StudyMed医師国家試験

筋を「切らずに分ける」―McBurney交叉切開で通る3枚の側腹筋

第110回医師国家試験 B問題 第39問

国試問題にチャレンジ

第110回 B問題 第39問

McBurney交叉切開で虫垂切除術を行う際に切開する筋はどれか。3つ選べ。

  1. a.錐体筋
  2. b.腹横筋
  3. c.腹直筋
  4. d.外腹斜筋
  5. e.内腹斜筋

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は開腹虫垂切除術の代表的な到達法、McBurney交叉切開の解剖を問う問題だ。ポイントは「McBurney点が腹壁のどこにあるか」と「そこで腹壁がどんな層構造をしているか」の2つ。まずはMcBurney点の位置から確認しよう。
医学生医学生
臍と右上前腸骨棘を結ぶ線上で、上前腸骨棘から約1/3の点です。虫垂炎の圧痛点としてCBTでも何度も出てきました。
ドクタードクター
その通り。では、その点は腹直筋の上にあるかな、それとも外側にあるかな。
医学生医学生
えっと……下腹部なので腹直筋の上かと思っていました。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。腹直筋は正中の白線の両側を縦に走る、幅の限られた筋だ。McBurney点は上前腸骨棘寄りだから、腹直筋の外縁よりも外側、つまり側腹壁にあたるんだ。
医学生医学生
なるほど、側腹壁なら外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋の3層ですね。解剖実習で腹壁を一枚ずつ剥がしたのを思い出しました。
ドクタードクター
そう。外から皮膚、皮下組織、外腹斜筋(この辺りではもう腱膜になっている)、内腹斜筋、腹横筋、横筋筋膜、腹膜前脂肪、腹膜の順に並ぶ。この3枚の筋を順に開いて腹腔に入るから、正解は外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋の3つだ。
医学生医学生
「交叉」という名前はどこから来ているんですか。
ドクタードクター
3つの筋は線維の向きが違うんだ。外腹斜筋はポケットに手を入れる向き、つまり外上方から内下方に走る。内腹斜筋はそれとほぼ直交する向き、腹横筋はほぼ水平だ。交叉切開では外腹斜筋腱膜をその線維方向に切り、次の内腹斜筋と腹横筋もそれぞれの線維方向に沿って裂くように分ける。外層と内層の分け目が交差するから「交叉切開」なんだ。
医学生医学生
筋を横に断ち切らずに分けるということは、術後に腹壁が弱くなりにくいということですか。
ドクタードクター
まさにそれが最大の利点。筋線維が保たれるので腹壁瘢痕ヘルニアが起こりにくい。厳密には内側の2層は「切開」というより鈍的に分けるのが一般的だけれど、通過する筋として問われればこの3つになる。では外れの選択肢も見ておこう。腹直筋はどうかな。
医学生医学生
正中寄りにあるので、通常の交叉切開では切らないということですね。
ドクタードクター
正解。視野を広げたいときに腹直筋鞘前葉を開いて腹直筋を内側によけることはあるけれど、通常の手順には含まれない。腹直筋の外縁に沿って縦に入るのは傍腹直筋切開という別の到達法だ。もう一つの錐体筋は知っているかな。
医学生医学生
正直、名前しか覚えていません。腹直筋の近くにある小さい筋でしたっけ。
ドクタードクター
そう、恥骨上縁から起こって白線に付く小さな三角形の筋で、腹直筋鞘の中、腹直筋下端の前面にある。欠損している人もいるくらいだ。恥骨上の正中付近だから、右下腹部外側の交叉切開ではまず出会わない。
医学生医学生
正中付近の腹直筋と錐体筋、側腹壁の3枚の筋、と位置で分ければ迷いませんね。
ドクタードクター
その整理で大丈夫。発展として押さえたいのが神経だ。腸骨下腹神経と腸骨鼠径神経は内腹斜筋と腹横筋の間を走るので、ここを分けるときに傷つけると鼠径部の感覚障害や腹壁の筋力低下を起こし、鼠径ヘルニアの誘因にもなりうる。
医学生医学生
外科の臨床実習では腹腔鏡下虫垂切除術ばかり見学しましたが、開腹法も知っておく必要があるんですね。
ドクタードクター
現在は腹腔鏡が広く行われているけれど、開腹に移行する場面もあるし、腹壁の層構造は鼠径ヘルニアや腹腔鏡のポート挿入を理解する土台にもなる。皮膚のしわに沿って横切開するLanz切開も、筋層の扱いは交叉切開と同じだと覚えておこう。

まとめ

McBurney点(臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3)は腹直筋外縁より外側の側腹壁にあり、McBurney交叉切開では外腹斜筋(腱膜)、内腹斜筋、腹横筋の3層を通過して腹腔に達します。各筋をその線維方向に沿って切開・鈍的に分けるため外層と内層の分け目が交差し、筋線維が保たれることで腹壁瘢痕ヘルニアが起こりにくいのが利点です。腹直筋と錐体筋は正中付近にあるため通常の経路には含まれず、腹直筋外縁に沿う縦切開は傍腹直筋切開という別法です。内腹斜筋と腹横筋の間を走る腸骨下腹神経・腸骨鼠径神経の損傷にも注意が必要です。腹壁の層構造と筋線維の走行を理解しておくことは、虫垂切除だけでなく鼠径ヘルニアや腹腔鏡手術の理解にもつながります。

