二つの穴、どっちが左?―気管支鏡像は「軟骨」と「すぐ横の開口」で読み解く
第110回医師国家試験 G問題 第13問
国試問題にチャレンジ
気管内腔から末梢を観察した気管支内視鏡像を別に示す。 図に示す部位と名称の組合せで正しいのはどれか。

- a.① ―― 膜様部
- b.② ―― 左主気管支
- c.③ ―― 右上葉支
- d.④ ―― 気管軟骨輪
- e.⑤ ―― 中間幹
対話形式の解説
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ドクターまとめ
気管支鏡像の同定では、まず輪状の隆起が見える軟骨部と、軟骨を欠いて平坦な膜様部(後壁)を区別し、次に左右を決めます。右主気管支は太く短く、分岐部のすぐ近くで外側に右上葉支を出したのち中間幹となって中葉支・下葉支へ続くため、入口の外側に小さな開口が見える内腔が右側です。一方、左主気管支は細く長く、分岐部からは単一の長い管腔として見えるため、本問では分岐の開口を伴わない内腔が左主気管支と同定されます。右主気管支の太く短く急峻な形態は、異物誤嚥が右に多いことや片肺挿管が右に起こりやすいことの理由でもあり、分岐部の鈍化はリンパ節腫大を示唆する所見です。気管支の解剖を立体的に理解しておくことは、気管支鏡検査だけでなく挿管や画像診断など幅広い臨床場面の基礎になります。
解答・解説
正解はbです
本問は、気管の下部から気管分岐部(carina)方向を見下ろした気管支内視鏡(気管支鏡)像で、気道の構造を正しく同定できるかを問う。
画像の向きを決める手がかり
気管支鏡像を読むときは、まず「どちらが前(腹側)でどちらが後ろ(背側)か」「どちらが患者の右か左か」を確定させる。 ・気管軟骨はC字(馬蹄形)をしており、前壁から側壁にかけてのみ存在する。軟骨がある部分は輪状の隆起(ひだ)として内腔に見え、軟骨のない後壁は平坦でやわらかい膜様部となる。本画像では、上方(①の付近)に輪状の凹凸が見え、下方(⑤の付近)は輪状構造に乏しい平坦な壁である。したがって画像の上が前壁(軟骨部)、下が後壁(膜様部)である。 ・画像中央やや下には二つの内腔を隔てる稜線(気管分岐部)があり、左右の主気管支の入口が並んで見える。 ・右主気管支は分岐後まもなく(分岐部から1〜2cm程度で)右上葉支を外側に分岐し、その先は中間幹(中間気管支幹)となって中葉支・下葉支へ続く。一方、左主気管支は約4〜5cmと長く、入口からは長い管腔として奥へ続く像となる。 本画像では、右側の内腔の奥に正面方向へ続く管腔(③)と、その外側壁に小さな開口(④)が見える。この「すぐ外側に別の開口が見える側」が右主気管支であり、④が右上葉支の入口、③がその先へ続く中間幹である。もう一方の、画像左側にある単一の長い管腔(②)が左主気管支である。 以上から、①=気管軟骨輪(軟骨部)、②=左主気管支、③=中間幹、④=右上葉支、⑤=膜様部と同定でき、正しい組合せは②―左主気管支である。
選択肢考察
- ×a. ① ―― 膜様部
①は画像上方、すなわち気管の前壁側にあり、輪状の隆起が連続して見える部分である。これは馬蹄形の気管軟骨が存在する軟骨部(気管軟骨輪)である。膜様部は軟骨を欠く後壁で、画像では下方の平坦な壁(⑤)に相当する。
- ○b. ② ―― 左主気管支
分岐部の稜線を挟んで二つの内腔のうち、②は入口付近に分岐の開口を伴わず、長い管腔として奥へ続いている。左主気管支は右に比べて長く(約4〜5cm)、上葉支の分岐まで距離があるため、分岐部からはこのような単一の長い管腔として観察される。もう一方の内腔には右上葉支の開口(④)がすぐ見えることからも、②が左主気管支であると確定できる。
- ×c. ③ ―― 右上葉支
③は右主気管支の延長線上、正面奥へまっすぐ続く管腔であり、右上葉支を分岐したあとの中間幹(中間気管支幹)である。中間幹はこの先で中葉支と下葉支に分かれる。右上葉支はその外側壁に開口する④である。
- ×d. ④ ―― 気管軟骨輪
④は右主気管支の外側壁にみられる小さな開口で、右上葉支の入口である。右上葉支は気管分岐部から近い位置で分岐するため、気管下部からでもその開口が見えることがある。気管軟骨輪は画像上方の前壁にみられる輪状隆起(①)である。
- ×e. ⑤ ―― 中間幹
⑤は画像下方、気管の後壁側にあたる平坦な壁で、軟骨輪による凹凸がみられない。これは気管軟骨を欠き平滑筋(気管筋)と結合組織からなる膜様部である。中間幹は右主気管支の奥へ続く管腔(③)である。
気管・気管支の解剖
・気管は輪状軟骨の下縁(第6頸椎の高さ)から始まり、成人で長さ約10〜12cm、胸骨角(第4〜5胸椎)の高さで左右の主気管支に分岐する。 ・気管軟骨は16〜20個程度のC字(馬蹄形)の硝子軟骨で、前壁と側壁を支える。後壁は軟骨を欠き、平滑筋(気管筋)と結合組織からなる膜様部(解剖学では膜性壁)で、食道に接する。 ・右主気管支は太く・短く(約2〜3cm)、気管の長軸に対する傾きが小さい(急峻に下行する)。そのため誤嚥物や異物は右側に入りやすく、気管挿管チューブを深く入れすぎると右主気管支へ片肺挿管になりやすい。 ・左主気管支は細く・長く(約4〜5cm)、大動脈弓の下をくぐるため水平に近い角度で走る。
気管支の分岐(日本の気管支命名)
・右:右主気管支 → 右上葉支(B1〜B3)と中間幹に分かれる → 中間幹から中葉支(B4・B5)と下葉支(B6〜B10)が分かれる。 ・左:左主気管支 → 上葉支(上区支B1+2・B3、舌区支B4・B5)と下葉支(B6、B8〜B10)に分かれる。左には中葉・中間幹がない。
気管支鏡像の読み方のコツ
・軟骨輪の隆起が見える側が前壁、平坦な側が後壁(膜様部)である。 ・前後が決まれば左右が決まる。分岐部付近で「すぐ外側に別の開口がある側」が右主気管支(右上葉支の開口)であることが多い。 ・正常な気管分岐部は鋭い稜をなす。分岐部の鈍化・開大は、気管分岐部リンパ節の腫大(肺癌の縦隔リンパ節転移やサルコイドーシスなど)を示唆する所見である。
POINT
・気管軟骨は馬蹄形で、前壁・側壁に輪状隆起(軟骨部)として見え、後壁は軟骨を欠く膜様部である。 ・右主気管支は太く短く急峻で、分岐部近くで右上葉支を出したあと中間幹となる(中間幹は右側のみ)。 ・左主気管支は細く長く、分岐部からは単一の長い管腔として見える。 ・気管支鏡像はまず前後(軟骨部と膜様部)を決め、次に左右を決めて構造を同定する。
