StudyMed医師国家試験

核の周りの透明な輪―コイロサイトが語る子宮頸部異形成

第110回医師国家試験 I問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第7問

子宮頸部細胞診とコルポスコピィで異常所見を認めた患者に狙い組織診を行った。その際のH-E染色標本(A)(B)を別に示す。  診断はどれか。

第110回 I問題 第7問の問題画像
  1. a.子宮頸癌
  2. b.萎縮性腟炎
  3. c.子宮頸部異形成
  4. d.クラミジア頸管炎
  5. e.トリコモナス腟炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は子宮頸部の狙い組織診の組織像から診断する問題だ。見るべきポイントは3つ。HPV感染を示す細胞変化があるか、異型細胞が上皮のどこまで広がっているか、そして基底膜を越えた浸潤があるか。まず、ここに至るまでの検査の流れを確認しておこうか。
医学生医学生
検診で細胞診をして、異常があればコルポスコピーで拡大観察、そこで一番怪しい部位から組織をとる、という順番ですよね。
ドクタードクター
その通り。コルポスコピーでは酢酸を塗ると異常な上皮が白く見える酢酸白色上皮や、モザイク、赤点斑などを目印に、最も病変の強いところを狙って生検する。これが狙い組織診で、確定診断の役割を担うんだ。では組織像を見ていこう。H-E染色ではどちらの標本も重層扁平上皮で、上層から中層にかけて、核の周りの細胞質が抜けて透明な空胞になり、その外側の細胞質が厚く縁取られた細胞がたくさん見える。核はやや大きく濃染し、輪郭が不整だ。
医学生医学生
病理実習で見た、核の周りがぽっかり抜けた細胞ですね。コイロサイトでしょうか。
ドクタードクター
正解。コイロサイトはヒトパピローマウイルス、HPVの感染による形態変化で、成熟した中層から表層の細胞に目立つ。2核の細胞が混じることもある。次に上皮の下層を見ると、基底細胞に似た小型で核の大きい細胞が増えて、本来の層構造が少し乱れている。
医学生医学生
異型細胞が増えているなら、もう子宮頸癌と考えていいのではないでしょうか。
ドクタードクター
そこが判断の分かれ目だね。癌と言えるかどうかは、異型細胞が基底膜を破って間質に入り込んでいるかで決まる。浸潤癌なら間質内に胞巣状や索状の浸潤があり、層構造は大きく崩れる。今回は上皮と間質の境界が保たれていて浸潤像はない。しかも上層では細胞の成熟が保たれているから、異型細胞が全層を置き換える上皮内癌とも違う。
医学生医学生
浸潤がなくて、上層の分化も残っている。だから子宮頸部異形成、つまりCINということですね。
ドクタードクター
そう。HPV感染を示すコイロサイトーシスと、上皮内にとどまる異型細胞の増殖という組み合わせが、子宮頸部異形成の像なんだ。ほかの選択肢も確認しておこう。萎縮性腟炎はどうかな。
医学生医学生
閉経後のエストロゲン低下で起こるものなので、上皮は薄くなるはずです。今回は上皮が厚く保たれているので合わないと思います。
ドクタードクター
いいね。萎縮性腟炎では上皮が菲薄化し、傍基底細胞が主体になって表層や中層の細胞が乏しくなる。今回の像とは正反対だ。では、性感染症の2つはどうだろう。
医学生医学生
産婦人科の講義で、クラミジアは頸管腺の円柱上皮に感染すると習いました。扁平上皮の異型とは場所が違う気がします。
ドクタードクター
鋭いね。クラミジア頸管炎は粘液膿性の帯下や接触出血を起こし、組織ではリンパ球や形質細胞の浸潤、リンパ濾胞形成がみられることはあるけれど、コイロサイトーシスや扁平上皮内の異型細胞増殖は示さない。診断は通常、頸管擦過検体の核酸増幅法で行う。トリコモナス腟炎は泡沫状で悪臭のある黄緑色の帯下と瘙痒感が特徴で、頸部の点状出血、いわゆるいちご状頸部がみられることがある。炎症で反応性に核が腫れることはあっても、典型的なコイロサイトーシスや上皮内の異型増殖とは違うし、診断は帯下の鏡検で動く原虫を確認するんだ。
医学生医学生
炎症性の病気は炎症細胞や病原体が主役で、異形成は上皮そのものの異型が主役、という違いですね。
ドクタードクター
その捉え方でいい。発展知識として、CINの分類も押さえておこう。異型細胞が上皮の下層3分の1程度にとどまればCIN1、3分の2程度まで及べばCIN2、それを超えて全層に及ぶものまで含めてCIN3と呼ぶ。最近はCIN1を軽度扁平上皮内病変LSIL、CIN2とCIN3を高度扁平上皮内病変HSILとまとめる二段階の表し方も使われているよ。
医学生医学生
異形成が見つかったら、すぐ手術になるんでしょうか。
ドクタードクター
程度によるんだ。HPVに感染しても多くは免疫で自然に排除され、CIN1の多くは自然に消える。だからCIN1やCIN2は経過観察となることが多く、CIN2では症例によって治療も考える。CIN3では子宮頸部円錐切除術などの治療を行う。高リスク型の16型や18型の持続感染が続くと、長い年月をかけて浸潤癌へ進むことがあるから、定期的なフォローが欠かせない。
医学生医学生
予防としては、HPVワクチンが一次予防、検診が二次予防という二本柱でしたね。
ドクタードクター
その通り。ワクチンで感染を防ぎ、検診で前がん病変のうちに見つけて治療する。異形成の段階で拾えれば、子宮を残したまま治療できることも多い。この問題は、その「見つける」ための組織診断の基本を問うているんだ。

