StudyMed医師国家試験

「私が悪いんです」は症状だった―抑うつ気分が生み出す妄想の正体

第110回医師国家試験 I問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第34問

うつ病の患者で,抑うつ気分と関連してみられる妄想はどれか。2つ選べ。

  1. a.被毒妄想
  2. b.迫害妄想
  3. c.憑依妄想
  4. d.罪業妄想
  5. e.貧困妄想

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、妄想の「内容」から背景にある病態を読み解く問題だ。妄想は何でもありのように見えて、実はその人の気分状態と深く結びついている。うつ病の患者さんがどんな主題の妄想を抱きやすいか、気分との関係を軸に考えてみよう。
医学生医学生
精神医学の講義で、妄想は「訂正不能な誤った確信」と習いました。うつ病でも妄想が出るんですね。
ドクタードクター
そう。重症のうつ病では、妄想を伴うことがある。ポイントは、抑うつ気分の中身、つまり悲観・自責・無価値感がそのまま膨らんで確信になるということ。自分を実際より小さく、価値のないものと評価する考えが妄想の域に達したものを微小妄想と呼ぶんだ。
医学生医学生
微小妄想……自分を小さく見積もる、ということですか。具体的にはどんなものがありますか。
ドクタードクター
代表は三つ。自分は取り返しのつかない罪を犯した、罰を受けるべきだと確信する罪業妄想。お金は十分あるのに破産した、生活できなくなると確信する貧困妄想。そして自分は癌のような不治の病にかかっていると確信する心気妄想。これをまとめてうつ病の三大妄想というよ。
医学生医学生
選択肢にある罪業妄想と貧困妄想は、その三大妄想に入っていますね。
ドクタードクター
その通り、この2つが正解だ。罪業妄想は自責感・罪責感が極端になったもので、ささいな失敗を「重大な罪」と受け止めてしまう。貧困妄想は将来への悲観が背景にあって、特に高齢者のうつ病でよくみられる。「入院費が払えない」「家族が路頭に迷う」と訴える方は、臨床でも珍しくないんだ。
医学生医学生
迫害妄想は少し迷いました。うつ病の人も「周りから責められている」と感じそうな気がして。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。実際、うつ病でも「自分は罪深いから罰として追われている」という形で迫害的な内容が現れることはまれにある。ただ、迫害妄想の主題そのものは「他者から害される」という外部からの加害だ。抑うつ気分から典型的に導かれるものではなく、統合失調症や妄想性障害に代表的な被害妄想の一型と考えるのが基本だよ。
医学生医学生
被毒妄想も、食べ物に毒を入れられるという「被害」の話なので、同じグループですね。
ドクタードクター
そう。被毒妄想も被害妄想の一型で、統合失調症や妄想性障害、認知症などでみられる。自分を責める方向ではなく、他者が自分を攻撃してくる方向の主題だから、抑うつ気分とは向きが逆なんだ。
医学生医学生
憑依妄想は、狐が憑くとか、そういうものでしたっけ。
ドクタードクター
そう、狐や神、霊などが乗り移って自分を支配していると確信する妄想だ。自分の思考や行動が自分のものだという自我意識の障害と関連していて、統合失調症のほか、宗教的・民俗的背景をもつ解離性の状態、たとえば祈祷性精神病などでもみられる。抑うつ気分とは関係しないね。
医学生医学生
つまり、妄想の矢印が「自分に向かって自分を責める」ならうつ病、「外から自分を害する」なら統合失調症寄り、と整理できそうです。
ドクタードクター
とてもいい整理だ。こうした気分と一致した主題の妄想を「気分に一致した妄想」と呼ぶ。躁病ならその逆で、自分を過大に評価する誇大妄想、たとえば血統妄想や発明妄想が気分に一致した妄想になる。一方、被害妄想や作為体験、思考吹入などは気分に一致しない妄想で、統合失調症との鑑別が問題になるんだ。
医学生医学生
三大妄想以外に、さらに重いものはありますか。
ドクタードクター
重症例では、自分の内臓がなくなった、自分も世界もすでに存在しないと確信する虚無妄想、いわゆるCotard症候群がみられることがある。ここまでくると食事も拒否しがちで、生命の危険が高まるよ。
医学生医学生
臨床実習で精神科を回ったとき、指導医の先生が「罪業妄想のある患者さんは自殺リスクに特に注意」とおっしゃっていました。
ドクタードクター
大事なポイントだね。罪の意識から「死んで償うしかない」と考えてしまうことがあるから、自殺リスクの評価は欠かせない。妄想を伴う精神病性うつ病では、抗うつ薬に抗精神病薬を併用することが多く、自殺の危険が切迫している場合や、昏迷・拒食で生命が危ぶまれる場合には修正型電気けいれん療法が有効だ。妄想の内容を聞き取ることは、診断だけでなく重症度やリスクの評価にも直結するんだよ。

まとめ

うつ病では、抑うつ気分の中身である悲観・自責・無価値感が確信にまで高まり、微小妄想として現れることがあります。代表は罪業妄想・貧困妄想・心気妄想の三大妄想で、重症例では虚無妄想(Cotard症候群)もみられ、これらは「気分に一致した妄想」と呼ばれます。一方、迫害妄想や被毒妄想などの被害妄想、憑依妄想、作為体験は外部からの加害や支配を主題とし、統合失調症などに特徴的で抑うつ気分とは直接結びつきません。躁病では誇大妄想が気分に一致した妄想となる点もあわせて押さえておきましょう。妄想の主題と気分の関係を理解することは、疾患の鑑別だけでなく、罪業妄想に伴う自殺リスクの評価や、抗精神病薬併用・電気けいれん療法といった治療方針の判断にも役立ちます。

