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「ドゥン」と響く拡張早期の音―Ⅲ音の正体を5つの視点で読み解く

第110回医師国家試験 H問題 第6問

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第110回 H問題 第6問

心音のⅢ音について正しいのはどれか。

  1. a.低調な音である。
  2. b.座位で増強する。
  3. c.収縮期に聴取する。
  4. d.大動脈弁領域で聴取しやすい。
  5. e.小児で聴取すれば病的である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は心音のⅢ音の性質を問う問題だ。Ⅲ音は「いつ」「どんな音で」「どこで」「どう聴くか」「何を意味するか」の5つの視点で整理すると、すべての選択肢を判断できるよ。まずは基本から。Ⅰ音とⅡ音はそれぞれ何の音だったかな。
医学生医学生
Ⅰ音は房室弁の閉鎖、Ⅱ音は大動脈弁と肺動脈弁の閉鎖の音です。生理学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。Ⅰ音が収縮期の始まり、Ⅱ音が収縮期の終わり、つまり拡張期の始まりを告げる。これに加えて拡張期に聴かれることがある過剰心音がⅢ音とⅣ音だ。Ⅲ音はどのタイミングで出ると思う?
医学生医学生
Ⅲ音という名前なので、Ⅱ音の後……拡張期のどこかでしょうか。
ドクタードクター
いい推論だね。Ⅲ音はⅡ音の少し後、拡張早期に聴かれる。房室弁が開くと、心房に貯まっていた血液が圧較差で心室へ一気に流れ込む。これが急速充満期で、そのとき流入した血液が心室壁を急に伸展させて生じる振動がⅢ音なんだ。だから収縮期に聴取するというのは誤りだよ。
医学生医学生
心室の壁が伸ばされて揺れる音なら、弁が閉じる音と違って鈍い音になりそうですね。
ドクタードクター
鋭いね。周波数の低い振動だから、Ⅲ音は低調で「ドゥン」と鈍く響く。これが正解だ。低調音を拾うには聴診器のベル型を使う。ただし強く押し付けると皮膚が張って膜のようにはたらき、低音が弱まってしまうから、軽く当てるのがコツだ。
医学生医学生
OSCEの練習で、膜型とベル型の使い分けを何度も注意されました。Ⅲ音はまさにベル型の出番なんですね。
ドクタードクター
そう。次は聴く場所と体位だ。大動脈弁領域で聴きやすい、座位で増強する、という選択肢はどう考える?
医学生医学生
心室壁の振動なら、左室に近い心尖部のほうが聴こえやすい気がします。体位は……座位で前かがみにすると聴こえやすくなる音もありましたよね。
ドクタードクター
座位前傾で聴きやすいのは大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音などだね。左室由来のⅢ音は心尖部で最もよく聴かれ、左側臥位で増強する。左側臥位だと心尖部が胸壁に近づいて、小さな低調音でも伝わりやすいからだ。逆に座位や立位では静脈還流が減って心室への流入が減るから、Ⅲ音はむしろ弱くなる。なお右室由来のⅢ音は胸骨左縁下部で聴かれ、吸気時に増強する。大動脈弁領域で目立つのは、大動脈弁成分のⅡ音や大動脈弁狭窄症の収縮期雑音のほうだ。
医学生医学生
最後は小児で聴取すれば病的、という選択肢ですね。Ⅲ音といえば心不全のイメージが強いので、正しいように思えてしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。小児や若年者は心筋がしなやかで心室への流入が速く、胸壁も薄いから、健常でもⅢ音が聴かれることがある。これを生理的Ⅲ音という。妊婦やスポーツ選手でも聴かれることがあるよ。一方、中高年でⅢ音を聴取したら、心不全や僧帽弁閉鎖不全症などによる病的Ⅲ音を考える。
医学生医学生
同じ音でも、年齢によって意味が変わるんですね。
ドクタードクター
その通り。病的Ⅲ音は、拡張型心筋症や陳旧性心筋梗塞のような収縮不全による心不全、僧帽弁閉鎖不全症や心室中隔欠損症のように拡張期の流入量が増える病態、甲状腺機能亢進症や貧血などの高心拍出状態で聴かれる。キーワードは容量負荷だ。
医学生医学生
Ⅳ音との違いも整理しておきたいです。CBTでよく混同していました。
ドクタードクター
大切だね。Ⅳ音は拡張後期、Ⅰ音の直前に、心房収縮で硬くなった心室へ血液が押し込まれて生じる。左室肥大や高血圧心、肥大型心筋症など心室のコンプライアンス低下を反映し、健常者では通常聴かれないから、聴取すれば病的と考える。心房収縮が必要なので、心房細動ではⅣ音は聴かれない。どちらも低調で、ベル型・心尖部・左側臥位で聴きやすい点は共通だ。
医学生医学生
Ⅲ音は容量負荷で若年者なら生理的、Ⅳ音は硬い心室で聴こえれば病的、と覚えます。
ドクタードクター
いいまとめだね。臨床では、心不全の患者さんでⅠ音−Ⅱ音−Ⅲ音と続く馬の駆け足のようなリズム、つまり拡張早期ギャロップが聴こえたら重要なサインになる。頻脈でⅢ音とⅣ音が重なると重合奔馬調律として聴かれることもある。病棟で心不全の患者さんを受け持ったら、ぜひ左側臥位でベル型を当てて聴いてみてほしい。

