「作る」と「出す」は別のホルモン―乳汁分泌を止める薬・促す薬の見分け方
第111回医師国家試験 B問題 第37問
国試問題にチャレンジ
乳汁分泌を抑制するのはどれか。2つ選べ。
- a.スルピリド
- b.オキシトシン
- c.プロラクチン
- d.エストロゲン
- e.ブロモクリプチン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
乳汁の産生は下垂体前葉のプロラクチン、排出(射乳)は下垂体後葉のオキシトシンが担い、プロラクチン分泌は視床下部からのドパミンによって常に抑制されています。そのためドパミン作動薬のブロモクリプチンやカベルゴリンは乳汁分泌を抑え、逆にD2受容体拮抗薬のスルピリドやメトクロプラミド、抗精神病薬は高プロラクチン血症による乳汁漏出や無月経を起こします。エストロゲンは下垂体のプロラクチン分泌をむしろ促進しますが、高濃度では乳腺でのプロラクチン作用を妨げるため、妊娠中は乳汁分泌が抑えられ、胎盤娩出後の急減で分泌が始まります。ブロモクリプチンを産褥期に使う際は血圧上昇や脳血管障害に注意が必要です。「作る」「出す」「止める」の各ホルモンと薬の作用点を整理しておくことは、産褥管理や無月経・乳汁漏出の診療に直結します。
解答・解説
正解はd, eです
乳汁の「産生」と「排出(射乳)」は別のホルモンが担っている。 ・乳汁の産生(乳汁分泌):下垂体前葉から分泌されるプロラクチンが乳腺の腺房細胞に作用して起こる。 ・乳汁の排出(射乳):乳頭への吸啜刺激で下垂体後葉から分泌されるオキシトシンが、腺房周囲の筋上皮細胞を収縮させて起こる。 プロラクチンの分泌は、視床下部から下垂体門脈に放出されるドパミンによって常に抑制されている(主要なプロラクチン抑制因子)。逆に甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、エストロゲン、吸啜刺激、睡眠、ストレスなどは分泌を促進する方向に働く。 したがって乳汁分泌を抑えるには、(1)ドパミンD2受容体を刺激してプロラクチン分泌そのものを抑える、(2)乳腺でのプロラクチンの作用を妨げる、のいずれかを考えればよい。(1)の代表がドパミン作動薬(ブロモクリプチン、カベルゴリン)、(2)にあたるのが大量のエストロゲン(およびプロゲステロン)である。妊娠中はプロラクチンが高値でも、胎盤から大量に分泌されるエストロゲンとプロゲステロンが乳腺でのプロラクチン作用をブロックしているため、本格的な乳汁分泌は起こらない。分娩で胎盤が娩出されると両ホルモンが急激に減少し、この抑制が外れて乳汁分泌が始まる。 反対に、ドパミンの作用を遮断する薬(スルピリドなどの抗精神病薬・制吐薬)は、プロラクチンを上昇させて乳汁分泌を引き起こす側に働く。
選択肢考察
- ×a. スルピリド
スルピリドはベンズアミド系のドパミンD2受容体拮抗薬で、抗潰瘍薬・抗うつ薬・抗精神病薬として用いられる。下垂体前葉のD2受容体を遮断すると、ドパミンによるプロラクチン分泌の抑制が外れ、高プロラクチン血症となる。その結果、乳汁漏出や無月経をきたすことがある(薬剤性高プロラクチン血症の代表的原因薬)。乳汁分泌を抑制するのではなく、促進する方向に働く。
- ×b. オキシトシン
オキシトシンは視床下部で産生され、下垂体後葉から分泌されるホルモンである。乳頭の吸啜刺激が神経反射として視床下部に伝わると分泌され、乳腺腺房を取り巻く筋上皮細胞を収縮させて乳汁を乳管から押し出す(射乳反射)。乳汁の産生を抑えるのではなく、できた乳汁の排出を促す。また子宮平滑筋を収縮させる作用もあり、陣痛促進や産褥期の子宮復古に関わる。
- ×c. プロラクチン