解答・解説

正解はd, eです

妄想とは、根拠がないにもかかわらず強く確信され、訂正が不可能な誤った考えである。妄想の内容(主題)は、背景にある精神疾患や気分状態と深く結びついている。 うつ病では、強い抑うつ気分を背景として、自分を実際以上に小さく・価値のないものと評価する考えが妄想にまで高まることがある。これを微小妄想(微小念慮が妄想の域に達したもの)と総称し、代表的なものが次の三つである(うつ病の三大妄想)。 ・罪業妄想:自分は取り返しのつかない罪を犯した、罰を受けるべき人間だと確信する。 ・貧困妄想:実際には経済的に困っていないのに、財産を失って破産した、生活できなくなると確信する。 ・心気妄想:自分は不治の病(癌など)にかかっていると確信する。 さらに重症例では、自分の身体や世界がすでに存在しない、内臓がなくなったなどと確信する虚無妄想(Cotard症候群)がみられることもある。 このように気分の内容(悲観・自責・無価値感)と一致した主題をもつ妄想を「気分に一致した(気分と調和した)妄想」と呼ぶ。設問の「抑うつ気分と関連してみられる妄想」はこれを指している。一方、他者から害される、操られるといった、外部からの被害や影響を主題とする妄想は統合失調症に特徴的であり、抑うつ気分から直接導かれるものではない。

選択肢考察

  1. ×a.  被毒妄想

    被毒妄想は、飲食物や薬に毒を入れられて殺されようとしている、と確信する妄想である。他者から危害を加えられるという被害妄想の一型であり、統合失調症や妄想性障害、認知症などで多くみられる。自分を責める・自分を価値のないものとみなすという抑うつ気分の内容とは主題が異なるため、該当しない。

  2. ×b.  迫害妄想

    迫害妄想は、特定の人物や組織から追跡・監視され、陥れられたり危害を加えられたりしていると確信する妄想で、被害妄想の代表である。統合失調症や妄想性障害に多い。うつ病でも「自分は罪深いので罰として追われている」という形で現れることはまれにあるが、主題そのものは外部からの加害であり、抑うつ気分に典型的に結びつく妄想とはいえない。

  3. ×c.  憑依妄想

    憑依妄想は、自分に狐や神、霊などが乗り移り、それに支配されて話したり行動したりしていると確信する妄想である。自分の思考や行動が自分のものであるという感覚(自我意識)が障害されたことと関連し、統合失調症でみられるほか、宗教的・民俗的背景をもつ解離性の状態(祈祷性精神病など)でもみられる。抑うつ気分とは関連しない。

  4. ○d.  罪業妄想

    罪業妄想は、過去のささいな失敗や過ちを重大な罪とみなし、「取り返しのつかないことをした」「家族や周囲に迷惑をかけた、罰を受けなければならない」と確信する妄想である。うつ病の自責感・罪責感が極端に強まったもので、微小妄想の代表であり、抑うつ気分と一致した妄想である。罪の意識から自殺に結びつくことがあるため、自殺リスクの評価が重要となる。

  5. ○e.  貧困妄想

    貧困妄想は、実際には十分な収入や貯えがあるにもかかわらず、「財産をすべて失った」「入院費が払えない」「家族が路頭に迷う」などと確信する妄想である。将来への悲観と無価値感を背景とした微小妄想の一つで、抑うつ気分と一致した妄想である。特に高齢者のうつ病でみられやすい。

気分に一致した妄想と一致しない妄想

精神病性の特徴を伴う気分障害では、妄想の内容が気分と一致するかどうかを区別する(DSM-5の特定用語)。 ・抑うつエピソードで気分に一致:罪業、貧困、心気、虚無、自分は罰を受けて当然などの主題。 ・躁病エピソードで気分に一致:誇大妄想(血統妄想、発明妄想、宗教妄想、恋愛妄想など、自分を過大に評価する主題)。 ・気分に一致しない妄想:被害妄想、作為体験(させられ体験)、思考吹入・思考奪取などで、統合失調症との鑑別が問題となる。

疾患と妄想の主題の対応

・統合失調症:被害妄想(迫害、被毒、注察、追跡など)、関係妄想、作為体験、憑依妄想など。 ・うつ病:微小妄想(罪業、貧困、心気)、虚無妄想(Cotard症候群)。 ・躁病:誇大妄想。 ・妄想性障害:被害妄想、嫉妬妄想、恋愛妄想、身体的妄想など、体系化された単一の妄想。

精神病性うつ病の治療

妄想を伴う重症うつ病(精神病性うつ病)では、抗うつ薬に抗精神病薬を併用することが多い。自殺の危険が高い場合や昏迷、拒食などで生命に危険がある場合には修正型電気けいれん療法(m-ECT)が有効である。

POINT

・うつ病の三大妄想:罪業妄想・貧困妄想・心気妄想(いずれも微小妄想)。重症例では虚無妄想(Cotard症候群)。 ・躁病では誇大妄想がみられる。 ・被害妄想(迫害・被毒など)、憑依妄想、作為体験は統合失調症に特徴的で、抑うつ気分とは結びつかない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。