熱が出ないから安心、は危ない―高齢者の体温調節が教えてくれること
第110回医師国家試験 G問題 第28問
国試問題にチャレンジ
高齢者の体温の特徴はどれか。
- a.平熱が高い。
- b.消炎鎮痛薬で解熱しにくい。
- c.体温調節能が低下している。
- d.外見から発熱を推測しやすい。
- e.自分の体温変化に敏感である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
体温は熱産生と熱放散のバランスで決まり、視床下部が受容器からの情報をもとに調節していますが、高齢者では温度受容器の感度、熱産生(筋肉量・基礎代謝)、熱放散(皮膚血管反応・発汗)のいずれも低下し、体温調節能が全体として弱まっています。そのため熱中症にも低体温症にもなりやすく、平熱は低めで、自分の体温変化や環境温度の変化に気づきにくいのが特徴です。感染症でも発熱が目立たず、食欲低下やせん妄、転倒といった非特異的な症状が唯一の手がかりとなることも多いため、発熱は個人の平熱との比較で評価します。解熱鎮痛薬は効きにくいのではなく、代謝・排泄能の低下からむしろ作用や副作用が強く出やすい点にも注意が必要です。こうした加齢変化を理解しておくことは、高齢者の重症感染症や熱中症を見逃さないための土台になります。
解答・解説
正解はcです
体温は「熱の産生」と「熱の放散」のバランスで決まり、そのバランスは視床下部の体温調節中枢によって制御されている。調節の仕組みは、次の3つの要素からなる。 1. 温度を感知する受容器(皮膚の温度受容器や深部体温を感知する受容器) 2. 情報を統合して設定温度(セットポイント)と比較する視床下部の中枢 3. 実際に熱を作ったり逃がしたりする効果器(骨格筋のふるえや代謝による熱産生、皮膚血管の収縮・拡張、発汗による放熱) 加齢とともに、これらのいずれの段階でも機能が衰える。温度受容器の感度低下により暑さ・寒さを感じにくくなり、筋肉量と基礎代謝の減少により熱を産生する力が落ち、皮膚血管の反応や発汗能も低下して熱を逃がす力も弱まる。その結果、高齢者は体温調節能が全体として低下しており、平熱はやや低めで、環境温度の影響を受けやすく、熱中症にも低体温症にもなりやすい。 さらに臨床上重要なのは、高齢者では感染症などがあっても発熱が目立たないことが多い点である。発熱の程度が軽い、あるいは本人が熱感を訴えないため、発見が遅れやすい。以上から、正解は「体温調節能が低下している」である。
選択肢考察
- ×a. 平熱が高い。
誤り。高齢者では骨格筋量の減少や基礎代謝の低下により熱産生が減るため、平熱は若年成人より低い傾向にある。平熱が低いと、37℃台前半の体温でも本人にとっては有意な発熱であることがあり、高齢者の発熱は個々の平熱との比較で評価する必要がある。
- ×b. 消炎鎮痛薬で解熱しにくい。
誤り。高齢者でも非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬で解熱は得られる。むしろ加齢に伴う肝臓での代謝能や腎臓からの排泄能の低下により薬物の血中濃度が上がりやすく、作用が強く出たり、過度の体温低下や血圧低下を来したりすることがある。NSAIDsでは消化管出血や腎機能障害などの副作用も起こりやすいため、高齢者では慎重に使用する。
- ○c. 体温調節能が低下している。
正しい。高齢者では温度受容器の感度、視床下部による調節、熱産生(筋肉のふるえ、基礎代謝)、熱放散(皮膚血管の拡張、発汗)のいずれもが低下しており、全体として体温調節能が弱まっている。このため暑い環境では体温が上がりやすく熱中症に、寒い環境では体温を保てず低体温症になりやすい。熱中症の患者に高齢者が多く、屋内で発症する例も多いのはこのためである。
- ×d. 外見から発熱を推測しやすい。
誤り。高齢者は発熱しても悪寒や熱感、つらそうな様子を示さないことが多く、外見から発熱を推測しにくい。肺炎や尿路感染症などの重い感染症であっても、高熱が出ず、「何となく元気がない」「食欲が落ちた」「普段より反応が鈍い」「せん妄(急に生じる意識の混乱)」「転倒」といった非特異的な変化だけが手がかりとなることがある。こうした変化を見逃さず、体温測定や診察を行うことが大切である。
- ×e. 自分の体温変化に敏感である。
誤り。高齢者は皮膚や深部の温度受容器の感度が低下しているため、自分の体温の変化や環境温度の変化に気づきにくい。暑さを自覚しにくいことから、エアコンを使わない、厚着を続ける、水分補給が遅れるといった行動につながり、熱中症の一因となる。同様に、体温低下にも気づきにくく、低体温症の発見が遅れることがある。
体温調節の仕組み
・熱産生: 基礎代謝(特に肝臓・骨格筋)、筋肉運動、寒冷時のふるえ、褐色脂肪組織による非ふるえ熱産生など。 ・熱放散: 放射・伝導・対流・蒸発(発汗、不感蒸泄)。皮膚血管の拡張で皮膚への血流を増やし、熱を逃がす。 ・発熱は、感染などにより産生されるサイトカイン(IL-1、IL-6、TNF-αなど)が視床下部でプロスタグランジンE2の産生を促し、体温のセットポイントを引き上げることで生じる。NSAIDsはシクロオキシゲナーゼを阻害してプロスタグランジンE2の産生を抑えることで解熱作用を示す。
加齢による変化のまとめ
・温度受容器の感度低下 → 暑さ・寒さ、体温変化を自覚しにくい。 ・筋肉量・基礎代謝の低下 → 熱産生が減り、平熱が低め。寒冷時のふるえも弱い。 ・皮膚血管反応・発汗能の低下 → 暑熱環境で熱を逃がしにくい。 ・口渇感の低下や体内水分量の減少 → 脱水になりやすく、熱中症のリスクがさらに高まる。
高齢者の発熱を評価するときの注意
・平熱との差で評価する(普段より1℃程度高ければ発熱として扱う考え方がある)。 ・重症感染症でも発熱が軽度または欠如することがあり、低体温を示す場合はむしろ重症のことがある。 ・食欲低下、活動性低下、せん妄、転倒など、非特異的な症状が感染症の初発症状となることが多い。 ・解熱薬は作用・副作用ともに強く出やすいため、用量や腎機能に注意する。
POINT
・高齢者は体温調節能が低下しており、熱中症・低体温症のいずれも起こしやすい。 ・平熱は若年者より低め。発熱は個人の平熱との比較で判断する。 ・自分の体温変化や環境温度の変化に気づきにくい。 ・感染症でも発熱が目立たず、外見から発熱を推測しにくい。食欲低下・せん妄などの非特異的症状に注意する。 ・解熱鎮痛薬は効きにくいのではなく、むしろ作用・副作用が強く出やすい。
