StudyMed医師国家試験

左葉を切り取ったら何が見える?―カントリー線と中肝静脈が教える「機能的な肝臓の地図」

第110回医師国家試験 D問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第110回 D問題 第11問

肝左葉切除で肝切離面に露出する静脈はどれか。

  1. a.右肝静脈
  2. b.中肝静脈
  3. c.左肝静脈
  4. d.下大静脈
  5. e.短肝静脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は肝切除の手術解剖の問題だ。ポイントは「外科でいう左葉・右葉はどこで分かれるのか」と「肝静脈は区域のどこを走るのか」の2つ。この2つがわかれば、切離面に何が見えるかは自然に決まるよ。
医学生医学生
左葉と右葉なら、解剖実習で見た肝鎌状間膜が境界だと思っていました。
ドクタードクター
それは表面から見た解剖学的な区分だね。外科では、門脈・肝動脈・胆管を包むグリソン鞘がどこを支配しているかで分ける機能的な区分を使う。機能的な左右の境界は、胆嚢窩と下大静脈を結ぶ面、いわゆるカントリー線(Rex-Cantlie線)なんだ。
医学生医学生
肝鎌状間膜よりかなり右寄りになるんですね。じゃあ、内側区域は機能的には左葉に入るということですか。
ドクタードクター
その通り。クイノー分類でいうと、左葉は外側区域のS2・S3と内側区域のS4、右葉は前区域のS5・S8と後区域のS6・S7、そして尾状葉がS1だ。肝左葉切除はS2からS4までを切除することになる。
医学生医学生
カントリー線に沿って切るとして、そこに静脈が走っているんでしょうか。
ドクタードクター
いい質問だ。ここで大原則を覚えてほしい。グリソン鞘は区域の「中心」を走り、肝静脈は区域と区域の「境界」を走る。つまり両者は互い違いに配置されているんだ。だから肝静脈は区域の境界を知る目印になる。
医学生医学生
境界を走るなら、カントリー線を走る肝静脈が切離面に出てくる……中肝静脈ですか。
ドクタードクター
正解。中肝静脈は内側区域と前区域の間、つまり機能的な左右の境界を走って下大静脈に注ぐ。左葉切除ではこの面で肝実質を切り分けるから、中肝静脈が切離面に露出する。術中は中肝静脈を目印に、それを温存しながら切離を進めるのが一般的だ。
医学生医学生
右肝静脈はどこを走っていましたっけ。
ドクタードクター
右肝静脈は右葉の中で、前区域と後区域の境界を走る。だから右肝静脈が切離面に出るのは後区域切除や前区域切除のときで、左葉切除の切離面からは離れているよ。
医学生医学生
左肝静脈は左葉の中にあるので、むしろ切除される側に含まれるイメージでしょうか。
ドクタードクター
まさにそう。左肝静脈は主に外側区域の血液を集め、多くは中肝静脈と共通幹をつくって下大静脈に入る。左葉切除では根部で結紮・切離して切除側に含めるから、残る肝臓の切離面には出てこない。ちなみに内側区域と外側区域の境界は臍静脈裂、肝円索が付着するあたりだ。
医学生医学生
下大静脈と短肝静脈は、肝臓の背中側の血管ですよね。
ドクタードクター
そうだね。下大静脈は肝の背面に半分埋まるように縦に走り、区域の境界に沿って肝実質の中を走るわけではない。短肝静脈は主肝静脈とは別に、主に尾状葉から下大静脈へ直接注ぐ細い静脈群で、肝を下大静脈から剝がすときや尾状葉切除で処理するものだ。どちらも左葉切除の切離面に露出するものではないよ。
医学生医学生
整理すると、左葉切除で中肝静脈、後区域切除なら右肝静脈、前区域切除なら中肝静脈と右肝静脈の両方が切離面に出る、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。ついでに右葉切除でも、切離面はやはりカントリー線だから中肝静脈が露出する。肝静脈を「区域の境界線」として捉えておけば、どんな術式でも応用が利くよ。
医学生医学生
短肝静脈で思い出したのですが、消化器内科の講義でバッド・キアリ症候群では尾状葉が腫れると習いました。
ドクタードクター
よくつながったね。主肝静脈の流出路が閉塞しても、尾状葉は短肝静脈から下大静脈へ直接流れ出られるので還流が保たれ、代償的に腫大する。肝静脈の解剖は、手術だけでなく画像診断や病態の理解にも直結するんだ。

まとめ

外科で用いる機能的な肝の左右区分は、肝鎌状間膜ではなく胆嚢窩と下大静脈を結ぶカントリー線であり、この面に沿って中肝静脈が走ります。グリソン鞘(門脈・肝動脈・胆管)は区域の中心を、肝静脈は区域の境界を走るという原則から、左葉切除(S2〜S4)の切離面には中肝静脈が露出し、左肝静脈は根部で処理されて切除側に含まれます。右肝静脈は前区域と後区域の境界を走り後区域切除などで露出し、短肝静脈は主に尾状葉から下大静脈へ直接注ぐため、バッド・キアリ症候群で尾状葉が腫大する理由にもなります。「肝静脈=区域の境界線」という視点を持つと、各術式の切離面やCT上の区域同定を一貫して理解できます。

