PaCO2もHCO3-も高いとき、主役はどっち?―pHが教える代謝性アルカローシスと呼吸性代償
第110回医師国家試験 G問題 第69問
国試問題にチャレンジ
動脈血ガス分析(room air)の結果を示す。 pH PaCO2 (Torr) PaO2 (Torr) HCO3- (mEq/L) 7.48 52 72 37 単純性の酸塩基平衡障害として,最初の変化(1次性変化)と代償性変化(2次性変化)の組合せで正しいのはどれか。

- a.呼吸性アシドーシス ―― なし
- b.呼吸性アシドーシス ―― あり
- c.呼吸性アルカローシス ―― なし
- d.呼吸性アルカローシス ―― あり
- e.代謝性アシドーシス ―― なし
- f.代謝性アシドーシス ―― あり
- g.代謝性アルカローシス ―― なし
- h.代謝性アルカローシス ―― あり
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
血液ガスはまずpHでアシデミアかアルカレミアかを判断し、PaCO2とHCO3-のうちpHの向きと一致する変化を1次性とします。代償は過代償にならないため、pHがアルカリ側でHCO3-とPaCO2がともに高い場合は、代謝性アルカローシスに呼吸性代償(低換気によるPaCO2上昇)が加わった状態と読めます。代償の妥当性はΔPaCO2≒0.7×ΔHCO3-で確認し、予測から外れれば混合性障害を考えます。代償性低換気ではPaO2が軽度低下しますがA-aDO2は正常であり、原因検索では嘔吐、利尿薬、ミネラルコルチコイド過剰などを尿中Cl-で整理すると有用です。この手順は救急や病棟で日常的に使う基本技能であり、確実に身につけておく価値があります。
解答・解説
正解はhです
基準値の確認
動脈血ガスの基準値は pH 7.35〜7.45(7.40)、PaCO2 35〜45 Torr(40)、HCO3- 22〜26 mEq/L(24)、PaO2 80〜100 Torr である。呼吸性の因子は PaCO2、代謝性の因子は HCO3-(または BE〈base excess: 過剰塩基〉)で判断する。
ステップ1: pH を見る
pH 7.48 は 7.45 を超えており、アルカレミア(血液がアルカリ側に傾いた状態)である。
ステップ2: 1次性変化を決める
・HCO3- 37 mEq/L は高値で、pH を上げる(アルカリ側へ動かす)変化、すなわち代謝性アルカローシスの方向である。 ・PaCO2 52 Torr は高値で、pH を下げる(酸性側へ動かす)変化、すなわち呼吸性アシドーシスの方向である。 代償は 1次性変化による pH のずれを元に戻す方向に働くが、行き過ぎて pH を逆側へ傾けることはない(過代償は起こらない)。したがって、実際の pH の向きと一致する変化が 1次性である。pH はアルカリ側なので、1次性変化は代謝性アルカローシス、PaCO2 の上昇は代償性(2次性)の変化と判断できる。
ステップ3: 代償が予測範囲内かを確認する
代謝性アルカローシスでは、肺胞換気を減らして CO2 をため、pH を下げようとする(呼吸性代償)。代償の目安は「ΔPaCO2 ≒ 0.7 × ΔHCO3-」である。 ΔHCO3- = 37 − 24 = 13 mEq/L 予測される ΔPaCO2 ≒ 0.7 × 13 ≒ 9 Torr → 予測 PaCO2 ≒ 40 + 9 = 49 Torr(±5 程度の幅) 実測値 52 Torr はこの範囲内にあり、適切な呼吸性代償が起きている単純性の代謝性アルカローシスと矛盾しない。
ステップ4: 数値の整合性と PaO2
Henderson-Hasselbalch の式で検算すると、pH = 6.1 + log[37 /(0.03 × 52)]= 6.1 + log 23.7 ≒ 6.1 + 1.37 ≒ 7.47 で、測定値 7.48 とほぼ一致する。 PaO2 72 Torr とやや低いのは、代償性の低換気で肺胞内の CO2 が増え O2 分圧が下がるためである。肺胞気-動脈血酸素分圧較差 A-aDO2 を計算すると、PAO2 ≒ 150 − 52/0.8 = 85 Torr、A-aDO2 ≒ 85 − 72 = 13 Torr で正常範囲であり、肺そのものの障害(ガス交換障害)はなく、低換気で説明できる。 以上から、1次性変化は代謝性アルカローシス、代償性変化はあり(呼吸性代償による PaCO2 上昇)となる。
選択肢考察
- ×a. 呼吸性アシドーシス ―― なし
PaCO2 52 Torr の上昇自体はあるが、もし呼吸性アシドーシスが 1次性なら pH は酸性側(7.35 未満)に傾くはずである。本例の pH は 7.48 とアルカリ側であり、PaCO2 上昇は 1次性変化ではない。
- ×b. 呼吸性アシドーシス ―― あり