まとめ

Ⅲ音は拡張早期の急速充満期に、心室へ流入した血液が心室壁を急に伸展させて生じる低調な過剰心音です。左室由来のⅢ音は心尖部で最もよく聴かれ、ベル型を軽く当て、左側臥位で聴くと検出しやすく、座位や立位ではむしろ減弱します。小児・若年者や妊婦では生理的にも聴かれますが、中高年で聴取した場合は心不全や僧帽弁閉鎖不全症など容量負荷を示唆する病的所見と考えます。一方Ⅳ音は拡張後期に心室のコンプライアンス低下を反映して生じ、聴取すれば病的で、心房細動では消失します。心音の発生機序から性質を理解しておくことは、ベッドサイドの聴診で心不全の兆候を捉える力に直結します。

解答・解説

正解はaです

心音の基本はⅠ音とⅡ音である。Ⅰ音は房室弁(僧帽弁・三尖弁)の閉鎖により収縮期の始まりに、Ⅱ音は半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)の閉鎖により収縮期の終わり(拡張期の始まり)に生じる。これに加えて拡張期に聴かれることがある過剰心音がⅢ音とⅣ音である。 Ⅲ音はⅡ音の約0.12〜0.18秒後、拡張早期に聴かれる。房室弁が開いた直後、心房に貯まっていた血液が心房と心室の圧較差によって心室へ一気に流れ込む時期を急速充満期という。このとき流入した血液が心室壁を急に伸展させ、その振動が音として伝わるのがⅢ音である。周波数の低い振動であるため、低調で「ドゥン」と鈍く響き、聴き取りにくい。 Ⅲ音の性質を整理すると、(1)いつ聴くか:拡張早期、(2)どんな音か:低調、(3)どこで聴くか:左室由来なら心尖部、(4)どう聴くか:ベル型を軽く当て、左側臥位で、(5)意義:若年者では生理的、中高年では心不全などを示す病的所見、となる。この5点を押さえれば各選択肢の正誤を判断できる。

選択肢考察

  1. ○a.  低調な音である。

    Ⅲ音は急速充満期に流入した血液が心室壁を伸展させて生じる低周波の振動であり、低調な音である。聴診器の膜型は高調音を、ベル型は低調音を拾いやすいため、Ⅲ音はベル型を皮膚に軽く(強く押し付けると膜のようにはたらき低音が減弱する)当てて聴く。

  2. ×b.  座位で増強する。

    左室由来のⅢ音は左側臥位で増強する。左側臥位では心尖部が胸壁に近づくため、低調で小さな音でも伝わりやすくなる。座位・立位では静脈還流が減って心室への流入量が減るため、Ⅲ音はむしろ弱くなる。

  3. ×c.  収縮期に聴取する。

    Ⅲ音はⅡ音の後、拡張早期(急速充満期)に聴取される。Ⅰ音・Ⅱ音との位置関係から「Ⅰ音−Ⅱ音−Ⅲ音」と続くリズムが馬の駆け足に似ることから、病的なⅢ音は拡張早期ギャロップ(心室性ギャロップ)とよばれる。なおⅣ音は拡張後期(心房収縮期、Ⅰ音の直前)に聴かれる。

  4. ×d.  大動脈弁領域で聴取しやすい。

    左室由来のⅢ音は心尖部(僧帽弁領域)で最もよく聴かれ、大動脈弁領域(第2肋間胸骨右縁)ではほとんど聴取できない。なお右室由来のⅢ音は胸骨左縁下部で聴かれ、吸気時に増強する。大動脈弁領域で聴取しやすいのは大動脈弁成分のⅡ音(ⅡA)や大動脈弁狭窄症の収縮期雑音などである。

  5. ×e.  小児で聴取すれば病的である。

    小児や若年者では心筋の弛緩が良好で心室への流入が速く、また胸壁が薄いため、健常でもⅢ音(生理的Ⅲ音)を聴取することがある。一方、中高年(目安として40歳以上)で聴取されれば、心不全や僧帽弁閉鎖不全症などによる病的Ⅲ音を考える。

Ⅲ音とⅣ音の比較

・Ⅲ音:拡張早期(急速充満期)。心室への急速な血液流入で生じる。若年者・妊婦・スポーツ選手では生理的にも聴かれる。病的には容量負荷の状態で亢進する。 ・Ⅳ音:拡張後期(心房収縮期、Ⅰ音の直前)。硬くなった心室へ心房収縮で血液が押し込まれて生じる。健常者では通常聴かれず、聴取すれば病的(左室肥大、高血圧心、肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症、急性心筋梗塞など心室のコンプライアンス低下)。心房収縮が必要なため、心房細動では聴かれない。 ・どちらも低調で、ベル型・心尖部・左側臥位で聴きやすい。

病的Ⅲ音をきたす主な病態

・心室の収縮不全による心不全(拡張型心筋症、陳旧性心筋梗塞など):心室内圧が高く、流入した血液が急に減速することで生じる。 ・心室への拡張期流入量が増加する病態:僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症、動脈管開存症など。 ・高心拍出状態:甲状腺機能亢進症、貧血、妊娠など。

聴診のコツ

Ⅲ音は振幅が小さく低調なため聴き取りにくい。ベル型を心尖部に軽く当て、患者を左側臥位にし、呼気時に聴くと検出しやすい。Ⅲ音とⅣ音が同時に存在し頻脈で重なると、重合奔馬調律(summation gallop)として聴かれる。

POINT

・Ⅲ音=拡張早期(急速充満期)に生じる低調な過剰心音。 ・心尖部で、ベル型を軽く当て、左側臥位で聴きやすい。 ・小児・若年者では生理的に聴かれ得るが、中高年では心不全など容量負荷を示唆する。 ・Ⅳ音は拡張後期で、聴取すれば病的(心室のコンプライアンス低下)。心房細動では消失する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。