StudyMed医師国家試験

太陽がDNAを傷つける―色素性乾皮症から学ぶ有棘細胞癌の発生母地

第110回医師国家試験 I問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第27問

有棘細胞癌を発症しやすい疾患はどれか。

  1. a.硬結性紅斑
  2. b.膿疱性乾癬
  3. c.毛孔性苔癬
  4. d.壊疽性膿皮症
  5. e.色素性乾皮症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、有棘細胞癌がどんな背景から生じやすいか、つまり発生母地を問う問題だ。皮膚癌が育つ「土壌」を思い浮かべながら選択肢を見ていこう。そもそも有棘細胞癌はどんな細胞から生じる癌かな。
医学生医学生
表皮の角化細胞、ケラチノサイトから発生する癌ですよね。病理実習で癌真珠を見ました。
ドクタードクター
そう、角化傾向を示して癌真珠をつくるのが特徴だ。そして有棘細胞癌の多くは、何らかの前駆病変や皮膚障害を土台に生じる。どんな要因が思いつく?
医学生医学生
まずは紫外線でしょうか。高齢者の顔にできる日光角化症が前癌病変だと習いました。
ドクタードクター
正解。ほかに大きく分けると、DNA修復の遺伝的異常、熱傷瘢痕や慢性放射線皮膚炎のような慢性の瘢痕・潰瘍・炎症、HPV感染、ヒ素などの化学物質、臓器移植後などの免疫抑制がある。この枠組みで選択肢を眺めると、どれが当てはまるかな。
医学生医学生
DNA修復の異常といえば色素性乾皮症ですね。
ドクタードクター
その通り。色素性乾皮症は、紫外線でできたピリミジン二量体などのDNA損傷をヌクレオチド除去修復で治せない、常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患だ。乳幼児期から日光に当たると強い日焼け反応が起こり、露光部に雀卵斑様の色素斑や乾燥、萎縮が進んで、若いうちから有棘細胞癌、基底細胞癌、悪性黒色腫が多発する。
医学生医学生
生化学の講義でXPAからXPGまでの遺伝子を習いました。日本ではどの群が多いんでしょうか。
ドクタードクター
A群が最も多く、難聴や歩行障害、知能低下といった進行性の神経症状を伴うのが特徴だ。修復遺伝子ではなく、損傷を乗り越えて複製するポリメラーゼηの異常によるバリアント型もある。治療の基本は徹底した遮光と、腫瘍の早期発見・切除だよ。では他の選択肢も確認しよう。硬結性紅斑はどうかな。
医学生医学生
結核と関係する病気でしたよね。皮膚結核は有棘細胞癌の母地だった気がするので、少し迷いました。
ドクタードクター
そこは混同しやすいポイントだ。硬結性紅斑は結核菌に対するアレルギー反応で起こる結核疹で、中年女性の下腿に暗赤色の皮下硬結をつくる。本態は皮下脂肪組織の血管炎だ。癌の母地として知られるのは、真性皮膚結核である尋常性狼瘡の瘢痕のほう。結核疹と真性皮膚結核は分けて覚えよう。
医学生医学生
膿疱性乾癬も、慢性の炎症という点では癌と関係しそうに思えます。
ドクタードクター
長く続く炎症性疾患ではあるけれど、有棘細胞癌が好発する疾患とはされていない。汎発型は発熱などの全身症状とともに紅斑上に無菌性膿疱が多発し、IL36RN遺伝子の変異が関わる例もある指定難病だ。低アルブミン血症や低カルシウム血症、関節炎の合併に注意する病気だね。
医学生医学生
毛孔性苔癬は、皮膚科の実習で若い人の上腕にざらざらした丘疹が並んでいるのを見ました。
ドクタードクター
それが典型像だ。毛孔に一致した角化性丘疹が上腕や大腿の伸側に出る良性の角化症で、思春期前後に目立ち、加齢とともに軽快することが多い。悪性化はしない。
医学生医学生
壊疽性膿皮症は難治性の潰瘍なので、慢性潰瘍から癌が出るパターンに当てはまりそうですが……。
ドクタードクター
いい推論だけど、壊疽性膿皮症は有棘細胞癌の母地としては位置づけられていない。好中球が関与する非感染性の炎症で、辺縁が堤防状に隆起した穿掘性の有痛性潰瘍が広がる。潰瘍性大腸炎やクローン病、骨髄異形成症候群、関節リウマチなどに合併しやすいのが特徴だ。軽い外傷で悪化するパテルギーがあるから、デブリードマンは避けて副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬で治療する。
医学生医学生
慢性潰瘍ならなんでも、ではなく、母地になる疾患を具体的に覚えておく必要があるんですね。
ドクタードクター
そう。熱傷瘢痕から生じる瘢痕癌(マルジョラン潰瘍)、慢性放射線皮膚炎、尋常性狼瘡、殿部慢性膿皮症、栄養障害型表皮水疱症、表皮内癌であるボーエン病などをセットで押さえておこう。ボーエン病が多発していたらヒ素曝露を疑うことも大切だ。
医学生医学生
臨床では、長年治らない瘢痕や潰瘍に硬い盛り上がりが出てきたら要注意、ということですね。
ドクタードクター
その通り。そういうときはためらわず生検を考える。有棘細胞癌は基底細胞癌と違ってリンパ節転移や遠隔転移を起こしうるので、所属リンパ節の診察も欠かせない。腫瘍マーカーとしてSCC抗原が用いられ、治療の基本は外科的切除だよ。

