血糖だけ見ていませんか―高血圧・蛋白尿を伴う2型糖尿病の「包括管理」
第111回医師国家試験 A問題 第41問
国試問題にチャレンジ
50歳の男性。健康診断で高血糖を指摘されて来院した。7年前の健康診断から指摘されていたが,仕事が忙しく医療機関は受診していなかった。仕事はデスクワークが主体である。身長175cm,体重75kg。脈拍72/分,整。血圧162/92mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。下腿に浮腫を認めない。尿所見:蛋白2+,糖1+,潜血(-)。血液所見:赤血球550万,Hb 14.0g/dL,Ht 43%,白血球6,800,血小板30万。血液生化学所見:総蛋白7.8g/dL,アルブミン4.0g/dL,尿素窒素18mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL,尿酸7.0mg/dL,血糖220mg/dL,HbA1c 7.8%(基準4.6~6.2),トリグリセリド190mg/dL,HDLコレステロール40mg/dL,LDLコレステロール160mg/dL。 治療方針として適切なのはどれか。
- a.血糖コントロールが達成されてから降圧療法を開始する。
- b.130/80mmHg未満への降圧を目指す。
- c.1,500kcal/日の食事指導をする。
- d.インスリン治療を開始する。
- e.食塩制限は10g/日とする。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクター
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医学生
ドクターまとめ
随時血糖200mg/dL以上とHbA1c 6.5%以上を同時に満たせば1回の採血で糖尿病と診断でき、本例は高血圧、蛋白尿(腎症の疑い)、脂質異常症を伴う2型糖尿病です。糖尿病合併高血圧の降圧目標は診察室血圧130/80mmHg未満(家庭血圧125/75mmHg未満)で、血糖管理と同時並行で降圧を始め、蛋白尿があればACE阻害薬かARBを第一選択とします。摂取エネルギーは目標体重(身長²×22)×エネルギー係数(デスクワークなら25〜30kcal/kg)で求め、本例では1,700〜2,000kcal/日程度、食塩は6g/日未満が目安です。インスリンはインスリン依存状態や急性代謝失調などで導入するもので、軽〜中等度の高血糖の2型糖尿病では食事・運動療法と非インスリン薬から始めます。血糖・血圧・脂質を一体として管理する視点は、細小血管障害と大血管障害の両方を防ぐ糖尿病診療の基本です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・50歳男性。7年前から健診で高血糖を指摘されながら放置していた。デスクワーク中心(身体活動量は少ない)。 ・身長175cm、体重75kg → BMI=75÷1.75²≒24.5kg/m²。肥満の基準(25以上)にはわずかに届かないが、境界域の体格である。 ・血圧162/92mmHg:高血圧(診察室血圧で収縮期160〜179mmHgに該当し、Ⅱ度高血圧の範囲)。 ・随時血糖220mg/dL、HbA1c 7.8%:随時血糖≧200mg/dLとHbA1c≧6.5%の両方を同一採血で満たすため、この1回の検査で糖尿病と確定診断できる。長期間の経過、自覚症状に乏しいこと、年齢から2型糖尿病が最も考えやすい。 ・尿蛋白2+だが、クレアチニン0.8mg/dL・尿素窒素18mg/dLで腎機能(推算糸球体濾過量、eGFR)はおおむね保たれている。長期の高血糖と蛋白尿から糖尿病性腎症(糖尿病関連腎臓病)が疑われ、持続性の蛋白尿があれば病期分類では第3期(顕性アルブミン尿期、旧称:顕性腎症期)に相当する。 ・LDLコレステロール160mg/dL、トリグリセリド190mg/dL(空腹時150以上で高値):脂質異常症を合併。尿酸7.0mg/dLも上限域である。
診断
2型糖尿病(腎症合併の疑い)、高血圧症、脂質異常症。いわゆる動脈硬化の危険因子が重積した状態であり、心筋梗塞・脳卒中などの大血管障害と、腎症などの細小血管障害の両方の予防が治療目標となる。なお、高血圧と耐糖能異常を併せもつ場合は二次性高血圧(原発性アルドステロン症、Cushing症候群など)も念頭に置くが、本症例の治療方針の骨格は変わらない。
設問の考え方
糖尿病の治療は「血糖だけを下げる」ものではなく、血糖・血圧・脂質・体重・禁煙を同時並行で包括的に管理することが基本である。そのうえで、①糖尿病合併高血圧の降圧目標、②目標体重と身体活動量に基づく摂取エネルギーの算出、③食塩制限の目安、④インスリン導入の適応、の4点を正しく判断できるかが問われている。
選択肢考察
- ×a. 血糖コントロールが達成されてから降圧療法を開始する。
誤り。糖尿病患者では高血圧が腎症の進行や心血管イベントのリスクを大きく高めるため、血糖管理と降圧療法は同時に開始する。本症例はすでに蛋白尿を伴っており、腎保護の観点からも降圧を先延ばしする理由はない。糖尿病合併高血圧では、収縮期140mmHg以上(または生活習慣修正で130/80mmHg未満に達しない場合)で降圧薬を開始し、蛋白尿(アルブミン尿)がある例ではアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が第一選択となる。これらは輸出細動脈を拡張して糸球体内圧を下げ、蛋白尿を減少させる。
- ○b. 130/80mmHg未満への降圧を目指す。
