StudyMed医師国家試験

「C6以下が完全麻痺」はC5が残るという意味―残存髄節から逆算する頸髄損傷のリハビリ目標

第110回医師国家試験 E問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第110回 E問題 第3問

頸髄損傷によって第6頸髄レベル以下の機能が完全に障害されている患者のリハビリテーションで正しいのはどれか。

  1. a.自己導尿の方法を指導する。
  2. b.ズボンの脱衣動作法を指導する。
  3. c.長下肢装具を用いて歩行訓練を行う。
  4. d.食事動作のための自助具の使用訓練を行う。
  5. e.プッシュアップによる車椅子移乗訓練を行う。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は頸髄損傷のリハビリテーションの問題だ。脊髄損傷では「どの髄節まで機能が残っているか」で使える筋が決まり、そこから現実的に達成できる日常生活動作、つまりADLの目標がほぼ決まる。まずは問題文の損傷レベルの表現を正しく読み取るところから始めよう。
医学生医学生
第6頸髄レベル以下が障害ということは、C6が残存レベルだと思ったんですが…。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。「C6以下の機能が完全に障害」ということは、C6そのものも使えない。機能が残っているのはC5までだから、機能残存レベルはC5になる。この読み違いで答えが変わってしまうから要注意だ。
医学生医学生
なるほど、C5残存なんですね。C5で動く筋というと、三角筋と上腕二頭筋でしょうか。
ドクタードクター
その通り。三角筋で肩の外転・屈曲、上腕二頭筋や腕橈骨筋で肘の屈曲ができる。逆に使えないのは、手関節背屈の橈側手根伸筋(C6)、肘伸展の上腕三頭筋(C7)、手指の屈曲・伸展(C7〜C8)、手指の巧緻運動(T1)、そして体幹と下肢だ。
医学生医学生
神経解剖の講義で「C5は肩と肘を曲げる、C6は手首を反らす、C7は肘を伸ばす」と語呂のように覚えました。
ドクタードクター
その整理はそのまま臨床で使えるよ。では、肩と肘を曲げられて、手首と指が使えない人に何ができるか考えてみよう。手を口元に運ぶことはできるかな。
医学生医学生
肩と肘が曲がるので、手を口まで持っていくことはできそうです。でも物をつかめないから、スプーンが持てませんね。
ドクタードクター
そう。そこで登場するのが自助具だ。手掌や手背に巻くポケット付きの装具、いわゆる万能カフにスプーンやフォークを差し込めば、握れなくても食具を口に運べる。手関節を固定する装具や、上肢を吊って重力を軽くするスプリングバランサーを併用することもある。だから、食事動作のための自助具の使用訓練がC5残存の患者に対して適切で現実的な目標、つまり正解になる。
医学生医学生
臨床実習でリハビリテーション科を回ったとき、作業療法室で万能カフを使って食事練習をしている方を見ました。あれがまさにC5レベルだったのかもしれません。
ドクタードクター
いい経験をしたね。では他の選択肢を見ていこう。自己導尿はどうだろう。脊髄損傷では神経因性膀胱がほぼ必発だから、清潔間欠自己導尿はとても大事な管理法だよ。
医学生医学生
大事なのは分かりますが、カテーテルを指でつまんで操作する必要があるので、手指が使えないと難しそうです。
ドクタードクター
そうだね。ただ実は、指の筋が使えなくても物をつまむ方法がある。手関節を背屈すると指の屈筋腱が受動的に引っ張られて指が曲がる、テノデーシス作用だ。これを使えばカテーテルを把持できるけれど、それには手関節背屈、つまりC6が必要になる。C5残存では自己導尿は困難で、介助者による導尿などを考えることになる。
医学生医学生
C6が残るかどうかで、自己導尿ができるかが分かれるんですね。ズボンの脱衣やプッシュアップでの移乗はどうでしょう。
ドクタードクター
どちらも鍵は肘の伸展、上腕三頭筋だ。プッシュアップは座位で両手をついて肘を伸ばし、お尻を持ち上げる動作。ズボンの着脱も体を支えたり腰を浮かせたりしながら行うから、やはり肘伸展が重要になる。どちらもおおむねC7残存以降で自立する動作で、C5残存では介助やリフトが必要だ。
医学生医学生
長下肢装具での歩行訓練は、そもそも頸髄損傷では対象外ですよね。
ドクタードクター
その通り。長下肢装具と松葉杖で歩くには、上肢で体重を支える力に加えて、体幹を安定させて骨盤を引き上げる腹筋・背筋が必要になる。対象は胸腰髄損傷で、下部胸髄なら訓練的な歩行、上部腰髄が保たれれば屋内の実用歩行、L3〜L4以下なら大腿四頭筋が働くので短下肢装具で実用歩行が見込める、というのが目安だ。
医学生医学生
整理すると、C5で食事の自助具、C6でテノデーシスによる把持と自己導尿、C7でプッシュアップ移乗と下半身の更衣、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。補足すると、C4残存では横隔膜による自発呼吸は保たれるものの上肢はほぼ使えず、顎で操作する電動車椅子や環境制御装置を使う。C8〜T1まで残れば手指が使えて、車椅子での生活がほぼ自立する。C5でも平地なら工夫したハンドリムで車椅子を漕げるが、屋外では電動車椅子が実用的だ。
医学生医学生
リハビリ以外に、頸髄損傷で気をつける合併症はありますか。
ドクタードクター
たくさんあるよ。特に覚えておきたいのは自律神経過反射だ。T6以上の損傷で、膀胱充満や便秘などの刺激をきっかけに発作性の高血圧と徐脈が起こる。急に頭痛や顔面紅潮を訴えたら、まず導尿や体位変換で原因を取り除くことが大切だ。ほかにも起立性低血圧、体温調節障害、褥瘡、肋間筋や腹筋の麻痺による呼吸機能低下にも注意が必要になる。
医学生医学生
リハビリの目標設定だけでなく、全身管理も含めて残存レベルを意識することが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。残存髄節から「できること」を正確に予測し、できる動作は自助具や装具で最大限引き出し、できない動作は介助や環境調整で補う。それが脊髄損傷リハビリの基本姿勢なんだ。

