StudyMed医師国家試験

骨盤壁に届いた子宮頸癌―手術ではなく「照射」が最初の一手になる理由

第119回医師国家試験 A問題 第55問

国試問題にチャレンジ

第119回 A問題 第55問

72歳の女性(4妊2産)。多量の性器出血を主訴に救急車で搬入された。2年前から帯下の増量と不正性器出血を自覚していたが,家族には相談していなかった。3か月前から,出血量が増え,めまいも出現した。今朝トイレで多量の性器出血があり,家族が救急車を要請した。意識は清明。身長152cm,体重48kg。体温37.8℃。心拍数100/分,整。血圧110/74mmHg。腟鏡診で子宮頸部に易出血性の腫瘤を認めた。内診では腫瘤の可動性は不良で,両側で骨盤壁に及ぶ子宮傍結合組織浸潤を認めた。血液所見:赤血球238万,Hb 6.9g/dL,Ht 28%,白血球10,300,血小板21万。血液生化学所見:総蛋白5.9g/dL,アルブミン2.4g/dL,総ビリルビン0.9mg/dL,AST 30U/L,ALT 26U/L,LD 250U/L(基準124~222),尿素窒素60mg/dL,クレアチニン2.8mg/dL,Na 138mEq/L,K 5.4mEq/L,Cl 105mEq/L,CEA 3.8ng/mL(基準5以下),CA125 28U/mL(基準35以下),SCC 9.8ng/mL(基準1.5以下)。CRP 5.7mg/dL。子宮頸部組織診で扁平上皮癌と診断された。胸腹部単純CTで子宮頸部に径5cmの腫瘍を認め,遠隔転移を認めない。  この患者にまず行うべき治療はどれか。