正しい。日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインでは、糖尿病を合併する高血圧の降圧目標を診察室血圧130/80mmHg未満(家庭血圧では125/75mmHg未満)としている。糖尿病では血圧上昇による細小血管障害・大血管障害の進行が加速するため、糖尿病のない一般成人より厳格な管理が求められる。蛋白尿陽性のCKD(慢性腎臓病)合併例でも同じ130/80mmHg未満が目標であり、本症例にはいずれの観点からもこの目標値が当てはまる。
- ×c. 1,500kcal/日の食事指導をする。
誤り。摂取エネルギー量の目安は「目標体重(kg)×エネルギー係数(kcal/kg)」で求める。65歳未満の目標体重は[身長(m)]²×22で、1.75²×22≒67.4kgとなる。デスクワーク主体は軽い労作(大部分が座位の静的活動)に当たり、エネルギー係数は25〜30kcal/kgである。したがって67.4×25〜30≒1,700〜2,000kcal/日が適切で、1,500kcal/日は過少である。過度なエネルギー制限は筋肉量の減少や長続きしない食事療法につながるため、算出した量を出発点にし、体重や血糖の推移をみて調整する。
- ×d. インスリン治療を開始する。
誤り。インスリン療法の絶対的適応は、1型糖尿病などのインスリン依存状態、糖尿病ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態、重症感染症・中等度以上の外科手術時、糖尿病合併妊娠などである。また著明な高血糖(空腹時血糖250mg/dL以上、随時血糖350mg/dL以上など)やケトーシスを伴う例も相対的適応となる。本症例は随時血糖220mg/dL、HbA1c 7.8%で、ケトーシスや急性合併症の所見もない2型糖尿病であり、まず食事療法・運動療法を行い、必要に応じて経口血糖降下薬やGLP-1受容体作動薬などの薬物療法を加えるのが基本である。腎症合併例ではSGLT2阻害薬など腎保護効果が示された薬剤も選択肢となる。
- ×e. 食塩制限は10g/日とする。
誤り。高血圧患者の減塩目標は食塩6g/日未満であり、糖尿病性腎症やCKDを合併する場合も同様に6g/日未満(腎機能や病態に応じて3g/日以上を目安に過度な制限は避ける)とされる。10g/日は日本人の平均摂取量に近い値で、制限としての意味をほとんどもたない。減塩は降圧効果に加え、ACE阻害薬・ARBの蛋白尿減少効果を高めるうえでも重要である。
糖尿病の診断基準(要点)
・血糖値の糖尿病型:空腹時血糖≧126mg/dL、75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値≧200mg/dL、随時血糖≧200mg/dLのいずれか。 ・HbA1c≧6.5%も糖尿病型。 ・血糖値とHbA1cがともに糖尿病型なら1回の検査で糖尿病と診断できる。血糖値のみ糖尿病型でも、口渇・多飲・多尿・体重減少などの典型的症状や確実な糖尿病網膜症があれば診断可能。
糖尿病性腎症の病期分類(要点)
・第1期(正常アルブミン尿期):尿アルブミン/クレアチニン比30mg/gCr未満 ・第2期(微量アルブミン尿期):30〜299mg/gCr ・第3期(顕性アルブミン尿期):300mg/gCr以上、または持続性蛋白尿0.5g/gCr以上 ・第4期(GFR高度低下・末期腎不全期):eGFR 30mL/分/1.73m²未満 ・第5期(腎代替療法期):透析・腎移植中 第4期の判定はアルブミン尿の程度を問わずeGFRで決まる。本症例は試験紙で蛋白2+とeGFRが保たれていることから第3期相当が疑われるが、確定には尿アルブミン(蛋白)/クレアチニン比の定量が必要である。
摂取エネルギー量の考え方
・目標体重:65歳未満は[身長(m)]²×22、65歳以上は[身長(m)]²×22〜25を目安とする。 ・エネルギー係数:軽い労作(デスクワーク主体)25〜30、普通の労作(立ち仕事が多い)30〜35、重い労作(力仕事が多い)35〜kcal/kg目標体重。 ・肥満例では減量を目的に係数を低めに設定するなど、個別に調整する。
糖尿病患者の包括的管理目標
・血糖:合併症予防のためのHbA1c目標は7.0%未満(低血糖リスクや年齢に応じて個別化)。 ・血圧:130/80mmHg未満(家庭血圧125/75mmHg未満)。 ・脂質:冠動脈疾患のない糖尿病患者ではLDLコレステロール120mg/dL未満(末梢動脈疾患、細小血管症、喫煙などを伴う場合は100mg/dL未満を考慮)。冠動脈疾患の既往があれば100mg/dL未満(さらに70mg/dL未満も考慮)。 ・体重、禁煙、適度な運動(中等度の有酸素運動を週150分以上など)も並行して指導する。
腎症合併時の薬物選択
アルブミン尿・蛋白尿を伴う糖尿病合併高血圧には、ACE阻害薬またはARBを第一選択とする。開始後は血清カリウムとクレアチニンの上昇に注意する。血糖降下薬では、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬に腎・心血管保護効果が示されている。
POINT
・随時血糖≧200mg/dLとHbA1c≧6.5%を同時に満たせば、1回の採血で糖尿病と診断できる。 ・糖尿病合併高血圧の降圧目標は130/80mmHg未満(家庭血圧125/75mmHg未満)。 ・血糖・血圧・脂質の管理は同時並行で行う。降圧を血糖管理の後回しにしない。 ・蛋白尿を伴う場合の降圧薬はACE阻害薬かARBが第一選択。 ・摂取エネルギー=目標体重(身長²×22)×エネルギー係数(デスクワークなら25〜30kcal/kg)。 ・高血圧・腎症合併時の食塩制限は6g/日未満。 ・インスリンはインスリン依存状態や急性代謝失調などで導入する。軽〜中等度の高血糖の2型糖尿病は、食事・運動療法と非インスリン薬から始める。
