StudyMed医師国家試験

汗は2種類ある―エクリン腺とアポクリン腺を「分布・開口・分泌・神経」で見分ける

第110回医師国家試験 E問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第110回 E問題 第15問

発汗について正しいのはどれか。

  1. a.エクリン汗管は毛嚢に開口する。
  2. b.アポクリン腺は掌蹠に分布する。
  3. c.アポクリン腺は断頭分泌により発汗する。
  4. d.エクリン腺発汗量は性ホルモンにより調節される。
  5. e.エクリン腺による発汗はアドレナリン作動性である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は発汗の基礎知識の問題だ。ヒトの汗腺にはエクリン腺とアポクリン腺の2種類があって、選択肢はどれも両者の特徴を入れ替えたひっかけになっている。分布、導管の開口部、分泌様式、神経支配、性ホルモンとの関係の5つの軸で整理すると迷わないよ。まず、2つの汗腺の一番大きな違いは何だと思う?
医学生医学生
組織学の講義では、エクリン腺は全身にあって、アポクリン腺は腋窩とか特定の場所だけにあると習いました。
ドクタードクター
その通り。エクリン腺はほぼ全身の皮膚に分布していて、特に手掌・足底や前額に密集している。一方のアポクリン腺は腋窩、外陰部、肛囲、乳輪、外耳道などに限られる。では、掌蹠にアポクリン腺があるという記述はどうかな。
医学生医学生
手のひらは緊張すると汗をかくので、アポクリン腺もありそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが誤解しやすいところだね。アポクリン腺は毛包に付属する腺だから、毛のない手掌・足底にはそもそも存在しない。緊張したときに手のひらにかく汗、つまり精神性発汗はエクリン腺によるものなんだ。
医学生医学生
毛包に付属している、ということは導管の開口部も違うんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。アポクリン腺の導管は毛包の、脂腺が開口する部分より上に開く。エクリン腺の導管は毛包とは関係なく、真皮から表皮をらせん状に貫いて皮膚表面に直接開口する。だから「エクリン汗管は毛嚢に開口する」というのは、両者を取り違えた誤りだね。
医学生医学生
では正解は、アポクリン腺が断頭分泌で発汗する、でしょうか。名前からしてそのままな気がします。
ドクタードクター
正解。アポクリン腺では腺細胞の管腔側の細胞質が突出して、その先端がちぎれるように放出される。これが断頭分泌、つまりアポクリン分泌で、腺の名前の由来でもある。分泌物は蛋白質や脂質を含んでやや粘り気があり、本来ほぼ無臭だけれど、皮膚の常在菌に分解されると特有のにおいが生じる。これが腋臭症の原因だ。
医学生医学生
分泌様式には、ほかに漏出分泌と全分泌がありましたよね。CBTの前に必死に覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。エクリン腺は細胞を損なわずに分泌物を出す漏出分泌、皮脂腺は細胞全体が崩壊して分泌物になる全分泌(ホロクリン分泌)だ。3つを対で押さえておこう。次は性ホルモンとの関係。エクリン腺の発汗量は性ホルモンで調節される、という記述は?
医学生医学生
思春期に体臭が強くなるのはアポクリン腺の発達のせいなので、性ホルモンと関係するのはアポクリン腺のほうだと思います。
ドクタードクター
そうだね。アポクリン腺は思春期に性ホルモンの影響で発達して分泌が活発になる。エクリン腺は出生時から働いていて、発汗量は神経性の調節を受ける。体温が上がれば視床下部の体温調節中枢からの指令で温熱性発汗、緊張すれば精神性発汗、辛いものを食べれば顔面に味覚性発汗が起こる。
医学生医学生
最後の、エクリン腺がアドレナリン作動性というのは、交感神経支配だから正しいように見えます。
ドクタードクター
ここが一番のひっかけだ。エクリン腺は確かに交感神経節後線維に支配されているけれど、終末から放出される伝達物質はアセチルコリンで、ムスカリン受容体を介して発汗が起こる。交感神経なのにコリン作動性という、自律神経の重要な例外なんだ。アドレナリン作動性とされるのはアポクリン腺のほうだよ。
医学生医学生
薬理学で、抗コリン薬を使うと汗が出にくくなって体に熱がこもると習ったのは、そういう理由だったんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。抗コリン薬の副作用として発汗低下が起こり、暑い環境ではうつ熱の危険がある。逆に、原発性局所多汗症の治療には抗コリン薬の外用や、アセチルコリンの放出を阻害するボツリヌス毒素の局所注射が使われる。いずれも同じ仕組みの応用だ。
医学生医学生
皮膚科の実習で、腋窩多汗症の患者さんにボツリヌス注射をしているのを見学しました。あれもコリン作動性だから効くんですね。
ドクタードクター
その通り。関連疾患もまとめておこう。エクリン汗管が詰まるとあせも、つまり汗疹になり、アポクリン腺の導管が詰まるとFox-Fordyce病として腋窩などに痒い丘疹が出る。Horner症候群では患側の顔面に無汗がみられることもある。なお、アポクリン腺の分泌様式や神経支配については、開口分泌やコリン作動性の関与を示す研究もあるけれど、国試ではここで整理した標準的な理解で押さえておけば十分だ。

