるのも同じく危なそうです。
ドクタードクター
そうだね。完全に寝た姿勢では重力の助けが得られず、食べ物が咽頭に残り、そのまま気管へ流れ込みやすい。基本は座位で、足底を床につけ、やや前かがみ。座位がとれない人ではベッドを30〜60度程度起こして顎を引く姿勢を組み合わせることはあるけれど、水平の仰臥位で食べることはない。
医学生医学生
鎮咳薬は、むせ込みを抑えてあげれば楽になるかと思ったのですが。
ドクタードクター
優しい発想だけど、ここは逆なんだ。咳は気道に入った異物を外に出す最も重要な防御反応。コデインのような中枢性鎮咳薬で抑えると、誤嚥した物が気道に残って誤嚥性肺炎を起こしやすくなる。むしろ食後には咳払いを促すくらいがいい。
医学生医学生
固形物と水分を一緒に飲み込むのも、性状が違うからまとまらない、ということですか。
ドクタードクター
その理解で合っている。水分が先に速く流れ込んで、反射が起こる前に気管に入ってしまう。味噌汁の具と汁、水分の多い果物なども同じ理由で誤嚥しやすい食品だ。固形物はよく噛んでから飲み込み、水分は別に、必要ならとろみをつけてとる。
医学生医学生
姿勢は座って顎を引く、食べ物はとろみでまとめる、少しずつゆっくり、咳は止めない、という整理ですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に発展知識を。誤嚥には、食事中にむせる顕性誤嚥と、睡眠中に唾液や口腔内細菌をむせずに少しずつ吸い込む不顕性誤嚥がある。高齢者の誤嚥性肺炎では不顕性誤嚥の関与が大きいから、口腔ケアが予防の柱になる。食後すぐに横にならないことも胃食道逆流の予防に大切だ。
医学生医学生
薬で反射を良くする方法もあるんでしょうか。
ドクタードクター
ACE阻害薬はサブスタンスPの分解を抑え、咳反射や嚥下反射を高める作用があるとされ、高血圧のある高齢者で選ばれることがある。一方で鎮静薬や抗精神病薬は反射を落とすので見直しの対象だ。そして対策を個別化するには、反復唾液嚥下テストや改訂水飲みテスト、嚥下造影や嚥下内視鏡で機能を評価することが欠かせない。

まとめ

高齢者は嚥下に関わる筋力の低下に加え、嚥下反射・咳反射が鈍くなるため、食べ物の咽頭通過と気道閉鎖のタイミングがずれて誤嚥しやすくなります。とろみをつけると食塊がまとまり咽頭をゆっくり通過するため、反射が間に合い誤嚥を防げます。一方、顎を上げる姿勢は気道確保と同じく気管への通り道を開き、仰臥位は重力の助けを失い、固形物と水分の同時嚥下は水分が先に流れ込み、鎮咳薬は異物を排出する防御反応を奪うため、いずれも誤嚥を助長します。予防の基本は座位・頸部前屈・とろみ・少量ずつゆっくり・咳反射を抑えないことで、不顕性誤嚥に対する口腔ケアや嚥下機能評価も重要です。誤嚥性肺炎は高齢者の主要な死因の一つであり、これらの原則はどの診療科でも役立つ実践的な知識です。

解答・解説

正解はdです

テーマ

高齢者は加齢に伴って嚥下に関わる筋力・感覚・反射が低下し、さらに脳血管障害や認知症、薬剤の影響も加わるため、誤嚥とそれによる誤嚥性肺炎を起こしやすい。食事中の誤嚥を防ぐ基本は、①姿勢(体幹と頸部の角度)、②食形態(食べ物の性状)、③食べ方(一口量・ペース・交互嚥下の注意など)、④誤嚥した物を出すための防御反応(咳)を保つこと、の4点である。

正解を導く考え方

嚥下の際には、喉頭が挙上し喉頭蓋が気道の入口をふさぐことで、食塊は気管ではなく食道へ送られる。この一連の動き(嚥下反射)は一瞬で起こるため、反射が遅れがちな高齢者では、食塊が咽頭を通過する速さと反射のタイミングを合わせることが重要になる。 ・食塊がまとまっていて、ゆっくり均一に流れること(とろみ付け、ゼリー状・ペースト状の食形態) ・気道の入口が狭まり、食道へ向かいやすい頸部の角度(軽い顎引き=頸部前屈位) ・重力を利用できる体幹の角度(座位またはやや起こした姿勢) ・誤嚥した物を咳で出せること(咳反射を抑えない) がそろうと誤嚥しにくい。各選択肢をこの原則に照らして判断する。

選択肢考察

  1. ×a.  顎を上げて食べる。

    誤嚥を増やす。顎を上げる(頸部伸展位)と、口腔・咽頭から気管への通り道がまっすぐに近くなり、気道の入口が開いた状態になる。心肺蘇生で気道確保に用いる頭部後屈あご先挙上と同じ理屈で、食べ物は気管に入りやすくなる。誤嚥予防には反対に、顎を軽く引いた頸部前屈位で飲み込むよう指導する。

