戦後に急減し、高齢化で再び上昇―死亡率の曲線から肺炎を見抜く
第111回医師国家試験 B問題 第14問
国試問題にチャレンジ
我が国の主要死因別にみた死亡率(人口10万対)の推移を示す。 Aはどれか。

- a.肺炎
- b.心疾患
- c.悪性新生物
- d.脳血管疾患
- e.不慮の事故
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
主要死因別の粗死亡率の推移では、各曲線の形がそれぞれの死因の歴史を反映しています。肺炎は戦後に抗菌薬の普及と栄養・衛生の改善で急減し、1980年代以降は高齢化に伴う誤嚥性肺炎などの増加で再上昇して、2011年に死因第3位となりました。悪性新生物は一貫して増加し1981年から第1位、脳血管疾患は1970年頃をピークに降圧治療や減塩で低下し、1995年の心疾患の急減はICD-10導入と死亡診断書の記入上の注意による統計上の変化、不慮の事故は1995年と2011年の大震災で一過性に上昇しています。なお2017年以降は誤嚥性肺炎の別集計などで肺炎の順位が下がり、現在は老衰が第3位です。曲線の形を医療・社会・統計ルールの変化と結びつけて読み、粗死亡率と年齢調整死亡率を区別する視点は、保健統計を正しく解釈する基礎になります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
人口動態統計における主要死因別の死亡率(人口10万対の粗死亡率)の長期推移である。各死因の曲線には、医療の進歩・人口の高齢化・統計上の分類変更・大災害などを反映した特徴的な形があり、それを手がかりに同定する。
グラフ中の各曲線の特徴
・右肩上がりで一貫して増え続け、1980年代初めに他を抜いて最上位となり2014年には約290に達する太い破線:悪性新生物 ・1960〜70年代に約175でピークとなりその後減少、1995年に一時的に跳ね上がる細い破線:脳血管疾患 ・緩やかに増加し、1990年代前半に急減した後に再び増加する細い実線:心疾患 ・おおむね30〜50前後で推移し、1995年と2011年に一過性のピークがある点線:不慮の事故 ・A(太い実線):1940年代には約150と高値であったが、1940年代後半に急激に低下し、1970年代には約25前後まで下がる。1980年頃から再び増加に転じ、2010年前後に脳血管疾患を上回って死因第3位となっている。
考え方
Aの「戦後の急減→1980年代以降の再増加→2010年代に第3位」という推移は肺炎に特徴的である。戦後の急減は抗菌薬(ペニシリンなど)の普及と栄養・衛生状態の改善による。1980年代以降の再増加は、高齢者人口の増加に伴い、嚥下機能の低下や免疫能の低下を背景とする高齢者の肺炎(誤嚥性肺炎を含む)が増えたことによる。粗死亡率は人口の年齢構成の影響を強く受けるため、高齢化が進むと高齢者に多い死因の死亡率は上昇する点も理解しておきたい。
選択肢考察
- ○a. 肺炎
Aに該当する。終戦前後には死亡率が高かったが、抗菌薬の普及により1940年代後半から急減し、1970年代に最低となった。その後は人口の高齢化に伴って再び増加し、2011年に脳血管疾患を抜いて死因第3位となった。グラフの推移はこの経過と一致する。
- ×b. 心疾患
細い実線である。戦後一貫して増加傾向にあり、1985年以降は死因第2位である。1995年前後に一時的に大きく減少しているのは、国際疾病分類第10版(ICD-10)の導入と、死亡診断書に「疾患の終末期の状態としての心不全・呼吸不全等は書かないでください」という注意書きが加えられたことによる統計上の変化である。
- ×c. 悪性新生物
太い破線である。人口の高齢化に伴って一貫して増加し続け、1981年に脳血管疾患を抜いて死因第1位となり、以後首位を保っている。グラフでは2014年に約290と最も高い。
- ×d. 脳血管疾患
細い破線である。1951年から1980年まで死因第1位であり、1970年頃にピークを迎えた。その後は高血圧の治療普及や食塩摂取量の減少などにより大きく低下した。1995年の一時的な上昇はICD-10導入などの統計上の変更の影響である。2011年に肺炎に抜かれて第4位となった。
- ×e. 不慮の事故
点線である。長期的には人口10万対30〜50程度で大きな変動はないが、1995年(阪神・淡路大震災)と2011年(東日本大震災)に一過性の上昇がみられるのが特徴である。
死因順位の主な変遷
・1950年頃まで:結核が第1位 ・1951〜1980年:脳血管疾患が第1位 ・1981年以降:悪性新生物が第1位 ・1985年以降:心疾患が第2位 ・2011年:肺炎が脳血管疾患を抜いて第3位(本グラフの時点) ・2017年以降:死因統計にICD-10(2013年版)の原死因選択ルールが適用され、また誤嚥性肺炎が肺炎とは別に集計されるようになったため、肺炎の死亡率・順位は低下した。 ・老衰が著しく増加し、2018年以降は第3位となっている。 近年(2023年)の順位は、第1位 悪性新生物、第2位 心疾患、第3位 老衰、第4位 脳血管疾患、第5位 肺炎である。
悪性新生物の部位別死亡数(2022年確定数)
・男性:肺 > 大腸 > 胃 ・女性:大腸 > 肺 > 膵臓
統計の読み方の注意点
・ここで示されている死亡率は粗死亡率であり、高齢化の影響を受ける。年齢構成の違いを除いて比較するには年齢調整死亡率を用いる。年齢調整死亡率でみると、悪性新生物や心疾患も低下傾向にある。 ・1995年の心疾患の減少・脳血管疾患の増加は、ICD-10の導入と死亡診断書記入上の注意(終末期の心不全を死因としない)による統計上の変化であり、実際の疾病頻度の急変ではない。
POINT
・肺炎は戦後に抗菌薬の普及で急減し、1980年代以降は高齢化により再増加、2011年に死因第3位となった。 ・2017年からの分類ルール変更と誤嚥性肺炎の別集計により、肺炎の順位は低下した。現在の死因順位は 悪性新生物>心疾患>老衰>脳血管疾患>肺炎。 ・1995年の心疾患の急減と脳血管疾患の一時的増加はICD-10導入などによる統計上の変化。 ・不慮の事故のピーク:1995年(阪神・淡路大震災)、2011年(東日本大震災)。
