StudyMed医師国家試験

その届出、根拠はどの法律?―医師法が定める唯一の届出「異状死体」

第110回医師国家試験 F問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第110回 F問題 第1問

医師の届け出義務が医師法に規定されているのはどれか。

  1. a.異状死体
  2. b.食中毒患者
  3. c.被虐待児童
  4. d.麻薬中毒患者
  5. e.医薬品による副作用

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、医師に課されているさまざまな届出義務が、どの法律に基づくかを問う問題だ。選択肢はどれも医師が届け出たり通告したりするものばかりだから、「何を届けるか」ではなく「どの法律に書いてあるか」に注目してほしい。
医学生医学生
医師が届け出るものなら、全部医師法に書いてあるような気がしてしまいます。
ドクタードクター
そう思うのも無理はないね。でも医師法は、医師の資格と業務全般を定める法律なんだ。個別の分野の届出は、その分野を所管する法律にそれぞれ規定されている。では医師法に書かれている届出は何だと思う?
医学生医学生
法医学の講義で「医師法21条」という言葉を何度も聞きました。異状死体の届出ですよね。
ドクタードクター
正解。医師は死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄の警察署へ届け出なければならない。目的は、犯罪が関わっているかもしれない死を見逃さず、検視や解剖につなげることだ。
医学生医学生
届出先は保健所ではなく警察署なんですね。
ドクタードクター
そこは頻出ポイントだよ。犯罪捜査につなげるための届出だから警察署、と理由と一緒に覚えるといい。違反には50万円以下の罰金という罰則もある。では、ほかの選択肢を見ていこう。食中毒患者の届出はどの法律かな。
医学生医学生
感染症と同じで、感染症法でしょうか。
ドクタードクター
惜しいけど違うんだ。食中毒は食品衛生法に規定されていて、医師は食中毒患者やその疑いのある人を診断したら、直ちに最寄りの保健所長へ届け出る。原因食品や原因施設を調べて、被害の拡大を防ぐためだね。もちろん、腸管出血性大腸菌感染症のように感染症法の届出対象にもなる病原体なら、そちらの届出も別に必要になる。
医学生医学生
被虐待児童は、小児科の実習で指導医の先生が児童相談所に連絡しているのを見たことがあります。
ドクタードクター
それは貴重な経験だね。児童虐待の通告義務は児童虐待防止法と児童福祉法に規定されていて、通告先は市町村、福祉事務所、児童相談所だ。この義務は医師に限らず全ての国民に課されている。大事なのは、確証がなくても「虐待を受けたと思われる」段階で通告すべきこと、そして通告は守秘義務違反に当たらないとされていることだ。
医学生医学生
確証を待っていたら手遅れになりかねない、ということですね。麻薬中毒患者はどうですか。
ドクタードクター
麻薬中毒者やその疑いのある人を診断した医師は、麻薬及び向精神薬取締法に基づいて、患者の居住地の都道府県知事に速やかに届け出る。届出を受けた知事は、必要に応じて精神保健指定医の診察などの対応をとるんだ。
医学生医学生
医薬品の副作用は、薬理学で習った薬機法ですか。
ドクタードクター
その通り。医薬品医療機器等法に基づき、保健衛生上の危害の発生や拡大を防ぐ必要があると認めるときに厚生労働大臣へ報告する。実務上はPMDA、つまり医薬品医療機器総合機構を通じて報告するよ。市販後に初めてわかる副作用も多いから、現場の医師の報告が安全対策の土台になる。
医学生医学生
届出は「何を、どこへ、いつまでに、どの法律で」をセットで覚えればいいんですね。
ドクタードクター
そう、その4点セットが最も効率的だ。発展として、医師法に定められた医師の義務もまとめておこう。正当な事由なく診察を拒んではならない応招義務、診断書などの交付義務、自ら診察せずに治療や診断書交付をしてはならない無診察治療等の禁止、異状死体等の届出義務、処方箋の交付義務、保健指導の義務、そして診療録の記載と5年間の保存義務だ。
医学生医学生
感染症の届出も医師の大事な仕事ですが、あれは感染症法で、届出先は保健所長経由で都道府県知事でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。一類から四類感染症などは直ちに、五類の全数把握疾患の多くは7日以内と、類型によって期限が違う。臨床に出ると、異状死の判断に迷う場面や、虐待を疑いながら通告をためらう場面に必ず出会う。根拠となる法律と届出先を知っていれば、迷ったときにも適切に動けるはずだ。

まとめ

医師法に規定されている届出義務は異状死体等の届出(第21条)で、死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状を認めたときは、24時間以内に所轄警察署へ届け出なければなりません。食中毒は食品衛生法により保健所長へ、児童虐待は児童虐待防止法・児童福祉法により市町村・福祉事務所・児童相談所へ、麻薬中毒者は麻薬及び向精神薬取締法により都道府県知事へ、医薬品の副作用は医薬品医療機器等法により厚生労働大臣(PMDA経由)へと、それぞれ別の法律に根拠があります。医師法にはこのほか応招義務、診断書等の交付義務、無診察治療等の禁止、処方箋の交付義務、保健指導義務、診療録の記載・5年間保存義務が定められています。届出は「対象・根拠法・届出先・期限」をセットで整理すると混乱しにくくなります。これらは試験の頻出事項であると同時に、異状死や虐待、副作用に遭遇した際に医師として適切に行動するための実践的な知識です。

