年齢で読む髄膜炎の犯人―成人なら、まず肺炎球菌
第111回医師国家試験 A問題 第11問
国試問題にチャレンジ
成人における細菌性髄膜炎の原因菌として最も頻度が高いのはどれか。
- a.大腸菌
- b.肺炎球菌
- c.髄膜炎菌
- d.リステリア
- e.インフルエンザ菌
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
細菌性髄膜炎の原因菌は年齢によって大きく異なり、新生児ではB群レンサ球菌と大腸菌、乳幼児ではかつてインフルエンザ菌b型と肺炎球菌が中心でしたが、ワクチン定期接種化によって大きく減少しました。成人では肺炎球菌が最多で過半数を占め、高齢者・免疫不全者ではこれにリステリアやグラム陰性桿菌が加わります。髄膜炎菌は日本では頻度が低いものの、Waterhouse-Friderichsen症候群など劇症化しうる点が重要です。成人の経験的治療ではペニシリン耐性肺炎球菌を想定した抗菌薬にデキサメタゾンを併用し、高齢者・免疫不全者ではセフェム系に自然耐性のリステリアに備えてアンピシリンを加えます。原因菌の年齢別頻度を押さえておくことは、検査結果を待たずに速やかに適切な治療を始めるための土台となります。
解答・解説
正解はbです
細菌性髄膜炎の原因菌の年齢別頻度を問う一般問題である。
考え方
細菌性髄膜炎は、治療開始が遅れるほど死亡や後遺症(難聴、てんかん、認知機能障害など)が増える神経救急疾患である。原因菌が確定する前に、患者の年齢と背景(免疫状態、頭部外傷・脳外科手術歴など)から原因菌を推定し、直ちに経験的(エンピリック)な抗菌薬治療を開始する必要がある。そのため、年齢層ごとの主要な原因菌を把握しておくことが臨床上きわめて重要である。
年齢別の主な原因菌(わが国)
・新生児(生後1か月未満): B群レンサ球菌(GBS)、大腸菌が二大原因菌。リステリアもみられる。 ・乳児早期(1〜3か月): 上記に加え、インフルエンザ菌、肺炎球菌。 ・乳幼児(4か月〜5歳ごろ): かつてはインフルエンザ菌b型(Hib)と肺炎球菌が中心であったが、Hibワクチンと小児用肺炎球菌結合型ワクチンの定期接種化(2013年)以降、これらによる髄膜炎は大きく減少した。 ・成人(6〜49歳): 肺炎球菌が最多(過半数)を占める。 ・高齢者(50歳以上)や免疫不全者: 肺炎球菌が最多で、ほかにB群レンサ球菌、グラム陰性桿菌、リステリアなどが加わる。 以上より、成人の細菌性髄膜炎で最も頻度が高い原因菌は肺炎球菌である。
選択肢考察
- ×a. 大腸菌
誤り。大腸菌はB群レンサ球菌とともに新生児(生後1か月未満)〜乳児早期の細菌性髄膜炎の主要な原因菌であり、新生児ではグラム陰性桿菌の中で最も多い。母体の産道を経由して感染することが多い。成人では、高齢者や免疫不全者、脳外科手術後などでグラム陰性桿菌による髄膜炎がみられることはあるが、頻度は低い。
- ○b. 肺炎球菌
正しい。肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae、グラム陽性双球菌)は成人の細菌性髄膜炎の原因菌として最も多く、過半数を占める。中耳炎・副鼻腔炎・肺炎からの波及や、頭部外傷後の髄液漏、脾摘後、アルコール依存症などが危険因子となる。死亡率や神経学的後遺症の頻度が高い原因菌でもある。わが国ではペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)が多いため、経験的治療ではこれを想定し、第3世代セフェム系(セフトリアキソンなど)にバンコマイシンを併用する、あるいはカルバペネム系を用いるといった選択がなされる。成人の肺炎球菌性髄膜炎では、抗菌薬投与の直前または同時に副腎皮質ステロイド(デキサメタゾン)を投与することで死亡率や後遺症が減少することが示されている。
- ×c. 髄膜炎菌
