萎縮した乳頭は腫れない―Foster Kennedy症候群から前頭蓋底の腫瘍を読み解く
第110回医師国家試験 E問題 第6問
国試問題にチャレンジ
頭部造影MRI(①~⑤)を別に示す。 右側の視神経萎縮と嗅覚脱失,左側のうっ血乳頭をきたしている患者のMRI像はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
一側の視神経萎縮と反対側のうっ血乳頭の組み合わせはFoster Kennedy症候群と呼ばれ、病変側の視神経は腫瘍の直接圧迫で萎縮して腫れることができず、反対側には頭蓋内圧亢進によるうっ血乳頭が現れます。病変側の嗅覚脱失を伴えば前頭蓋底・前頭葉下面の病変が示唆され、嗅溝髄膜腫や蝶形骨縁内側髄膜腫が典型です。MRI軸位断では画像の左が患者の右となるため、左右だけで区別できない場合は断面の高さと腫瘍の位置から判断し、傍矢状洞・円蓋部髄膜腫は対側肢の麻痺、神経膠腫は実質内の不整な造影、後頭蓋窩腫瘍は水頭症と両側うっ血乳頭というように部位ごとの症状と照合します。また、虚血性視神経症による偽Foster Kennedy症候群もあるため、画像による確認が欠かせません。症状を解剖学的部位に置き換えてから画像を読む姿勢は、神経局在診断の基本として臨床で広く役立ちます。
解答・解説
正解はdです
症状から病変の部位を推定し、それに一致する画像を選ぶ問題である。
症状の整理
・右側の視神経萎縮:右視神経が長期間にわたって圧迫され、線維が脱落している。 ・右側の嗅覚脱失:嗅神経・嗅球・嗅索は前頭葉の下面、前頭蓋底(嗅窩)に沿って走るため、この部位の圧迫を示す。 ・左側のうっ血乳頭:頭蓋内圧亢進による視神経乳頭の腫脹である。 一側の視神経萎縮と反対側のうっ血乳頭の組み合わせは、Foster Kennedy(フォスター・ケネディ)症候群と呼ばれる。病変側の視神経は腫瘍に直接圧迫されて萎縮し、萎縮した乳頭は頭蓋内圧が上がっても腫れることができない。一方、圧迫を受けていない反対側の視神経では、頭蓋内圧亢進がそのまま伝わってうっ血乳頭が生じる。嗅覚脱失を伴うことが多く、これは腫瘍が嗅溝・嗅索も圧迫しているためである。 したがって、本例の病変は「右側の前頭蓋底(前頭葉の下面)にあり、右視神経と右嗅索を圧迫し、かつ頭蓋内圧を亢進させるほど大きい腫瘤」と推定できる。典型的には嗅溝髄膜腫や蝶形骨縁内側の髄膜腫である。
画像の見方
MRIの軸位断(水平断)は、患者を足側から見上げた向きで表示するのが慣例であり、画像の左側が患者の右側にあたる。5枚の画像では、いずれも腫瘍が画像の左側(患者の右側)にあるため、左右だけでは区別できず、断面の高さ(頭頂寄りか、頭蓋底か、後頭蓋窩か)と腫瘍の位置から判断する。前頭蓋底の高さで、右前方に大きな腫瘤があるのは④である。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。頭頂に近い高い断面で、大脳鎌(左右の大脳半球の間にある硬膜のひだ)に接して右側に均一に強く造影される腫瘤があり、大脳鎌から発生した髄膜腫(傍矢状洞・大脳鎌髄膜腫)が考えられる。この部位は中心前回の内側、すなわち下肢を支配する運動野に近いため、初発症状は反対側(左)の下肢の筋力低下や焦点てんかんとなりやすい。前頭蓋底からは遠く、視神経や嗅索を圧迫することはない。
- ×b. ②
誤り。高い断面で、右大脳半球の外側の表面(円蓋部)の硬膜に接して、強く均一に造影される腫瘤があり、円蓋部髄膜腫が考えられる。円蓋部の外側寄りの病変は上肢や顔面を支配する運動野に近いため、反対側(左)の上肢の筋力低下や焦点てんかんで発症しやすい。前頭蓋底の構造には及んでおらず、視神経萎縮や嗅覚脱失は説明できない。