まとめ

有棘細胞癌は表皮の角化細胞から生じる悪性腫瘍で、紫外線曝露、DNA修復の遺伝的異常、慢性の瘢痕・潰瘍・炎症、HPV感染、ヒ素、免疫抑制などを背景に発生しやすくなります。色素性乾皮症は紫外線によるDNA損傷をヌクレオチド除去修復で修復できない常染色体潜性遺伝の疾患で、幼少期から露光部に有棘細胞癌をはじめとする皮膚癌が多発し、わが国に多いA群では神経症状も伴うため、遮光の徹底と早期発見が欠かせません。一方、硬結性紅斑(結核疹)、膿疱性乾癬、毛孔性苔癬、壊疽性膿皮症は有棘細胞癌の発生母地とはされず、特に硬結性紅斑と、母地となる尋常性狼瘡(真性皮膚結核)の混同には注意が必要です。日光角化症、ボーエン病、熱傷瘢痕、慢性放射線皮膚炎などの発生母地を整理しておくことは、治りにくい皮膚病変の中に潜む癌を見逃さない臨床の目を養うことにつながります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

有棘細胞癌(扁平上皮癌、squamous cell carcinoma:SCC)が発生しやすい背景疾患、すなわち発生母地・前駆病変を知っているかを問う問題である。

有棘細胞癌の発生要因

有棘細胞癌は表皮の角化細胞(ケラチノサイト)から発生する悪性腫瘍で、多くは何らかの前駆病変や皮膚障害を土台として生じる。主な要因は次のように整理できる。 ・紫外線:長年の日光曝露によるDNA損傷。日光角化症は代表的な前癌病変である。 ・DNA修復の遺伝的異常:色素性乾皮症など。 ・慢性の瘢痕・潰瘍・炎症:熱傷瘢痕(瘢痕癌)、慢性放射線皮膚炎、尋常性狼瘡(皮膚結核)、殿部慢性膿皮症、栄養障害型表皮水疱症など。 ・ヒトパピローマウイルス(HPV):疣贅状表皮発育異常症、外陰部・爪周囲の病変。 ・化学物質:ヒ素など。 ・免疫抑制:臓器移植後など。

正解を導く考え方

選択肢のなかで、上記の背景に該当するのは色素性乾皮症である。色素性乾皮症は紫外線で生じたDNA損傷を修復できない遺伝性疾患であり、日光露出部に幼少期から有棘細胞癌をはじめとする皮膚癌が多発する。そのほかの選択肢(硬結性紅斑、膿疱性乾癬、毛孔性苔癬、壊疽性膿皮症)は、いずれも有棘細胞癌の発生母地として知られる疾患ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  硬結性紅斑

    誤り。硬結性紅斑(バザン硬結性紅斑)は、結核菌に対するアレルギー反応で生じる結核疹の代表で、中年女性の下腿、特にふくらはぎ側に好発する。暗赤色の皮下硬結をつくり、潰瘍化することもあるが、瘢痕を残して治る。皮下脂肪組織の血管炎(脂肪織炎)が本態であり、有棘細胞癌の発生母地ではない。なお、真性皮膚結核である尋常性狼瘡は長い経過で瘢痕から有棘細胞癌を生じうるので、混同しないこと。

