StudyMed医師国家試験

握れない手と反り返る膝―片麻痺の屋外歩行を支えるのは「足首」の装具

第111回医師国家試験 B問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第111回 B問題 第40問

53歳の男性。視床出血後の左片麻痺のため回復期リハビリテーション病棟に入院中である。発症して2か月が経過している。左上肢は前頭部まで挙上できるが,随意運動時に振戦を認める。握力は1kgである。徒手筋力テストで左股関節屈曲・伸展と左膝関節屈曲・伸展の筋力はともに4,左足関節屈曲・伸展の筋力は2。左足クローヌスを認める。左半身の感覚は脱失している。平行棒内での歩行は可能だが,左下肢立脚相に膝関節は過伸展し足関節は内反する。患者は屋外歩行を希望している。歩行補助具の写真(①~⑤)を別に示す。  この患者に用いるのに適切なのはどれか。

第111回 B問題 第40問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脳卒中後の片麻痺患者にどの歩行補助具を選ぶかという問題だ。ポイントは2つ。麻痺側の手で何ができるか、そして歩行の崩れの「本当の原因」がどこにあるか。まずは上肢の所見から、補助具選びにどう影響するか考えてみよう。
医学生医学生
握力が1kgで、しかも動かそうとすると振戦が出るんですよね。麻痺側の手で何かを握って体重を預けるのは無理そうです。
ドクタードクター
その通り。だから、両手で握って使う補助具はまず候補から外れる。写真の中では、左右一対で使う松葉杖、両手で持ち上げて前に置く固定型歩行器、ハンドルを握って押しブレーキも手で操作する四輪歩行車がそれにあたる。
医学生医学生
リハビリテーション科の実習で、片麻痺の方の杖は健側の手で持つと習いました。今回なら右手ですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。片麻痺ではT字杖や四点杖などの多点杖を健側で持つのが基本だ。歩行器や歩行車は片手だと進む方向が健側に偏りやすく、ブレーキもかけられないから、転倒の危険が増してしまう。では次に下肢。股関節と膝の筋力はMMT 4、足関節は2だね。これは何を意味するかな。
医学生医学生
MMT 2は重力を除けば動かせるけど、重力に抗しては動かせない段階です。近位は保たれていて、足首だけかなり弱いということですね。
ドクタードクター
そう、遠位優位の筋力低下だ。さらに足クローヌスがあるから痙縮も加わっている。下腿三頭筋や後脛骨筋の痙縮と、前脛骨筋の筋力低下が重なると、足は内反尖足になりやすい。立脚相での足関節の内反はこれで説明できる。
医学生医学生
でも膝が過伸展しているなら、膝を支える装具も必要じゃないですか。写真に膝のサポーターみたいなものがありましたけど。
ドクタードクター
そこがこの問題の一番の落とし穴だ。膝の筋力は4と保たれているよね。片麻痺の反張膝は、膝そのものが弱いというより、足関節が底屈方向に突っ張って下腿が前に倒れられず、膝が後ろへ押し込まれて起こることが多いんだ。
医学生医学生
原因は足首にあって、膝はその結果ということですか。
ドクタードクター
その理解でいい。加えて視床出血で左半身の感覚が脱失していて、位置覚もない。自分の膝の曲がり具合がわからないから、膝を過伸展させて「ロック」して支える代償パターンにもなりやすい。写真の膝装具は、足関節を覆わない軟性のサポーター型だから、内反にはまったく効かないし、過伸展を止める力も弱い。原因に手が届かないんだ。
医学生医学生
それなら、下腿の後ろから足底までを覆うプラスチック製の短下肢装具が正解ですね。足首を固定すれば内反も防げて、膝も過伸展しにくくなる。
ドクタードクター
正解。シューホーン型の短下肢装具で足関節を中間位から軽度背屈位に保つと、下腿が前傾しやすくなって反張膝が抑えられる。遊脚相でつま先が垂れて引っかかるのも防げる。軽くて靴を履いたまま使えるから、本人が望む屋外歩行にも向いているよ。
医学生医学生
視床出血で感覚障害が目立つのは、視床が感覚の中継核だからですね。神経解剖の講義で何度も出てきました。
ドクタードクター
そうだね。視床出血は内包後脚に及ぶと片麻痺も伴うし、後になって視床痛と呼ばれる中枢性疼痛が出ることもある。振戦や失調がみられることもあるから、上肢の振戦もその流れで理解できる。発展として装具の使い分けも押さえよう。痙縮が強くて内反尖足が著しい場合は、足継手の角度や制動を調整しやすい金属支柱付き短下肢装具を選ぶ。膝折れが強く、膝の支持性自体が足りない場合は長下肢装具が必要になる。
医学生医学生
膝が過伸展するのか、逆に崩れるのかで装具が変わるんですね。混同しないようにします。
ドクタードクター
大事な区別だ。臨床では、装具を作ったら終わりではなく、歩行を観察して角度や制動を調整し続けることが重要だよ。回復期は機能が変化する時期だから、痙縮の程度や筋力の回復に合わせて見直していく。それと、感覚脱失がある足は装具で皮膚が擦れても本人が気づけないから、発赤や傷のチェックも忘れずに。

