StudyMed医師国家試験

0歳の命を奪う事故の8割は「窒息」―発達段階から読み解く乳児の不慮の事故

第110回医師国家試験 G問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第110回 G問題 第1問

乳児の不慮の事故による死亡原因で最も多いのはどれか。

  1. a.窒息
  2. b.溺水
  3. c.火災
  4. d.転落
  5. e.交通事故

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、乳児の不慮の事故による死亡原因を問う統計の問題だ。数字を丸暗記するより、「0歳の子どもは何ができて、何ができないか」という発達の視点から考えると自然に答えが導ける。まずは直感で、何が一番多いと思う?
医学生医学生
小児科実習で、ソファから落ちて受診した赤ちゃんを何人か見たので、転落が多いような気がします。
ドクタードクター
実際に外来で出会う頻度は高いよね。でもここで問われているのは「死亡」の原因なんだ。転落は受診理由としてはよくあるけれど、乳児が亡くなるに至ることは少ない。けがの頻度と死亡の頻度は分けて考える必要がある。
医学生医学生
なるほど、受診の多さと致死性は別物なんですね。では、乳児が自力でどうにもできない事故ということでしょうか。
ドクタードクター
その発想がまさにカギだ。乳児は寝返りや移動が十分にできず、顔に何かがかぶさっても自分で払いのけたり体の向きを変えたりできない。気道も細い。さらに生後数か月を過ぎると、手に触れたものを何でも口に持っていく。この条件がそろうと何が起こりやすいかな。
医学生医学生
鼻と口がふさがれたり、物を詰まらせたりする窒息ですね。
ドクタードクター
正解。乳児の不慮の事故死の原因で最も多いのは窒息で、例えば2014年の人口動態統計では不慮の事故78件のうち64件、約8割を窒息が占めていた。就寝中に柔らかい寝具やクッションで口と鼻がふさがれる、ベッドと壁のすき間にはさまる、ミルクや吐物を誤嚥する、食べ物や小さな物で気道が閉塞する、といったパターンがある。
医学生医学生
公衆衛生の講義で「乳児は窒息」とだけ覚えていましたが、理由がわかると忘れにくいです。ほかの選択肢はどのくらいなんですか。
ドクタードクター
同じ年でみると、溺水・転落・交通事故はそれぞれ数件、火災は0件だった。溺水は浴槽で起こることがあるけれど、乳児ではまだ少ない。割合が大きくなるのは、つかまり立ちや歩行ができて自分で浴室や水辺に近づけるようになる幼児期以降だ。
医学生医学生
交通事故も乳児だと少ないんですか。ニュースではよく子どもの事故を聞く気がします。
ドクタードクター
乳児の交通事故死は主に自動車に同乗中のもので、数としては少ない。チャイルドシートの着用が重要な予防策だね。子どもが自分で道路を歩き始める幼児期から学童期にかけて、交通事故の割合は大きくなっていく。火災による乳児の死亡はまれだ。
医学生医学生
つまり、年齢が上がって行動範囲が広がるにつれて、窒息から溺水や交通事故へと主役が入れ替わっていくんですね。
ドクタードクター
その通り。年齢層ごとに主な事故の種類が変わる、という流れを押さえておけば、どの年齢を問われても対応しやすい。もう一つ確認しておくと、乳児死亡全体の原因で最も多いのは何だと思う?
医学生医学生
不慮の事故ではなく……先天奇形でしょうか。
ドクタードクター
そう、先天奇形・変形及び染色体異常が第1位で、周産期に特異的な呼吸障害、乳幼児突然死症候群、不慮の事故などが上位に並ぶ。「乳児死亡の原因」と「乳児の不慮の事故死の原因」は別の問いだから、問題文をよく読むことが大切だ。
医学生医学生
臨床の場では、保護者にどんな指導をすればいいでしょうか。
ドクタードクター
乳児健診などで伝えたいのは、寝かせるときはあおむけにして硬めの敷布団を使うこと、顔の周りに柔らかい枕やぬいぐるみ、タオルを置かないこと、ベッドと壁のすき間をなくすこと、大人の寝具での添い寝に注意すること、授乳後は排気をさせること、そしてボタン電池や硬貨、ナッツ類など口に入る大きさの物を手の届く場所に置かないことだ。あおむけ寝はSIDSのリスクを下げることにもつながる。
医学生医学生
統計の知識が、そのまま家庭での予防指導に直結するんですね。
ドクタードクター
そういうこと。子どもの事故は予防できるものが多い。発達段階に合わせて「次に起こりやすい事故」を先回りして伝えるのが、小児医療に関わる医師の大事な役割なんだ。