まとめ

「第6頸髄レベル以下が完全障害」とはC5まで機能が残っている状態であり、三角筋による肩の運動と上腕二頭筋による肘屈曲は可能ですが、手関節背屈(C6)や肘伸展(C7)、手指の運動は使えません。そのため、万能カフなどの自助具やスプリングバランサーを用いた食事動作の訓練が現実的なリハビリ目標となります。テノデーシス作用による把持や自己導尿にはC6、プッシュアップによる移乗や下半身の更衣にはC7が必要で、長下肢装具での歩行訓練は胸腰髄損傷が対象です。頸髄損傷では自律神経過反射や起立性低血圧、呼吸機能低下などの合併症管理も欠かせません。残存髄節ごとに使える筋と可能なADLを対応づけて覚えることは、国家試験だけでなく、患者さんと現実的なゴールを共有する臨床の場面でも大きな力になります。

解答・解説

正解はdです

損傷レベルの読み取り

「第6頸髄(C6)レベル以下の機能が完全に障害されている」とは,C5髄節までの機能が残っている完全損傷(機能残存レベルC5)を意味する。脊髄損傷のリハビリテーションでは,どの髄節まで機能が残っているかによって使える筋と達成可能な日常生活動作〈ADL〉がほぼ決まるため,残存レベルから現実的な目標を設定する。

C5残存で使える主な筋と運動

・三角筋: 肩関節の外転・屈曲(C5) ・上腕二頭筋,腕橈骨筋: 肘関節の屈曲(C5〜C6) 使えない主な運動: 手関節背屈(橈側手根伸筋,C6),肘関節伸展(上腕三頭筋,C7),手指の屈曲・伸展(C7〜C8),手指の巧緻運動(T1),体幹・下肢の運動。

C5残存で可能な動作

肩と肘の屈曲によって手を口元へ運ぶことはできるが,手関節・手指が使えないため物をつかめない。そこで手掌や手背に装着するポケット付きの装具(万能カフなど)にスプーンやフォークを差し込み,必要に応じてスプリングバランサー(上肢を吊り下げて重力を軽減する装置)や手関節を固定する装具を併用すると,食事・整容・パソコン操作などの一部が自立できる。移動は平地なら工夫したハンドリムで車椅子の駆動が可能だが,屋外では電動車椅子が実用的である。移乗・更衣・排泄などは介助が必要となる。

解き方

各選択肢の動作に必要な筋と髄節レベルを考え,C5の機能だけで実現できるかを判定する。手関節背屈(C6)や肘伸展(C7)を要する動作,体幹・下肢機能を要する動作は除外される。

