転んでから3か月、夜も痛む肩―MRIで見抜く「黒い腱の途切れ」
第110回医師国家試験 E問題 第12問
国試問題にチャレンジ
3か月前に転倒し左肩を打撲後,左肩運動時痛と夜間痛が持続している72歳の男性。この男性の左肩関節MRIのT2強調冠状断像を別に示す。 診断として最も疑われるのはどれか。

- a.腱板断裂
- b.Bankart損傷
- c.上腕骨骨嚢腫
- d.肩関節後方脱臼
- e.肩関節ガングリオン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高齢者が転倒などの外傷後に肩の運動時痛・夜間痛を長く訴える場合は、腱板断裂、特に棘上筋腱の断裂をまず考えます。MRIのT2強調冠状断像では、正常なら低信号で連続する腱板が途絶し、関節液を示す高信号に置き換わっていることが診断の決め手です。Bankart損傷は若年者の前方脱臼に伴う関節唇損傷、骨嚢腫は若年者の骨内病変、後方脱臼は骨頭の偏位、ガングリオンは限局した嚢胞性腫瘤であり、所見の部位と性状から区別できます。臨床では自動挙上困難でも他動挙上が可能な点やdrop arm signが五十肩との鑑別に役立ち、治療は保存療法を基本に、症例に応じて鏡視下修復術を検討します。病歴から疾患を想定し、画像で「本来あるべき構造の連続性」を確認する読影の姿勢は、運動器疾患全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
72歳の高齢男性が、転倒による左肩打撲を契機に、3か月にわたり肩を動かしたときの痛み(運動時痛)と夜間痛を訴えている。高齢・外傷の既往・運動時痛・夜間痛という組み合わせは、肩の痛みを生じる疾患の中でも腱板断裂を強く示唆する典型的な病歴である。
画像の読み方
肩関節MRIのT2強調冠状断像は、棘上筋とその腱が上腕骨頭の上方を走り、大結節に付着する様子を一枚で観察できる断面である。正常の腱板(腱)はT2強調像で低信号(黒く)に連続して描出される。本例では、肩峰と上腕骨頭の間(肩峰下・肩峰上腕間隙)にあるはずの低信号の腱板が途絶・欠損し、その部位に関節液を反映するT2高信号(白く光る)領域が認められる。すなわち、腱の連続性が失われ、断裂部を通って関節液が貯留・交通している所見であり、腱板断裂と判断できる。
考え方
高齢者の腱板は加齢に伴う変性で脆弱になっており、転倒などの比較的軽い外力でも断裂しやすい。病歴から腱板断裂を想定し、MRIで腱の連続性の途絶と液体信号を確認すれば診断は確定的である。骨病変(嚢胞)、脱臼、関節唇損傷、嚢胞性腫瘤などを示す所見がないことを確認して他の選択肢を除外する。
選択肢考察
- ○a. 腱板断裂
高齢者が転倒後に肩の運動時痛と夜間痛を長期間訴えているという病歴は腱板断裂に典型的である。T2強調冠状断像で、上腕骨頭上方を走る棘上筋腱の低信号が途絶し、そこに関節液を示す高信号が入り込んでいる。腱板の連続性の消失と液体貯留を示しており、腱板断裂(主に棘上筋腱の断裂)と診断できる。
- ×b. Bankart損傷
Bankart損傷は肩関節前方脱臼に伴い、関節窩前下方の関節唇(および下関節上腕靱帯)が関節窩縁から剝がれる損傷である。若年者の反復性肩関節脱臼の主な原因となる。本例には脱臼の既往や不安定感の記載がなく、画像でも関節唇ではなく腱板の異常が主体であるため該当しない。
- ×c. 上腕骨骨嚢腫
単発性骨嚢腫は主に小児・若年者の長管骨骨幹端(上腕骨近位や大腿骨近位)に好発する、内部に液体を含む良性の骨病変で、病的骨折を契機に見つかることが多い。MRIでは骨内にT2高信号の嚢胞性病変として描出されるが、本例の異常信号は骨内ではなく骨頭上方の軟部組織(腱板部)にあり、年齢的にも合わない。
- ×d. 肩関節後方脱臼
肩関節後方脱臼は肩関節脱臼の中では少なく、てんかん発作や感電など強い筋収縮で生じることが多い。上腕骨頭が関節窩の後方に偏位し、肩の内旋位固定と外旋制限を示す。本例の冠状断像では骨頭と関節窩の位置関係は保たれており、脱臼の所見はない。
- ×e. 肩関節ガングリオン
肩関節周囲のガングリオン(関節唇周囲嚢胞)は、関節唇損傷などに伴って関節周囲に生じる粘液を含んだ嚢胞性腫瘤で、肩甲上切痕や棘窩切痕に生じると肩甲上神経を圧迫し棘下筋などの萎縮を来すことがある。MRIでは境界明瞭なT2高信号の腫瘤として描出されるが、本例では限局した嚢胞性腫瘤ではなく腱板の途絶と液体貯留がみられるため否定的である。
腱板(回旋筋腱板、rotator cuff)
棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4つの筋の腱が上腕骨頭を包むように付着したもので、骨頭を関節窩に引き付けて安定させる。棘上筋・棘下筋・小円筋は大結節に、肩甲下筋は小結節に付着する。このうち肩峰の下を通る棘上筋腱は肩峰や烏口肩峰靱帯と擦れやすく、断裂の好発部位である。
腱板断裂の特徴
・好発:40歳以降の中高年、特に高齢者。加齢による腱の変性が基盤にあり、転倒などの軽微な外傷や、明らかな外傷なく生じることもある。無症候性の断裂も少なくない。 ・症状:運動時痛(特に挙上時)、夜間痛、挙上困難・筋力低下。他動的には挙上できるのに自力では挙上しにくい点が、拘縮を伴う肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)との鑑別に役立つ。 ・身体所見:有痛弧徴候(painful arc sign:外転60〜120°付近で痛み)、drop arm sign(他動的に外転させた腕を保持できず落ちる)、棘上筋テスト、インピンジメント徴候など。 ・画像:単純X線では異常がないことも多いが、進行すると肩峰骨頭間距離の狭小化を認める。MRIでは腱の途絶とT2高信号(液体)、関節造影では肩峰下滑液包への造影剤漏出、超音波でも腱の欠損を評価できる。 ・治療:まず安静・消炎鎮痛薬・ステロイドや関節内注射・リハビリテーションなどの保存療法を行い、改善しない例や若年・活動性の高い例、外傷性の大きな断裂では鏡視下腱板修復術を考慮する。修復不能な広範囲断裂ではリバース型人工肩関節置換術などが選択される。
肩の運動時痛・夜間痛の鑑別
肩関節周囲炎(五十肩)、石灰沈着性腱板炎(急激な激痛で発症することが多い)、腱板断裂、インピンジメント症候群などが挙がる。
POINT
・高齢者+転倒などの外傷後の肩の運動時痛・夜間痛・挙上困難 → 腱板断裂を疑う。 ・断裂の好発部位は棘上筋腱。 ・MRI T2強調冠状断像で、正常では低信号の腱板が途絶し、関節液の高信号に置き換わっていれば腱板断裂。 ・Bankart損傷は前方脱臼に伴う関節窩前下方の関節唇損傷で、若年者の反復性脱臼の原因。 ・自動挙上困難でも他動挙上が可能なら腱板断裂、他動でも制限されれば拘縮(肩関節周囲炎)を考える。