1次性の呼吸性アシドーシスに腎性代償(HCO3- の再吸収増加)が加わった場合でも、代償は pH を完全には戻さず、pH は 7.40 以下にとどまる。pH 7.48 のアルカレミアは説明できないため誤りである。
- ×c. 呼吸性アルカローシス ―― なし
呼吸性アルカローシスは過換気で PaCO2 が低下する病態である。本例は PaCO2 52 Torr と上昇しており、呼吸性アルカローシスの所見は存在しない。
- ×d. 呼吸性アルカローシス ―― あり
呼吸性アルカローシスであれば PaCO2 は低下し、代償として HCO3- も低下するはずである。本例は PaCO2・HCO3- ともに高値であり、合致しない。
- ×e. 代謝性アシドーシス ―― なし
代謝性アシドーシスは HCO3- が低下する病態である。本例の HCO3- は 37 mEq/L と著明に高く、pH もアルカリ側であるため該当しない。
- ×f. 代謝性アシドーシス ―― あり
代謝性アシドーシスに呼吸性代償が起これば、HCO3- 低下とともに過換気で PaCO2 も低下する。本例は HCO3- も PaCO2 も上昇しており、逆の所見である。
- ×g. 代謝性アルカローシス ―― なし
1次性変化が代謝性アルカローシスである点は正しい。しかし代償がなければ PaCO2 は基準範囲(40 Torr 前後)にとどまるはずである。本例では PaCO2 が 52 Torr に上昇し、予測式(ΔPaCO2 ≒ 0.7 × ΔHCO3-)から見込まれる範囲の呼吸性代償が起きているので、「代償なし」は誤りである。
- ○h. 代謝性アルカローシス ―― あり
pH 7.48 のアルカレミアで、HCO3- 37 mEq/L の上昇がその向きと一致するため、1次性変化は代謝性アルカローシスである。PaCO2 52 Torr の上昇は、低換気によって CO2 をため pH を下げようとする呼吸性代償であり、予測値(約 49 ± 5 Torr)の範囲内にある。よって代償性変化ありの単純性代謝性アルカローシスと判断できる。
酸塩基平衡の読み方の手順
1. pH でアシデミアかアルカレミアかを判断する。 2. PaCO2 と HCO3- のうち、pH の向きと一致する方を 1次性変化とする。 3. 代償が予測範囲内か確認し、外れていれば別の障害の合併(混合性酸塩基平衡障害)を考える。 4. 代謝性アシドーシスでは、アニオンギャップ(Na+ −[Cl- + HCO3-]、基準 12 ± 2 mEq/L)を計算して原因を分類する。
代償の予測式(目安)
・代謝性アシドーシス: ΔPaCO2 ≒ 1.2 × ΔHCO3-(Winters の式: PaCO2 ≒ 1.5 × HCO3- + 8 ± 2) ・代謝性アルカローシス: ΔPaCO2 ≒ 0.7 × ΔHCO3-(呼吸性代償には低酸素による限界があり、PaCO2 はおおむね 55〜60 Torr 程度までにとどまる) ・呼吸性アシドーシス: 急性 ΔHCO3- ≒ 0.1 × ΔPaCO2、慢性 ΔHCO3- ≒ 0.35 × ΔPaCO2 ・呼吸性アルカローシス: 急性 ΔHCO3- ≒ 0.2 × ΔPaCO2、慢性 ΔHCO3- ≒ 0.4〜0.5 × ΔPaCO2 呼吸性代償は数分〜数時間で起こるが、腎性代償は完成に数日を要する。
代謝性アルカローシスの主な原因
・H+ の喪失: 嘔吐、胃管からの胃液吸引 ・腎からの H+・Cl- 喪失: ループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬、Bartter 症候群、Gitelman 症候群 ・ミネラルコルチコイド過剰: 原発性アルドステロン症、Cushing 症候群、偽性アルドステロン症(甘草) ・アルカリ負荷: 重炭酸ナトリウムの投与、ミルク・アルカリ症候群 ・低カリウム血症、細胞外液量減少(contraction alkalosis)は維持因子となる 尿中 Cl- 濃度が低い(<20 mEq/L 程度)ものは生理食塩液で改善しやすい「Cl 反応性」(嘔吐など)、高いものは「Cl 抵抗性」(ミネラルコルチコイド過剰など)に分けられる。
慢性呼吸性アシドーシスとの見分け方
COPD などの慢性 CO2 貯留でも PaCO2 と HCO3- はともに上昇するが、代償は不完全なので pH は 7.40 以下(多くは 7.35〜7.40)になる。PaCO2 と HCO3- がともに高いときは、pH がどちらに傾いているかで 1次性変化を見分ける。
POINT
・基準値: pH 7.40、PaCO2 40 Torr、HCO3- 24 mEq/L。 ・PaCO2 と HCO3- が同じ方向に変化しているときは、pH の向きと一致する方が 1次性。代償は過代償にならない。 ・pH↑、HCO3-↑、PaCO2↑ → 代謝性アルカローシス+呼吸性代償。 ・代謝性アルカローシスの代償の目安: ΔPaCO2 ≒ 0.7 × ΔHCO3-。 ・代償性低換気による PaO2 低下では A-aDO2 は正常。
