加速する心、減速する心―躁とうつの症状を「対」で整理する
第111回医師国家試験 A問題 第14問
国試問題にチャレンジ
双極性障害の躁状態でみられる症状はどれか。2つ選べ。
- a.観念奔逸
- b.思考制止
- c.談話心迫
- d.微小妄想
- e.妄想気分
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
双極性障害の躁状態では、気分の高揚や易怒性とともに精神活動が亢進し、考えが次々に湧いて話題が移る観念奔逸や、しゃべらずにいられない談話心迫(多弁)がみられます。これに対し、思考制止や微小妄想(罪業・貧困・心気妄想)はうつ状態の症状で、観念奔逸⇔思考制止、誇大妄想⇔微小妄想と対で整理すると覚えやすくなります。妄想気分は妄想知覚・妄想着想と並ぶ一次妄想で、統合失調症の初期に特徴的な症状であり、気分障害の症状ではありません。また、観念奔逸はつながりを追える点で、統合失調症の連合弛緩と区別されます。症状用語を「どの疾患の、どの方向の変化か」で整理しておくことは、精神科の面接で病態を正しく見立てる基礎になります。
解答・解説
正解はa, cです
テーマ
双極性障害は、躁状態(または軽躁状態)とうつ状態を繰り返す気分障害である。本問は、精神症状を表す用語を、躁状態・うつ状態・統合失調症のどれに特徴的かで整理できているかを問う。
考え方
躁状態では、気分が高揚し(または怒りっぽくなり)、思考・会話・行動のすべてが速く、多くなる。精神活動が「亢進」する方向の症状を選べばよい。思考の面では考えが次々に湧いて次々と移っていき(観念奔逸)、会話の面では話さずにいられない(談話心迫)。 これに対してうつ状態では精神活動が「低下」する。思考の流れが遅くなり(思考制止)、自分を小さく価値のないものとみる妄想(微小妄想)が出る。 妄想気分は、統合失調症の初期によくみられる一次妄想の一型であり、気分障害の典型的な症状ではない。 躁とうつで対になる症状として整理しておくと覚えやすい(観念奔逸⇔思考制止、誇大妄想⇔微小妄想)。
選択肢考察
- ○a. 観念奔逸
観念奔逸は、考え(観念)が次から次へと湧き出し、話題が連想に沿って脇道へそれていく思考の流れの障害である。言葉の響きや目に入ったものに引きずられて話が飛ぶが、一つ一つのつながりは追うことができる。この点で、つながり自体が失われる統合失調症の連合弛緩(滅裂思考)とは区別される。思考の速さと量が増す躁状態の代表的な症状である。
- ×b. 思考制止
思考制止(思考抑制)は、考えがなかなか進まず、頭が働かないと感じる状態である。応答に時間がかかり、口数が減り、判断や決断もできにくくなる。精神活動が低下するうつ状態の代表的な症状であり、躁状態でみられる観念奔逸とは対になる。
- ○c. 談話心迫
談話心迫は、話したいという衝動を抑えられず、相手が口をはさむ隙もないほど早口で一方的にしゃべり続ける状態である(多弁)。DSM-5の躁病エピソードの診断基準にも「普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感」として含まれている。観念奔逸と合わさって、話題が次々に移る多弁となることが多い。躁状態に特徴的な症状である。
- ×d. 微小妄想
微小妄想は、自分を実際よりも劣った、取るに足らない存在と確信する妄想の総称である。罪業妄想(自分は取り返しのつかない罪を犯した)、貧困妄想(財産を失い破産する)、心気妄想(重い病気にかかっている、治らない)の三つが代表で、うつ病の三大妄想と呼ばれる。うつ状態でみられる。躁状態ではこれと反対に、自分の能力や地位を過大に評価する誇大妄想がみられる。
- ×e. 妄想気分
妄想気分は、周囲の世界がなんとなく不気味に変わってしまった、何か大変なことが起こりそうだと感じるが、まだ具体的な妄想内容にはなっていない段階の体験である。了解できる心理的な由来をもたない一次妄想(真性妄想)の一型で、妄想知覚・妄想着想とともに分類される。統合失調症の発病初期にみられる代表的な症状であり、躁状態に特徴的な症状ではない。
躁状態とうつ状態の症状の対比
・気分:躁=爽快・高揚、易怒的/うつ=抑うつ気分、興味・喜びの喪失 ・思考の流れ:躁=観念奔逸/うつ=思考制止 ・思考の内容:躁=誇大妄想/うつ=微小妄想(罪業・貧困・心気) ・会話:躁=多弁、談話心迫/うつ=寡言、小声 ・行動:躁=行為心迫(次々と行動を起こす)、浪費、性的逸脱、易刺激性/うつ=精神運動制止、昏迷 ・睡眠:躁=睡眠欲求の減少(短時間睡眠でも疲れを感じない)/うつ=不眠(早朝覚醒が多い)、ときに過眠 ・注意:躁=注意散漫(転導性の亢進)
DSM-5の躁病エピソード
気分の高揚または易怒性と、活動・エネルギーの亢進が、ほぼ毎日・1日の大半で少なくとも1週間続く(入院が必要なら期間を問わない)。加えて、自尊心の肥大、睡眠欲求の減少、多弁、観念奔逸、注意散漫、目標指向性の活動の増加または精神運動焦燥、困った結果につながる活動への熱中のうち3つ以上(易怒性のみなら4つ以上)がある。軽躁病エピソードは4日以上続き、社会的・職業的な機能の著しい障害を伴わないものをいう。躁病エピソードがあれば双極Ⅰ型、軽躁病エピソードと抑うつエピソードがあれば双極Ⅱ型である。
一次妄想(統合失調症に特徴的)
・妄想気分:周囲が不気味に変わったという漠然とした感覚。 ・妄想知覚:実際の知覚に、了解できない特別な意味を確信的に付け加える(例:犬が吠えたのは自分が狙われている合図だ)。Schneiderの一級症状に含まれる。 ・妄想着想:何の前ぶれもなく、突然ある考えが確信として浮かぶ。
躁状態の治療
気分安定薬(炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン)や非定型抗精神病薬を用いる。リチウムは有効血中濃度と中毒域が近いため、血中濃度のモニタリングが必要である。
POINT
・躁状態の思考・会話の症状:観念奔逸、談話心迫(多弁)、誇大妄想、注意散漫、行為心迫。 ・うつ状態:思考制止、微小妄想(罪業・貧困・心気の三大妄想)。 ・妄想気分・妄想知覚・妄想着想は一次妄想で、統合失調症に特徴的。 ・観念奔逸(つながりは追える)と連合弛緩(つながりが失われる)を区別する。
