左葉を切り取ったら何が見える?―カントリー線と中肝静脈が教える「機能的な肝臓の地図」
第110回医師国家試験 D問題 第11問
国試問題にチャレンジ
肝左葉切除で肝切離面に露出する静脈はどれか。
- a.右肝静脈
- b.中肝静脈
- c.左肝静脈
- d.下大静脈
- e.短肝静脈
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
外科で用いる機能的な肝の左右区分は、肝鎌状間膜ではなく胆嚢窩と下大静脈を結ぶカントリー線であり、この面に沿って中肝静脈が走ります。グリソン鞘(門脈・肝動脈・胆管)は区域の中心を、肝静脈は区域の境界を走るという原則から、左葉切除(S2〜S4)の切離面には中肝静脈が露出し、左肝静脈は根部で処理されて切除側に含まれます。右肝静脈は前区域と後区域の境界を走り後区域切除などで露出し、短肝静脈は主に尾状葉から下大静脈へ直接注ぐため、バッド・キアリ症候群で尾状葉が腫大する理由にもなります。「肝静脈=区域の境界線」という視点を持つと、各術式の切離面やCT上の区域同定を一貫して理解できます。
解答・解説
正解はbです
肝臓の外科的な「左葉」「右葉」は、表面から見える肝鎌状間膜で分ける解剖学的な左右とは異なり、肝内の脈管(門脈・肝動脈・胆管=グリソン鞘)の支配領域で分ける機能的な区分である。機能的な左右の境界は、胆嚢窩と下大静脈を結ぶ線(カントリー線、Rex-Cantlie線)であり、この面に沿って中肝静脈が走っている。 肝静脈は門脈枝とは互い違いに配置され、各区域(グリソン鞘の支配域)の「間」を走って区域の境界の目印となるのが原則である。すなわち、 ・右肝静脈:右葉の前区域と後区域の間 ・中肝静脈:左葉(内側区域)と右葉(前区域)の間=カントリー線 ・左肝静脈:左葉の外側区域を主に灌流 である。 肝左葉切除(S2+S3+S4の切除)では、カントリー線に沿って肝実質を切離するため、その面を走る中肝静脈が切離面に露出する。通常は中肝静脈を目印として温存しつつ切離を進め、左肝静脈は根部で切離して切除側に含める。したがって答えは中肝静脈である。
選択肢考察
- ×a. 右肝静脈
右肝静脈は機能的右葉のなかで前区域(S5・S8)と後区域(S6・S7)の境界を走り、下大静脈の右側に流入する。これが切離面に露出するのは前区域と後区域を分ける切除(右葉内の区域切除など)であり、左葉切除の切離面からは離れている。
- ○b. 中肝静脈
中肝静脈は機能的左葉と右葉の境界であるカントリー線(胆嚢窩と下大静脈を結ぶ面)に沿って走り、内側区域(S4)と前区域(S5・S8)の間を通って下大静脈に注ぐ。肝左葉切除はこの面で肝を切り分けるため、中肝静脈が切離面に露出する。術中は中肝静脈の走行を確認し、それに沿って切離することが正確な切除面を得る手がかりとなる。
- ×c. 左肝静脈
左肝静脈は主に外側区域(S2・S3)の血液を集めて下大静脈に注ぐ静脈で、多くは中肝静脈と共通幹を形成して流入する。左葉切除では切除範囲(S2〜S4)の内部にあるため根部で結紮・切離して切除側に含めることになり、残肝の切離面に露出する静脈ではない。外側区域切除(S2+S3)の際に処理の対象となる静脈である。
- ×d. 下大静脈
下大静脈は肝臓の背面(後上面)に半ば埋もれるように縦走し、右・中・左肝静脈および短肝静脈を受け入れる。肝実質内を区域の境界に沿って走る静脈ではないため、左葉切除の肝切離面に露出するものではない。尾状葉切除や肝の背面を剝離する操作で問題となる。
- ×e. 短肝静脈
短肝静脈は右・中・左の3本の主肝静脈とは別に、肝臓の背面から下大静脈へ直接注ぐ複数の細い静脈であり、特に尾状葉(S1)から出るものが多い。肝背面と下大静脈の間に存在するため、肝を下大静脈から剝離する際や尾状葉切除で処理されるが、左葉切除の切離面に露出する静脈ではない。
クイノー(Couinaud)の肝区域分類
肝臓は門脈の分岐に基づき8つの亜区域(S1〜S8)に分けられる。 ・S1:尾状葉 ・左葉:外側区域(S2:外側後上、S3:外側前下)、内側区域(S4) ・右葉:前区域(S5:前下、S8:前上)、後区域(S6:後下、S7:後上) 日本の原発性肝癌取扱い規約ではこれを、尾状葉・外側区域・内側区域・前区域・後区域の5つの「区域」としてまとめている。
肝静脈と境界の関係
・門脈・肝動脈・胆管はグリソン鞘に包まれて区域の「中心」を走り、肝静脈は区域の「境界」を走る。 ・右肝静脈:前区域と後区域の境界(右区域間裂) ・中肝静脈:機能的左葉と右葉の境界(主門脈裂、カントリー線)。主にS4とS5・S8の一部の血液を受ける。 ・左肝静脈:主に外側区域を灌流する。内側区域と外側区域の境界は臍静脈裂(肝円索・肝鎌状間膜の付着部付近)である。 ・短肝静脈:主に尾状葉から下大静脈へ直接流入する。このため、肝静脈流出路が閉塞するバッド・キアリ症候群では尾状葉の還流が保たれて尾状葉が腫大する。
代表的な肝切除術と切離面に露出する静脈
・左葉切除(S2+S3+S4):中肝静脈 ・右葉切除(S5〜S8):中肝静脈 ・前区域切除(S5+S8):中肝静脈と右肝静脈 ・後区域切除(S6+S7):右肝静脈 ・外側区域切除(S2+S3):臍静脈裂に沿って切離し、左肝静脈を根部で処理する
POINT
・機能的な左葉と右葉の境界はカントリー線(胆嚢窩と下大静脈を結ぶ線)であり、そこを中肝静脈が走る。 ・肝静脈は区域の境界を、グリソン鞘(門脈・肝動脈・胆管)は区域の中心を走る。 ・右肝静脈は前区域と後区域の間、左肝静脈は主に外側区域を灌流する。 ・肝左葉切除・右葉切除では、いずれも中肝静脈が切離面に露出する。 ・短肝静脈は尾状葉などから下大静脈に直接注ぐ。
