足りない酸素をどう補う?―貧血で「徐脈」がありえない理由
第110回医師国家試験 C問題 第8問
国試問題にチャレンジ
貧血の症候として誤っているのはどれか。
- a.徐脈
- b.めまい
- c.易疲労感
- d.皮膚蒼白
- e.労作時息切れ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
貧血はHb濃度の低下により血液の酸素運搬能が落ちた状態で、その症候は「組織の酸素不足による症状」と「代償反応による症状」に分けて理解できます。酸素不足では易疲労感・倦怠感やめまい・頭痛が、代償反応では心拍出量増加による頻脈・動悸、労作時息切れ、皮膚・眼瞼結膜蒼白、収縮期駆出性雑音が生じるため、徐脈は貧血の症候として誤りです。慢性に進行した貧血では2,3-BPG増加などの代償によって症状が乏しいことがある一方、急性出血では軽度のHb低下でも症状が強く出ます。さらにさじ状爪、Hunter舌炎、黄疸などの特徴的症候は原因検索の手がかりになります。症状をメカニズムから理解しておくことは、身体診察で貧血に気づき、その背景疾患を見抜く力の土台となります。
解答・解説
正解はaです
貧血でみられる症候のうち、誤っているもの(貧血ではみられないもの)を選ぶ問題である。
貧血の症候が生じる仕組み
貧血とは血液中のヘモグロビン(Hb)濃度が低下した状態であり、血液の酸素運搬能が低下する。その結果として生じる症候は、大きく次の2群に分けて考えると整理しやすい。 1. 組織の酸素不足による症状:全身倦怠感・易疲労感(骨格筋)、めまい・立ちくらみ・頭痛・耳鳴・集中力低下(脳) 2. 酸素不足を補う代償反応による症状:心拍数と1回拍出量を増やして心拍出量を増加させるため、頻脈・動悸、収縮期駆出性雑音(血流速度の増加と血液粘稠度の低下による機能性雑音)が生じる。呼吸数増加により労作時息切れが生じる。さらに、皮膚や粘膜の血管が収縮して重要臓器へ血流が再分配されることと、Hbそのものの減少により、皮膚・眼瞼結膜・爪床の蒼白がみられる。
考え方
代償機構は心拍出量を増やす方向に働くため、貧血では頻脈になる。したがって「徐脈」は貧血の症候として誤りである。
選択肢考察
- ○a. 徐脈
誤った記述であり、これが正解である。貧血では1単位の血液が運べる酸素量が減るため、組織への酸素供給を保とうとして心拍数と1回拍出量が増え、心拍出量が増加する(高拍出状態)。そのため頻脈・動悸となり、特に酸素需要が増える労作時に顕著になる。徐脈は貧血の症候ではない。なお、高度で長期間の貧血では高拍出性心不全に至ることもある。
- ×b. めまい
貧血の症候として正しい。脳は酸素需要が大きく、酸素供給の低下に敏感である。脳への酸素供給が不足すると、めまい、立ちくらみ、頭痛、耳鳴、集中力低下などが生じる。
- ×c. 易疲労感
貧血の症候として正しい。骨格筋などの末梢組織への酸素供給が不足するため、少しの活動でも疲れやすくなり、全身倦怠感も生じる。比較的早期から自覚されやすい非特異的症状である。
- ×d. 皮膚蒼白
貧血の症候として正しい。皮膚や粘膜の色調は毛細血管内のHb量を反映するため、Hbが減ると皮膚・眼瞼結膜・爪床・口唇などが蒼白となる。また、代償として皮膚血管が収縮し、脳や心臓など重要臓器へ血流が再分配されることも蒼白を強める。皮膚の色は個人差や血流の影響を受けやすいため、診察では眼瞼結膜の色調がより参考になる。
- ×e. 労作時息切れ
貧血の症候として正しい。安静時には代償が間に合っていても、労作で酸素需要が増すと供給が追いつかなくなり、呼吸数・換気量の増加による息切れや動悸を自覚する。高度の貧血では安静時にも息切れがみられる。
貧血の定義(WHO基準)
・成人男性:Hb 13 g/dL未満 ・成人女性(非妊娠):Hb 12 g/dL未満 ・妊婦:Hb 11 g/dL未満 ・高齢者では11 g/dL未満を目安とする考え方もある。
貧血の一般症候と特徴的症候
・一般症候(原因を問わず共通):倦怠感、易疲労感、めまい、頭痛、動悸、頻脈、労作時息切れ、皮膚・眼瞼結膜蒼白、収縮期駆出性雑音、静脈コマ音 ・鉄欠乏性貧血:さじ状爪(匙状爪)、舌炎・口角炎、異食症(氷食症など)、Plummer-Vinson症候群(嚥下障害) ・巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏):Hunter舌炎、白髪、亜急性連合性脊髄変性症による深部感覚障害 ・溶血性貧血:黄疸、脾腫、胆石(ビリルビン結石)
症状の出方に影響する因子
貧血がゆっくり進行した場合は、代償機構(心拍出量増加、赤血球内2,3-ビスホスホグリセリン酸〈2,3-BPG〉の増加によるヘモグロビン酸素解離曲線の右方移動など)が働くため、Hbがかなり低くても自覚症状が乏しいことがある。一方、急性出血のように急速に生じた場合は、軽度のHb低下でも症状が強く、循環血液量減少によるショックを伴うことがある。
POINT
・貧血の症候は「酸素不足の症状」と「代償反応の症状」に分けて理解する。 ・代償的に心拍出量が増えるため、貧血では徐脈ではなく頻脈・動悸となる。 ・めまい、易疲労感、皮膚・眼瞼結膜蒼白、労作時息切れ、収縮期駆出性雑音は代表的な貧血の一般症候である。