プロラクチンは下垂体前葉の乳腺刺激ホルモン産生細胞から分泌され、妊娠の経過とともに増加して妊娠末期に最も高くなる。乳腺の腺房細胞に作用して乳汁の産生を促す、乳汁分泌の主役となるホルモンであり、抑制するものではない。なお、プロラクチンは視床下部の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)分泌を抑えるため、授乳中は排卵が抑えられやすい(授乳性無月経)。
- ○d. エストロゲン
エストロゲンは妊娠中に乳管を発育させ、下垂体でのプロラクチン分泌も増やすが、高濃度では乳腺に対するプロラクチンの乳汁産生作用を抑える。妊娠中にプロラクチンが高いのに乳汁がほとんど出ないのは、胎盤由来の大量のエストロゲン(とプロゲステロン)がこの作用を阻んでいるためである。分娩後に胎盤が娩出されて両者が急減すると、抑制が解除されて乳汁分泌が始まる。かつては産褥期の乳汁分泌抑制にエストロゲン製剤が使われたことがあり、また授乳中にエストロゲンを含む経口避妊薬を使うと乳汁量が減ることが知られている。このように乳汁分泌に対して抑制的に働くため正しい。
- ○e. ブロモクリプチン
ブロモクリプチンは麦角アルカロイド誘導体のドパミン作動薬で、下垂体前葉のドパミンD2受容体を刺激してプロラクチン分泌を強く抑える。そのため高プロラクチン血症、プロラクチノーマ、乳汁漏出性無月経の治療、産褥期の乳汁分泌抑制(死産・新生児死亡後、授乳が禁忌となる場合など)に用いられる。同じ目的で、作用時間が長く副作用の少ないカベルゴリンもよく使われる。乳汁分泌を抑制するため正しい。なお、産褥期の使用では血圧上昇や脳血管障害などの副作用に注意が必要で、妊娠高血圧症候群のある褥婦には用いない。
プロラクチン分泌の調節
・抑制:ドパミン(視床下部から下垂体門脈へ)→下垂体前葉のD2受容体。ドパミン作動薬(ブロモクリプチン、カベルゴリン、テルグリド)も同様に抑制する。 ・促進:TRH、エストロゲン、吸啜刺激、睡眠、ストレス、運動など。
高プロラクチン血症をきたす主な原因
・薬剤:ドパミン受容体拮抗薬(スルピリド、メトクロプラミド、ドンペリドン、ハロペリドール、リスペリドンなどの抗精神病薬)、ドパミン枯渇作用をもつ薬(メチルドパ、レセルピン)、エストロゲン製剤など ・プロラクチノーマ(下垂体腺腫の中で最も多い機能性腺腫) ・視床下部・下垂体茎の障害(腫瘍、炎症などでドパミンが下垂体に届かなくなる) ・原発性甲状腺機能低下症(TRHの増加による) ・妊娠・授乳(生理的) 症状は乳汁漏出、月経異常・無月経、不妊、男性では性欲低下・女性化乳房など。
乳汁分泌の流れ
1. 妊娠中:エストロゲンで乳管、プロゲステロンで腺房(小葉)が発育する。プロラクチンも増加するが、高濃度のエストロゲン・プロゲステロンのため乳汁分泌はほぼ起こらない。 2. 分娩後:胎盤娩出で両ホルモンが急減→プロラクチンが作用できるようになり乳汁分泌が始まる(産褥2〜3日頃から本格化)。 3. 授乳期:吸啜刺激でプロラクチン(産生維持)とオキシトシン(射乳)が分泌される。
ホルモンと乳汁の関係の整理
・産生を促す:プロラクチン ・排出(射乳)を促す:オキシトシン ・産生を抑える:エストロゲン・プロゲステロン(高濃度)、ドパミン、ドパミン作動薬
POINT
・乳汁の産生はプロラクチン(下垂体前葉)、射乳はオキシトシン(下垂体後葉)による。 ・プロラクチンは視床下部のドパミンで抑制される。ドパミン作動薬(ブロモクリプチン、カベルゴリン)は乳汁分泌を抑え、ドパミン拮抗薬(スルピリド、メトクロプラミドなど)は乳汁分泌を起こす。 ・妊娠中は高濃度のエストロゲン・プロゲステロンが乳汁分泌を抑えており、胎盤娩出後の急減で乳汁分泌が始まる。