誤り。髄膜炎菌(Neisseria meningitidis、グラム陰性双球菌)は、わが国では細菌性髄膜炎の原因菌としての頻度は低い。ただし飛沫感染で寮などの集団生活の場で流行することがあり、海外(アフリカの「髄膜炎ベルト」など)では重要な原因菌である。急速に進行する敗血症、点状出血・紫斑、播種性血管内凝固(DIC)、両側副腎出血による急性副腎不全(Waterhouse-Friderichsen症候群)をきたすことがあり、致死的になりうる。侵襲性髄膜炎菌感染症は感染症法の5類感染症(全数把握)であり、濃厚接触者には予防内服を行う。
- ×d. リステリア
誤り。リステリア(Listeria monocytogenes)はグラム陽性桿菌で、グラム染色では菌体がV字(ハの字)状に配列して見えることがある。新生児、妊婦、高齢者、細胞性免疫が低下した患者(副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬使用、悪性腫瘍、AIDSなど)で問題となるが、成人全体での頻度は低い。セフェム系抗菌薬に自然耐性を示すため、高齢者や免疫不全者の経験的治療ではアンピシリンを追加して本菌をカバーする点が重要である。汚染された乳製品や食肉加工品など食品を介して感染する。
- ×e. インフルエンザ菌
誤り。インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae、グラム陰性桿菌)、とくに莢膜をもつb型(Hib)は、かつて乳幼児の細菌性髄膜炎の最大の原因菌であった。5歳を過ぎると頻度は大きく低下し、成人では肺炎球菌よりはるかに少ない(成人で肺炎球菌に次ぐ程度とする報告もある)。さらにHibワクチンの定期接種化により、小児のHib髄膜炎も激減している。
細菌性髄膜炎の診断
・症状: 発熱、頭痛、意識障害、項部硬直・Kernig徴候などの髄膜刺激徴候。けいれんを伴うこともある。乳児や高齢者では典型的な症状がそろわないことが多い。 ・髄液所見: 初圧上昇、混濁、多形核白血球優位の細胞数増加、蛋白上昇、糖低下(髄液糖/血糖比の低下)。グラム染色・培養で原因菌を同定する。 ・頭蓋内圧亢進や局所神経症状がある場合は、腰椎穿刺前に頭部CTで占拠性病変を除外する。ただし画像検査のために抗菌薬投与を遅らせてはならず、血液培養を採取後ただちに治療を開始する。
経験的治療の考え方(成人)
・肺炎球菌(PRSPを含む)を確実にカバーすることが基本となる。 ・高齢者・免疫不全者ではリステリアをカバーするためアンピシリンを加える。 ・脳外科手術後・シャント感染などでは、ブドウ球菌(MRSA)や緑膿菌などを想定した抗菌薬を選択する。 ・成人ではデキサメタゾンを抗菌薬の直前または同時に開始する。
原因菌のグラム染色像
・肺炎球菌: グラム陽性双球菌(ランセット形) ・髄膜炎菌: グラム陰性双球菌(そら豆形) ・インフルエンザ菌: グラム陰性短桿菌 ・リステリア: グラム陽性桿菌 ・大腸菌: グラム陰性桿菌 ・B群レンサ球菌: グラム陽性連鎖球菌
予防
小児ではHibワクチンと小児用肺炎球菌結合型ワクチンが定期接種である。高齢者には肺炎球菌ワクチンの定期接種がある。髄膜炎菌ワクチンは任意接種で、流行地への渡航者や補体欠損症などのハイリスク者に推奨される。
POINT
・成人の細菌性髄膜炎の原因菌で最も多いのは肺炎球菌。 ・新生児: B群レンサ球菌・大腸菌。乳幼児: インフルエンザ菌b型・肺炎球菌(ワクチン定期接種で減少)。 ・高齢者・免疫不全者: 肺炎球菌に加えリステリア、グラム陰性桿菌を考え、アンピシリンを追加する(リステリアはセフェム系に自然耐性)。 ・髄膜炎菌はわが国では少ないが、Waterhouse-Friderichsen症候群をきたしうる。 ・PRSPを想定した経験的治療を、検査結果を待たずに速やかに開始する。成人ではデキサメタゾンを併用する。