  1. a.放射線治療
  2. b.血管新生阻害薬
  3. c.広汎子宮全摘出術
  4. d.シスプラチン動注
  5. e.免疫チェックポイント阻害薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、長く放置された子宮頸癌の進行期を判定し、最初に行う治療を選ぶ問題だ。カギは2つ。内診で子宮傍組織浸潤がどこまで及んでいるか、そして腎機能や出血といった全身状態をどう治療選択に反映させるか。まず進行期から考えてみよう。
医学生医学生
子宮傍結合組織浸潤が両側で骨盤壁まで達しているので、ⅢB期だと思います。
ドクタードクター
正解。日産婦2020、FIGO2018の分類では、子宮傍組織浸潤が骨盤壁に達するもの、または水腎症や無機能腎をきたしたものがⅢB期だ。CTで遠隔転移はなく、膀胱や直腸の粘膜浸潤も示されていないからⅣ期ではない。では、腎機能の悪化はどう解釈する?
医学生医学生
脱水や出血による腎前性かと思ったんですが……。
ドクタードクター
それも関与しうるけれど、進行子宮頸癌でまず考えたいのは、腫瘍が子宮傍組織を通って尿管を巻き込み、両側の水腎症から腎後性腎不全になる病態だ。だからこそ水腎症そのものがⅢB期の基準に入っているんだよ。
医学生医学生
なるほど、進行期分類に腎のことが入っている理由がわかりました。微熱やCRP上昇は感染ですか。
ドクタードクター
腫瘍の壊死や感染、子宮留膿腫などを反映していると考えられる。それから腫瘍マーカーはSCCが高くてCEAやCA125は正常。扁平上皮癌に合致するね。さて、ここからが本題。ⅢB期の治療は何が基本だろう。
医学生医学生
癌ならまず切除、と考えたくなりますが、広汎子宮全摘出術はどうでしょうか。
ドクタードクター
広汎子宮全摘出術は子宮、基靱帯などの子宮傍組織、腟上部、骨盤リンパ節を一塊に取る手術で、適応はおおむねⅡ期まで、わが国ではⅡB期まで行う施設もある。骨盤壁まで達していると取り切れないから根治性がなく、適応外だ。高度貧血や低栄養、腎機能障害もあり、全身状態の面でも手術は難しい。
医学生医学生
婦人科の実習で、進行例は放射線治療科に紹介されていました。ⅢB期は放射線治療が中心なんですね。
ドクタードクター
そう。骨盤への外部照射で原発巣とリンパ節領域を治療し、腔内照射、つまり小線源治療で子宮頸部に高線量を集中させる。扁平上皮癌は放射線感受性が比較的高いんだ。全身状態と腎機能がよければシスプラチンを同時併用する同時化学放射線療法、CCRTが標準になる。
医学生医学生
じゃあ今回もシスプラチンを併用するべきでしょうか。
ドクタードクター
そこが大事なポイント。シスプラチンは尿細管障害による腎毒性が強い。今回はクレアチニンが高く、カリウムも上がっているから使いにくい。だから放射線単独治療を軸に考えることになる。しかも放射線治療には腫瘍からの出血を止める効果も期待できるから、多量出血で運ばれてきた今の状況にも合っているんだ。
医学生医学生
シスプラチン動注なら局所に効いて全身の副作用が少ない、ということはないですか。
ドクタードクター
腫瘍縮小効果が得られることはあるけれど、生存期間の改善は示されておらず標準治療ではない。そして結局シスプラチンだから、腎障害を悪化させる危険は変わらない。
医学生医学生
血管新生阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬は、新しい薬なので効果が高そうに思えました。
ドクタードクター
新しい薬に惹かれる気持ちはわかるよ。ベバシズマブは主に進行・再発例でパクリタキセルと白金製剤に併用する薬で、単独で初回根治治療に使うものではないし、出血や瘻孔形成のリスクもある。ペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬も、進行・再発例で化学療法と併用したり、高リスクの局所進行例でCCRTに上乗せしたりする位置づけで、単独で最初に行う治療ではない。即効性の止血効果も期待できないね。
医学生医学生
整理すると、ⅢB期で手術はできず、腎機能が悪いのでシスプラチンも避けて、止血も兼ねて放射線治療から始める、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。ただし実際の臨床では、放射線治療と並行して支持療法が欠かせない。輸血で貧血を是正し、水腎症には尿管ステント留置や経皮的腎瘻造設で腎機能の回復を図り、感染にはドレナージや抗菌薬で対応する。出血が強いときは腟内ガーゼパッキングや子宮動脈塞栓術も選択肢だ。
医学生医学生
腎瘻で腎機能が戻れば、シスプラチンを使える可能性も出てくるんですか。
ドクタードクター
いい発想だね。腎機能や全身状態が改善すれば、化学療法の併用を改めて検討することはありうる。もう一つ覚えておいてほしいのは、高齢女性の不正性器出血を「年のせい」で片付けないこと。子宮体癌や頸癌、腟癌などの悪性腫瘍をまず除外する姿勢が、今回のような進行例を減らすことにつながるんだ。

まとめ

子宮頸癌で子宮傍組織浸潤が骨盤壁に達する、または水腎症・無機能腎をきたしたものはⅢB期であり、腫瘍を取り切れないため広汎子宮全摘出術の適応はありません。Ⅲ期の根治治療は外部照射と腔内照射を組み合わせた放射線治療で、腎機能が保たれていればシスプラチン併用の同時化学放射線療法が標準ですが、腎障害がある場合はシスプラチンを避けて放射線単独治療を選びます。放射線治療は腫瘍出血の止血にも有効で、輸血や尿管ステント・腎瘻による水腎症の解除、感染対策などの支持療法を並行して行います。ベバシズマブや免疫チェックポイント阻害薬は主に化学療法や放射線治療と組み合わせて使う薬剤で、単独で最初に行う治療ではありません。進行期と全身状態の両面から治療を選ぶ考え方は、婦人科腫瘍に限らずがん診療全般で求められる基本的な判断です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・72歳女性(4妊2産)。2年前から帯下増量と不正性器出血が続き、3か月前から出血量が増えてめまいも出現、今朝多量の性器出血で救急搬送された。長期間放置され、徐々に進行した病変からの出血と考えられる。 ・心拍数100/分と頻脈だが、血圧110/74mmHgで意識清明であり、現時点でショックには至っていない。 ・Hb 6.9g/dLの高度貧血:持続する性器出血が主因と考えられる(腎機能低下も貧血を助長しうる)。 ・総蛋白5.9g/dL、アルブミン2.4g/dL:低栄養・消耗状態。 ・尿素窒素60mg/dL、クレアチニン2.8mg/dL、K 5.4mEq/L:腎機能障害。進行子宮頸癌では、腫瘍が子宮傍組織を通って尿管を巻き込み、両側の水腎症から腎後性腎不全をきたすことが多い。 ・体温37.8℃、CRP 5.7mg/dL、LD軽度上昇:腫瘍の壊死・感染(子宮留膿腫を含む)や組織崩壊を反映していると考えられる。 ・腫瘍マーカー:SCC(扁平上皮癌関連抗原)9.8ng/mLと高値で、腺癌で上昇しやすいCEA・CA125は正常。扁平上皮癌に合致する。

