息をしない患者をCT室へ―「酸素」でも「通り道」でもなく「換気」を確保せよ
第114回医師国家試験 C問題 第23問
国試問題にチャレンジ
循環は保たれているが,自発呼吸がみられない患者に緊急頭部CTを行う場合の呼吸管理として適切なのはどれか。
- a.酸素マスク
- b.経鼻エアウェイ挿入
- c.気管挿管による人工呼吸
- d.非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉
- e.緊急気管切開による人工呼吸
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
自発呼吸のない患者では、酸素投与や気道の開通だけではガス交換が起こらず、外から陽圧をかける人工呼吸が必須です。初期にはバッグバルブマスクで換気しますが、CT室への移動や撮影中も安定して換気を続けるには、気管挿管による確実な気道確保が第一選択となります。酸素マスク・経鼻エアウェイ・NPPVはいずれも自発呼吸があることが前提で、緊急の外科的気道確保は気管切開ではなく輪状甲状靱帯穿刺・切開です。各器具が「酸素濃度を上げる」「通り道を作る」「自発呼吸を補助する」「確実に換気する」のどれを担うかを区別することが、救急の呼吸管理を判断する土台になります。
解答・解説
正解はcです
救急患者の初期評価はABCDE(A:気道、B:呼吸、C:循環、D:中枢神経、E:体温・脱衣)の順に行い、生命に直結する異常から順に安定化させる。本問の患者は循環(C)は保たれているが、自発呼吸がない、すなわちB(呼吸)が完全に失われている状態である。このまま放置すれば数分で低酸素血症が進行し、心停止に至る。
必要なのは「気道確保」ではなく「換気」
自発呼吸がない患者では、気道を開通させたり酸素濃度を上げたりしても、肺に空気を送り込む力そのものがないため、ガス交換は起こらない。外から陽圧をかけて肺を膨らませる人工呼吸(陽圧換気)が必須である。
CT撮影という状況を考える
初期対応としてはバッグバルブマスク〈BVM〉による用手換気が行われるが、これはマスクの密着を保つ術者が必要で、胃への送気や誤嚥のリスクもあり、長時間・移動中の換気としては不安定である。CT室への移動や撮影中は、医療者が患者のそばに張り付いてマスク換気を続けることは難しい。したがって、移動や検査の前に、確実な気道(definitive airway)を確保し、人工呼吸器やバッグで安定した換気を行える状態にしておく必要がある。その方法として、迅速かつ確実で第一選択となるのが経口気管挿管である。
選択肢考察
- ×a. 酸素マスク
酸素マスクは、患者自身が呼吸している空気の酸素濃度を高める器具であり、自発呼吸があることが前提である。自発呼吸がなければ酸素は肺胞に届かず、換気の代わりにはならない。
- ×b. 経鼻エアウェイ挿入
経鼻エアウェイは、鼻腔から咽頭まで挿入して舌根沈下などによる上気道の閉塞を解除する器具である。気道を開通させるだけで換気を行う機能はないため、自発呼吸があり上気道閉塞がある患者に用いる。自発呼吸のない患者には不十分である。また気管内に入るわけではないので誤嚥の防止もできない。
- ○c. 気管挿管による人工呼吸
気管チューブを声門を越えて気管内に留置し、カフで気管を密閉する方法で、確実な気道確保の標準である。陽圧換気がもれなく肺に届き、胃への送気や胃内容物の誤嚥も防げる。チューブを固定すれば人工呼吸器や用手バッグによる安定した換気を続けられるため、CT室への移動や撮影中も呼吸管理が可能となる。習熟した術者であれば短時間で施行でき、自発呼吸のない患者の換気手段として第一選択である。
- ×d. 非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉
NPPV〈noninvasive positive pressure ventilation〉は、マスクを介して陽圧をかけ、自発呼吸を補助する換気法である。意識が保たれ、自発呼吸があり、気道を自分で守れる患者(COPDの急性増悪や心原性肺水腫など)が適応となる。自発呼吸がない、意識障害で気道を保護できない、といった状態は禁忌であり、本患者には適さない。
- ×e. 緊急気管切開による人工呼吸
気管切開は気道確保までに時間がかかり、出血などの合併症も多いため、緊急時の第一選択にはならない。まず経口気管挿管を試み、挿管もマスク換気もできない状況(CICV:cannot intubate, cannot ventilate)では、より迅速な外科的気道確保として輪状甲状靱帯(膜)穿刺・切開を行う。気管切開は長期の人工呼吸管理が必要になった場合などに、後日待機的に行うのが一般的である。
気道確保と換気の手段の整理
・用手的気道確保(頭部後屈あご先挙上、下顎挙上)、経口・経鼻エアウェイ:上気道を開通させるのみ。換気機能なし。 ・酸素マスク、鼻カニューラ:吸入酸素濃度を上げるのみ。自発呼吸が前提。 ・NPPV:自発呼吸の補助。意識・自発呼吸・気道防御反射が保たれていることが前提。 ・バッグバルブマスク換気:自発呼吸のない患者にも換気できるが、一時的な手段。 ・声門上器具(ラリンジアルマスクなど):挿管が困難な場合の代替手段。 ・気管挿管:確実な気道確保と陽圧換気が可能。誤嚥も防げる。 ・輪状甲状靱帯穿刺・切開:挿管・マスク換気ともに不能な場合の緊急外科的気道確保。
気管挿管の主な適応
・呼吸停止・心停止 ・意識障害(一般にGCS 8以下が目安)で気道を保護できない場合 ・気道閉塞やその危険(気道熱傷、顔面外傷など) ・NPPVなどで改善しない呼吸不全
検査・移動時の注意
不安定な患者を検査室へ移動させる前には、ABCの安定化を優先する。CT室は救急室から離れていることが多く、急変時の対応が遅れやすいため、確実な気道確保を済ませてから移動させるのが原則である。
POINT
・自発呼吸がない患者には、酸素投与や気道開通では不十分で、陽圧による人工呼吸が必須である。 ・移動や検査を伴う場合は、気管挿管による確実な気道確保を行ってから人工呼吸を続ける。 ・酸素マスク、エアウェイ、NPPVはいずれも自発呼吸があることが前提である。 ・緊急の外科的気道確保は気管切開ではなく輪状甲状靱帯穿刺・切開である。
