その目薬、喘息を起こしませんか?―既往歴で決まる緑内障点眼薬の選び方
第110回医師国家試験 D問題 第37問
国試問題にチャレンジ
58歳の男性。左眼の視野狭窄を主訴に来院した。喘息と閉塞性動脈硬化症に対し内服治療中である。視力は右0.1(1.2×−3.5 D),左0.1(0.9×−4.5 D)。眼圧は右24 mmHg,左29 mmHg。角膜は両眼とも清明で平滑である。前房は深く,清明である。両眼の眼底写真(A)と視野検査の結果(B)とを別に示す。 治療として適切な点眼薬はどれか。

- a.縮瞳薬
- b.抗菌薬
- c.β遮断薬
- d.副腎皮質ステロイド
- e.プロスタグランディン関連薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高眼圧に深い前房、視神経乳頭陥凹の拡大、弓状暗点や鼻側階段といった神経線維束に沿う視野障害がそろえば、原発開放隅角緑内障と診断できます。治療で有効性が確立しているのは眼圧下降であり、点眼薬の第一選択はぶどう膜強膜流出を促進し、1日1回で全身副作用の少ないプロスタグランディン関連薬です。β遮断薬も有力な選択肢ですが、点眼でも鼻涙管から全身に吸収されるため気管支喘息には禁忌で、徐脈や末梢循環への影響にも注意が必要です。縮瞳薬は主に閉塞隅角緑内障に用い、副腎皮質ステロイドはむしろ眼圧を上げうることも押さえておきましょう。点眼薬であっても全身疾患との相性を考えるという視点は、眼科に限らずあらゆる処方の安全性につながります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・58歳男性。左眼の視野狭窄を自覚して受診した。既往に気管支喘息と閉塞性動脈硬化症があり、内服治療中である。 ・矯正視力は右1.2、左0.9で、中心視力は比較的保たれている(裸眼視力の低下は近視による)。 ・眼圧は右24 mmHg、左29 mmHgで、両眼とも正常上限(およそ21 mmHg)を超える高眼圧である。 ・角膜は清明で、前房は深い。急性緑内障発作でみられる角膜浮腫や浅前房はなく、隅角閉塞を示す所見もない。 ・眼底写真(A):両眼で視神経乳頭陥凹が拡大し、陥凹乳頭径比(C/D比:cup-to-disc ratio)が大きくなっている。乳頭辺縁部(リム)が菲薄化した緑内障性視神経症の所見である。 ・視野検査(B):右眼に傍中心暗点〜弓状暗点、左眼には鼻側階段を伴うより広い視野欠損がみられ、神経線維束の走行に沿った緑内障性視野障害である。左眼のほうが進行している。
診断
高眼圧、深く開いた前房、緑内障性視神経乳頭陥凹、それに対応する視野障害が両眼にそろっており、両眼の原発開放隅角緑内障(左眼優位)と診断できる。
治療の考え方
緑内障治療で有効性が確立しているのは眼圧下降のみであり、まず点眼薬で眼圧を下げる。点眼薬の第一選択は、眼圧下降効果が強く1日1回の点眼で済み、全身への副作用が少ないプロスタグランディン関連薬である。β遮断薬も第一選択となりうる薬剤だが、点眼でも鼻涙管から鼻粘膜を経て全身に吸収され、気管支喘息では発作を誘発するため禁忌である。本例は喘息の既往があるため、β遮断薬を避けてプロスタグランディン関連薬を選ぶ。既往歴の情報が薬剤選択に関わる問題である。
選択肢考察
- ×a. 縮瞳薬
縮瞳薬(ピロカルピンなどの副交感神経作動薬)は瞳孔括約筋を収縮させて縮瞳させ、虹彩による隅角閉塞を解除するため、主に閉塞隅角緑内障(急性発作を含む)に用いられる。同時に毛様体筋も収縮させて線維柱帯を広げ、主経路からの房水流出を促すため開放隅角緑内障にも眼圧下降効果はあるが、点眼回数が多く、暗黒感(暗く見える)、調節けいれんによる近視化、頭痛などの副作用があり、現在は第一選択にならない。さらにムスカリン受容体刺激は気管支を収縮させうるため、喘息患者では注意が必要である。
- ×b. 抗菌薬