- ×c. ③
誤り。側脳室が見える中ほどの高さの断面で、右の側頭葉から島回付近の脳実質内に、辺縁が不整に造影され内部に嚢胞や壊死を伴う腫瘤がある。脳実質内から発生した腫瘍であり、神経膠腫(膠芽腫など悪性度の高いもの)が疑われる。周囲の脳の圧迫や浮腫により頭蓋内圧亢進症状や左半身の運動麻痺、側頭葉てんかんなどをきたしうるが、前頭蓋底の視神経・嗅索を直接圧迫する位置ではなく、一側の視神経萎縮と嗅覚脱失は生じにくい。
- ○d. ④
正しい。前頭蓋底の高さの断面で、右前頭葉の下面に大きな、強く均一に造影される腫瘤があり、正中を越えて広がっている。前頭蓋底の硬膜から発生した髄膜腫(嗅溝髄膜腫など)と考えられる。腫瘍が右の嗅索と右視神経を直接圧迫するため、右の嗅覚脱失と右視神経萎縮が生じる。さらに腫瘍が大きく頭蓋内圧が亢進するため、圧迫されていない左の視神経乳頭にうっ血乳頭が現れる。これはFoster Kennedy症候群の典型的な病変であり、症状と完全に一致する。前頭葉の下面の腫瘍はゆっくり大きくなると症状が出にくく、自発性の低下や人格変化などの精神症状で気づかれることもある。
- ×e. ⑤
誤り。眼球が写っている低い断面で、後頭蓋窩の小脳から第4脳室付近に、造影される充実部分と嚢胞を伴う腫瘤がある。後頭蓋窩の腫瘍(上衣腫、髄芽腫、血管芽腫などが鑑別となる)であり、第4脳室を圧迫して閉塞性水頭症を起こしやすく、頭蓋内圧亢進により両側性のうっ血乳頭をきたしうる。また小脳症状として歩行・体幹の失調などが出やすい。ただし前頭蓋底から遠いため、一側の視神経萎縮や嗅覚脱失は説明できない。
Foster Kennedy症候群
・病変側の視神経萎縮(直接圧迫による)+反対側のうっ血乳頭(頭蓋内圧亢進による)。しばしば病変側の嗅覚脱失を伴う。 ・原因:前頭蓋底の腫瘤性病変。嗅溝髄膜腫、蝶形骨縁(内側)髄膜腫、前頭葉下面の腫瘍などが代表である。 ・病変側の乳頭が腫れないのは、萎縮した視神経では軸索が失われており、うっ血乳頭の原因となる軸索輸送の停滞が起こらないためである。 ・偽Foster Kennedy症候群:両眼に時期をずらして虚血性視神経症などが起こり、先に障害された眼が萎縮、後から障害された眼が乳頭腫脹を示すと、腫瘍がなくても同じ眼底所見になる。頭蓋内病変の有無を画像で確認することが重要である。
髄膜腫の特徴
・硬膜(くも膜の細胞)から発生する良性腫瘍が多く、中年以降の女性に多い。 ・脳実質の外にあり、造影MRIで均一に強く造影される。硬膜に沿った造影効果(dural tail sign)や、隣接する骨の肥厚を伴うことがある。 ・好発部位:傍矢状洞・大脳鎌、円蓋部、蝶形骨縁、嗅溝、鞍結節、小脳橋角部など。 ・部位と症状:傍矢状洞・大脳鎌では反対側下肢の麻痺、円蓋部では反対側上肢・顔面の麻痺やてんかん、嗅溝では嗅覚脱失・精神症状・Foster Kennedy症候群、鞍結節では視力・視野障害。
MRI軸位断の左右
慣例として画像の左側が患者の右側、画像の右側が患者の左側である。前後は画像の上が前(顔側)となる。
POINT
・一側の視神経萎縮+反対側のうっ血乳頭=Foster Kennedy症候群。病変は萎縮側の前頭蓋底にある。 ・嗅覚脱失の合併は嗅溝・前頭葉下面の病変を示す。原因は嗅溝髄膜腫・蝶形骨縁髄膜腫が典型である。 ・MRI軸位断では画像の左が患者の右である。 ・髄膜腫は部位ごとに症状が異なる(傍矢状洞→対側下肢、円蓋部→対側上肢、嗅溝→嗅覚脱失・精神症状)。
