「呼べば開く目、混乱した返事、従える手」―GCSを正確につける練習
第111回医師国家試験 C問題 第26問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,26と27の問いに答えよ。 32歳の男性。激しい頭痛と意識障害のため救急車で搬入された。 現病歴:1週間前から咽頭痛と38℃台の発熱とを自覚していたが,市販薬を内服して様子をみていた。昨日から頭部全体の頭痛を訴えていたが,今朝になって呼びかけに対する反応が鈍くなったため家族が救急車を要請した。 既往歴:3年前に交通事故で下顎骨骨折。歯科治療中。 生活歴:喫煙は20本/日を12年間。飲酒はビール1,000mL/日を週5回程度で12年間。 家族歴:特記すべきことはない。 現症:眼を閉じているが呼びかけると開眼する。簡単な質問には返答できるが内容が混乱している。手の挙上など簡単な命令には応じる。体温40.1℃。心拍数136/分,整。血圧126/72mmHg。SpO2 98%(マスク 5L/分酸素投与下)。項部硬直とKernig徴候を認める。その他の神経学的所見に異常を認めない。
この患者のGCSのスコアはどれか。
- a.E2V3M4
- b.E2V4M5
- c.E3V3M6
- d.E3V4M6
- e.E4V5M6
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
GCSは開眼(E1〜4)、最良言語反応(V1〜5)、最良運動反応(M1〜6)を別々に採点し、合計3〜15点と内訳で記載する意識評価法です。呼びかけで開眼すればE3、会話は成立するが見当識が障害された「混乱した会話」はV4、命令に従えればM6であり、本例はE3V4M6の13点、JCSではII-10に相当します。特にV4(混乱した会話)とV3(会話が成立しない不適当な言葉)、M5(疼痛部位に手をもっていく)とM4(逃避屈曲)の区別は間違えやすいポイントです。発熱・頭痛・意識障害に髄膜刺激徴候を伴う場合は細菌性髄膜炎を最優先に考え、血液培養後に速やかに抗菌薬を開始します。GCSを正確かつ繰り返し評価することは、救急・神経診療で病状の変化を共有し判断するための共通言語となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
32歳の男性。1週間前から咽頭痛と38℃台の発熱が続き、前日から頭部全体の頭痛が出現し、当日朝には呼びかけへの反応が鈍くなった。来院時は体温40.1℃、心拍数136/分と高熱と頻脈を認める。項部硬直とKernig徴候(仰臥位で股関節を90度屈曲させた状態から膝を伸ばそうとすると、抵抗や痛みで伸ばしきれない徴候)という髄膜刺激徴候があり、局所神経症状(巣症状)はない。
診断の考え方
上気道の感染症状と発熱に続いて頭痛が出現し、1日ほどで意識障害にまで進行した急性の経過である。髄膜刺激徴候を伴うことから中枢神経系の感染症、とくに髄膜炎を考える。進行の速さと40℃を超える高熱からは細菌性髄膜炎がもっとも疑わしい。ただし病歴と身体所見だけでは、ウイルス性髄膜炎、単純ヘルペス脳炎、脳膿瘍なども否定しきれず、確定には脳脊髄液(髄液)検査などが必要である(次問)。歯科治療中であることは、口腔内細菌の菌血症から感染性心内膜炎や脳膿瘍を生じる経路を考えるきっかけになる。また大量飲酒は免疫能低下の背景因子であり、肺炎球菌による髄膜炎のリスクを高める。
設問の考え方
本問は意識レベルをGlasgow Coma Scale(GCS)で評価させる問題である。GCSは開眼(E: eye opening, 1〜4点)、最良言語反応(V: best verbal response, 1〜5点)、最良運動反応(M: best motor response, 1〜6点)の3項目を別々に採点し、合計3〜15点で表す。現症の記載を項目ごとに当てはめる。 ・E(開眼):普段は閉眼しているが、呼びかけで開眼する → E3 ・V(言語):質問に返答はできるが内容が混乱している(会話は成り立つが見当識が障害されている)→ V4 ・M(運動):手の挙上などの簡単な命令に従える → M6 したがってE3V4M6(合計13点)となる。
選択肢考察
- ×a. E2V3M4
3項目すべてが実際より低く評価されている。E2は痛み刺激を加えて初めて開眼する状態であり、呼びかけで開眼する本患者はE3である。V3は発語はあるが単語が場当たり的で会話として成立しない状態であり、質問に対して返答自体はできている本患者には当てはまらない。M4は痛み刺激に対して四肢を引っ込める(逃避屈曲)程度の反応であり、命令に従える本患者はM6である。
