StudyMed医師国家試験

QOLは「動く」もの―主観的な評価だからこそ繰り返し問い直す

第110回医師国家試験 H問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第110回 H問題 第12問

医療チームが患者のQOLを評価する際に誤っているのはどれか。

  1. a.患者の価値観が評価に影響する。
  2. b.複数の測定指標が提唱されている。
  3. c.将来の病状予想により評価が変化する。
  4. d.患者の病状理解の程度が評価に影響する。
  5. e.個別患者の状況に対する評価は一定である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はQOL、つまり生活の質をどう評価するかを問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、そこにまず注意してほしい。カギになるのは、QOLが誰の視点で、どんな性質を持つ評価なのかという点だよ。
医学生医学生
QOLって、ADLのように身体機能を点数化したものというイメージがありました。
ドクタードクター
そこがよくある誤解なんだ。WHOはQOLを、その人が生活する文化や価値観の中で、自分の目標や期待に照らして自らの人生の状況をどう認識しているか、と定義している。身体機能だけでなく、心理状態、社会的な関係、生活環境、さらに生きる意味のような霊的な側面まで含む多面的な概念で、何より本人の認識に基づく主観的な評価なんだ。
医学生医学生
主観的な評価だとすると、人によって同じ状態でも点数が違ってきそうですね。
ドクタードクター
まさにそう。たとえば同じ程度の手指の障害でも、ピアニストや外科医のようにそれを仕事や生きがいにしている人と、そうでない人とではQOLへの影響がまったく違う。だから患者の価値観が評価に影響する、という記述は正しい。
医学生医学生
医療面接の授業で「解釈モデル」を聞きなさいと習ったのも、患者さんの価値観を知るためでしたね。
ドクタードクター
いいつながりだね。次に、病状の理解や将来の見通しについてはどうだろう。
医学生医学生
回復すると思っているか、悪くなると思っているかで、今の症状が同じでも感じ方は変わりそうです。
ドクタードクター
その通り。将来の病状予想によって不安や希望の度合いが変わり、QOLの評価も変わる。病状理解の程度も同じで、十分な説明で不安が和らいでQOLが上がることもあれば、厳しい病状を知って一時的に下がることもある。インフォームド・コンセントや心理的支援がQOLにとって大切なのはこのためだ。どちらの記述も正しいね。
医学生医学生
でも主観的なものを、どうやって測るんですか。
ドクタードクター
主観をできるだけ定量的に捉えるために、たくさんの質問票が作られている。健康状態を完全な健康を1、死亡を0とする一つの数値で表すEQ-5Dのような効用値尺度、疾患を問わず使えるSF-36やWHOQOLのような包括的尺度、がん患者向けのEORTC QLQ-C30のような疾患特異的尺度などがある。だから複数の測定指標が提唱されている、という記述も正しい。
医学生医学生
公衆衛生の講義で出てきたQALYは、その効用値に生存年数を掛けたものでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。医療の費用対効果分析で使われる指標だ。さて、残るのは「個別患者の状況に対する評価は一定である」という記述だ。
医学生医学生
ここまでの話からすると、価値観も病状理解も見通しも変わりうるので、一定とは言えない気がします。
ドクタードクター
正解。これが誤った記述で、この問題の答えになる。同じ患者でも、病状の変化、治療の内容、家族の支え、心理状態、病気の受け止め方によって評価は時間とともに変わる。障害を負った直後はQOLをとても低く評価していた人が、障害を受け入れて価値観が変わることで、身体状況は同じなのに評価が改善することもある。これをレスポンスシフトと呼ぶんだ。
医学生医学生
だからQOLは一度測って終わりではなく、経過の中で繰り返し評価する必要があるんですね。
ドクタードクター
そう。臨床で注意したい点をもう少し挙げておこう。QOLは原則として本人による自己評価が基本で、医療者や家族の代理評価は本人の評価とずれることがある。そして評価結果は数字だけで判断せず、患者との対話の中で解釈することが大切だ。
医学生医学生
臨床実習で緩和ケア病棟を回ったとき、先生が「この方にとって今一番大事なことは何か」を毎回確認していたのを思い出しました。
ドクタードクター
それこそQOLを支える医療の姿勢だね。緩和ケアは、生命を脅かす病気に伴う身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題に早期から対応して、患者と家族のQOLを改善することを目標にしている。近年は治療効果も、生存期間や検査値だけでなくQOLの維持・改善という観点から評価されるようになっているよ。

