Philadelphia染色体を狙い撃つ―チロシンキナーゼ阻害薬が効く白血病はどれか
第111回医師国家試験 D問題 第17問
国試問題にチャレンジ
チロシンキナーゼ阻害薬が適応である疾患はどれか。2つ選べ。
- a.慢性骨髄性白血病
- b.本態性血小板血症
- c.慢性リンパ性白血病
- d.急性前骨髄球性白血病
- e.Philadelphia染色体陽性急性リンパ性白血病
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
Philadelphia染色体はt(9;22)転座で生じ、BCR-ABL1融合遺伝子が常に活性化したチロシンキナーゼを作ることで腫瘍化を引き起こします。これを阻害するイマチニブなどのTKIは、BCR-ABL1が病態の本体である慢性骨髄性白血病とPh陽性急性リンパ性白血病が適応で、いずれも予後を劇的に改善しました。本態性血小板血症はJAK2などの変異をもつPh陰性腫瘍で低用量アスピリンが中心、急性前骨髄球性白血病はPML-RARAが原因でATRAや亜ヒ酸で治療し、慢性リンパ性白血病ではBTK阻害薬が用いられますがBCR-ABL1は関与しません。「分子異常と標的薬を対応させる」視点は、分子標的治療が広がる造血器腫瘍の診療全体を理解する土台になります。
解答・解説
正解はa, eです
テーマ
チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor:TKI)を使う造血器腫瘍を問う問題である。造血器腫瘍の分子標的治療で「チロシンキナーゼ阻害薬」といえば、まずBCR-ABL1チロシンキナーゼ阻害薬を思い浮かべる。
考え方
Philadelphia(Ph)染色体は、9番染色体と22番染色体の相互転座 t(9;22)(q34;q11) によってできる短い22番染色体である。この転座で22番染色体のBCR遺伝子と9番染色体のABL1遺伝子がつながり、BCR-ABL1融合遺伝子ができる。ABL1はもともとチロシンキナーゼであり、BCRと融合すると調節を受けなくなって常に活性化した状態となる。その結果、細胞増殖のシグナルが入り続け、アポトーシス(細胞の自然死)も起こりにくくなって、腫瘍化の原因となる。 BCR-ABL1チロシンキナーゼのATP結合部位に結合して働きを止めるのがイマチニブなどのTKIである。したがって、BCR-ABL1が病気の本体になっている疾患、すなわち慢性骨髄性白血病(CML)とPh染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)が適応となる。 選択肢を見るときは、「その疾患の発症にかかわる分子異常は何か」「それを標的とする薬は何か」を対応させて考えるとよい。
選択肢考察
- ○a. 慢性骨髄性白血病
CMLはほぼ全例がPh染色体(BCR-ABL1融合遺伝子)陽性の骨髄増殖性腫瘍である。常に活性化したBCR-ABL1チロシンキナーゼが発症の中心なので、これを阻害するTKIがよく効き、第一選択の治療となる。第1世代のイマチニブに加え、第2世代のニロチニブ・ダサチニブ・ボスチニブ、T315I変異にも効く第3世代のポナチニブなどがある。TKIの登場でCML慢性期の予後は大きく改善し、多くの患者が一般人口に近い生存を期待できるようになった。
- ×b. 本態性血小板血症
本態性血小板血症(ET)はPh染色体陰性の骨髄増殖性腫瘍で、JAK2 V617F、CALR、MPLなどの遺伝子変異がみられるが、BCR-ABL1はない。治療の中心は血栓症の予防で、低用量アスピリンを用いる。血栓症のリスクが高い例(60歳以上や血栓症の既往がある例など)では、ヒドロキシカルバミド(ヒドロキシウレア)やアナグレリドで血小板数を下げる。BCR-ABL1 TKIの適応はない。
- ×c. 慢性リンパ性白血病