- ×b. E2V4M5
V4(混乱した会話)は正しいが、EとMが誤っている。E2は痛み刺激で初めて開眼する状態で、本患者は呼びかけで開眼するためE3である。M5は痛み刺激を加えた部位に手をもっていき払いのける(疼痛部位の認識)反応であり、命令に従えない場合に評価する段階である。本患者は命令に応じて手を挙げられるのでM6である。
- ×c. E3V3M6
E3とM6は正しいが、Vの評価が誤っている。V3は「不適当な言葉」、すなわち単語は発するものの質問とかみ合わず会話が成立しない状態を指す。本患者は簡単な質問に対して返答でき、会話としては成り立っているが内容が混乱しているので、V4(混乱した会話)と評価するのが適切である。
- ○d. E3V4M6
閉眼しているが呼びかけという音声刺激で開眼するのでE3、質問に返答はできるが内容が混乱している(見当識障害を伴う会話)のでV4、手の挙上という口頭命令に従えるのでM6である。合計13点であり、軽度から中等度の意識障害に相当する。現症の記載と各項目の定義が過不足なく一致する。
- ×e. E4V5M6
合計15点で、意識清明の状態を表す。E4は刺激がなくても自発的に開眼している状態であり、閉眼していて呼びかけで初めて開眼する本患者には当てはまらない。V5は時・場所・人に関する見当識が保たれた会話ができる状態であり、会話内容が混乱している本患者はV4である。
Glasgow Coma Scale(GCS)の評価基準
・E:開眼(eye opening) 4:自発的に開眼している 3:呼びかけ(音声・音刺激)で開眼する 2:痛み刺激で開眼する 1:痛み刺激でも開眼しない ・V:最良言語反応(best verbal response) 5:見当識が保たれている(時・場所・人を正しく答えられる) 4:混乱した会話(会話は成立するが見当識障害がある) 3:不適当な言葉(単語は出るが会話にならない) 2:理解不能な発声(うめき声など意味をなさない音のみ) 1:発声なし ・M:最良運動反応(best motor response) 6:命令に従う 5:疼痛部位に手をもっていく(払いのける) 4:痛み刺激に対し逃避する(四肢を引っ込める) 3:異常屈曲(除皮質硬直肢位:上肢屈曲・下肢伸展) 2:伸展反応(除脳硬直肢位:四肢伸展) 1:まったく動かない
評価上の注意
・各項目は観察できた中で最もよい反応で採点する(左右差があればよい側)。 ・気管挿管や気管切開で発声できないときは、V項目を「T」(tube)と記載する。眼瞼浮腫などで開眼の評価ができない場合も、点数をつけずに評価不能であることを明記するのが原則である。 ・合計点だけでなく「E3V4M6」のように内訳を記載する。同じ合計点でも病態が異なりうるためである。 ・合計8点以下は重症の意識障害の目安とされ、気道確保(気管挿管)を検討する基準の一つとして用いられる。
Japan Coma Scale(JCS)との対比
日本ではJCS(3-3-9度方式)も広く用いられる。覚醒の程度で大きく3群に分け、刺激しなくても覚醒している状態をI桁(1・2・3)、刺激で覚醒する状態をII桁(10・20・30)、刺激しても覚醒しない状態をIII桁(100・200・300)とする。本患者は閉眼しているが普通の呼びかけで容易に開眼するので、JCSではII-10に相当する。
本症例の病態について
急性の発熱・頭痛・意識障害と髄膜刺激徴候の組み合わせは、細菌性髄膜炎を最優先に考える所見である。細菌性髄膜炎は治療開始の遅れが予後を大きく左右するため、血液培養を採取したうえで、髄液検査の完了を待たずに経験的な抗菌薬投与(成人ではデキサメタゾン併用が推奨される)を速やかに始めることが重要である。意識障害がある場合には、腰椎穿刺の前に頭部CTで脳ヘルニアの危険を伴う頭蓋内占拠性病変(脳膿瘍など)を除外することが多い。
POINT
・GCSはE(開眼4点)、V(言語5点)、M(運動6点)の合計3〜15点で評価する。 ・呼びかけで開眼=E3、痛み刺激で開眼=E2。 ・会話は成立するが内容が混乱=V4、単語は出るが会話が成立しない=V3。 ・命令に従う=M6、疼痛部位に手をもっていく=M5、逃避屈曲=M4。 ・本症例はE3V4M6(13点)、JCSではII-10に相当する。 ・急性の発熱・頭痛・意識障害と髄膜刺激徴候があれば、まず細菌性髄膜炎を考える。