  2. ×b.  膿疱性乾癬

    誤り。膿疱性乾癬(汎発型)は乾癬の一病型で、発熱・倦怠感などの全身症状とともに、紅斑上に無菌性の小膿疱が多発する。IL-36受容体拮抗因子をコードするIL36RN遺伝子の変異が関与する例があり、指定難病である。低アルブミン血症、低カルシウム血症、関節炎などを合併しうるが、有棘細胞癌が好発する疾患ではない。

  3. ×c.  毛孔性苔癬

    誤り。毛孔性苔癬は、毛孔に一致した角化性の小丘疹が上腕伸側や大腿伸側などに多発する良性の角化症で、常染色体顕性(優性)遺伝の傾向がある。思春期前後に目立ち、加齢とともに軽快することが多い。悪性化することはない。

  4. ×d.  壊疽性膿皮症

    誤り。壊疽性膿皮症は、好中球が関与する非感染性の炎症性皮膚疾患(好中球性皮膚症)で、主に下肢に、辺縁が堤防状に隆起し穿掘性を示す有痛性の難治性潰瘍が遠心性に拡大する。軽微な外傷を契機に新生・増悪する(パテルギー)。潰瘍性大腸炎・クローン病などの炎症性腸疾患、骨髄異形成症候群や白血病などの血液疾患、関節リウマチ、高安動脈炎などに合併しやすい。治療は副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬で、デブリードマンは増悪させうるため避ける。有棘細胞癌の発生母地としては位置づけられていない。

  5. ○e.  色素性乾皮症

    正しい。色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum:XP)は、紫外線によって生じたDNA損傷(ピリミジン二量体など)を修復するヌクレオチド除去修復の遺伝子(XPA〜XPG)、または損傷を乗り越えてDNAを複製するポリメラーゼη(バリアント型)の異常による常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患である。乳幼児期から日光曝露後に強い日焼け反応が起こり、露光部に雀卵斑様の色素斑、乾燥、萎縮、毛細血管拡張が進行する。若年から有棘細胞癌、基底細胞癌、悪性黒色腫などの皮膚悪性腫瘍が露光部に多発する。わが国で最も多いA群では、進行性の神経症状(難聴、歩行障害、知能低下など)を伴う。治療の基本は遮光の徹底と、腫瘍の早期発見・切除である。

有棘細胞癌の発生母地・前駆病変

・日光角化症(光線角化症、老人性角化症):高齢者の顔面など露光部の角化性紅斑。表皮内有棘細胞癌とみなされる。 ・ボーエン病:表皮内有棘細胞癌。多発例ではヒ素曝露との関連を考える。 ・色素性乾皮症:DNA修復異常。 ・慢性放射線皮膚炎。 ・熱傷瘢痕など慢性の瘢痕・潰瘍(瘢痕癌、マルジョラン潰瘍とよばれる)。 ・尋常性狼瘡(皮膚結核)の瘢痕。 ・殿部慢性膿皮症。 ・栄養障害型表皮水疱症。 ・白板症:口唇の円板状エリテマトーデス、口唇・口腔粘膜の扁平苔癬、外陰部の硬化性萎縮性苔癬など。 ・疣贅状表皮発育異常症:HPV感染による。 ・臓器移植後などの免疫抑制状態。

有棘細胞癌の臨床像

高齢者の露光部(顔面、手背)などに、角化を伴う結節・腫瘤として生じ、潰瘍化しやすい。病理では異型角化細胞の増殖と角化傾向を示し、癌真珠を形成する。基底細胞癌と違い、所属リンパ節転移や遠隔転移を起こしうる。腫瘍マーカーとしてSCC抗原が用いられる。治療の基本は外科的切除である。

色素性乾皮症の要点

常染色体潜性遺伝、ヌクレオチド除去修復の異常(A〜G群)とバリアント型。わが国ではA群が最多で神経症状を伴う。露光部の色素斑と皮膚癌多発。遮光が最重要。

POINT

・有棘細胞癌の発生母地:日光角化症、ボーエン病、色素性乾皮症、慢性放射線皮膚炎、熱傷瘢痕、尋常性狼瘡、殿部慢性膿皮症、栄養障害型表皮水疱症など ・色素性乾皮症は紫外線DNA損傷の修復異常(常染色体潜性遺伝)で、露光部に若年から皮膚癌が多発する ・硬結性紅斑は結核疹、尋常性狼瘡は真性皮膚結核(後者は有棘細胞癌の母地) ・壊疽性膿皮症は炎症性腸疾患・血液疾患・関節リウマチに合併する好中球性皮膚症

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。