まとめ

片麻痺患者の歩行補助具は、麻痺側の手が使えない前提で選ぶため、両手で操作する松葉杖・歩行器・歩行車は原則として適さず、杖は健側で持ちます。足関節の筋力低下と痙縮による内反尖足や下垂足には短下肢装具を用い、足関節を中間位〜軽度背屈位に保つことで、足関節の制御不良から生じる反張膝の改善も期待できます。プラスチック製の短下肢装具は軽量で靴を履いて使えるため屋外歩行に適し、強い痙縮には金属支柱付き、膝折れが強い場合には長下肢装具と使い分けます。歩行の異常を「どの関節が原因か」から考える視点は、装具処方だけでなくリハビリテーション全般の評価の基本になります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・53歳男性、視床出血による左片麻痺で発症後2か月、回復期リハビリテーション病棟に入院中。目標は屋外歩行である。 ・左上肢: 前頭部まで挙上でき近位の随意性はある程度保たれるが、随意運動時に振戦がある。握力は1kgとほぼ握れない。→ 左手で杖や歩行器のグリップを握って体重を支えることはできない。 ・左下肢: 股関節・膝関節の屈伸はMMT(徒手筋力テスト)4と比較的良好だが、足関節の底屈・背屈はMMT 2(重力を除けば全可動域を動かせるが、重力に抗しては動かせない)と遠位優位の筋力低下がある。足クローヌスは痙縮(上位運動ニューロン障害による筋緊張亢進)を示す。 ・左半身の感覚脱失: 視床病変による感覚障害で、位置覚(関節の位置の感覚)も失われ、足部の接地や膝の状態を自分で感じ取れない。 ・平行棒内歩行は可能だが、左立脚相で膝の過伸展(反張膝)と足関節の内反が起こる。

問題点の把握

歩行上の問題は、足関節の筋力低下と痙縮による内反(多くは内反尖足傾向)と、それに伴う立脚相の不安定性である。片麻痺の反張膝は、膝の筋力低下そのものより、足関節の底屈筋痙縮や背屈筋力低下で下腿が前に倒れられず、膝が後方へ押し込まれることで生じることが多い。感覚脱失があると膝の位置を感じ取れず、過伸展で膝を「ロック」して支える代償パターンにもなりやすい。したがって、まず足関節を適切な角度(中間位〜軽度背屈位)に保持して内反を防ぐことが、足部の安定と反張膝の両方の改善につながる。

設問への考え方

・左手で握る力がほとんどないので、両手で使う補助具(松葉杖一対、歩行器、歩行車)は適さない。 ・必要なのは足関節を制御する装具、すなわち短下肢装具(AFO: ankle foot orthosis)である。靴を履いて使えるタイプなら屋外歩行にも対応できる。 よって③のプラスチック製短下肢装具が最も適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    ①は松葉杖(腋窩杖)である。主に骨折などで片側下肢への荷重を免荷・部分荷重するときに、通常は左右一対で使う。握り(グリップ)に体重をかけて使うため、左握力が1kgで振戦もある本例では麻痺側で保持・操作できない。片麻痺患者の杖は通常、健側(本例では右手)で持つT字杖や多点杖が選ばれ、松葉杖は適さない。