診断と進行期

腟鏡診で子宮頸部に易出血性腫瘤を認め、組織診で扁平上皮癌と確定した。内診で腫瘤の可動性が不良で、子宮傍結合組織浸潤が両側とも骨盤壁に達している。子宮頸癌の進行期分類(日産婦2020/FIGO2018)では、子宮傍組織浸潤が骨盤壁に達するもの、または水腎症・無機能腎をきたしたものはⅢB期である。CTで遠隔転移はなく、膀胱・直腸粘膜への浸潤も示されていないのでⅣ期ではない。したがって局所進行子宮頸癌ⅢB期(画像でリンパ節転移があればⅢC期)と判断される。

治療の考え方

子宮頸癌の手術療法(広汎子宮全摘出術など)の適応はおおむねⅡ期まで(わが国ではⅡB期まで手術を行う施設もある)であり、骨盤壁まで進展したⅢ期では腫瘍を取り切れないため手術の適応はない。Ⅲ期の根治的治療の中心は放射線治療(骨盤への外部照射と腔内照射の組み合わせ)であり、全身状態と腎機能が許せばシスプラチンを同時に併用する同時化学放射線療法(CCRT)が標準である。 本例はクレアチニン2.8mg/dLと腎機能が低下しており、腎毒性の強いシスプラチンは使いにくいため、放射線単独治療を軸に考えることになる。さらに放射線治療は腫瘍からの出血に対する止血効果も期待できる。並行して、輸血による貧血の是正、水腎症に対する尿管ステント留置や腎瘻造設による腎機能改善、感染への対応などの支持療法を行う。 以上から、この患者にまず行うべき治療は放射線治療である。

選択肢考察

  1. ○a.  放射線治療

    ⅢB期の局所進行子宮頸癌に対する根治的治療の基本は放射線治療(外部照射+腔内照射)である。扁平上皮癌は放射線感受性が比較的高く、全身状態が保たれていればシスプラチン併用のCCRTが標準となるが、本例は腎機能障害(クレアチニン2.8mg/dL)がありシスプラチンの使用は難しいため、放射線治療単独が現実的な選択となる。放射線治療は腫瘍出血の止血にも有効であり、多量の性器出血をきたしている本例で最初に行う治療として最も適切である。

  2. ×b.  血管新生阻害薬

    血管新生阻害薬(抗VEGF抗体のベバシズマブ)は、進行・再発子宮頸癌に対して、パクリタキセルと白金製剤による化学療法に併用して用いられる薬剤である。局所進行例の初回根治治療として単独で用いるものではない。また、骨盤照射後の症例では消化管穿孔や瘻孔形成のリスクが高まり、出血傾向を助長しうる点にも注意が必要で、出血している本例で最初に行う治療ではない。

  3. ×c.  広汎子宮全摘出術

    広汎子宮全摘出術は子宮、子宮傍組織(基靱帯など)、腟上部、骨盤リンパ節を一塊に摘出する術式で、主にⅠB〜Ⅱ期(わが国ではⅡB期まで含めることがある)の子宮頸癌に行われる。本例は子宮傍組織浸潤が骨盤壁に達したⅢB期で、腫瘍を完全に切除することができず根治性が得られないため適応にならない。高度貧血・低栄養・腎機能障害など全身状態の面からも手術は不適当である。

  4. ×d.  シスプラチン動注

    子宮動脈・内腸骨動脈からのシスプラチン動注は、腫瘍縮小効果が得られることはあるが、生存期間の改善は示されておらず、ⅢB期の標準治療ではない。さらにシスプラチンは尿細管障害による腎毒性が強く、クレアチニン2.8mg/dL、K 5.4mEq/Lと腎機能が低下している本例では、腎障害をさらに悪化させる危険がある。