抗菌点眼薬は細菌性結膜炎・角膜炎などの感染症に用いる。本例は角膜が清明で前房も清明であり、眼脂や充血など感染を示す所見はない。緑内障は感染症ではないため、抗菌薬は治療にならない。
- ×c. β遮断薬
β遮断薬(チモロールなど)は毛様体での房水産生を抑えて眼圧を下げ、開放隅角緑内障の第一選択薬の一つである。しかし点眼薬でも全身に吸収され、β2受容体遮断による気管支収縮で喘息発作を誘発するおそれがあるため、気管支喘息のある患者には禁忌である。また徐脈・房室ブロックなどの心臓への影響や、末梢循環障害の悪化にも注意が必要であり、閉塞性動脈硬化症を合併する本例ではその点からも好ましくない。
- ×d. 副腎皮質ステロイド
副腎皮質ステロイド点眼はぶどう膜炎、アレルギー性結膜炎、術後の炎症などに用いるが、緑内障の治療にはならない。むしろ線維柱帯での房水流出抵抗を増やして眼圧を上昇させることがあり(ステロイド緑内障)、本例に用いると緑内障を悪化させる。
- ○e. プロスタグランディン関連薬
プロスタグランディン関連薬(ラタノプロストなどのFP受容体作動薬)は主にぶどう膜強膜流出路(副経路)からの房水流出を促進し、強い眼圧下降効果を示す。1日1回の点眼でよく、気管支や心血管系への全身的な影響がほとんどないため、喘息や閉塞性動脈硬化症を合併する本例でも安全に使える。開放隅角緑内障の点眼治療の第一選択である。局所の副作用として結膜充血、睫毛の伸長、虹彩・眼瞼の色素沈着、上眼瞼溝の深化などがある。
房水の流れと眼圧
房水は毛様体上皮で産生され、後房から瞳孔を通って前房に入り、隅角から眼外へ出る。流出路には、線維柱帯→Schlemm管→房水静脈へ向かう主経路(線維柱帯流出路)と、毛様体筋の間を通って脈絡膜上腔へ抜ける副経路(ぶどう膜強膜流出路)がある。眼圧は房水の産生と流出のバランスで決まる。
主な緑内障治療薬と作用
・プロスタグランディン関連薬(ラタノプロスト、タフルプロストなど):ぶどう膜強膜流出促進。第一選択。 ・β遮断薬(チモロール、カルテオロールなど):房水産生抑制。喘息・高度の徐脈・房室ブロック・コントロール不良の心不全には禁忌。 ・炭酸脱水酵素阻害薬(点眼:ドルゾラミド、ブリンゾラミド/内服・静注:アセタゾラミド):房水産生抑制。 ・α2作動薬(ブリモニジン):房水産生抑制と流出促進。 ・ROCK阻害薬(リパスジル):線維柱帯流出促進。 ・副交感神経作動薬(ピロカルピン):縮瞳と線維柱帯流出促進。主に閉塞隅角緑内障。 ・高浸透圧薬(D-マンニトール静注など):硝子体容積を減らして眼圧を急速に下げる。急性緑内障発作に用いる。
緑内障の病型と治療の要点
・原発開放隅角緑内障(広義、正常眼圧緑内障を含む):日本で最も多い病型。自覚症状に乏しく、視野障害はBjerrum領域の傍中心暗点・弓状暗点や鼻側階段から始まり、進行すると視野の中心部と耳側だけが残る。治療は点眼薬から始め、効果不十分なら複数薬剤の併用、レーザー線維柱帯形成術、線維柱帯切除術などの手術を検討する。 ・原発閉塞隅角緑内障:浅前房・狭隅角が背景。急性発作では眼痛、頭痛、悪心・嘔吐、充血、角膜浮腫、中等度散瞳がみられ、縮瞳薬・高浸透圧薬などで眼圧を下げたうえでレーザー虹彩切開術や水晶体再建術を行う。 ・ステロイド緑内障:副腎皮質ステロイドの局所・全身投与で眼圧が上がるもの。
点眼薬の全身吸収
点眼薬は鼻涙管を通って鼻粘膜から吸収され、肝臓での初回通過効果を受けずに全身に届く。そのため点眼のβ遮断薬でも喘息発作や徐脈が起こりうる。点眼後に涙嚢部(目頭)を押さえ、しばらく目を閉じると全身への吸収を減らせる。
POINT
・高眼圧+深い前房+視神経乳頭陥凹拡大+弓状暗点・鼻側階段→原発開放隅角緑内障。 ・開放隅角緑内障の点眼治療の第一選択はプロスタグランディン関連薬(ぶどう膜強膜流出促進、1日1回、全身副作用が少ない)。 ・β遮断薬点眼は気管支喘息に禁忌(点眼でも全身吸収される)。 ・副腎皮質ステロイドは眼圧を上昇させうる(ステロイド緑内障)。 ・縮瞳薬は主に閉塞隅角緑内障に用いる。
