握りしめた小さな手が語るもの―胎児超音波で見抜く18トリソミー
第111回医師国家試験 D問題 第38問
国試問題にチャレンジ
38歳の初産婦。妊娠34週の妊婦健康診査のため来院した。腹部超音波検査で胎児推定体重は1,500g,羊水ポケットは5cm,胎児の小脳低形成,心室中隔欠損,手関節屈曲および手指の重なりを認める。 この児に疑うべき疾患はどれか。
- a.18trisomy
- b.Down症候群
- c.Potter症候群
- d.Turner症候群
- e.Klinefelter症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
胎児発育不全に小脳低形成、心室中隔欠損、手関節屈曲と手指の重なりが組み合わさり、母体が高年である場合は、18トリソミー(Edwards症候群)を最も疑います。手指の重なりは特に特徴的で、ほかに苺状頭蓋、脈絡叢嚢胞、小顎症、食道閉鎖、揺り椅子状足底なども重要な所見です。Down症候群はNT肥厚や十二指腸閉鎖、Potter症候群は羊水過少を出発点とする変化、Turner症候群はcystic hygromaや大動脈縮窄症が手がかりとなり、Klinefelter症候群は胎児期に異常をほとんど示しません。胎児超音波所見から染色体異常を推定する力は、出生前検査や遺伝カウンセリングの場面で家族を支える基盤になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・母体: 38歳の初産婦。35歳以上の高年妊娠であり、卵子の減数分裂時の染色体不分離が増えるため、胎児のトリソミーの頻度が上昇する背景がある。 ・胎児発育: 妊娠34週で推定体重1,500gである。34週の標準的な胎児体重はおよそ2,200g前後であり、1,500gは明らかに小さい。胎児発育不全(FGR: fetal growth restriction)と判断する。 ・羊水量: 羊水ポケット(最大羊水深度)5cmは、正常範囲(おおむね2〜8cm)に収まる。羊水過少ではないため、腎無形成などによる羊水過少を中心とする病態は考えにくい。 ・形態異常: 小脳低形成、心室中隔欠損(VSD: ventricular septal defect)、手関節の屈曲、手指の重なり(overlapping finger)と、複数の臓器にわたる形態異常がある。
診断へのプロセス
FGRの原因は、胎児側の因子(染色体異常、先天奇形、胎内感染など)、胎盤・臍帯の因子、母体の因子(妊娠高血圧症候群、喫煙など)に大別される。FGRに加えて複数の形態異常、特に特徴的な形態異常が組み合わさっている場合は、まず胎児の染色体異常を考える。 本例の組み合わせのうち、手指の重なり(第2指が第3指に、第5指が第4指に重なるように握り込む形)と手関節の屈曲は18トリソミー(Edwards症候群)に非常に特徴的な所見である。さらに重度のFGR、小脳低形成、VSDもいずれも18トリソミーでよくみられる所見であり、高年妊娠という背景も合致する。したがって18トリソミーを最も疑う。
設問の考え方
選択肢には染色体異常(常染色体・性染色体)と、羊水過少に起因する症候群が並んでいる。「胎児期の超音波で何が見えるか」という観点で、それぞれの疾患の特徴的所見と本例の所見を照合すれば、一つに絞り込める。
選択肢考察
- ○a. 18trisomy
18番染色体が3本ある染色体異常(Edwards症候群)である。胎児期から高度のFGRを示すことが多く、超音波では苺状の頭蓋(strawberry skull)、脈絡叢嚢胞、小顎症、小脳低形成や大槽拡大、心奇形(VSD、心内膜床欠損症など)、食道閉鎖、横隔膜ヘルニア、臍帯ヘルニア、腎奇形、そして握りこぶしと手指の重なり(overlapping finger)、揺り椅子状足底(rocker-bottom foot)などが認められる。食道閉鎖を合併すると胎児が羊水を嚥下できず羊水過多となることがあるが、本例のように羊水量が正常でも否定はできない。本例の重度FGR、小脳低形成、VSD、手関節屈曲と手指の重なりはすべてこの疾患で説明でき、高年妊娠も危険因子として合致する。
- ×b. Down症候群