まとめ

ヒトの汗腺には、ほぼ全身(特に手掌・足底)に分布し皮膚表面に直接開口するエクリン腺と、腋窩・外陰部・乳輪・外耳道などに限局し毛包に開口するアポクリン腺があります。アポクリン腺は腺細胞の頂部がちぎれて放出される断頭分泌を行い、思春期に性ホルモンの影響で発達し、分泌物が常在菌に分解されると腋臭の原因になります。エクリン腺は漏出分泌で水分主体の汗を出し、交感神経節後線維に支配されながら伝達物質はアセチルコリンというコリン作動性の例外であり、体温調節や精神性発汗を担います。この仕組みは抗コリン薬による発汗低下やうつ熱、多汗症に対する抗コリン外用薬やボツリヌス毒素治療の理解にも直結します。分布・開口部・分泌様式・神経支配・性ホルモンとの関係という5つの軸で対比して覚えることが、皮膚科と自律神経の知識をつなぐ近道です。

解答・解説

正解はcです

テーマ

ヒトの汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺の2種類があり、両者の「分布部位」「導管の開口部位」「分泌様式」「神経支配と伝達物質」「機能が活発になる時期(性ホルモンとの関係)」の違いを正確に区別できるかが問われている。

正解を導く考え方

・エクリン汗腺:ほぼ全身の皮膚に分布し、特に手掌・足底に密である。導管は毛包とは無関係に表皮を貫き、皮膚表面に直接開口する。水分が主体の汗を出し、体温調節(温熱性発汗)と精神的緊張による発汗(精神性発汗)を担う。支配神経は交感神経節後線維だが、伝達物質はノルアドレナリンではなくアセチルコリンであり、「交感神経なのにコリン作動性」という例外的な存在である。 ・アポクリン汗腺:腋窩・外陰部・肛囲・乳輪・外耳道など特定の部位に限って分布し、導管は毛包(毛嚢)の脂腺開口部より上方に開口する。分泌の際に腺細胞の管腔側の細胞質の一部がちぎれて放出される「断頭分泌」が特徴的とされる。思春期に性ホルモンの影響で発達し、主にアドレナリン作動性の刺激で分泌する。 この整理に照らすと、アポクリン腺が断頭分泌を行うとする記述が正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  エクリン汗管は毛嚢に開口する。

    エクリン汗管は真皮から表皮をらせん状に貫いて、毛包とは独立して皮膚表面に直接開口する(表皮内の導管部分を表皮内汗管という)。毛嚢(毛包)に開口するのはアポクリン汗管であり、記述は両者を取り違えている。

  2. ×b.  アポクリン腺は掌蹠に分布する。

    アポクリン腺は毛包に付属する腺であり、毛のない手掌・足底(掌蹠)には存在しない。分布は腋窩、外陰部、肛囲、乳輪、外耳道(耳垢腺)、眼瞼(Moll腺)などに限られる。掌蹠に高密度に分布するのはエクリン腺で、精神性発汗の主な部位となる。