解答・解説

正解はb, d, eです

テーマ

開腹による虫垂切除術の代表的な到達法であるMcBurney交叉切開(gridiron incision)で、どの腹壁の筋を通過するかを問う解剖の問題である。

McBurney交叉切開とは

McBurney点(臍と右上前腸骨棘を結ぶ線上で、上前腸骨棘から約1/3の点)を通り、この線に直交する斜めの皮膚切開を置く方法である。この部位は腹直筋より外側の側腹壁にあたり、腹壁は外側から次の層で構成される。 皮膚 → 皮下組織 → 外腹斜筋(腱膜)→ 内腹斜筋 → 腹横筋 → 横筋筋膜 → 腹膜前脂肪 → 腹膜 3層の側腹筋は線維の走行がそれぞれ異なる。外腹斜筋は外上方から内下方へ(ポケットに手を入れる向き)、内腹斜筋はおおむねこれと直交する向き、腹横筋はほぼ水平に走る。McBurney交叉切開では、外腹斜筋腱膜をその線維方向に切開し、次に内腹斜筋と腹横筋をそれぞれの線維方向に分けて(筋を横断せずに裂くように)開く。外層と内層の分け目が互いに交差するため「交叉切開」と呼ばれる。筋線維を断たないので術後の腹壁が強く、腹壁瘢痕ヘルニアが起こりにくいのが利点である。 したがって通過する筋は外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋の3つであり、正中付近にある腹直筋と錐体筋は術野に入らない。

選択肢考察

  1. ×a.  錐体筋

    錐体筋は下腹部正中の左右にある小さな三角形の筋で、恥骨上縁(恥骨稜・恥骨結合前面)から起こり白線に付着する。腹直筋鞘の中で腹直筋下端の前面に位置し、欠損している人もいる。正中に近い恥骨上部にあるため、右下腹部外側のMcBurney交叉切開では到達経路に含まれない。

  2. ○b.  腹横筋

    腹横筋は側腹壁3層の最も内側の筋で、下位肋軟骨の内面、胸腰筋膜、腸骨稜、鼠径靱帯外側部から起こり、ほぼ水平に内側へ走って腱膜となり白線などに付く。McBurney交叉切開では内腹斜筋とともに線維方向に分けて開き、その深部の横筋筋膜と腹膜を切開して腹腔に入る。

  3. ×c.  腹直筋

    腹直筋は正中の白線の両側を縦に走る筋で、恥骨(恥骨稜・恥骨結合)から起こり第5〜7肋軟骨と剣状突起に付く。McBurney点はその外縁より外側にあるため、交叉切開では腹直筋を切らない。術野を広げる必要がある場合には、腹直筋鞘前葉を切開して腹直筋を内側によけることはあるが、通常の交叉切開の手順には含まれない。腹直筋の外縁に沿って縦に入る方法は傍腹直筋切開と呼ばれ、別の到達法である。

  4. ○d.  外腹斜筋

    外腹斜筋は側腹壁3層の最も外側の筋で、下位8本の肋骨外面から起こり、外上方から内下方へ斜めに走って、腸骨稜前部、鼠径靱帯、白線などに付く。McBurney点付近ではすでに腱膜となっており、皮下組織の直下に現れるこの腱膜を線維方向に沿って切開するのが交叉切開の最初の筋層操作である。

  5. ○e.  内腹斜筋

    内腹斜筋は側腹壁3層の中間の筋で、胸腰筋膜、腸骨稜、鼠径靱帯外側部から起こり、外腹斜筋とほぼ直交する向きに走って下位肋骨下縁、腹直筋鞘(白線)などに付く。外腹斜筋腱膜を開いた後に現れ、その線維方向に沿って分けて開く。外腹斜筋の切開線とこの分け目が交差することが「交叉切開」の名の由来である。

前腹壁の筋の配置

・正中付近: 腹直筋(腹直筋鞘に包まれる)、錐体筋(腹直筋鞘内、腹直筋下端の前面) ・側腹壁(外側→内側): 外腹斜筋 → 内腹斜筋 → 腹横筋 3つの側腹筋の腱膜は内側で腹直筋鞘を形成し、正中の白線で左右が合する。

虫垂炎の圧痛点

・McBurney点: 臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3の点 ・Lanz点: 左右の上前腸骨棘を結ぶ線の右1/3の点

開腹虫垂切除術の皮膚切開

・McBurney交叉切開: McBurney点を通る斜切開。筋線維を断たず分けて開くため腹壁が丈夫に保たれるが、術野は狭い。 ・Lanz切開: 皮膚のしわに沿った横切開で整容性に優れる。筋層の処理は交叉切開と同様。 ・傍腹直筋切開: 腹直筋外縁に沿う縦切開で、術野を広げやすい。 ・現在は腹腔鏡下虫垂切除術が広く行われている。

切開時に注意する神経

腸骨下腹神経・腸骨鼠径神経は内腹斜筋と腹横筋の間を走るため、損傷すると鼠径部の感覚障害や腹壁の筋力低下(鼠径ヘルニアの誘因)を生じうる。

POINT

・McBurney交叉切開で通過する筋: 外腹斜筋(腱膜)→ 内腹斜筋 → 腹横筋。 ・各筋は線維方向に沿って分けて開き、外層と内層の切開方向が交差する。 ・腹直筋・錐体筋は正中付近にあり、交叉切開の経路に含まれない。 ・McBurney点は臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。