まとめ

QOL(生活の質)は、患者本人が自分の人生の状況をどう認識しているかに基づく主観的かつ多面的な評価で、身体・心理・社会・霊的な側面を含みます。そのため患者の価値観、病状理解の程度、将来の病状の見通しによって評価は変わり、同じ患者でも時間経過や状況の変化によって変化するので、「評価は一定である」という記述は誤りです。障害の受容などで内的基準が変わり、身体状況が同じでも評価が変わる現象はレスポンスシフトと呼ばれます。測定尺度には効用値尺度(EQ-5D)、包括的尺度(SF-36、WHOQOL)、疾患特異的尺度(EORTC QLQ-C30など)があり、本人の自己評価を基本として経時的に繰り返し評価し、対話の中で解釈することが重要です。QOLの性質を理解することは、緩和ケアをはじめ、患者中心の医療を実践するうえでの基盤となります。

解答・解説

正解はeです

QOLとは何か

QOL(quality of life:生活の質)は、病気の有無や検査値といった客観的な指標だけでは捉えきれない「その人がどれだけ満足して自分らしく生きられているか」を表す概念である。WHO(世界保健機関)はQOLを、個人が生活する文化や価値観の文脈の中で、自分の目標・期待・基準・関心に照らして自らの人生の状況をどう認識しているか、と定義している。身体機能だけでなく、心理状態、社会的な関係、生活環境、精神的・霊的(スピリチュアル)な側面まで含む多面的な概念である。

評価の特徴

QOLは患者自身の認識に基づく主観的な評価であり、患者報告型アウトカム(patient-reported outcome:PRO)の代表である。そのため、同じ病状でも患者の価値観や人生観、病状をどう理解しているか、今後の見通しをどう受け止めているかによって評価は異なり、同じ患者でも時間の経過や状況の変化とともに評価は変わりうる。また、主観的な概念をできるだけ客観的・定量的に把握するため、目的に応じた複数の質問票(尺度)が開発されている。

考え方

本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。QOLが主観的で多面的、かつ変化しうるものであることを押さえれば、「個別患者の状況に対する評価は一定である」という記述が誤りであると判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  患者の価値観が評価に影響する。

    記述は正しい。QOLは患者本人が自分の生活をどう感じているかを評価するものであり、何を大切にして生きているか(仕事、家族との時間、趣味、自立した生活など)という価値観や信念、生活歴によって評価は大きく異なる。たとえば同じ程度の手指の機能障害でも、それを職業や生きがいにしている人とそうでない人とでは、QOLへの影響は異なる。医療チームは患者の価値観を理解したうえで、その人らしい生活を支えることが求められる。

  2. ×b.  複数の測定指標が提唱されている。

    記述は正しい。QOLを測定する尺度は多数あり、大きく分けて、健康状態を一つの数値(効用値:完全な健康を1、死亡を0とする)で表す効用値尺度(選好に基づく尺度。例:EQ-5D)と、複数の領域ごとに得点を示すプロファイル型尺度がある。プロファイル型には、疾患を問わず使える包括的尺度(例:SF-36、SF-8、WHOQOL-100、WHOQOL-BREF)と、特定の疾患に特有の症状や問題を評価する疾患特異的尺度(例:がん患者用のEORTC QLQ-C30、FACT-G)がある。