  3. ○c.  アポクリン腺は断頭分泌により発汗する。

    アポクリン腺では、腺細胞の管腔側の細胞質が突出し、その先端部分が細胞から切り離されて分泌物として放出される。これを断頭分泌(アポクリン分泌)と呼び、腺の名称の由来でもある。分泌物は蛋白質や脂質を含みやや粘稠で、本来はほぼ無臭だが、皮膚の常在菌に分解されることで特有のにおいを生じ、腋臭症の原因となる。なお、エクリン腺は細胞質を失わずに分泌物を放出する漏出分泌(エクリン分泌)、皮脂腺は細胞全体が崩壊して分泌物となる全分泌(ホロクリン分泌)である。

  4. ×d.  エクリン腺発汗量は性ホルモンにより調節される。

    エクリン腺の発汗量は交感神経節後線維による神経性の調節を受けており、体温上昇(視床下部の体温調節中枢からの指令)や精神的緊張、辛い食べ物(味覚性発汗)などに応じて増減する。性ホルモンの影響を強く受けるのはアポクリン腺のほうで、思春期に性ホルモンの作用で発達し分泌が活発になる。

  5. ×e.  エクリン腺による発汗はアドレナリン作動性である。

    エクリン腺は交感神経に支配されるが、節後線維の終末から放出される伝達物質はアセチルコリンであり、ムスカリン受容体を介して発汗が起こるコリン作動性の支配である。交感神経節後線維でありながらコリン作動性であるという点が重要な例外である。このため抗コリン薬の副作用として発汗低下(うつ熱)が起こり、また多汗症の治療に抗コリン薬の外用やボツリヌス毒素(アセチルコリン放出を阻害)が用いられる。アドレナリン作動性とされるのはアポクリン腺である。

エクリン汗腺とアポクリン汗腺の比較

・分布:エクリン=ほぼ全身(口唇・亀頭など一部を除く)、特に手掌・足底・前額に多い/アポクリン=腋窩、外陰部、肛囲、乳輪、外耳道、眼瞼など。 ・開口部:エクリン=皮膚表面に直接開口/アポクリン=毛包の脂腺開口部より上方に開口。 ・分泌様式:エクリン=漏出分泌(エクリン分泌)/アポクリン=断頭分泌(アポクリン分泌)。 ・神経支配:エクリン=交感神経節後線維、コリン作動性(アセチルコリン、ムスカリン受容体)/アポクリン=主にアドレナリン作動性。 ・分泌物:エクリン=水分が大部分で、ナトリウム・塩素などの電解質を含む低張液/アポクリン=蛋白質・脂質を含む粘稠な液。 ・発達:エクリン=出生時から存在/アポクリン=思春期に性ホルモンの影響で発達。 ・主な働き:エクリン=体温調節(温熱性発汗)、精神性発汗/アポクリン=体臭(においによる信号)に関与。

分泌様式の3型

漏出分泌(メロクリン、エクリン分泌):細胞を損なわず開口分泌で放出(エクリン汗腺、唾液腺など)。 断頭分泌(アポクリン分泌):細胞の頂部がちぎれて放出(アポクリン汗腺、乳腺の脂質分泌)。 全分泌(ホロクリン分泌):細胞全体が崩壊して分泌物となる(皮脂腺)。

発汗の種類

・温熱性発汗:体温上昇時に手掌・足底を除く全身に生じ、体温調節に働く。 ・精神性発汗:緊張・興奮などで手掌・足底・腋窩に生じる。 ・味覚性発汗:辛いものなどを食べたときに顔面に生じる。

関連疾患

腋臭症(アポクリン腺の分泌物が細菌で分解されて生じるにおい)、原発性局所多汗症(手掌・腋窩などのエクリン腺の過剰発汗)、Fox-Fordyce病(アポクリン腺の導管閉塞による腋窩などの丘疹)、汗疹(あせも:エクリン汗管の閉塞)、無汗症(Horner症候群の患側、自律神経障害、抗コリン薬など)。

POINT

・エクリン腺:全身(特に掌蹠)、皮膚表面に直接開口、漏出分泌、交感神経支配だがコリン作動性、体温調節と精神性発汗。 ・アポクリン腺:腋窩・外陰部・肛囲・乳輪・外耳道など、毛包に開口、断頭分泌、アドレナリン作動性、思春期に性ホルモンで発達、腋臭の原因。 ・皮脂腺は全分泌(ホロクリン分泌)。 ・交感神経節後線維でコリン作動性の例外がエクリン汗腺。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。