解答・解説

正解はaです

問われているテーマ

医師には診療の過程で知り得た事柄について、さまざまな法律で行政機関などへの届出・報告・通告の義務が課されている。本問は、それぞれの届出義務がどの法律に根拠をもつかを問う問題である。

正解を導く考え方

医師法は医師の資格と業務全般を定める法律であり、そこに規定される届出義務は「異状死体等の届出」(医師法第21条)である。医師は、死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。 そのほかの届出は、それぞれ対象分野を所管する個別の法律(食品衛生法、児童虐待の防止等に関する法律、麻薬及び向精神薬取締法、医薬品医療機器等法)に規定されている。「何を・どこへ・いつまでに・どの法律で」をセットで整理しておくことが重要である。

選択肢考察

  1. ○a.  異状死体

    医師法第21条に規定される届出である。医師が死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄の警察署へ届け出る義務がある。犯罪の関与が疑われる死を見逃さず、司法検視や解剖につなげることが目的とされる。違反には罰金刑(50万円以下)の罰則がある。届出先が保健所や都道府県ではなく警察署である点も頻出事項である。

  2. ×b.  食中毒患者

    食中毒患者(またはその疑いのある者)やその死体を診断・検案した医師の届出義務は、食品衛生法に規定されている。届出先は最寄りの保健所長で、直ちに届け出る必要がある。保健所長は都道府県知事等に報告し、原因食品・原因施設の調査や拡大防止の措置がとられる。医師法の規定ではない。

  3. ×c.  被虐待児童

    児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者の通告義務は、児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)および児童福祉法に規定されている。通告先は市町村、都道府県の設置する福祉事務所または児童相談所である。この義務は医師に限らず全ての国民に課されるが、医師など児童の福祉に職務上関係のある者には早期発見の努力義務も定められている。虐待の確証がなくても「虐待を受けたと思われる」段階で通告すべきであり、通告は医師の守秘義務違反に当たらないとされている。

  4. ×d.  麻薬中毒患者

    麻薬中毒者(またはその疑いのある者)を診断した医師の届出義務は、麻薬及び向精神薬取締法に規定されている。届出先は患者の居住地の都道府県知事で、すみやかに届け出る必要がある。届出を受けた都道府県知事は、必要に応じて精神保健指定医による診察や措置入院などの対応をとる。医師法の規定ではない。

  5. ×e.  医薬品による副作用

    医薬品の副作用(医療機器の不具合、再生医療等製品による健康被害などを含む)について、保健衛生上の危害の発生・拡大を防止するため必要があると認めるときに厚生労働大臣へ報告する義務は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法、薬機法)に規定されている。報告は実務上、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)を通じて行われる。医師法の規定ではない。

医師法に定められた主な医師の義務

・応招義務(第19条第1項):診療に従事する医師は、正当な事由がなければ診察治療の求めを拒んではならない。 ・診断書等の交付義務(第19条第2項):診察・検案・出産立会いをした医師は、診断書・検案書・出生証明書等の交付の求めを正当な事由なく拒んではならない。 ・無診察治療等の禁止(第20条):自ら診察しないで治療・診断書や処方箋の交付をしてはならず、自ら検案しないで検案書を交付してはならない(受診後24時間以内の死亡で診療中の疾病による死亡の場合の死亡診断書には例外がある)。 ・異状死体等の届出義務(第21条) ・処方箋の交付義務(第22条) ・保健指導を行う義務(第23条):診療時に本人または保護者に療養の方法その他保健の向上に必要な事項を指導する。 ・診療録の記載・保存義務(第24条):診療録は5年間保存する。

医師の主な届出・通告義務と根拠法

・異状死体・異状死産児:医師法 → 所轄警察署(24時間以内) ・感染症:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法) → 保健所長経由で都道府県知事(一類〜四類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、および五類のうち侵襲性髄膜炎菌感染症・麻しん・風しんは直ちに、その他の五類全数把握疾患は7日以内。五類定点把握疾患は指定届出機関が週単位・月単位で届け出る) ・食中毒:食品衛生法 → 保健所長(直ちに) ・児童虐待:児童虐待防止法・児童福祉法 → 市町村・福祉事務所・児童相談所 ・麻薬中毒者:麻薬及び向精神薬取締法 → 都道府県知事 ・医薬品の副作用:医薬品医療機器等法 → 厚生労働大臣(PMDA経由) ・死産:死産の届出に関する規程 → 届出義務者は父母等で、医師は死産証書(死胎検案書)を作成する ・配偶者からの暴力(DV):配偶者暴力防止法 → 配偶者暴力相談支援センターまたは警察官に通報できる(努力規定で、被害者の意思を尊重するよう努める) ・高齢者虐待:高齢者虐待防止法 → 市町村(生命・身体に重大な危険が生じている場合は通報義務)

POINT

・医師法第21条:死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状を認めたら、24時間以内に所轄警察署へ届け出る。 ・食中毒は食品衛生法(保健所長)、児童虐待は児童虐待防止法(市町村・福祉事務所・児童相談所)、麻薬中毒者は麻薬及び向精神薬取締法(都道府県知事)、医薬品副作用は医薬品医療機器等法(厚生労働大臣)。 ・届出は「対象・根拠法・届出先・期限」をセットで覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。