選択肢考察

  1. ×a.  自己導尿の方法を指導する。

    脊髄損傷では神経因性膀胱を伴うことが多く,清潔間欠自己導尿は優れた尿路管理法である。しかし自己導尿にはカテーテルを把持して操作する手の機能が必要である。手指の筋が使えなくても,手関節を背屈すると手指屈筋腱が受動的に緊張して指が曲がる現象(テノデーシス作用)を利用すればカテーテルを把持できるが,そのためには手関節背屈(C6)が必要である。C5残存の本患者では自己導尿は困難であり,介助者による導尿や留置カテーテルなどの方法を検討する。

  2. ×b.  ズボンの脱衣動作法を指導する。

    ズボンの着脱では,体を支えたり腰を浮かせたりしながら下肢や衣服を操作する必要があり,肘関節伸展(上腕三頭筋,C7)が重要となる。下半身の更衣が自立するのはおおむねC7残存以降であり,肘伸展も手関節背屈も使えないC5残存では困難で介助が必要となる。

  3. ×c.  長下肢装具を用いて歩行訓練を行う。

    長下肢装具(膝と足関節を固定する装具)と松葉杖・歩行器を用いた歩行には,上肢で体重を支える力に加え,体幹を安定させ骨盤を引き上げる腹筋群・背筋群の機能が必要である。そのため対象は下部胸髄〜上部腰髄以下の損傷(胸腰髄損傷)であり,実用的な歩行が見込めるのはさらに腰髄レベルが保たれている場合である。頸髄損傷のC5残存で行う訓練ではない。

  4. ○d.  食事動作のための自助具の使用訓練を行う。

    食事動作で手を口へ運ぶには,肩関節の運動(三角筋)と肘関節の屈曲(上腕二頭筋)が必要であり,これらはC5で支配される。手関節・手指は使えないが,ポケット付きの手掌・手背装具(万能カフ)に食具を差し込む,手関節固定装具やスプリングバランサーを併用するなどの自助具・装具を活用すれば食事動作の自立が目指せる。C5残存の患者に対して適切かつ現実的なリハビリテーション目標である。

  5. ×e.  プッシュアップによる車椅子移乗訓練を行う。

    プッシュアップは,座位で両手を座面やアームレストにつき,肘を伸ばして殿部を持ち上げる動作であり,肘関節伸展(上腕三頭筋,C7)が不可欠である。車椅子とベッドなどの間の移乗(側方移乗)や除圧動作に用いられるが,肘を伸ばす力のないC5残存では行えず,移乗には介助やリフトが必要となる。

頸髄損傷の残存レベルと主な機能・ADLの目安

・C4: 横隔膜(C3〜C5支配)による自発呼吸は可能。上肢機能はほぼなく,ADLは全介助。顎や呼気で操作する電動車椅子,環境制御装置を利用する。 ・C5: 肩の運動・肘屈曲が可能。自助具・装具を用いて食事・整容の一部が自立。平地での車椅子駆動は工夫により可能だが,屋外は電動車椅子。 ・C6: 手関節背屈が可能となり,テノデーシス作用で物をつまめる。車椅子駆動が実用的となり,自己導尿(特に男性),上半身の更衣,工夫による移乗の一部が可能になる。改造した自動車の運転も可能な場合がある。 ・C7: 肘伸展が可能となり,プッシュアップによる移乗,下半身の更衣,ベッド上の起き上がりなどが自立し,車椅子でのADLがほぼ自立する。 ・C8〜T1: 手指の屈曲・巧緻動作が加わり,車椅子での生活がほぼ完全に自立する。

胸腰髄損傷と歩行

・下部胸髄レベル: 長下肢装具と松葉杖による訓練的な歩行は可能だが,実生活の移動は車椅子が中心。 ・上部腰髄レベル: 長下肢装具による屋内程度の実用歩行が可能になる。 ・L3〜L4以下: 大腿四頭筋が働くため,短下肢装具などで実用歩行が可能になる。

頸髄損傷のその他の合併症

自律神経過反射(T6以上の損傷で,膀胱充満などを契機に発作性高血圧・徐脈を来す),起立性低血圧,体温調節障害,褥瘡,神経因性膀胱・直腸障害,呼吸機能低下(肋間筋・腹筋麻痺)などに注意する。

POINT

・「C6以下が完全障害」=C5まで機能残存 ・C5: 肩の運動・肘屈曲 → 自助具を用いた食事動作が可能 ・C6: 手関節背屈 → テノデーシス作用で把持,自己導尿が可能 ・C7: 肘伸展 → プッシュアップによる移乗,下半身の更衣が可能 ・長下肢装具での歩行訓練は胸腰髄損傷が対象 ・残存髄節レベルから達成可能なADLを予測し,リハビリ目標を設定する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。