カリウム7.0は待ったなし―急性腎障害の緊急透析は「AEIOU」で決める
第110回医師国家試験 E問題 第5問
国試問題にチャレンジ
急性腎不全で血液透析を行うべき検査値はどれか。
- a.血清尿酸10 mg/dL
- b.血清尿素窒素38 mg/dL
- c.血清カリウム7.0 mEq/L
- d.動脈血HCO3- 20 mEq/L
- e.血清クレアチニン1.8 mg/dL
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性腎障害(AKI)の多くは原因除去と保存的治療で回復を待ちますが、内科的治療で制御できない生命を脅かす合併症が生じた場合には緊急透析を行います。その適応は「AEIOU」、すなわち治療抵抗性の高度代謝性アシドーシス、高カリウム血症、透析で除去可能な中毒、利尿薬抵抗性の体液過剰(肺水腫)、尿毒症症状(心膜炎・脳症・出血傾向)としてまとめられます。血清カリウム7.0 mEq/Lは致死的不整脈を招きうる高度の高カリウム血症で、乏尿のAKIでは薬物療法が一時しのぎにしかならないため、確実にカリウムを除去できる透析の適応となります。一方、軽度のHCO3-低下やBUN・クレアチニン・尿酸の上昇は、その数値だけでは透析開始の根拠になりません。「数値の異常」と「命に関わる治療抵抗性の異常」を区別して考える姿勢は、救急・集中治療の現場で透析のタイミングを判断する際の基本となります。
解答・解説
正解はcです
急性腎不全(現在は急性腎障害 acute kidney injury:AKI と呼ばれる)で、緊急に血液透析(腎代替療法)を始めるべき状態を問う問題である。 AKIでは腎臓が担う「水・電解質・酸塩基の調節」と「老廃物の排泄」が急速に失われる。多くは原因の除去と保存的治療で回復を待つが、内科的治療では制御できず生命を脅かす合併症が生じたときには、透析で腎臓の働きを代行する必要がある。代表的な緊急透析の適応は次の5つであり、英語の頭文字をとって「AEIOU」と覚えられる。 ・A(Acidosis):アルカリ製剤などで補正できない高度の代謝性アシドーシス ・E(Electrolytes):治療抵抗性の高カリウム血症 ・I(Intoxication):透析で除去できる薬物・毒物による中毒 ・O(Overload):利尿薬に反応しない体液過剰(肺水腫・呼吸不全) ・U(Uremia):尿毒症症状(心膜炎、意識障害・けいれんなどの脳症、出血傾向など) AKIでは、血清クレアチニンや尿素窒素の値「だけ」で透析開始を決める明確な基準はなく、これらの合併症の有無と重症度、尿量、進行の速さを総合して判断する。本問の選択肢のうち、ただちに生命に危険が及ぶ値は血清カリウム7.0 mEq/Lであり、心停止や致死的不整脈を防ぐために透析を行うべき状態と判断できる。他の選択肢はいずれも異常値ではあるが、その値だけでは透析の適応にならない程度である。
選択肢考察
- ×a. 血清尿酸10 mg/dL
誤り。血清尿酸の基準値は男性でおおむね7.0 mg/dL以下であり、10 mg/dLは高尿酸血症である。腎機能低下で尿酸の排泄が減れば上昇するが、尿酸値そのものは透析開始の判断基準には用いない。透析で尿酸を除去すること自体は可能で、腫瘍崩壊症候群のように尿酸が急激に著しく上昇し腎障害が進む特殊な状況では透析が検討されるが、その場合も高カリウム血症や乏尿などを合わせて判断する。通常はまず輸液や尿酸降下薬(ラスブリカーゼなど)で対応する。
- ×b. 血清尿素窒素38 mg/dL
誤り。血清尿素窒素(BUN)の基準値はおおむね8〜20 mg/dLであり、38 mg/dLは軽度から中等度の上昇にとどまる。BUNは蛋白の代謝産物である尿素の濃度で、小分子の尿毒素がどの程度たまっているかの目安になるが、脱水・消化管出血・高蛋白摂取などでも上昇し、腎機能以外の影響を受けやすい。透析を考える目安としては一般に80〜100 mg/dL以上が挙げられるが、これも絶対的な基準ではなく、尿毒症症状の有無が重視される。38 mg/dLで透析を行う必要はない。
- ○c. 血清カリウム7.0 mEq/L