まとめ

乳児(0歳)の不慮の事故による死亡原因で最も多いのは窒息で、不慮の事故死の約8割を占めます。乳児は自力で体位を変えて気道を確保する力が弱く、何でも口に入れる時期にあたるため、就寝中の寝具による鼻口閉塞、ミルクや吐物の誤嚥、異物による気道閉塞が起こりやすいのです。溺水・転落・交通事故・火災による乳児の死亡は少数で、溺水や交通事故は行動範囲が広がる幼児期以降に割合が増えます。なお乳児死亡全体の原因の第1位は先天奇形・変形及び染色体異常であり、問いの対象を区別することが重要です。発達段階と事故の種類を結びつけて理解しておくことは、統計問題への対応だけでなく、あおむけ寝や誤飲防止などの具体的な予防指導にも役立ちます。

解答・解説

正解はaです

問われていること

0歳児(乳児)の「不慮の事故」による死亡を、原因の種類別にみたときに最も多いものを問う統計の問題である。

考え方

不慮の事故の内訳は、子どもの発達段階によって大きく変わる。乳児はまだ自力で寝返りや移動が十分にできず、気道も細い。さらに、生後数か月を過ぎると手に触れたものを何でも口に入れるようになる。このため、乳児の不慮の事故死では、就寝中に寝具やクッションで口と鼻がふさがれる、ベッドと壁のすき間にはさまる、ミルクや吐物を誤嚥する、食べ物や小さな物を気道に詰まらせる、といった「窒息」が大部分を占める。 人口動態統計をみると、乳児の不慮の事故死は年に数十〜100件程度である。例えば2014年は乳児死亡2,080件のうち不慮の事故が78件で、そのうち64件(約8割)が窒息であった。これに対して、溺水・転落・交通事故はそれぞれ数件、火災は0件であった。この傾向は特定の年に限ったものではなく、毎年続いている。 一方、歩行が始まり行動範囲が広がる幼児期以降になると、窒息の割合は下がり、溺水や交通事故の割合が上がっていく。年齢層ごとに主な事故の種類が入れ替わることを押さえておくと、この種の問題に対応しやすい。

選択肢考察

  1. ○a.  窒息

    乳児の不慮の事故死で圧倒的に多い原因である。2014年の統計では不慮の事故死78件中64件を占めた。内訳は、就寝中に寝具などで鼻と口がふさがれる窒息(ベッド内での不慮の窒息)、胃内容物(ミルク・吐物)の誤嚥、食物などによる気道閉塞である。乳児は自分で体位を変えて気道を確保する力が弱いうえに、何でも口に入れる時期にあたるため、窒息が起こりやすい。

  2. ×b.  溺水

    乳児にも浴槽での溺水は起こり、2014年は2件であった。ただし窒息と比べればごく少ない。溺水の割合が大きくなるのは、つかまり立ちや歩行ができるようになって自分で浴室や水辺に近づける幼児期以降であり、幼児期の不慮の事故死では主要な原因の一つとなる。

  3. ×c.  火災

    火災(煙・火への曝露)による乳児の死亡はまれで、2014年は0件であった。窒息と比べて明らかに少なく、最多ではない。

  4. ×d.  転落

    ベッドやソファ、抱っこ中の転落は乳児の外傷としては多く、受診理由としてはよくみられる。しかし死亡に至ることは少なく、2014年の転倒・転落による乳児死亡は3件にとどまった。けがの頻度と死亡の頻度を区別して考える必要がある。

  5. ×e.  交通事故

    乳児の交通事故死は、主に自動車に同乗しているときの事故であり、2014年は2件と少なかった。チャイルドシートの着用が重要な予防策である。交通事故の割合は、子どもが自分で道路を歩き始める幼児期から学童期にかけて大きくなる。

乳児死亡の主な原因

乳児死亡の原因としては、先天奇形・変形及び染色体異常が最も多い。これに周産期に特異的な呼吸障害、乳幼児突然死症候群(SIDS:それまで元気だった乳児が睡眠中に突然死亡し、原因が特定できないもの)、不慮の事故などが続き、いずれも上位を占める。

年齢によって変わる不慮の事故の内訳(おおまかな傾向)

・乳児(0歳):窒息が大部分を占める。 ・幼児(1〜4歳):窒息に加えて溺水・交通事故の割合が大きくなる。 ・学童期以降:交通事故・溺水の割合が大きくなる。

乳児の窒息を防ぐには

・寝かせるときはあおむけにし、硬めの敷布団やマットレスを使う。顔の周りに柔らかい枕・ぬいぐるみ・タオルを置かない。 ・ベッドと壁などのすき間をなくし、大人と同じ寝具で添い寝するときは注意する。 ・授乳後は排気(げっぷ)をさせる。 ・口に入る大きさの小物(ボタン電池、硬貨、ナッツ類など)を手の届く場所に置かない。 あおむけで寝かせることは、SIDSのリスクを下げることにもつながる。

POINT

・乳児の不慮の事故死の原因は窒息が最多で、約8割を占める(就寝中の窒息、ミルク・吐物の誤嚥、異物による気道閉塞)。 ・溺水・転落・交通事故・火災による乳児の死亡は少数である。 ・幼児期以降は溺水・交通事故の割合が増える。年齢層ごとに主な事故が入れ替わる。 ・乳児死亡の原因の第1位は先天奇形・変形及び染色体異常であり、不慮の事故は上位の死因の一つである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。