  3. ×c.  将来の病状予想により評価が変化する。

    記述は正しい。現在の症状が同じでも、回復が見込めると考えるか、悪化や死が近いと考えるかによって、患者の不安や希望の度合いは異なり、生活への満足感(QOL)の評価も変わる。QOLは主観的な指標であるため、病状の見通し(予後)に関する認識の影響を受ける。

  4. ×d.  患者の病状理解の程度が評価に影響する。

    記述は正しい。患者が自分の病気や治療をどの程度理解しているかによって、症状の受け止め方や将来への不安、治療への納得感が変わり、QOLの評価も変わる。十分な説明により不安が和らいでQOLが改善することもあれば、厳しい病状を知ることで一時的にQOLが低下することもある。インフォームド・コンセントや心理的支援がQOLにとって重要とされるのはこのためである。

  5. ○e.  個別患者の状況に対する評価は一定である。

    記述は誤りであり、本問の正解である。QOLは主観的な評価であるため、同じ患者であっても、病状の変化、治療の内容、家族や社会的支援の状況、心理状態、病気の受容の程度などによって評価は時間とともに変化する。たとえば障害を負った直後はQOLを非常に低く評価していた人が、障害を受け入れ価値観が変わることで、身体状況が同じでも評価が改善することがある(レスポンスシフトと呼ばれる現象)。したがって個別患者の状況に対する評価が「一定である」とはいえず、QOLは経時的に繰り返し評価する必要がある。

QOLの構成要素

QOLは一般に、身体的側面(症状、身体機能、日常生活動作)、心理的側面(不安、抑うつ、満足感)、社会的側面(家族・友人との関係、仕事、経済状況)、精神的・霊的側面(生きる意味、価値観)などから構成される多面的な概念である。このうち健康状態や医療と直接関係する部分を健康関連QOL(health-related QOL:HRQOL)と呼ぶ。

QOL尺度の分類と代表例

・効用値尺度(選好に基づく尺度):EQ-5D(移動の程度、身の回りの管理、ふだんの活動、痛み・不快感、不安・ふさぎ込みの5項目)など。得られた効用値に生存年数を掛け合わせると質調整生存年(quality-adjusted life year:QALY)となり、医療の費用対効果分析に用いられる。 ・包括的尺度:SF-36(身体機能、日常役割機能、体の痛み、全体的健康感、活力、社会生活機能、精神的役割機能、心の健康の8領域)とその短縮版SF-8、WHOQOL-100とその短縮版WHOQOL-BREFなど。異なる疾患の患者や一般人口との比較ができる。 ・疾患特異的尺度:EORTC QLQ-C30やFACT-G(がん)など。特定の疾患に特有の症状や治療の影響を鋭敏に捉えられる。

QOL評価の注意点

・原則として患者本人による自己評価が基本であり、医療者や家族による代理評価は本人の評価と一致しないことがある。 ・同じ患者でも状況により評価が変化するため、治療経過の中で繰り返し評価する。 ・病状の見通しや病状理解、価値観の影響を受けるため、評価結果は患者との対話の中で解釈する。

臨床での位置づけ

近年、治療の効果は生存期間や検査値の改善だけでなく、QOLの維持・改善という観点からも評価される。緩和ケアでは、がんなどの生命を脅かす病気に関連する身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題に早期から対応し、患者と家族のQOLを改善することが目標とされる。

POINT

・QOLは患者自身の認識に基づく主観的・多面的な評価である。 ・患者の価値観、病状理解、将来の見通しの認識によって評価が変わる。 ・同じ患者でも状況や時間経過により評価は変化する(レスポンスシフト)。 ・測定尺度には効用値尺度(EQ-5D)、包括的尺度(SF-36、WHOQOL)、疾患特異的尺度(EORTC QLQ-C30など)がある。 ・「誤っているもの」を選ぶ問題では、正解肢は誤った記述である点に注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。