その届出、根拠はどの法律?―医師法が定める唯一の届出「異状死体」
第110回医師国家試験 F問題 第1問
国試問題にチャレンジ
医師の届け出義務が医師法に規定されているのはどれか。
- a.異状死体
- b.食中毒患者
- c.被虐待児童
- d.麻薬中毒患者
- e.医薬品による副作用
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
医師法に規定されている届出義務は異状死体等の届出(第21条)で、死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状を認めたときは、24時間以内に所轄警察署へ届け出なければなりません。食中毒は食品衛生法により保健所長へ、児童虐待は児童虐待防止法・児童福祉法により市町村・福祉事務所・児童相談所へ、麻薬中毒者は麻薬及び向精神薬取締法により都道府県知事へ、医薬品の副作用は医薬品医療機器等法により厚生労働大臣(PMDA経由)へと、それぞれ別の法律に根拠があります。医師法にはこのほか応招義務、診断書等の交付義務、無診察治療等の禁止、処方箋の交付義務、保健指導義務、診療録の記載・5年間保存義務が定められています。届出は「対象・根拠法・届出先・期限」をセットで整理すると混乱しにくくなります。これらは試験の頻出事項であると同時に、異状死や虐待、副作用に遭遇した際に医師として適切に行動するための実践的な知識です。
解答・解説
正解はaです
問われているテーマ
医師には診療の過程で知り得た事柄について、さまざまな法律で行政機関などへの届出・報告・通告の義務が課されている。本問は、それぞれの届出義務がどの法律に根拠をもつかを問う問題である。
正解を導く考え方
医師法は医師の資格と業務全般を定める法律であり、そこに規定される届出義務は「異状死体等の届出」(医師法第21条)である。医師は、死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。 そのほかの届出は、それぞれ対象分野を所管する個別の法律(食品衛生法、児童虐待の防止等に関する法律、麻薬及び向精神薬取締法、医薬品医療機器等法)に規定されている。「何を・どこへ・いつまでに・どの法律で」をセットで整理しておくことが重要である。
選択肢考察
- ○a. 異状死体
医師法第21条に規定される届出である。医師が死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄の警察署へ届け出る義務がある。犯罪の関与が疑われる死を見逃さず、司法検視や解剖につなげることが目的とされる。違反には罰金刑(50万円以下)の罰則がある。届出先が保健所や都道府県ではなく警察署である点も頻出事項である。
- ×b. 食中毒患者
食中毒患者(またはその疑いのある者)やその死体を診断・検案した医師の届出義務は、食品衛生法に規定されている。届出先は最寄りの保健所長で、直ちに届け出る必要がある。保健所長は都道府県知事等に報告し、原因食品・原因施設の調査や拡大防止の措置がとられる。医師法の規定ではない。
- ×c. 被虐待児童
児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者の通告義務は、児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)および児童福祉法に規定されている。通告先は市町村、都道府県の設置する福祉事務所または児童相談所である。この義務は医師に限らず全ての国民に課されるが、医師など児童の福祉に職務上関係のある者には早期発見の努力義務も定められている。虐待の確証がなくても「虐待を受けたと思われる」段階で通告すべきであり、通告は医師の守秘義務違反に当たらないとされている。
- ×d. 麻薬中毒患者
麻薬中毒者(またはその疑いのある者)を診断した医師の届出義務は、麻薬及び向精神薬取締法に規定されている。届出先は患者の居住地の都道府県知事で、すみやかに届け出る必要がある。届出を受けた都道府県知事は、必要に応じて精神保健指定医による診察や措置入院などの対応をとる。医師法の規定ではない。
- ×e. 医薬品による副作用
医薬品の副作用(医療機器の不具合、再生医療等製品による健康被害などを含む)について、保健衛生上の危害の発生・拡大を防止するため必要があると認めるときに厚生労働大臣へ報告する義務は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法、薬機法)に規定されている。報告は実務上、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)を通じて行われる。医師法の規定ではない。
医師法に定められた主な医師の義務
・応招義務(第19条第1項):診療に従事する医師は、正当な事由がなければ診察治療の求めを拒んではならない。 ・診断書等の交付義務(第19条第2項):診察・検案・出産立会いをした医師は、診断書・検案書・出生証明書等の交付の求めを正当な事由なく拒んではならない。 ・無診察治療等の禁止(第20条):自ら診察しないで治療・診断書や処方箋の交付をしてはならず、自ら検案しないで検案書を交付してはならない(受診後24時間以内の死亡で診療中の疾病による死亡の場合の死亡診断書には例外がある)。 ・異状死体等の届出義務(第21条) ・処方箋の交付義務(第22条) ・保健指導を行う義務(第23条):診療時に本人または保護者に療養の方法その他保健の向上に必要な事項を指導する。 ・診療録の記載・保存義務(第24条):診療録は5年間保存する。
医師の主な届出・通告義務と根拠法
・異状死体・異状死産児:医師法 → 所轄警察署(24時間以内) ・感染症:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法) → 保健所長経由で都道府県知事(一類〜四類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、および五類のうち侵襲性髄膜炎菌感染症・麻しん・風しんは直ちに、その他の五類全数把握疾患は7日以内。五類定点把握疾患は指定届出機関が週単位・月単位で届け出る) ・食中毒:食品衛生法 → 保健所長(直ちに) ・児童虐待:児童虐待防止法・児童福祉法 → 市町村・福祉事務所・児童相談所 ・麻薬中毒者:麻薬及び向精神薬取締法 → 都道府県知事 ・医薬品の副作用:医薬品医療機器等法 → 厚生労働大臣(PMDA経由) ・死産:死産の届出に関する規程 → 届出義務者は父母等で、医師は死産証書(死胎検案書)を作成する ・配偶者からの暴力(DV):配偶者暴力防止法 → 配偶者暴力相談支援センターまたは警察官に通報できる(努力規定で、被害者の意思を尊重するよう努める) ・高齢者虐待:高齢者虐待防止法 → 市町村(生命・身体に重大な危険が生じている場合は通報義務)
POINT
・医師法第21条:死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状を認めたら、24時間以内に所轄警察署へ届け出る。 ・食中毒は食品衛生法(保健所長)、児童虐待は児童虐待防止法(市町村・福祉事務所・児童相談所)、麻薬中毒者は麻薬及び向精神薬取締法(都道府県知事)、医薬品副作用は医薬品医療機器等法(厚生労働大臣)。 ・届出は「対象・根拠法・届出先・期限」をセットで覚える。
