PaO2 80は本当に正常か―P/F比が暴く「隠れた酸素化障害」
第110回医師国家試験 B問題 第62問
国試問題にチャレンジ
吸入酸素濃度50%で人工呼吸中の患者。動脈血ガス分析:pH 7.40,PaCO2 40 Torr,PaO2 80 Torr,HCO3- 24 mEq/L。 この患者のP/F〈PaO2/FIO2〉比を求めよ。 ただし,小数点以下の数値が得られた場合には,小数点以下第1位を四捨五入すること。 解答: ①②③
対話形式の解説
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ドクターまとめ
P/F比は動脈血酸素分圧(PaO2)を吸入酸素濃度(FIO2)で割った値で、FIO2は小数で用いるため、本例は80÷0.5=160となります。健常者の室内気でのP/F比はおおむね400以上で、300以下なら酸素化障害と判断するため、PaO2が一見正常範囲でも高濃度酸素下では重い酸素化障害が隠れていることがあります。ARDSのベルリン定義ではPEEP 5 cmH2O以上の条件下でP/F比により軽症・中等症・重症に分類され、160は中等症の範囲に相当します。A-aDO2の開大と組み合わせれば、低酸素血症が肺そのものの障害によるものかを判断できます。P/F比はPEEPなどの人工呼吸器設定とあわせて解釈する必要があり、集中治療で酸素化を経時的に評価するための基本的な指標です。
解答・解説
正解は160です
考え方
P/F比は、動脈血酸素分圧(PaO2)を吸入酸素濃度(FIO2:fraction of inspired oxygen)で割った値で、どれだけの酸素を吸わせてどれだけ血液に酸素を取り込めているか、すなわち肺の酸素化能を表す指標である。計算では、FIO2をパーセントではなく小数(割合)で表す点に注意する。
計算過程
1. 吸入酸素濃度50%を小数に直す:FIO2 = 50 ÷ 100 = 0.5 2. PaO2 = 80 Torr 3. P/F比 = PaO2 ÷ FIO2 = 80 ÷ 0.5 = 160 割り切れるため四捨五入は不要で、答えは160となる。
結果の解釈
室内気(FIO2 0.21)で呼吸している健常者のPaO2はおよそ90〜100 Torrであり、P/F比は約430〜480となる。本例は動脈血ガスのpH・PaCO2・HCO3-がいずれも正常で、PaO2 80 Torrという数字だけを見ると問題がないように見えるが、50%という高濃度の酸素を投与してようやく得られている値であり、P/F比160は中等度の酸素化障害を示す。PaO2単独ではなく、投与酸素濃度で補正して評価することの重要性を示す例である。
P/F比の目安
・正常:おおむね400以上(室内気でPaO2 90〜100 Torrなら約430〜480) ・300以下:酸素化障害あり ・P/F比が300以下となる低酸素血症は、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の診断基準の一要素となる。
ARDSのベルリン定義(2012年)
・発症:既知の誘因から1週間以内の急性発症、または呼吸器症状の新規出現・増悪 ・胸部画像:胸水・無気肺・結節では説明できない両側性の浸潤影 ・肺水腫の原因:心不全や輸液過剰だけでは説明できない ・酸素化(PEEPまたはCPAP 5 cmH2O以上の条件下) 軽症:200 < P/F ≦ 300 中等症:100 < P/F ≦ 200 重症:P/F ≦ 100 かつてはP/F比300以下をALI(急性肺損傷)、200以下をARDSと呼び分けていたが、ベルリン定義でALIという用語は廃止され、ARDSの重症度分類に統合された。仮に本例がARDSの他の条件を満たすなら、P/F比160は中等症に相当する。なお2023年にはベルリン定義を拡張した新たな国際定義が提案され、SpO2/FIO2比の利用や非挿管患者への適用拡大などが盛り込まれている。
関連する指標:A-aDO2(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)
肺胞気酸素分圧(PAO2)は肺胞気式で求める:PAO2 = FIO2 ×(大気圧 − 飽和水蒸気圧)− PaCO2 ÷ 呼吸商。 本例で大気圧760 Torr、飽和水蒸気圧47 Torr、呼吸商0.8とすると、PAO2 = 0.5 × 713 − 40 ÷ 0.8 = 356.5 − 50 = 306.5 Torr。A-aDO2 = 306.5 − 80 = 226.5 Torrとなり、大きく開大している(室内気での正常値は概ね10〜20 Torr以下で、加齢とともにやや増える)。A-aDO2の開大は、換気血流比不均等・シャント・拡散障害など肺そのものに原因がある低酸素血症を示す。
P/F比の利点と限界
P/F比は計算が簡単で、酸素投与量が変わっても比較しやすいため臨床で広く用いられる。一方、PEEPの設定や平均気道内圧、PaCO2の変化の影響を受けるため、人工呼吸器設定とあわせて解釈する。
POINT
・P/F比 = PaO2 ÷ FIO2。FIO2は小数で用いる(50% → 0.5)。 ・本例:80 ÷ 0.5 = 160。 ・正常はおおむね400以上、300以下で酸素化障害。 ・ARDS(ベルリン定義):PEEP 5 cmH2O以上でP/F比 200超〜300以下が軽症、100超〜200以下が中等症、100以下が重症。 ・ALIという用語はベルリン定義で廃止された。 ・PaO2が正常範囲に見えても、高濃度酸素下ならP/F比は低く、酸素化障害がある。