慢性リンパ性白血病(CLL)は成熟した小型のB細胞がゆっくり増える腫瘍で、BCR-ABL1は関係しない。無症状の早期例は経過観察とし、症状が出たり病期が進んだりしたら治療を始める。従来はフルダラビン、シクロホスファミド、抗CD20抗体のリツキシマブなどを組み合わせた化学免疫療法が中心だった。BCR-ABL1 TKIの適応がないので本問では誤りとする。ただし現在は、B細胞受容体からのシグナルを伝えるBTK(Bruton型チロシンキナーゼ)を阻害するイブルチニブやアカラブルチニブが標準治療の柱になっている。BTK阻害薬も広い意味ではチロシンキナーゼ阻害薬であることは知っておきたい(補足参照)。
- ×d. 急性前骨髄球性白血病
急性前骨髄球性白血病(APL)は t(15;17) 転座によるPML-RARA融合遺伝子が原因で、前骨髄球の段階で分化が止まる。治療は、レチノイン酸受容体に作用して分化を促す全トランス型レチノイン酸(ATRA)による分化誘導療法が基本である。これにアントラサイクリン系薬などの化学療法や亜ヒ酸(三酸化ヒ素)を組み合わせる。チロシンキナーゼ阻害薬は使わない。
- ○e. Philadelphia染色体陽性急性リンパ性白血病
成人ALLの約20〜30%はPh染色体陽性で、高齢になるほど割合が高い。BCR-ABL1チロシンキナーゼが腫瘍化にかかわる点はCMLと同じである。そのため寛解導入の段階から、イマチニブやダサチニブなどのTKIを多剤併用化学療法やステロイドと組み合わせる。TKIのない時代、Ph+ALLは最も予後の悪いALLとされていたが、TKIの併用で寛解率と生存率が大きく改善した。ポナチニブなどの新しいTKIや、二重特異性抗体ブリナツモマブとの併用も行われている。
BCR-ABL1チロシンキナーゼ阻害薬の世代
・第1世代:イマチニブ ・第2世代:ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ(イマチニブより強力で、イマチニブが効かない例や使えない例にも使う) ・第3世代:ポナチニブ(他のTKIが効かないT315I変異にも有効) ・その他:アシミニブ(ATP結合部位ではなくミリストイル結合部位に結合するアロステリック阻害薬。STAMP阻害薬と呼ばれる) 主な副作用には、骨髄抑制、浮腫・体液貯留(イマチニブ)、胸水(ダサチニブ)、QT延長・高血糖・膵酵素上昇(ニロチニブ)、下痢・肝障害(ボスチニブ)、動脈閉塞性イベント(ポナチニブ、ニロチニブ)などがある。
CMLの治療効果の判定
血液学的奏効(血球数の正常化)→ 細胞遺伝学的奏効(Ph陽性細胞の消失)→ 分子遺伝学的奏効(RT-PCR法で測ったBCR-ABL1 mRNAの減少)という3段階で評価する。BCR-ABL1が国際標準値(IS)で0.1%以下になった状態を分子遺伝学的大奏効(MMR)という。
造血器腫瘍の分子異常と分子標的治療
・CML、Ph+ALL:BCR-ABL1 → BCR-ABL1 TKI ・APL:PML-RARA → ATRA、亜ヒ酸 ・CLL、マントル細胞リンパ腫など:B細胞受容体シグナル → BTK阻害薬(イブルチニブなど) ・真性赤血球増加症、骨髄線維症:JAK2の活性化 → JAK阻害薬(ルキソリチニブ) ・FLT3変異陽性AML:FLT3 → FLT3阻害薬(ギルテリチニブ、キザルチニブなど) ・B細胞性リンパ腫など:CD20 → リツキシマブ(抗体薬であり、キナーゼ阻害薬ではない) BTK、JAK2、FLT3もチロシンキナーゼである。このため現在では「チロシンキナーゼ阻害薬」の範囲は広いが、国試で単に「チロシンキナーゼ阻害薬」とあれば、BCR-ABL1阻害薬を念頭に置いた出題であることが多い。
POINT
・Ph染色体 t(9;22) → BCR-ABL1融合遺伝子 → 常に活性化したチロシンキナーゼ ・BCR-ABL1 TKI(イマチニブなど)の適応はCMLとPh陽性ALLの2つ ・APLはPML-RARAが原因で、ATRAと亜ヒ酸で治療する ・ETは低用量アスピリンで血栓を予防し、高リスク例ではヒドロキシカルバミドなどで血小板数を下げる ・CLLは症状が出てから治療を始める。現在はBTK阻害薬が中心である