  2. ×b.  ②

    ②は大腿遠位から下腿近位にかけて膝関節を包み、面ファスナー(ベルクロ)のベルトで固定する軟性の膝装具(側方に支柱が入ったサポーター型)である。足部・足関節は覆っていない。本例は膝屈伸の筋力がMMT 4と保たれており、膝そのものを支える必要は小さい。立脚相の膝過伸展(反張膝)は主に足関節の制御不良(底屈筋の痙縮と背屈筋力低下で下腿が前傾できないこと)によって起こるので、膝装具では原因に対処できない。さらに軟性のため過伸展を確実に止める力も弱く、足関節の内反にはまったく作用しない。よって本例には適さない。

  3. ○c.  ③

    ③はプラスチック製の短下肢装具(AFO、シューホーン型)である。下腿後面から足底まで覆って足関節を一定の角度に保持し、立脚相の内反や遊脚相の下垂足(つま先が垂れて引っかかること)を防ぐ。足関節を中間位〜軽度背屈位に保つと下腿が前傾しやすくなり、片麻痺でよくみられる反張膝の抑制にも役立つ。足関節筋力MMT 2で痙縮があり、立脚相の内反と膝過伸展をきたしている本例の問題に直接対応する。軽量で靴を履いたまま使えるため、希望する屋外歩行にも適している。

  4. ×d.  ④

    ④は固定型(ピックアップ型)歩行器である。両手で左右のグリップを握り、持ち上げて前方に置きながら進む。左握力1kgでは保持も持ち上げもできず、片麻痺患者には不向きである。屋外の段差や不整地にも適さない。

  5. ×e.  ⑤

    ⑤はハンドブレーキ付きの四輪歩行車(ロレーター)である。両手でハンドルを握って押し、ブレーキ操作も手で行う。左手の握力がほとんどなく、随意運動時の振戦もあるため、安全にハンドルを握り、ブレーキをかけることができない。片手操作では進む方向が健側に偏りやすく、転倒の危険もある。

片麻痺の歩行補助具の選び方

・杖: 健側の手で持つ。安定性はT字杖<多点杖(四点杖など)の順に高くなる。麻痺側の手は使わない前提で選ぶ。 ・歩行器・歩行車・松葉杖一対: 両手での操作が必要なため、片麻痺患者には原則として適さない。 ・下肢装具: 足関節の制御不良(下垂足、内反尖足、反張膝など)には短下肢装具(AFO)、膝折れ(立脚相で膝が崩れる)が強く膝の支持性も足りない場合には長下肢装具(KAFO: knee ankle foot orthosis)を用いる。

短下肢装具の種類

・プラスチック製(シューホーン型など): 軽量で見た目がよく、靴を履いて使える。痙縮が軽度〜中等度の例に向く。 ・金属支柱付き: 足継手の角度や制動を調整しやすく、強い痙縮や内反尖足に対応できる。 ・継手付きプラスチックAFOもあり、底屈制動・背屈補助などの機能を持たせられる。

片麻痺でみられる異常歩行

・内反尖足: 下腿三頭筋や後脛骨筋の痙縮と、前脛骨筋の筋力低下で生じる。 ・反張膝: 底屈筋の痙縮や背屈筋力低下で下腿が前傾できず、立脚相で膝が過伸展する。感覚障害による膝のロック代償も関与する。 ・分回し歩行: 遊脚相に足を外側へ回して振り出す歩き方で、尖足や膝屈曲不足を補う代償である。

視床出血の特徴

・視床は感覚の中継核であり、対側半身の感覚障害(位置覚を含む)が目立つ。後に視床痛(中枢性疼痛)をきたすことがある。 ・内包後脚に及ぶと対側片麻痺を伴う。小脳からの経路も通るため、失調や振戦がみられることもある。

MMT(徒手筋力テスト)の段階

5: 強い抵抗に抗して全可動域を動かせる / 4: ある程度の抵抗に抗して動かせる / 3: 重力に抗して全可動域を動かせる / 2: 重力を除けば全可動域を動かせる / 1: 筋収縮はあるが関節は動かない / 0: 筋収縮もない

POINT

・片麻痺患者には、両手で操作する歩行器・歩行車・松葉杖は原則として使えない。杖は健側の手で持つ。 ・足関節の筋力低下・痙縮による内反尖足や下垂足には短下肢装具(AFO)を用いる。 ・片麻痺の反張膝は足関節の制御不良が原因であることが多く、AFOで足関節を中間位〜軽度背屈位に保つと改善が期待できる。 ・プラスチック製AFOは軽量で靴を履いて使えるため、屋外歩行にも適する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。