解答・解説

正解はbです

肝臓の外科的な「左葉」「右葉」は、表面から見える肝鎌状間膜で分ける解剖学的な左右とは異なり、肝内の脈管(門脈・肝動脈・胆管=グリソン鞘)の支配領域で分ける機能的な区分である。機能的な左右の境界は、胆嚢窩と下大静脈を結ぶ線(カントリー線、Rex-Cantlie線)であり、この面に沿って中肝静脈が走っている。 肝静脈は門脈枝とは互い違いに配置され、各区域(グリソン鞘の支配域)の「間」を走って区域の境界の目印となるのが原則である。すなわち、 ・右肝静脈:右葉の前区域と後区域の間 ・中肝静脈:左葉(内側区域)と右葉(前区域)の間=カントリー線 ・左肝静脈:左葉の外側区域を主に灌流 である。 肝左葉切除(S2+S3+S4の切除)では、カントリー線に沿って肝実質を切離するため、その面を走る中肝静脈が切離面に露出する。通常は中肝静脈を目印として温存しつつ切離を進め、左肝静脈は根部で切離して切除側に含める。したがって答えは中肝静脈である。

選択肢考察

  1. ×a.  右肝静脈

    右肝静脈は機能的右葉のなかで前区域(S5・S8)と後区域(S6・S7)の境界を走り、下大静脈の右側に流入する。これが切離面に露出するのは前区域と後区域を分ける切除(右葉内の区域切除など)であり、左葉切除の切離面からは離れている。

  2. ○b.  中肝静脈

    中肝静脈は機能的左葉と右葉の境界であるカントリー線(胆嚢窩と下大静脈を結ぶ面)に沿って走り、内側区域(S4)と前区域(S5・S8)の間を通って下大静脈に注ぐ。肝左葉切除はこの面で肝を切り分けるため、中肝静脈が切離面に露出する。術中は中肝静脈の走行を確認し、それに沿って切離することが正確な切除面を得る手がかりとなる。

  3. ×c.  左肝静脈

    左肝静脈は主に外側区域(S2・S3)の血液を集めて下大静脈に注ぐ静脈で、多くは中肝静脈と共通幹を形成して流入する。左葉切除では切除範囲(S2〜S4)の内部にあるため根部で結紮・切離して切除側に含めることになり、残肝の切離面に露出する静脈ではない。外側区域切除(S2+S3)の際に処理の対象となる静脈である。

  4. ×d.  下大静脈

    下大静脈は肝臓の背面(後上面)に半ば埋もれるように縦走し、右・中・左肝静脈および短肝静脈を受け入れる。肝実質内を区域の境界に沿って走る静脈ではないため、左葉切除の肝切離面に露出するものではない。尾状葉切除や肝の背面を剝離する操作で問題となる。

  5. ×e.  短肝静脈

    短肝静脈は右・中・左の3本の主肝静脈とは別に、肝臓の背面から下大静脈へ直接注ぐ複数の細い静脈であり、特に尾状葉(S1)から出るものが多い。肝背面と下大静脈の間に存在するため、肝を下大静脈から剝離する際や尾状葉切除で処理されるが、左葉切除の切離面に露出する静脈ではない。

クイノー(Couinaud)の肝区域分類

肝臓は門脈の分岐に基づき8つの亜区域(S1〜S8)に分けられる。 ・S1:尾状葉 ・左葉:外側区域(S2:外側後上、S3:外側前下)、内側区域(S4) ・右葉:前区域(S5:前下、S8:前上)、後区域(S6:後下、S7:後上) 日本の原発性肝癌取扱い規約ではこれを、尾状葉・外側区域・内側区域・前区域・後区域の5つの「区域」としてまとめている。

肝静脈と境界の関係

・門脈・肝動脈・胆管はグリソン鞘に包まれて区域の「中心」を走り、肝静脈は区域の「境界」を走る。 ・右肝静脈:前区域と後区域の境界(右区域間裂) ・中肝静脈:機能的左葉と右葉の境界(主門脈裂、カントリー線)。主にS4とS5・S8の一部の血液を受ける。 ・左肝静脈:主に外側区域を灌流する。内側区域と外側区域の境界は臍静脈裂(肝円索・肝鎌状間膜の付着部付近)である。 ・短肝静脈:主に尾状葉から下大静脈へ直接流入する。このため、肝静脈流出路が閉塞するバッド・キアリ症候群では尾状葉の還流が保たれて尾状葉が腫大する。

代表的な肝切除術と切離面に露出する静脈

・左葉切除(S2+S3+S4):中肝静脈 ・右葉切除(S5〜S8):中肝静脈 ・前区域切除(S5+S8):中肝静脈と右肝静脈 ・後区域切除(S6+S7):右肝静脈 ・外側区域切除(S2+S3):臍静脈裂に沿って切離し、左肝静脈を根部で処理する

POINT

・機能的な左葉と右葉の境界はカントリー線(胆嚢窩と下大静脈を結ぶ線)であり、そこを中肝静脈が走る。 ・肝静脈は区域の境界を、グリソン鞘(門脈・肝動脈・胆管)は区域の中心を走る。 ・右肝静脈は前区域と後区域の間、左肝静脈は主に外側区域を灌流する。 ・肝左葉切除・右葉切除では、いずれも中肝静脈が切離面に露出する。 ・短肝静脈は尾状葉などから下大静脈に直接注ぐ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。