まとめ

子宮頸がん検診の精密検査は、細胞診、コルポスコピー、狙い組織診の順に進め、組織像で確定診断を行います。核周囲の空胞と核異型をもつコイロサイトはHPV感染を示し、これに上皮内にとどまる異型細胞の増殖が加わり、基底膜を越える浸潤がなく上層の成熟も保たれていれば、子宮頸部異形成(CIN)と診断します。浸潤癌では間質への浸潤、上皮内癌では全層置換がみられ、萎縮性腟炎は上皮の菲薄化、クラミジアやトリコモナスは炎症像が主体で、いずれも本像とは異なります。CINは異型細胞の広がりでCIN1〜3に分けられ、CIN1の多くは自然消退する一方、CIN3では円錐切除術などの治療が行われます。HPVワクチンと検診による前がん病変の早期発見という子宮頸癌予防の考え方を、組織像の理解とあわせて押さえておくことが大切です。

解答・解説

正解はcです

検査の流れ

子宮頸がん検診では、まず子宮頸部の表面から細胞をこすり取って調べる細胞診を行い、異常があればコルポスコピー(腟拡大鏡)で頸部を拡大観察する。酢酸を塗ると異常な上皮が白く見える(酢酸白色上皮)ため、モザイクや赤点斑などの異常所見がある最も病変の強い部位から組織を採取する。これが狙い組織診であり、組織学的な確定診断に用いる。本問はその組織像から診断を問う問題である。

組織像の読み取り

標本(A)(B)はいずれも重層扁平上皮である。 ・上皮の上層〜中層に、核の周りの細胞質が抜けて透明な空胞(halo)となり、その外側の細胞質が厚く縁取られた細胞が多数みられる。核はやや大きく、濃く染まり、輪郭が不整である。これはコイロサイト(koilocyte)と呼ばれ、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染による細胞変化を示す。 ・上皮の下層では、基底細胞に似た小型で核の大きい細胞が増え、正常な層構造(下層から上層に向かって細胞が成熟し扁平化していく様子)がやや乱れている。ただし、上皮の上層では細胞の成熟(分化)が保たれている。 ・上皮と間質の境界(基底膜)は保たれており、異型細胞が間質へ入り込む浸潤像はみられない。

診断

HPV 感染を示すコイロサイトーシスと、上皮内にとどまる異型細胞の増殖がみられ、浸潤はない。したがって子宮頸部異形成(子宮頸部上皮内腫瘍〈CIN〉)と診断する。異型細胞が上皮全層に及んでおらず、上層に成熟が保たれていることから、上皮内癌や浸潤癌ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  子宮頸癌

    誤り。浸潤癌であれば、異型細胞が基底膜を破って間質内へ胞巣状・索状に浸潤する像がみられ、上皮の層構造は大きく崩れる。また、上皮内癌(CIN3 の一部)であれば、異型細胞が上皮のほぼ全層を置き換え、表層まで成熟がみられなくなる。本標本では基底膜が保たれ、上層で細胞の成熟が残っているため、いずれにも当たらない。