21トリソミーである。VSDや心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)などの先天性心疾患を高率に合併する点は共通するが、手関節屈曲や手指の重なりはDown症候群の特徴ではない。Down症候群の胎児超音波所見としては、妊娠初期の後頸部浮腫(NT: nuchal translucency)の肥厚、短頭、軽度の腎盂拡張、十二指腸閉鎖(double bubble sign)、高輝度腸管、大腿骨・上腕骨の短縮などがあるが、いずれも単独では診断的ではなく、超音波のみでの出生前診断の精度は高くない。また18トリソミーほど高度なFGRは通常示さない。出生後には甲状腺機能低下症、白血病、白内障、消化管奇形などの合併がみられる。
- ×c. Potter症候群
両側腎無形成(または高度の腎形成不全)によって胎児尿が産生されず、高度の羊水過少をきたすことで生じる一連の異常(Potterシークエンス)である。羊水がほとんどないため子宮内で胎児が圧迫され、特有の顔貌(Potter顔貌: 眼間開離、低い鼻、耳介低位、小顎など)、四肢の変形(内反足など)、肺低形成を生じる。本例は羊水ポケット5cmと羊水量が正常であり、腎の異常も記載されていないため合致しない。
- ×d. Turner症候群
X染色体が1本欠失する(45,Xなど)女性の性染色体異常である。低身長、性腺機能不全(原発性無月経)、翼状頸・外反肘などの外表奇形が主な特徴で、思春期の低身長や原発性無月経を契機に診断されることが多い。胎児期には妊娠初期の頸部の多房性嚢胞(cystic hygroma)や全身浮腫(胎児水腫)がみられることがあり、心奇形としては大動脈縮窄症が代表的である。小脳低形成や手指の重なりは特徴ではない。
- ×e. Klinefelter症候群
47,XXYを代表とする男性の性染色体異常である。高身長(手足が長い体型)、小精巣、無精子症による不妊、女性化乳房などが特徴で、成人期に男性不妊の精査で見つかることが多い。胎児期に超音波で異常を指摘されるような形態異常はほとんどなく、本例の多発形態異常やFGRとは合致しない。
主な常染色体トリソミーの比較
・21トリソミー(Down症候群): 出生約600〜800人に1人と最も多い。特有の顔貌、筋緊張低下、知的障害、心内膜床欠損症・VSD、十二指腸閉鎖、Hirschsprung病、甲状腺機能低下症、白血病などを合併する。長期生存が可能である。 ・18トリソミー(Edwards症候群): 出生約3,500〜8,000人に1人。女児に多い。重度の発育不全、握りこぶしと手指の重なり、揺り椅子状足底、小顎症、後頭部突出、心奇形(VSD、動脈管開存など)、食道閉鎖などを示す。生命予後は不良で、1年生存率は約10%とされるが、近年は積極的治療により長期生存例も報告されている。 ・13トリソミー(Patau症候群): 全前脳胞症、口唇口蓋裂、小眼球症、多指症、頭皮欠損、心奇形などを示す。予後は18トリソミーと同様に不良である。
高年妊娠と染色体異常
母体年齢が上がるほど卵子形成過程での染色体不分離の頻度が高まり、トリソミーの発生率が上昇する。出生前検査としては、非確定的検査(NT計測、母体血清マーカー検査、母体血を用いた無侵襲的出生前遺伝学的検査〈NIPT〉など)と確定的検査(絨毛検査、羊水検査)がある。
羊水量の評価
羊水ポケット(最大羊水深度)はおおむね2cm未満で羊水過少、8cm以上で羊水過多と判断する。羊水指数(AFI)では5cm以下が羊水過少、24〜25cm以上が羊水過多の目安である。羊水過多は胎児の嚥下障害(食道閉鎖、神経筋疾患)などで、羊水過少は胎児の尿産生障害(腎無形成、尿路閉塞)や前期破水などで生じる。
POINT
・手指の重なり(overlapping finger)+重度FGR+心奇形(VSD)→18トリソミー(Edwards症候群)を想起する。 ・18トリソミーの胎児超音波所見: 苺状頭蓋、脈絡叢嚢胞、小脳低形成・大槽拡大、小顎症、心奇形、食道閉鎖(→羊水過多)、横隔膜ヘルニア、臍帯ヘルニア、揺り椅子状足底。 ・Down症候群: NT肥厚、十二指腸閉鎖(double bubble)、心内膜床欠損症。 ・Potter症候群: 両側腎無形成→羊水過少→肺低形成、Potter顔貌、四肢変形。 ・Turner症候群: 胎児期のcystic hygroma、大動脈縮窄症。Klinefelter症候群は胎児期に形態異常をほとんど示さない。 ・高年妊娠ではトリソミーのリスクが上昇する。