  2. ×b.  鎮咳薬を投与する。

    誤嚥予防にならず、むしろ危険である。咳反射は気道に入った異物を外へ出す最も重要な防御機構であり、鎮咳薬(特にコデインなどの中枢性鎮咳薬)でこれを抑えると、誤嚥した物が気道に残り誤嚥性肺炎を起こしやすくなる。食後には咳払いを促すのがよい。なお、咳反射・嚥下反射を高める目的で、サブスタンスPの分解を抑えるACE阻害薬などが高血圧の高齢者で選択されることがある。

  3. ×c.  仰臥位で食べる。

    誤嚥・窒息の危険が高い。完全に寝た姿勢では重力の助けが得られず、食べ物が咽頭に残りやすく、残留物がそのまま気管へ流れ込みやすい。食事は座位で、背筋を伸ばし、足底を床につけ、やや前かがみの姿勢でとるのが基本である。座位がとれない患者では、ベッドを30〜60度程度起こした姿勢に頸部前屈を組み合わせることがあるが、水平の仰臥位で食べることはない。

  4. ○d.  食べ物にとろみをつける。

    有効である。水やお茶などのさらさらした液体は咽頭を速く流れ、高齢者の遅れがちな嚥下反射が間に合わずに気管へ入りやすい。とろみをつけると食べ物がまとまった塊(食塊)となり、咽頭をゆっくり均一に通過するため、喉頭の閉鎖が間に合い食道へ送り込みやすくなる。とろみ調整食品(増粘剤)を飲み物や汁物に加える方法が広く用いられる。ただし、とろみが強すぎるとべたついて咽頭に残留しやすくなるため、嚥下機能に応じて濃さを調整する。

  5. ×e.  固形物と水分を一緒に嚥下する。

    誤嚥しやすくなる。固形物と水分のように性状が異なるものを同時に口に入れると、まとまった食塊にならず、水分が先に速く流れ込んで嚥下反射の前に気管へ入りやすい。味噌汁の具と汁、水分の多い果物なども同様に誤嚥しやすい食品である。固形物は十分に咀嚼してから飲み込み、水分は別に(必要ならとろみをつけて)とる。

誤嚥の種類

・顕性誤嚥:食事中にむせるなど、誤嚥がはっきりわかるもの。 ・不顕性誤嚥:主に睡眠中に唾液や口腔内細菌、逆流した胃内容物を、むせることなく少しずつ誤嚥するもの。高齢者の誤嚥性肺炎では不顕性誤嚥の関与が大きい。

高齢者が誤嚥しやすい理由

・加齢による咀嚼力・舌の運動・咽頭の筋力の低下、喉頭の位置の下降。 ・嚥下反射・咳反射の低下(大脳基底核の脳血管障害などでドパミン・サブスタンスPが減少することが関与)。 ・脳血管障害、パーキンソン病、認知症などの神経疾患。 ・鎮静薬・睡眠薬・抗精神病薬など、意識レベルや反射を低下させる薬剤。 ・歯の喪失、口腔乾燥、口腔衛生の悪化。

誤嚥予防策の整理

・姿勢:座位(または30〜60度の半座位)、頸部前屈位(顎を引く)。食後すぐに横にならず、しばらく座位を保つ(胃食道逆流の予防)。 ・食形態:とろみ付け、ゼリー・ペースト・ムース状など、まとまりがよく、べたつかず、変形しやすい食品。ぱさぱさした物、さらさらの液体、固形と液体の混ざった物は避ける。 ・食べ方:一口量を少なくする、ゆっくり食べる、一口ごとに飲み込みを確認する、食事に集中できる環境にする。 ・口腔ケア:口腔内細菌を減らし、不顕性誤嚥による肺炎を予防する。 ・リハビリテーション:嚥下体操、舌・頬の運動、間接・直接嚥下訓練。 ・薬剤:咳反射・嚥下反射を抑える薬剤を避ける。ACE阻害薬は咳反射・嚥下反射を改善する作用があるとされる。 ・評価:反復唾液嚥下テスト、改訂水飲みテスト、嚥下造影検査(VF)、嚥下内視鏡検査(VE)などで嚥下機能を評価し、対策を個別に決める。

POINT

・誤嚥予防の基本は「座位・顎を引く・とろみをつける・少量ずつゆっくり・咳反射を抑えない」。 ・顎を上げる(頸部伸展)と気道が開き、誤嚥しやすい。 ・さらさらの液体や、固形物と水分の混合は誤嚥しやすい。 ・咳は気道の防御反応であり、鎮咳薬は誤嚥性肺炎のリスクを高める。 ・高齢者の誤嚥性肺炎には不顕性誤嚥が大きく関与し、口腔ケアが予防に有効である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。