  5. ×e.  免疫チェックポイント阻害薬

    免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体のペムブロリズマブなど)は、主に進行・再発子宮頸癌に対して化学療法と併用して用いられる。近年、高リスクの局所進行例でCCRTに上乗せする治療も導入されつつあるが、いずれも放射線治療・化学療法と組み合わせて用いるもので、単独で最初に行う根治治療ではない。また即効性の止血効果は期待できず、多量出血している本例でまず行う治療として不適切である。

子宮頸癌の進行期分類(日産婦2020/FIGO2018)の概要

・Ⅰ期:子宮頸部に限局(ⅠA期は顕微鏡的浸潤癌、ⅠB期は肉眼的病変などでⅠAを超えるもの。腫瘍径によりⅠB1〜ⅠB3に細分)。 ・Ⅱ期:子宮頸部を越えるが、腟壁下1/3または骨盤壁には達しない(ⅡA期:腟壁浸潤のみ、ⅡB期:子宮傍組織浸潤あり)。 ・Ⅲ期:腟壁下1/3に達する、骨盤壁に達する、水腎症・無機能腎をきたす、または骨盤・傍大動脈リンパ節転移がある。  ⅢA期:腟壁下1/3に達するが骨盤壁には達しない。  ⅢB期:子宮傍組織浸潤が骨盤壁に達する、または水腎症・無機能腎がある。  ⅢC期:骨盤リンパ節転移(ⅢC1)、傍大動脈リンパ節転移(ⅢC2)。 ・Ⅳ期:膀胱・直腸粘膜への浸潤、または小骨盤腔を越える進展(ⅣA)、遠隔転移(ⅣB)。

子宮頸癌の治療の原則

・ⅠA期:円錐切除術や単純子宮全摘出術など。 ・ⅠB〜Ⅱ期:広汎子宮全摘出術または根治的放射線治療(CCRT)。術後に再発リスク因子があれば術後放射線治療・CCRTを追加する。 ・Ⅲ〜ⅣA期:CCRT(シスプラチン併用)が標準。腎機能障害や高齢・全身状態不良でシスプラチンが使えない場合は放射線単独治療。 ・ⅣB期・再発例:化学療法(パクリタキセル+白金製剤)に、ベバシズマブや免疫チェックポイント阻害薬を併用するなどの薬物療法、症状緩和目的の放射線治療。

子宮頸癌に対する放射線治療

・骨盤外部照射(全骨盤照射)で原発巣と所属リンパ節領域を治療し、腔内照射(小線源治療)で子宮頸部の原発巣に高線量を集中させる。 ・シスプラチンには放射線増感作用があり、CCRTにより局所進行例の生存率が改善することが2000年前後の臨床試験で示され、世界的な標準治療となった。 ・止血目的の照射も行われ、腫瘍出血のコントロールに有効である。

進行子宮頸癌の合併症への対応

・水腎症による腎後性腎不全:尿管ステント留置、経皮的腎瘻造設。 ・腫瘍出血:腟内ガーゼパッキング、止血目的の放射線治療、子宮動脈塞栓術、輸血。 ・子宮留膿腫・感染:ドレナージ、抗菌薬。

高齢女性の性器出血

子宮体癌、子宮頸癌、腟癌・外陰癌などの悪性腫瘍と、萎縮性腟炎などの炎症性疾患が主な鑑別となる。子宮頸部の腫瘤では粘膜下筋腫の筋腫分娩も鑑別に挙がり、組織診・画像検査で確定する。

POINT

・子宮傍組織浸潤が骨盤壁に達する、または水腎症・無機能腎がある子宮頸癌はⅢB期。 ・Ⅲ期以上の子宮頸癌は手術適応がなく、放射線治療(原則としてシスプラチン併用のCCRT)が標準治療。 ・腎機能障害でシスプラチンが使えなければ放射線単独治療を行う。 ・放射線治療は腫瘍出血の止血にも有効。 ・SCCは扁平上皮癌の腫瘍マーカー。 ・進行子宮頸癌の腎機能障害は尿管閉塞による水腎症(腎後性)をまず考える。 ・ベバシズマブ・免疫チェックポイント阻害薬は主に進行・再発例で化学療法と併用する薬剤。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。