正しい。血清カリウムの基準値は約3.5〜5.0 mEq/Lである。7.0 mEq/Lは高度の高カリウム血症で、心筋細胞の静止膜電位が浅くなり(脱分極側に偏り)、刺激伝導が障害される。心電図ではテント状T波、PR延長・P波消失、QRS幅の拡大がみられ、放置すればサインカーブ様の波形から心室細動・心停止に至る。グルコン酸カルシウム静注(心筋膜の安定化)、グルコース・インスリン療法や炭酸水素ナトリウム(カリウムの細胞内移動)、陽イオン交換樹脂やループ利尿薬(体外への排泄)といった治療は、乏尿・無尿のAKIでは一時しのぎにしかならない。体外へ確実にカリウムを除去できるのは透析であり、一般に6.0〜6.5 mEq/Lを超えて治療に反応しない場合や心電図変化を伴う場合は緊急透析の適応となる。
- ×d. 動脈血HCO3- 20 mEq/L
誤り。動脈血HCO3-の基準値は約22〜26 mEq/Lであり、20 mEq/Lは軽度の低下である。軽い代謝性アシドーシス、または呼吸性アルカローシスに対する腎の代償で生じうる値で、透析を要する状態ではない。透析の適応となるのは、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ製剤を投与しても改善しない高度の代謝性アシドーシスであり、目安としてはpH 7.1〜7.15未満、HCO3- 10〜15 mEq/L未満程度が挙げられる。体液過剰がある患者ではナトリウム負荷によりアルカリ製剤を十分投与できないため、より早期に透析が選ばれることがある。
- ×e. 血清クレアチニン1.8 mg/dL
誤り。血清クレアチニンの基準値は男性でおおむね0.6〜1.1 mg/dL程度であり、1.8 mg/dLは腎機能低下を示す値ではあるが、それだけで透析を始める理由にはならない。クレアチニンは筋肉で一定量つくられる老廃物で、主に糸球体ろ過で排泄されるため腎機能(糸球体ろ過量)の指標となる。AKIの診断や重症度分類(KDIGO分類)では、基礎値からの上昇の程度と尿量が用いられるが、透析開始は前述の合併症の有無で判断する。なお慢性腎不全(末期腎不全)では、かつて血清クレアチニン8 mg/dL以上を透析導入の目安の一つとする基準が用いられたが、現在は推算糸球体ろ過量(eGFR)と症状を総合して判断する。
急性腎障害(AKI)の概要
数時間〜数日の経過で腎機能が急激に低下する病態である。原因は部位によって、腎前性(脱水、出血、心不全などによる腎血流低下)、腎性(急性尿細管壊死、急性間質性腎炎、急速進行性糸球体腎炎など)、腎後性(両側尿路閉塞、前立腺肥大症など)に分けられる。
KDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)の診断基準
以下のいずれかでAKIと診断する。 ・血清クレアチニンが48時間以内に0.3 mg/dL以上上昇 ・血清クレアチニンが既知または推定の基礎値から7日以内に1.5倍以上に上昇 ・尿量0.5 mL/kg/時未満が6時間以上持続
高カリウム血症の緊急治療の流れ
1. 心筋の保護:グルコン酸カルシウム静注(効果は数分で現れるが、カリウム値は下がらない) 2. 細胞内への移動:グルコース・インスリン療法、β2刺激薬吸入、(アシドーシスがあれば)炭酸水素ナトリウム 3. 体外への除去:ループ利尿薬、陽イオン交換樹脂・カリウム吸着薬、血液透析 乏尿・無尿のAKIでは3の排泄経路が限られるため、透析が決定的な治療となる。
透析方法の選択
循環動態が安定していれば間欠的血液透析、血圧が不安定な重症患者では持続的腎代替療法(CRRT:持続的血液濾過透析など)が選ばれる。急速にカリウムを下げたいときは、除去効率の高い間欠的血液透析が有利である。
POINT
・AKIの緊急透析適応は「AEIOU」:治療抵抗性のアシドーシス、高カリウム血症、透析で除去可能な中毒、利尿薬抵抗性の体液過剰(肺水腫)、尿毒症症状(心膜炎・脳症・出血傾向)。 ・高度の高カリウム血症(目安6.0〜6.5 mEq/L超で治療抵抗性、または心電図変化あり)は致死的不整脈の危険があり、緊急透析の代表的適応である。 ・AKIでは血清クレアチニンやBUNの数値単独で透析開始を決めない。 ・尿酸値は透析開始の判断基準ではない。