  2. ×b.  萎縮性腟炎

    誤り。萎縮性腟炎(萎縮性腟炎・外陰腟萎縮)は閉経後のエストロゲン低下により腟上皮が薄くなり、炎症を来すものである。組織では上皮が菲薄化し、主に傍基底細胞からなり、表層・中層細胞が乏しくなる。本標本は上皮が厚く保たれており、コイロサイトーシスもみられない萎縮性変化とは異なる。そもそも病変は子宮頸部から採取されたものである。

  3. ○c.  子宮頸部異形成

    正しい。上皮の上層〜中層に核周囲の空胞(halo)と核異型をもつコイロサイトが多数みられ、HPV 感染を示す。下層では異型細胞の増生と層構造の乱れがあるが、上層では成熟が保たれ、基底膜を越える浸潤はない。これは子宮頸部異形成(子宮頸部上皮内腫瘍〈cervical intraepithelial neoplasia:CIN〉)の像である。子宮頸部異形成は、高リスク型 HPV(16 型、18 型など)の持続感染によって生じる子宮頸癌の前がん病変である。

  4. ×d.  クラミジア頸管炎

    誤り。クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)による頸管炎は、主に頸管腺の円柱上皮に感染し、粘液膿性の帯下や接触出血を来す。組織ではリンパ球・形質細胞などの炎症細胞浸潤やリンパ濾胞形成(濾胞性頸管炎)がみられることがあるが、コイロサイトーシスや扁平上皮内の異型細胞増殖はみられない。診断は通常、頸管擦過検体の核酸増幅法(PCR など)で行う。

  5. ×e.  トリコモナス腟炎

    誤り。トリコモナス腟炎は原虫の腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)による性感染症で、泡沫状で悪臭のある黄緑色の帯下、外陰の瘙痒感が特徴である。コルポスコピーでは頸部に点状出血(いちご状頸部)がみられることがある。診断は帯下の鏡検で運動する原虫を確認して行う。炎症による反応性の核の腫大や核周囲の明るさがみられることはあるが、本標本のような典型的なコイロサイトーシスと上皮内の異型細胞増殖は示さない。

子宮頸部異形成(CIN)とは

子宮頸部の扁平上皮に異型細胞が出現しているが、基底膜を越えた浸潤はない状態である。異型細胞が上皮のどの高さまで及ぶかで次のように分類する。 ・CIN1(軽度異形成):異型細胞が上皮の下層 1/3 程度にとどまる。 ・CIN2(中等度異形成):異型細胞が上皮の下層 2/3 程度まで及ぶ。 ・CIN3(高度異形成・上皮内癌):異型細胞が上皮の 2/3 を超え、全層に及ぶものを含む。 現在の WHO 分類などでは、HPV 感染による変化を主とする CIN1 を軽度扁平上皮内病変(LSIL)、CIN2・CIN3 を高度扁平上皮内病変(HSIL)と二段階で表す方法も用いられる。

HPV と子宮頸癌

子宮頸癌のほとんどは高リスク型 HPV の持続感染が原因である。HPV に感染しても多くは免疫により自然に排除され、CIN1 の多くは自然に消える。しかし一部は持続感染から CIN2・CIN3 へ進み、さらに長い年月を経て浸潤癌に至る。HPV ワクチン接種(一次予防)と子宮頸がん検診(二次予防)が予防の柱である。

コイロサイトーシス

HPV 感染細胞にみられる形態変化で、核の周囲に明るく抜けた空胞(halo)ができ、その外側の細胞質が厚く縁取られる。核は腫大し、濃染し、しわの寄ったような不整な形を示し、2 核の細胞もみられる。成熟した中層〜表層の扁平上皮細胞に目立つ。

診断の流れと管理

細胞診(ベセスダシステムで ASC-US、LSIL、HSIL などと報告)→ コルポスコピー → 狙い組織診で確定する。CIN1 や CIN2 は経過観察となることが多く(CIN2 は症例により治療を考慮)、CIN3 では子宮頸部円錐切除術などの治療を行う。

POINT

・子宮頸がん検診の精密検査は「細胞診 → コルポスコピー → 狙い組織診」の順に行う。 ・コイロサイトーシス(核周囲の空胞+核異型)は HPV 感染を示す所見である。 ・コイロサイトーシスと上皮内の異型細胞増殖があり、基底膜が保たれて浸潤がなければ子宮頸部異形成(CIN)と診断する。 ・CIN は異型細胞が上皮のどの高さまで及ぶかで CIN1〜3 に分け、浸潤癌は基底膜を越えて間質へ浸潤する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。