胆石の痛みはなぜ右の背中に響くのか―関連痛の仕組みから考える放散部位
第110回医師国家試験 G問題 第12問
国試問題にチャレンジ
胆石症の疝痛発作で関連痛がみられる部位はどれか。
- a.右肩甲部
- b.左肩甲部
- c.左季肋部
- d.右下腹部
- e.左下腹部
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胆石疝痛は、胆嚢頸部や胆嚢管に結石が嵌頓して胆嚢内圧が上昇することで生じ、右季肋部から心窩部の痛みとともに右肩甲部へ関連痛が現れます。これは胆嚢の内臓痛覚が主に第5〜9胸髄付近に入り、同じ分節が支配する右背部の皮膚の痛みとして感じられるためで、横隔膜に炎症が及ぶと横隔神経(C3〜5)を介して右肩痛も生じます。左肩への放散痛は心筋梗塞、膵炎、脾破裂(Kehr徴候)を、右下腹部痛は虫垂炎などを想起させ、胆石の関連痛とは区別されます。持続する痛みに発熱やMurphy徴候を伴えば急性胆嚢炎を考え、腹部超音波で評価します。関連痛を脊髄分節の仕組みから理解しておくと、痛みの部位から原因臓器を推定する臨床推論に直結します。
解答・解説
正解はaです
【テーマ】胆石疝痛発作にともなう関連痛の部位と、その発生機序を問う問題である。
胆石疝痛とは
胆嚢内の結石が胆嚢頸部や胆嚢管にはまり込む(嵌頓する)と、胆嚢内圧が急に上がり、胆嚢壁が強く収縮・伸展して痛みが生じる。これを胆石疝痛という。脂肪の多い食事の後や夜間に起こりやすく、右季肋部から心窩部にかけての強い痛みが数十分から数時間続くのが典型である。悪心・嘔吐をともなうことも多い。
関連痛とは
関連痛(放散痛)とは、内臓の痛みが、その内臓から離れた体表の部位の痛みとして感じられる現象である。内臓からの痛覚を伝える神経と、特定の皮膚領域からの感覚神経が、脊髄の同じ高さ(同じ脊髄分節)に入るため、脳が痛みの発生源を体表の皮膚領域と取り違えることで生じると考えられている。
胆道系の関連痛
胆嚢・胆管からの内臓痛覚は、交感神経(大内臓神経)に沿って主に第5〜9胸髄付近に入る。このため、痛みは心窩部や右季肋部に感じられるほか、同じ分節が支配する右背部、とくに右肩甲骨の下角付近(右肩甲部)に関連痛として現れる。さらに炎症が胆嚢周囲や横隔膜に及ぶと、横隔神経(第3〜5頸髄)を介して右肩の痛みとして感じられることもある。したがって、胆石症の関連痛は右肩甲部〜右肩にみられるのが特徴である。
選択肢考察
- ○a. 右肩甲部
胆嚢からの内臓痛覚は第5〜9胸髄付近の分節に入るため、同じ分節が支配する右背部・右肩甲部に関連痛が生じる。右季肋部痛とともに右肩甲部や右肩へ痛みが放散するのは、胆石疝痛や急性胆嚢炎の典型的な症状である。
- ×b. 左肩甲部
胆嚢は右上腹部にあり、その関連痛は右側に出現するため、左肩甲部には通常みられない。左肩・左肩甲部への放散痛は、脾臓破裂などで左横隔膜下が刺激された場合(ケール徴候)、急性膵炎、心筋梗塞や狭心症などで認められる。
- ×c. 左季肋部
左季肋部は胆石疝痛の関連痛部位ではない。この部位の痛みは膵体尾部の病変(急性膵炎など)、脾臓の病変、左腎・尿管結石、胃の病変などで生じることが多い。
- ×d. 右下腹部
右下腹部の痛みは、急性虫垂炎(マックバーニー点の圧痛など)、回盲部のクローン病や腸炎、右尿管結石、女性では卵巣・卵管の病変(異所性妊娠、卵巣茎捻転など)でみられる。胆石疝痛の関連痛としては通常認めない。
- ×e. 左下腹部
左下腹部の痛みは、S状結腸憩室炎、虚血性大腸炎、左尿管結石、女性では左付属器の病変などでみられる。胆石疝痛の関連痛としては通常認めない。
主な内臓疾患と関連痛の部位
・胆嚢・胆管(胆石症、急性胆嚢炎): 右肩甲部、右背部、右肩 ・心臓(狭心症、心筋梗塞): 左肩、左上肢内側、頸部、下顎、心窩部 ・膵臓(急性膵炎、膵癌): 背部(左背部に強いことが多い)、左肩 ・脾臓(脾破裂など): 左肩(ケール徴候、左横隔膜下の血液による横隔神経刺激) ・虫垂(急性虫垂炎): 初期は心窩部や臍周囲、のちに右下腹部へ移動 ・尿管(尿管結石): 側腹部から下腹部、鼠径部、陰嚢・大陰唇 ・横隔膜(横隔膜下膿瘍など): 同側の肩(横隔神経、C3〜5)
胆石症の概要
・胆石は存在部位により胆嚢結石、総胆管結石、肝内結石に分けられ、胆嚢結石が最も多い。成分では、コレステロール結石が多数を占め、ほかに黒色石・ビリルビンカルシウム石などの色素結石がある。 ・危険因子として、古くから「5F」(Female:女性、Forty:40歳代、Fatty:肥満、Fertile:経産婦、Fair:白人)が知られる。 ・胆嚢結石の多くは無症状で経過する(無症状胆石)。疝痛発作を起こすものは有症状胆石として、腹腔鏡下胆嚢摘出術の適応となる。 ・疝痛が持続して発熱や右季肋部の圧痛をともなう場合は急性胆嚢炎を考える。右季肋部を圧迫しながら深吸気させると、痛みで吸気が止まる所見をマーフィー徴候という。 ・診断の第一選択は腹部超音波検査で、結石は音響陰影(acoustic shadow)をともなう高エコー像として描出される。
POINT
・胆石疝痛の関連痛は右肩甲部(右背部〜右肩)に出現する。 ・機序: 胆嚢の内臓痛覚が第5〜9胸髄付近に入り、同じ分節の皮膚領域の痛みとして感じられる。横隔膜刺激では横隔神経(C3〜5)を介して肩に痛みが出る。 ・左肩の放散痛は心筋梗塞、膵炎、脾破裂(ケール徴候)を想起する。
